学園アナライザ - 小説家になろう

学園アナライザ
福洲華穂
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︻小説タイトル︼
学園アナライザ
︻Nコード︼
N2173CA
︻作者名︼
福洲華穂
︻あらすじ︼
ここは現代日本のようで別の世界。そしてそんな世界にある︻私
立御堂学園︼に、新入生代表として入学した一神陽菜乃。明るく元
気にがモットーの自称″天才″の女の子、何でも器用にこなすがど
れも中途半端な結果ばかり。そんな退屈すぎる生活を送っていた陽
菜乃だが、友人二人に誘われて入ったこの学園で退屈だった生活が
一変!
部活の数はそれなりだが、他の学校にはないもの。それは︻部活動
対抗戦︼である。それぞれの部活が異能力を使い競うもの。
1
﹁ちょっと待って! 私、能力なんて持ってないんですけど!?﹂
そんな感じで、学園での部活動異能力バトルに参加して、陽菜乃は
今までの退屈な日々を変えて素敵で楽しい高校生活を送るために、
今日も奮闘する!
2
第一話 物語のスタートダッシュ
﹁えーと?﹂
綺麗な青空が広がる屋上に私は居た。周りには監視カメラのような
ものまで浮いている。他の生徒たちにもこの″対抗戦″が見れるよ
うにするためだ。風が強いため制服のパーカーがバサバサ音を立て
揺れている。
んー?私なんで此処に居るんだっけ?
ちなみに、今私の目の前に居る可愛らしい少女は無言で笑みを浮か
べている。その手には何やら調理器具を持って。
あはは、これから料理対決でも始まるんですか?なんて、そんな悠
長なこといってられない。
だってこれは紛れもない、
”部活動対抗戦”
なんだから。
*
こんなことになる約四カ月前のこと。ふかふかのベッド、一定に保
3
たれた室温、インターネット環境も揃ったこの空間はまさに天国。
十二月になり外は一気に冷え込んできた、受験生はこんな中大変だ
なーなんて、他人事のように思っていると。
﹁陽菜乃ちゃーん! お友達が来てくれたわよー!﹂
この家の、私の母親代わりである親戚の叔母さんの声が聞こえてき
た。
それに、返事をせず黙ってベッドにうつ伏せになる。
すると、階段をあがる音が聞こえてきた。あー、また来たのか。あ
いつ等が。次いで聞こえたのは、壊れるんじゃないかって位の勢い
で開け放たれた自室の扉。本当に⋮⋮壊さないでよ?
盛大なインパクトを私に与えて登場したのは、小学生の頃の友人で
中学生の今も仲良くしてくれてる、友人二人だった。
﹁ひっなのー! おはよーさん!﹂
﹁お、おはよう? 陽菜乃ちゃん﹂
﹁こんばんは﹂
日が傾いてもう、太陽なんかほぼ沈んでいるだろう時刻におはよう
はないだろう。おはようは。
一人真面目に返した挨拶に、茶髪のボブヘアーがよく似合う凪紗は
つまらなそうに唇を尖らせた。
﹁ちょっと、陽菜乃が冷たーい﹂
めそめそとわざとらしく隣に居た、長い黒髪の綺麗な撫子に抱きつ
く凪紗。撫子はおろおろしながらも凪紗の頭を撫でていた。
さすが、撫子だなー。なんて、その光景をぼんやりとベッドから寝
たまま見つめる。
4
すると、先程まで撫子に抱きついてた凪紗はいつの間にか私のすぐ
そばに⋮⋮否、私に向かってダイブをしようとしていた。
﹁とお!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
無言で横にズレる。またもや不満そうにしていた凪紗だが、今日は
何をしにきたのか撫子に諭され、漸く本題に入ってきた。本題に入
るの遅⋮⋮なんて、別に思ってもないよ?ベッドに腰掛けて私を見
つめる凪紗。
﹁陽菜乃さー、受験生っていう自覚ある?﹂
﹁無い!﹂
即答した。だって受験なんて面倒くさいものしたくないじゃん。
そんな私を呆れたような瞳で見つめてくる二人。
﹁はあー、だってさ! 良いな∼って思う学校一つもないんだもん
! 皆勉強とか進学とかそんなんばっかり!﹂
﹁でも、文化祭とか体育祭とかも充実した学校沢山あるよ?﹂
﹁それも、皆似たようなのでつまんない!﹂
﹁あー、それは言えてる﹂
﹁凪紗ちゃん!?﹂
だって本当に、この学校行きたい!って思えるものが無いんだもん。
特徴もなんか似たり寄ったりで、しかも、別に勉強したいわけでも
ないし。ああ、そうだ。
﹁就職する!﹂
﹁は?何いきなり﹂
5
驚き顔で此方をみる凪紗。
﹁だって、勉強好きな訳でもないし、だったらいっそのこと働いて
しまえば良くない?﹂
﹁良くない、そもそも中卒で雇ってくれる所が無いでしょーが﹂
﹁いやいや! 私ならきっと出来るよ! 中卒で社長! カッコい
い!﹂
﹁だーめ﹂
首に腕を回され締められる。
苦しい!腕を叩けばいとも簡単に拘束は解けた。
﹁陽菜乃ちゃん、高校行かないの?﹂
悲しそうな瞳で見つめてくる撫子。
﹁うっ﹂
﹁ほらほら、陽菜乃ー? 撫子が寂しがってるよ?﹂
﹁うー!﹂
うんうん、唸っても行きたい高校が思いつく訳でもない。そこで考
