東北地方太平洋沖地震による堤防被災と対策 河川政策グループ 佐古 俊介 1)、宮武 晃司 2)、柳畑 亨 3) 概要: 平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震により、東北地方から関東地方の広範囲にわたって河川堤 防が被災した。堤防被災の原因は基礎地盤の液状化に加え、これまで地震による堤防の被災として主眼が 置かれていなかった堤体下部に存在する砂層(閉封飽和域)の液状化による被災が多数発生したのが特徴 である。 本研究は、堤防被災箇所で実施したボーリング調査や開削調査の結果を踏まえ、被災箇所の堤体構造の 特徴と、堤防被災の原因となった液状化位置について示し、堤体の液状化による堤防被災過程について考 察する。さらに、本研究を踏まえて改訂された、「河川構造物の耐震性能照査指針」等における河川堤防の 耐震性照査と耐震対策の手法について報告する。 キーワード: 東北地方太平洋沖地震、液状化、閉封飽和域、堤防の耐震性照査、耐震対策 1.はじめに 平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震(以下、「東 北地方太平洋沖地震」という。 )により、東北地方から関 東地方の広範囲にわたって河川堤防が被災した。 堤防被災は、従来多く見られた基礎地盤の液状化を原 因とするもの以外に、これまで地震による堤防の被災と して主眼が置かれてこなかった堤体下部の堤体内水位以 下の砂層(以下、「閉封飽和域」という。 )の液状化による 被災が多数発生したのが特徴である。 本研究は、東北地方太平洋沖地震で生じた堤防被災の 特徴を概説し、被災箇所で実施した堤防開削調査等によ り明らかになった被災箇所の堤体構造の特徴と、堤防被 災の原因となった液状化位置について示し、閉封飽和域 の液状化による堤防被災過程について考察する。 さらに、本研究を踏まえて改訂された、「河川構造物の 耐震性能照査指針」等における河川堤防の耐震性照査と 地震対策の手法について報告する。 かったことが挙げられる。 揺れについては、東北地方や関東地方の太平洋側で、 水平方向の加速度が 300gal を超えており、 1000gal を超 えた地域があるなど、 広範囲で地震の揺れが大きかった。 また、 継続時間については、 観測された地震波形より、 液状化が発生するとされる 50gal 以上の地震動が続い た時間を算出すると、2 分を越える継続時間となった。 これは、近年の大きな地震の地震動と比較して、長い継 続時間であった。 2.地震の特徴 東北地方太平洋沖地震では、宮城県栗原市で震度7、 宮城県、福島県、茨城県、栃木県で震度6強など、東北 地方から関東地方の太平洋側を中心に広範囲で非常に規 模の大きい揺れを観測した。東北地方太平洋沖地震の特 徴として、地震の揺れが大きかったこと、継続時間が長 1) 佐古 俊介 河川政策グループ 2) 宮武 晃司 河川政策グループ 3) 柳畑 亨 河川政策グループ 上席主任研究員 研究主幹 主任研究員 - 43 - 図-1 地震動の継続時間(既往地震との比較)1) 生するプロセスは、基礎地盤の緩い飽和砂質土層が地震 動により液状化し、その剛性・強度が低下することで、 堤防の自重により水平方向の伸張を伴って鉛直方向に圧 (1)被災の概要 縮し、堤体のすべりや天端の亀裂・陥没等の変状が生じ 直轄河川管理施設の地震及び津波による被災箇所数は、 るものと考えられる。 小貝川 (左)35k付近 小貝川 (右)32k付近 東北地整管内の 5 水系で 1195 箇所、 うち堤防被災箇所数 (茨城県つくば市上郷地先) (茨城県常総市上蛇地先) 利根川下流 (右)71k付近 基礎地盤の液状化 は 773 箇所、 延長は約 98km、 関東地整管内の 4 水系で 920 (千葉県印旛郡栄町) *堤体も部分液状している可能性 箇所、うち堤防被災箇所数は 582 箇所、延長は約 124km、 液状化 に及んだ。 