えた、二人はどこの高校を受験するのだろう。
﹁ふ、二人はさ! どこ受験するの?﹂
﹁え? 私達?﹂
私の問いに答えたのは撫子だった。
可愛らしい笑顔を浮かべて。
6
﹁私達はね、私立の御堂学園ってところを受験するんだよ﹂
﹁へー﹂
御堂学園⋮⋮なんか聞いた事あるような⋮⋮。
﹁ちなみにどんな学校なの?﹂
﹁えっとね? やっぱり一番注目なのは部活動かな? あと、女子
の制服も可愛いの!﹂
﹁そーいや、あそこ部活動盛んだもんね﹂
二人の話を聞くには楽しそうな学校ということは何となく分かる。
部活動が盛んか⋮⋮あと、制服が可愛い⋮⋮うーん?二人がそこに
行くのなら私もそこに行きたいような気もするけど⋮⋮。私立だか
らなー、学費が高そう。それに寄附金とかだって、とても払える家
庭環境じゃないよ。
頭を抱えて悩み出す。勿論ベッドの上で寝転んだまま。
﹁あ、そうだパンフレットあるけど見る?﹂
﹁見るー﹂
何となくパンフレットを受け取って体育座りで眺めてみる。
パンフレットの表紙はそこら辺に散らばっている他の学校のパンフ
レットと同じ感じだ。一言で言うと、つまらない。そう感じつつ、
パンフレットの紙を捲る。
やっぱりどこも似たような⋮⋮、手が止まる。私の視線は一つのペ
ージに集中していた。
﹁入試で首席を取ったものは、特待生として学費及び学校行事など
に関する金銭面は免除する⋮⋮﹂
﹁ん? どうしたの?﹂
7
﹁しかも、ここ全寮制⋮⋮﹂
﹁ああ、うんそうだよ。この学校は全寮制何だって﹂
二人が何か言ってる気がするが、私の耳には聞こえてない。
学費免除、しかも全寮制⋮⋮。
夢のような、いや私の理想を形にしたような学校。在ったではない
か、行きたい学校!しかも、友人二人も一緒だなんて!
﹁これは受けるしかないでしょ!﹂
パンフレットを握り締めて立ち上がる。二人は暫く呆然とした様子
で此方を見ていたが、嬉しそうに笑っていた。
それからというもの、私は真面目に学校に通い始め、受験生特有の
ピリピリモードに入って⋮⋮る訳なくて、相変わらずベッドでゴロ
ゴロしながらインターネットに数時間もの時間を費やし、勉強は片
手間に。
ゲームをしたり、勉強したり、音楽聴いたり⋮⋮何ともまあ受験生
らしからぬ事を繰り返し⋮⋮。
受験日当日。寒い外に出るのは久しぶりで、コートを着込み、駅前
の変な石像の前に立って例の二人の友人を待っていた。
﹁はあー﹂
白い息を出して見たりして、遊んでみる。うーん、つまらん!
足で降り積もってる雪を蹴り飛ばす。
﹁こらー! 人にかかったらどうするの!﹂
8
﹁あ、凪紗おはよー﹂
後ろを振り向けば凪紗の姿が、その少し後ろを見れば撫子が小走り
で此方に向かっていた。
﹁撫子おはよー﹂
﹁お、おはよう、陽菜乃ちゃん﹂
﹁おはよっ﹂
三人仲良く、受験会場まで向かう。
﹁ふぉー! 凄いっ!﹂
﹁校舎めっちゃ綺麗だー!﹂
﹁二人とも早く受付してもらいましょう!﹂
会場まで着くと、予想してたものよりも凄く立派な校舎が在った。
ちらほらと外部受験生たちが校舎の中に入るのを見つける。
﹁やっぱり、外部受験の人たちって少ないのかー!﹂
そういや、一つ年上の幼なじみが去年此処を受験してたような⋮⋮。
﹁そうだね、基本幼稚舎か初等部からのエスカレーター組が多いか
らね﹂
凪紗は隣でうんうんと一人頷いている。そういや、撫子は?
ふと視線を前に向けるとさっさと歩いて行ってしまっている。
9
﹁ちょ、凪紗! 早く早く! 撫子先に行ってる!﹂
﹁え? ああ! ちょっと待って撫子∼﹂
二人して、雪かきが施された地面を全力疾走しながら撫子を追いか
ける。
受験する教室が見事私だけ違った。
何故!?日頃の行いが悪かった報いなのか⋮⋮。テンションは若干
下がりつつも、白紙だった解答用紙にどんどん記入していく。結構
レベル高いな。ま、私には関係ない!変に器用にこなしちゃうから
ね。だから勉強もそれなりに出来るわけで⋮⋮。
あ、恨まないでよ?特別なことしなくても出来ちゃう私に!
あ、いや、嘘です。調子に乗ってすみませんでした。
﹁出来たー!﹂
教室を出てトイレ休憩に向かう。
後はこの後控えてる面接をクリアすれば大丈夫!私なら出来る!天
才だもん!そう思った時、後ろから突然頭を叩かれた。
﹁凪紗ー、何で叩くの?﹂
﹁大丈夫、私天才だもん! とか思ってたんだろうなぁと思ったら
無性に腹立たしく思って﹂
﹁え、何八つ当たり!?﹂
﹁″ひな″のその神経の図太さが私にも欲しいわ﹂
﹁えー、あ、そう言えば撫子は?﹂
﹁撫子なら緊張で固まってる﹂
あー、確かに本番に弱いタイプだもんね撫子は。
10
そして、いよいよ面接です。
あー、どうしよ、私殆ど面接の練習してないや。凪紗たちとはやっ
たけど。緊張しててもしょうがない!いざ敵陣へ!なんちゃって。
扉を二回ノックする、返事が無い。
ん?返事が無い?え、まさかバックレた?先生の方が?まっさかー
と思ってとりあえず扉を開けた。
無人。
え?何こういう面接なの?
それとも透明人間か何か?
ふと、上を見上げた。すると、頭上から何かが降ってきて、私の顔
面でキャッチ!ナイス私!⋮⋮じゃないよ!
﹁何これ、ウサギ?﹂
白くてモコモコしてて⋮⋮可愛い!
ウサギを無遠慮に抱き締める。その時。
﹁ぎゃああ!﹂
可愛さの欠片も無い悲鳴を上げて私の腕から飛び降りた。
悲鳴⋮⋮ウサギが?
﹁ふん、ただのウサギと思っていたら痛い目を見るぞ。お嬢さん﹂
突然の低い声に目を見開いた、目の前に居るのは先程の白くてモコ
モコした可愛らしいウサギではなく、黒いシルクハットを被ったど
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うみても怪しい白髪の青年。
﹁誰?﹂
﹁面接官だ﹂
﹁ふーん、面接官⋮⋮面接官!?﹂
﹁そうだ﹂
淡々と告げてきた青年は何処からか取り出した用紙に何か記入して
いく、はっ!もしかして合否のチェック!?やばっ、面接官にタメ
口聞いちゃったんだけど!パニックになってる私をよそに、彼はメ
モをとり続けている。
そして、用紙をしまい、私に向き直ったその青年は一言。
﹁今日の面接は以上だ、もう帰っていい﹂
呆然としながら面接室を出て、正門まで歩く。あれって面接だった
のか?なんか特に質問もされてないし⋮⋮。ていうか、あの人本当
に面接官?それに合格してるのか不合格なのかさっぱり分からん!
テストだけだったら合格してるだろうけどね。
﹁あ、ひなー!﹂
﹁陽菜乃ちゃん、お疲れ様!﹂
﹁あ、うん、二人ともお疲れ様∼﹂
こうして無事に受験を終え、私はまた、ダラダラとした生活を送っ
ていた。この後、家に届いた合格通知を見て叔母さんが安心してい
たのはちょっとあれだったけど。
12
*
コンコンと扉のノック音が鳴る。
﹁理事長﹂
﹁入りなさい﹂
薄暗い理事長室に二つの影があった。白髪の青年は、今年の外部受
験の合格者リストを理事長に渡す。
﹁外部受験での合格者は此方の16名です﹂
﹁分かった﹂
リストに目を通していると、一人見知った顔を見つける。
﹁⋮⋮いや、まさか⋮⋮な﹂
止まったままの物語は動き出す。
物語のページが、捲られた。
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第一話 物語のスタートダッシュ︵後書き︶
受験の時の作者がまさにこんな感じでした。
ゲームばかりやって、登校拒否してたなぁ。
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第二話 死亡フラグ
外は晴天の青空、電柱に止まってチュンチュンと鳴く雀たち。自身
の耳元で煩く鳴り響くアラーム音。手を伸ばしてスマホの電源を落
とした。人の睡眠妨害しやがって⋮⋮、二度寝だ二度寝。そう思っ
てまた目蓋を閉じようとしたとき、待てよ。あれれ?何故今日に限
ってアラーム設定したんだっけ。
まだ重たい目蓋を必死に開いて、ぼんやりとした重い頭で考える。
﹁あー、そういや今日入学式⋮⋮⋮⋮って、あぁぁああ!﹂
気付いたときにはもう既に入学式開始時刻まで一時間をきっていた。
顔をしかめる。ギリギリ間に合いそうなこの時間が恨めしい。
急いでベッドから飛び降りる。
壁にかかっている真新しい制服を素早く着込み、髪を纏める。鞄を
ひっつかみ、リビングまで下りていく。
リビングに入るとテーブルの上には今の私には大変有り難い、サン
ドイッチが置いてあった。
﹁叔母さん、ありがと!﹂
急いでサンドイッチをくわえる。
例え遅刻しそうになっても、朝ご飯は大事だからね!なんて思いな
がらサンドイッチを頬張る。
その時、叔母さんは私の方に近づいてきた。
﹁何でふか?﹂
15
﹁⋮⋮陽菜乃ちゃん、これからの生活頑張ってね。入学式見に行け
なくてごめんなさい。﹂
私の制服のリボンを正しながら話す叔母さん。サンドイッチを一旦
口から離す。
﹁やだなー、仕事なら仕方ないじゃないですか! そんなこと言わ
ないで下さいよ∼﹂
なるべく明るく、を努めて話す。
すると叔母さんは久しぶりの柔らかい笑顔を浮かべて、私に言った。
﹁本当にありがとう﹂
﹁⋮⋮﹂
その言葉の意味が私には分からない、確かに全寮制の学校だから頻
繁には帰ってこられないだろうけど⋮⋮。よし、深く考えるのはよ
そう!叔母さんには手紙でも書いてみるかなー、手紙書くの苦手だ
から変なのになっちゃうだろうけど。
そして、叔母さんに見送られて私はアスファルトの地面を蹴り上げ
る。
目指すは、私立御堂学園!!
*
全力疾走で駆け抜ける、この広すぎる校内を。
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あの後、私はとりあえず学校の正門まではたどり着いたのだ。そし
て今、私は迷った。入学式の会場である第一体育館が見当たらない。
いや、体育館はたくさん在るんだけど。
﹁どれが、本物の会場なのー!﹂
高等部であろう場所の校庭の真ん中、私は叫んだ。こういうのちょ
っと憧れてたんだよね。でもさ、このだだっ広い敷地のどこに目的
の体育館はあるのさ、見つけられないくらい広いなんて、そう、例
えるなら街のよう⋮⋮。
﹁おい﹂
﹁っおわっ!?﹂
﹁下だ、アホ﹂
突然の声に私は首を左右に振る。
けどなんか、どこかで聞いたことのある声だった。パッと下に視線
を向けると昨日面接室で会った白いウサギが足元に居た。
﹁って言うか、今喋った?﹂
﹁ウサギが喋るのはダメなのか?﹂
﹁質問を質問で返さないで欲しいんだけど⋮⋮、うーん、せっかく
可愛いのにその欠片も無いというか、その低い声止めれば良いと思
うよ!﹂
ナイスアイデア!と思ったのだが、ウサギはどこか不機嫌そうに此
方を見つめていた。
ウサギって表情あったけ?ってそんな事より、早く体育館行かない
と!
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﹁ねえ、ウサギさん。第一体育館ってどこに在るのか知ってる?﹂
﹁ウサギさんではない。ココアだ﹂
﹁そう、それじゃあココア⋮⋮っぷ﹂
﹁何がおかしい﹂
だって、だってさ!その声でココアなんて可愛らしい名前言われて
も⋮⋮、私じゃなくても笑うよ。
心の中で思っていたことを口に出してしまったのだろう。明らかに
ココアが怒っている。
﹁っはあ! ごめんねココア! ところで体育館! 分かる?﹂
﹁ああ﹂
声は不機嫌そうではあるが、どうにか案内してもらえるようだ。
ちなみに、今更体育館についてももうとっくに入学式は始まってい
る。
だって、時間過ぎてるし。
﹁だあー! 入学式早々遅刻とか!﹂
なんか、嫌なような、楽しいような。周りには誰も居ない。私一人
がこの学校に居るような感覚。
人の声も無い、木々のざわめく音、風の音、石畳の地面を歩く音、
全部ぜーんぶ!私のもの!なんて思いながら呑気に歩いてると、私
の耳が人の声を拾った。
着いた。第一体育館。マイクを使っているせいか外の方まで聞こえ
てくる。と、その時。
﹃新入生代表、一神陽菜乃﹄
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確かに自分の名前を聞いた、足取りは軽く今なら空だって飛べそう
なくらい、背中に頑張れと応援する声がぶつかる。それにピースサ
インで応えて私は駆けていく。
体育館の扉を勢い良く開け放って、壇上に飛び乗る。周りは驚きに
包まれる。考えてた堅苦しい挨拶はもう頭の中には残っていない。
私は大声で宣言した。
﹁新入生代表! 一神陽菜乃! 此からの学園生活を楽しみます!﹂
だってさこんなにも、学校を楽しいと思ったのは久しぶりなんだも
ん!
でもまあ、やっぱり。
怒られるのは必須だよね☆
ごめんなさい、ふざけました。
本当は私いい子なんだよ!本当だよ!
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20
第三話 新入生歓迎会
﹁昨日のさ⋮⋮ぷっ、あはは! ひぃーやっぱりおっかしー!﹂
そう言いながら目に涙を溜めて、お腹を抱えて笑う凪紗。それを、
ジト目で見つめる私を、撫子が慰めてくれていた。
昨日のあの新入生代表挨拶⋮⋮私はあの時の気分でやってしまった
新入生代表挨拶にて、全学年の生徒に顔と名前を覚えられてしまっ
た。だがそんなことは別に問題じゃない、目立つのが嫌いな訳じゃ
ないし。でもだ、あの後壇上で繰り広げられたお説教を皆に聞かれ
てたことに心底気分が悪い。
﹁お説教は覚悟のつもりでやったんだよ! でも、壇上でそのまま
お説教するか、普通!﹂
﹁普通じゃない生徒に普通の定義は当てはまらないんじゃない?﹂
﹁差別だ⋮⋮﹂
﹁その後の教室での自己紹介がまた、面白かったわ﹂
凪紗の言った通りだ。
あの後無事に終わった入学式、それぞれの教室へと向かう。
私は凪紗と同じクラスだったりする。撫子は隣のクラス。
そして、始まる自己紹介。
先程大注目を浴びたばかりの私は今度こそ失敗しない!と意気込ん
で自己紹介をした。結果は凪紗の様子を見れば明らかである。
﹁だってさ、代表の挨拶ではあんな元気いっぱいだったのに急にキ
21
ョドるから⋮⋮あたしっ!﹂
ぷるぷると肩を震わせながら笑ってる凪紗に呆れる。普通親友の失
敗を笑うか?なんて思いつつも笑われるようなことしかしてない私
に文句言う筋合い無いけどね。なんか無性に泣きたくなってはきた
けど。
そんな気分を振り払うため、何となく右隣を歩く撫子の腕を意味も
なく掴み上下左右に振り回す。
﹁ちょ、陽菜乃ちゃん!﹂
ごめん、ちょっと調子に乗りすぎた。パッと腕を離してあげる。
何故か腕をさする撫子。おい、私はそんなに強く握ったつもりはな
いぞ。普段なら気にもとめないだろうそんな行動でさえ、今の私は
敏感に感じ取っていた。
﹁でもでも、インパクトはあったからきっと大丈夫だよ﹂
﹁何が大丈夫なのさ﹂
せっかくの撫子のフォローも撫子自身の乾いた笑みのせいで台無し
になった。
﹁まあまあ、ひな、大丈夫だって! それに、これから新入生歓迎
会があるんだし、それ見て元気だそう!﹂
﹁歓迎会! よし、早く行こう!﹂
﹁相変わらず立ち直り早いね陽菜乃ちゃんは﹂
﹁ようは、単純思考なのよ﹂
二人の会話が聞こえるが、一々つっこんでたら時間の無駄!早く歓
22
迎会を見たい!そういやこの学校の新入生歓迎会って、他のところ
より少し変わった歓迎会って、パンフレットに書いてあったような
⋮⋮。
つまり!普通の歓迎会じゃないってことだよね!食べ物とかあるの
かなー?あ、もしかしたら素敵な先輩に出会ったり、あ、あとは⋮
⋮想像しだしたら止まらない!あー、楽しみ。
﹁ひなー! そっちじゃなくてこっち﹂
﹁うぇ﹂
自分の世界に浸っているところを、首根っこを掴まれたことによっ
て現実に引き戻された。
﹁何これ﹂
渡り廊下を歩いて数分後、新入生歓迎会の会場である、これまた広
い第二体育館に私達はいた。そしてそこで繰り広げられてる光景に
私はただただ驚いた。
﹁あれ? 陽菜乃ちゃん知らなかったの?﹂
﹁何が?﹂
﹁この学校部活動が盛んだって、言ったじゃん﹂
﹁それは聞いたけど! こんな事する部活動なんて聞いたことない
よ!﹂
二人は至極当然そうに言っているが、私には目の前の光景が当然の
出来事であるとは思えない。
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もう高校生ともなろう少年が水鉄砲で相手の少女に攻撃を仕掛ける
姿や、少女がどうみても鍋の蓋らしきもので水鉄砲の水を交わして
いる姿なんて。子供がやっていれば多少可愛げはあるのかもしれな
いが⋮⋮。
絵面だけ見ていれば、それはただの茶番にしか見えない。だけど何
故か白熱したバトルのような見応えがある。謎だ。
﹁えーと、これはあれか、今だけ童心にかえってこれからの高校生
活気を引き締めようってこと?﹂
﹁え、いや違うよ?﹂
﹁そうだよ、これは部活動対抗戦の一部を披露してくれてるんだよ﹂
﹁え? 部活動対抗戦?﹂
二人は揃って、うん、と首を縦に振る。私はもしかしたら変な学校
に入学してしまったのかもしれないとそう思った。
そして私は二人から部活動対抗戦について、話を聞かせてもらった。
部活動対抗戦とは、月に数回ほど行われる行事で、それぞれの部活
が日頃使うアイテムを使い戦う事らしい。そして校則により部活に
は絶対所属していないといけない。
能力の有無問わず参加する事が可能だが、この対抗戦は先着受付順
となっているため、参加出来ない部活も中にはあるそうだ、そんな
部活動にも配慮した結果、どの部活が勝つのか賭けることのできる
制度が導入された。だがやはり、賭けをする部活と直接対決をする
部活とでは部活及び学園での質が変わってくる。まぁなんか、ここ
ら辺難しいから後々考えよう、で、だからまぁ、皆、エントリーを
勝ち取るために日々のうちから戦いが始まっているようなもの⋮⋮
⋮⋮んー、大変だな。
24
﹁なるほど、つまり部活には強制的に入部しなくてはならない⋮⋮
と、って待って! 部活って強制入部なの!?﹂
﹁そうだよ、部活無所属の子は即刻退学だからね﹂
﹁そんな大事なこと何で教えてくれなかったの!﹂
﹁てっきり、撫子が教えてるもんだとばかり⋮⋮﹂
﹁私は、凪紗ちゃんが教えてると思って⋮⋮﹂
二人は申し訳無さそうにうなだれる。なんだか私が悪者みたいじゃ
ないか。
﹁ふ、二人とも別に怒ってる訳じゃないから⋮⋮﹂
﹁本当!﹂
二人の明るい顔を見たら、なんかどうでも良くなってきた。ようは、
部活にさえ所属してればいいんだし。
だけどそんな甘い考えは直ぐに崩壊する。
﹁あ、でも部活動対抗戦でもし負けでもしたら、この学園での生活
に支障をきたすことになるかも﹂
﹁そうだね﹂
﹁え?﹂
﹁それぞれの部活にはね、ランク付けがあって、あの先輩たちもつ
けてるけど、胸のバッジによって住む部屋も日々の食事も変わるの﹂
﹁そう、だからとりあえず私達新入生はもう所属する部活を決めな
いといけないんだよ。まあ、もうすでに決まってる子が大半だろー
けどね﹂
﹁え、何で⋮⋮﹂
﹁この学園の高等部の人達は基本、中等部からの持ち上がりだしね。
私達外部からの受験生とは元々の土台が違うんだよ﹂
﹁なるほどね、ちなみに二人はもう決めてるの?﹂
25
今後の参考にするため聞いてみた。
﹁もちろん! 中学の時からやってた部活にはいるんだよー﹂
﹁へえー、って言うか二人ともなんでそんなに詳しいの⋮⋮﹂
﹁んー、実はお姉ちゃんが此処の卒業生なんだよね、志望理由もそ
れが大きな理由だったりするわけで﹂
私は二人から色んな情報を聞いていて、それを理解するのに頭を働
かせていた。だからだろうか、後ろから近づいてくる人物に気付か
ない。
﹁ひーなーちゃーん!﹂
﹁っ!﹂
突然何かに抱き締められた、だがこれが一体何なのか瞬時に分かっ
た私は綺麗な一本背負いを決めた。物凄い音と共に、周囲の視線が
此方に向く。だが、代表挨拶の件を思い出してか、彼らの視線は散
り散りになっていた。
一方、凪紗と撫子は己の危機を感じたのか、私から少し離れたとこ
ろに避難していた。
﹁っ、痛ー﹂
﹁ちーちゃん、何してるの﹂
﹁えへ☆ 会場内を歩いてたら偶然にもひなちゃんを見つけたから、
これは挨拶しにいかないと、と思って﹂
仁王立ちのまま、溜め息を吐く。
なんでこう、この人はこうなんだろう。呆れた目で見ていると、何
故かキラキラした目で此方を見てくるのでそっと目をそらした。そ
26
のそらした視線の先に見知った姿をもう一人見つける。
﹁秀也先輩!﹂
﹁あ、久しぶり∼、陽菜乃ちゃん﹂
和服のよく似合う和風美人な九瀬秀也先輩。手なんか振って可愛い
な∼。おっとりとしたその雰囲気は周りのものを癒してくれる。か
く言う私もちゃっかりと癒される。
﹁ひなちゃん! 何でコイツは名前で先輩なのに俺は″ちーちゃん
″なの!?﹂
空気の読めない人が一人。全く台無しではないか、せっかくの癒や
しの時間が⋮⋮。
﹁はあ、だって今更幼なじみを名前で呼ぶのはなんか嫌だし、それ
に渾名で呼んでるのはちーちゃんくらい⋮⋮﹂
全部言う前に言葉が途切れた。
彼は私の目の前で涙を滲ませている。何故だ。
﹁そっか、そっか、ひなちゃんにとって俺は特別なんだね! よく
よく考えれば分かることだよ! うんうん!﹂
なんか勝手な自己解釈をしてるんですが⋮⋮。哀れな目で見ても彼
はそのまま言葉を続ける。
﹁それに! ひなちゃんみたいな変な子は俺みたいなのがついてい
ないとダメなんだよね!﹂
27
いきなり人を変な子呼ばわりか!
私は決して変な子ではない。ちょっと頭があれなだけで⋮⋮あれ?
もっと悪くなってる?
収拾のつかなくなったこの状況を救ってもらおうと、秀也先輩を見
る。頭一つ分くらい身長が離れてるため、私が見上げる形になる。
出来る限り、思いを込めて見つめる。
だが秀也先輩は微笑みながら、私の期待を裏切り、言った。
﹁次、僕の番だから行ってくるね﹂
そう言うなり、大きな筆を抱えて会場の真ん中へ歩きだす。
え、この状況助けてくれないの?
なんか、ちーちゃんが怖いんだけど。さっきからなんかたくさん独
り言を喋ってるの、友達何だから助けてあげれば?なんて、私の頭
はどうやらショート寸前らしい。
28
第四話 ミヤちゃん
今年の春から華の女子高校生になった私、一神陽菜乃は素敵な学園
生活を送っていた。
あの代表挨拶のことなんて無かったかのように、皆が話しかけてく
れて、私の机の周りは人で溢れてる。
﹁ねえ、今度皆で遊びに行かない?﹂なんていうことを話していて、
私は即答で﹁行く行くっ!﹂と少々興奮気味に答える。
幸せだな∼、なんて思いながら皆と会話を弾ませる。
なんか耳元で、ピピピッッピピピッッうるさいけどそんな事は今は
どうでもいい。だが私は、ある違和感を抱く。だんだんと皆が一方
的に会話をしているように見える。あれ?皆の声が聞こえないよ?
ああ、この音がうるさいんだ。
うるさい?
﹁うるさいなあー、皆の声が聞こえない⋮⋮﹂
新入生歓迎会の翌日。時刻は午前九時半。カーテンをゆっくりと開
く、今日も天気は快晴で、桜の花もまだまだ咲き誇っている。それ
を私は欠伸をしながら見つめていた。
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﹁ふぁ∼、眠⋮⋮﹂
四畳半程の小さな部屋。
これが今の私に割り振られた部屋である。もっと広くて素敵な部屋
をイメージしてただけあって、内心結構ショックであった。けれど、
これでもまだマシな方らしい。凪紗が言っていた。新入生代表でも
なければ今頃″元″物置部屋が寝床になっていた、と。
流石に冗談だろうと思っていた私は、実際にまだどこの部にも所属
していない子がその″元″物置部屋へ連行⋮⋮いや、行くのを目撃
して、事実なのだと悟った。
﹁物置部屋だけは勘弁だもんねー﹂
けれど私だって危機的状況なのは変わらない。今日から二週間以内
に部活への正式入部をしなければ退学という恐ろしい結末が待って
いる。
でもまあ、まだ二週間もあるしそのうち″いい″部活を見つけて入
るだろうと高をくくり、考えることを放棄した。
そして、壁に掛かった時計をもう一度眺める。九時半。もう、遅刻
は免れない時間帯だった。こうなれば、もう遅刻云々はどうでもい
い気がしてきた。二度寝しよう、うん、そうしよう。
﹁寝よ寝よ﹂
﹁よくありません!﹂
声が聞こえた、先程までこの部屋には誰もいなかった筈だ。
え、何々?私ついに霊能力者の力でも覚醒しちゃった?世界を救う
ためこれから、国と戦っちゃうの!?
なんて、寝ぼけた頭で訳のわからないことを考えていると、寝ぼけ
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眼の私の前に灰色の小さな頭が見えた。
﹁幽霊だぁあああ!﹂
﹁違いますぅうう!﹂
我ながら凄い大きな声が出たと思う、ギネス記録いけちゃうんじゃ
ない!?とか、思ってると目の前の灰色頭もほぼ同時に叫んでいた。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁はあ、はあ﹂
肩を上下に揺らしながら息を整えてる灰色頭の少女。あ、分かった
!座敷わらしでしょ!そうだよ!服装はやっぱり現代に合わせて洋
装なんだね、可愛いよ似合ってるよ、むしろ私は今幸せの絶頂だよ!
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁何ですか、その目は﹂
自分が思っていたよりキラキラとし目で見つめていたのだろう、ジ
トリと効果音がつきそうなくらいの睨みをきかせてくる灰色頭の少
女。あ、可愛い⋮⋮。
﹁何だか身の危険を感じます﹂
﹁えー、なんでー?﹂
さっきのはちょっと不味いかなーとは思ったよ!自分で言ってても
ちょっと引いたもん、でもこの可愛さは正義だよね。皆が認めなく
ても私は認めてあげるよ!
﹁認めなくていいです﹂
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﹁あれ? 何故心の声が⋮⋮﹂
﹁全部口に出してました﹂
﹁あはは、そうかー﹂
引いた目でこちらを眺めてる可愛い女の子。そういや、何故ここに
居るんだろう。もしかしてここ、この子の部屋!?寝る場所取っち
ゃったの私!
﹁ところで⋮⋮﹂
﹁んー? 何々?﹂
脳内で色んなことを思っていると、目の前の可愛い可愛い女の子に
声をかけられる。
﹁さっさと制服着て、学校に行ってください!﹂
﹁え?﹂
いきなり怒鳴られた私は何を言われたかよく理解出来なかった。が、
物凄い剣幕で私に近寄る灰色頭の少女の態度に渋々、壁に掛かって
いる制服を手に取った。
あ、でもでも、怒鳴ってる姿もちっちゃくて可愛かったよ!言った
ら怒られるだろうけどね。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮そういや、この学校の制服って珍しいよね﹂
﹁⋮⋮そうですか?﹂
﹁うんうん、基本的にはセーラー服とかブレザーが多いのにさ、こ
こはパーカーだよ?﹂
両手を広げてアピールする。
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ベッドに腰掛けて、足をパタパタと揺らしている灰色頭の少女は無
表情のまま私を眺めていた。
あ、そういえば肝心なこと忘れてた。
﹁ねえねえ、あなたの名前は?﹂
﹁私の名前ですか?﹂
﹁そうそう、私の名前は一神陽菜乃! ひなのんと呼んでくれても
いいよっ!﹂
中学の頃はクラスの皆にそう呼ばれてたしね。
﹁一神さんですね。私は、灰崎京です﹂
﹁え、何? スルー!? しかも名前ですらないし! あ、それじ
ゃあミヤちゃんって呼ぶね、よろしく!﹂
﹁忙しい人ですね、一神さんは﹂
﹁ねえ、なんか嫌だよ! せめて名前でお願い! これじゃあ私が
一人で、友達だって言い張ってる可哀想な子になっちゃうよ!?﹂
そんな可哀想な称号はいらぬ。
だって私は退屈のない、楽しい学園生活を送りたいんだよ!そんな
称号あったら周りからの視線が痛くて青春どころじゃないよ。
﹁はあ、分かりました。陽菜乃さん、でいいですね?﹂
陽菜乃さん⋮⋮、ヤバいよ、この子の破壊力は凄いよ。名前で呼ん
でもらっただけでなく微笑みというなのオプション付きだよ!写メ
とりたい!ダメ?いやいや、自分のブログとかに貼らなければ問題
ないよ、むしろ、他の子に見せるのさえ惜しいくらいだからね?
﹁⋮⋮陽菜乃さん、あなたの世界に入り込むのは勝手ですが、今の
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状況を把握してください﹂
﹁⋮⋮すみません﹂
冷たい視線にも耐えて、私はとりあえず制服を着て、髪を纏め身支
度をする。そうだ、ベッドフォンはどこにあったっけ。近くのダン
ボール箱の中を漁る。すると、見慣れた桃色のベッドフォンが顔を
出した。あった!入学式の時はダンボール箱に既に入れちゃってた
から付けてなかったけど⋮⋮、これがないとテンション上がんない
よね!あ、こっちには中学のアルバムが⋮⋮っていかんいかん、こ
ういうのは後々。
﹁陽菜乃さん、時間⋮⋮﹂
﹁え? ああゴメンね。それじゃあ行こうか、食堂へ!﹂
ビシッと扉を指して、食堂まで向かおうと歩きだす。
﹁⋮⋮あの、学校に行く気無いんですか?﹂
﹁あるよ? でもでも、ご飯食べてからじゃないと無理!﹂
ご飯は大事だよ?食べなきゃ脳が上手く働かないからね!
半ば呆れながらもミヤちゃんは、私の後ろをついて来る。なんか猫
みたい!可愛い、可愛いよミヤちゃん!
﹁あなた今なんて思いました?﹂
﹁可愛いなあ!って﹂
自分の中でも最高の笑顔を見せてみる、が、ミヤちゃんはそんな私
を無言で見つめた後、スルーしてスタスタと食堂の方へ歩いて行っ
てしまう。構ってもらえないとこんなに辛いんだね。ちーちゃんの
気持ち分かるような気がする。でも、ちーちゃんに同情はしないよ
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!だって、同情で受け入れられたって嬉しくないもんね。きっと!
⋮⋮うん、きっとね。
﹁おー! 広い!﹂
両手を広げて、この空間の広さを実感する。
とそこへ、何故かオムライスを持って私の方に来た小さくて可愛い
ミヤちゃん。
﹁早く食べてください。午後の授業には出てもらいますからね﹂
﹁はーいって、何でオムライス!? 私頼んだっけ!?﹂
いや、頼んでないと思うんだけどなー。知らないうちに頼んでたり
?いやいや、ないない。心の中での言葉と連動したのか、つい右手
を振ってしまった。
﹁陽菜乃さんが先程寝言で、オムライス最高! と叫んでいらっし
ゃったので、コレがいいのかと﹂
﹁思いっきり食欲をぶちまけちゃってたよ! え? 私叫んでたの
?﹂
﹁はい﹂
ただの寝言ならまだしも、叫んでいたとか⋮⋮乙女の恥だよ。
﹁では早く食べてくださいね﹂
﹁うん﹂
適当な席につき、オムライスを食べ始める。ふわふわで美味っ!つ
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いつい、ハイスピードで食べ進めてしまう。そんな私のとなりでは、
オレンジ色の液体の入ったコップを両手で持ちごくごくと飲んでい
るミヤちゃんの姿が。やっぱり可愛いね。今スマホが無いのが悲し
いよ。たくさん写真取りたかったのに!そんなことを思いつつオム
ライスを頬張っていると、突然ミヤちゃんが話しかけてきた。
﹁そういえば私、あなたに他にもお伝えする事がありました﹂
﹁ほふたえ?﹂
﹁はい﹂
口の中にあるオムライスを胃に流し込み、ミヤちゃんの言葉を待っ
た。
﹁この学校についての事です﹂
﹁あー、部活動対抗戦とかの話?﹂
﹁まあそれもあるんですが、あなたにはコレを渡しておきますね﹂
そう言うなり、何かの端末機を渡された。
﹁これは、スマホ?﹂
﹁まあそんな感じですね。その端末にはこの学園のマップや、先程
言ってました、部活動対抗戦で得たポイントなどが表示されます。
もちろん、連絡手段もそちらを使っていただきます﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁それと、こちらも﹂
﹁ベルト? になんか箱みたいなのがついてる⋮⋮﹂
﹁それはこの端末を仕舞っておく為のものです﹂
﹁へー﹂
﹁絶対に端末を無くしたり、壊したりしないでくださいね﹂
﹁しないよー! そんないい加減じゃないし!﹂
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不安そうな目を向けてくるミヤちゃんに素早く反論した。
﹁ならいいですが。もし、無くしたり壊したりした場合、弁償して
いただきますから覚悟してくださいね﹂
﹁ちなみに、コレいくらするの?﹂
恐る恐る、小声で訊ねる私に、可愛らしい笑みを浮かべて、その可
愛らしい口からとんでもない値段を言われた。
﹁ざっと、二千万程ですね﹂
﹁にっ、二千万?﹂
え?この端末一個に、二千万?ちょっと金かけすぎなのでは?だっ
てこの学園の生徒全員が持ってるんでしょ、総額一体いくらすんの
!?私立の学校とはいえ、凄すぎて私ついていけないよ。
﹁まあ端末は渡しましたし⋮⋮それに時間も時間なので、歩きなが
ら色々説明させていただきますね﹂
﹁って、え! もう? ちょっと待ってオムライス後ちょっと⋮⋮﹂
席を立つミヤちゃんに置いて行かれないよう、素早くオムライスを
かきこみお盆ごとカウンターに返しに行く。そして、姿の見えなく
なったミヤちゃんを慌てて追いかけた。
﹁それでは、先程の話の続きを﹂
﹁はー、はい﹂
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廊下は走るなというポスターが貼られていた為、小走りになりなが
らも私は、ミヤちゃんにどうにか追いついた。
﹁ではまず、部活動対抗戦について⋮⋮﹂
﹁あの! その前に一つ聞いていい?﹂
﹁なんですか?﹂
私を見上げながら聞き返すミヤちゃん、可愛ええ!と、今はその話
置いといて。
﹁なんで、ミヤちゃん私の部屋に居たの? もしかして元住人さん
?﹂
﹁いえ、私は蒼真先生に頼まれてあなたを呼びに来たのです﹂
﹁へー、って蒼真先生って誰?﹂
﹁覚えていないのですか!? 陽菜乃さんの担任の方ですよ!﹂
﹁ふーん、ん? 担任? その蒼真先生っていう人が?﹂
﹁そう言えば蒼真先生、仰っていました、自己紹介が終わった後す
ぐに寝たとかなんとか﹂
﹁あー!﹂
そうだ、そうだった、私自分の自己紹介終わった後すぐに⋮⋮
﹁ふて寝したんだった!﹂
﹁どんな、神経してるですか﹂
あはは、ごもっともです⋮⋮。
その時、腰の辺りで急にバイブがなった。
﹁端末が鳴ってる⋮⋮、えーと? どれどれ⋮⋮って、ゲッ﹂
﹁どうしました?﹂
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﹁ちーちゃんから⋮⋮﹂
っていうか、私さっき端末貰ったばっかり何だけど何でメールアド
レス知ってるの!?何か怖いよ。
﹁ちーちゃん? ああもしかして、八瀬千尋さんですか?﹂
﹁うんそう、あれ? 何でミヤちゃんがちーちゃんの事知ってるの
?﹂
﹁陽菜乃さんのもとへ行く途中に会ったので﹂
﹁え、もしかしてそこで﹂
﹁八瀬さんに、陽菜乃さんに端末はもう渡したのかと聞かれたので、
まだ渡していないと言ったら、端末を貸してと言われたので貸しま
した﹂
﹁それだー!﹂
というかミヤちゃん!それ個人情報だから!なるほどね、だからち
ーちゃんメールしてきたのか⋮⋮にしても、メールのタイミングが
バッチリ過ぎてどこかで見てるんじゃないかって心配になるよ。
﹁すみません、あまりにも切羽詰まった様子でしたので⋮⋮﹂
﹁うん、もういいよ。気にしてないから﹂
肩を落としてどんよりするミヤちゃんに私は、なるべく安心しても
らえるように笑顔を浮かべた。
﹁そういや、メールの内容は⋮⋮﹂
おはよー☆ひなちゃん!
今日も天気いいね!まさにデート日和だね!放課後にでもどう?服
はねスカートがいいなぁー。あ、でも他の男にひなちゃんの可愛い
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可愛い姿を見られるのは嫌だな。あ、じゃあ!お家デートならぬ寮
デートにしよう!うん、それがいいね!それとね⋮⋮
無言で端末の電源を切った。
﹁どうしました? 顔色悪いですけど﹂
﹁いや、何でもないよ? あのさ、ミヤちゃん。﹂
﹁はい?﹂
﹁ギュッてしてもいい?﹂
﹁⋮⋮今回は許しましょう﹂
ちーちゃんから来たメールでのダメージを、ミヤちゃんを抱きしめ
るという形で私はどうにか復活をとげたのだった。
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PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n2173ca/
学園アナライザ
2014年3月23日09時10分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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