堤体 図-2 は、東北地方太平洋沖地震及び津波により堤防が 被災した水系と被災範囲、決壊、陥没・沈下等の大規模 基礎地盤(砂質土) な堤防被災箇所を示したものである。大規模被災箇所は 53 箇所(東北地整 29 箇所、関東地整 24 箇所)に及び、 津波による被災箇所を除く 44 箇所が地震による被災で 図-3 基礎地盤の液状化による小貝川(右)32k 付近の被災 あった。 (3)堤体の液状化被災 津波による被災を除く堤防被災(沈下、のり崩れ、亀 堤体 液状化 東北地方太平洋沖地震の堤防被災箇所では、周辺地盤 (砂質土) 裂等)の要因は液状化であり、外力として作用した地震 に噴砂が見られない箇所が多くあった。 これらの堤防は、 動の強度、継続時間の長さ(繰り返し回数の多さ) 、及び 基礎地盤の液状化による被災箇所と比較して、基礎地盤 基礎地盤を含む堤防の土質特性が液状化の発生や程度に 表層が軟弱な粘性土で構成されていることや、天端及び 基礎地盤(粘性土) 影響したと考えられる。また、液状化発生箇所は、従来 のり面に複数の縦断亀裂が生じ、ブロック化した堤体土 多く見られた基礎地盤の他、基礎地盤の液状化が想定さ が陥没して側方変動した被災形態となっていることが特 れない粘性土の軟弱地盤上の堤防においても、大規模な 徴であった。また、天端の沈下及び川裏のり面のはらみ 堤防被災が発生しており、これまで地震による堤防の被 出しにより被災後の堤防はほぼ水平となった箇所もあり、 災として主眼が置かれてこなかった堤体の液状化がその 亀裂内には噴砂が確認されている。 主要因であった。 3.地震被災の特徴 阿武隈川下流(右)31k付近 (宮城県角田市) 堤体の液状化 馬淵川水系 13箇所 鳴瀬川 液状化 堤体 (砂質土) 基礎地盤(粘性土) 北上川水系 那珂川水系 646箇所 129箇所 図-4 堤体の液状化による鳴瀬川(左)30k 付近の被災 久慈川水系 110箇所 名取川水系 このような形態の堤防被災は、これまで地震による堤 防の被災として主眼が置かれていなかった堤体の液状化 による被災であると考えられる。特に東北地方では、堤 防の大規模な被災箇所 22 箇所のうち、堤体が液状化し たと推定されるのは 16 箇所と大半を占めている。 鳴瀬川水系 35箇所 364箇所 利根川水系 荒川水系 659箇所 22箇所 阿武隈川水系 137箇所 4.堤体の液状化による堤防被災メカニズムの考察 :堤防に地震に伴う変状が見られた区域 :大規模被災箇所(HWLよりも深い堤体の沈下、陥没や、亀裂が発生した箇所) 数字は各水系における被災箇所数 図-2 堤防被災範囲と大規模被災箇所1) (2)基礎地盤の液状化被災 堤防被災の原因が基礎地盤の液状化による箇所では、 周辺に噴砂が見られるのが特徴である。堤防の被災が発 大規模な堤防被災箇所で実施したボーリング調査等の 土質調査、地下水観測調査、堤防開削調査結果等をもと に、堤体の液状化による堤防被災メカニズムの解明を 行った。 (1)基礎地盤、及び堤体土質特性 東北地整管内の大規模な堤防被災箇所(21 箇所)の堤 防天端で実施したボーリング調査より作成した基礎地盤 - 44 - 土質別の N 値ヒストグラフを図-5 に示す。対象とした基 礎地盤の深度は約 15m 程度までである。これによると、 基礎地盤を構成しているのは液状化しないとされる粘性 土である箇所が多いことが分かる。これらの粘性土の N 値は 10 以下が多く、 一般的に軟弱地盤とされる 3 以下に 該当する箇所も多い。 液状化による被災が生じる可能性が大きいことが分かる。 砂質土 S 堤体内水位 河川名 検討対象とした地区 (計19地区) 地先名 阿武隈川 野田,坂津田,枝野,小斉 粘性土 地下水位以深の堤体材料に着目 地下水位以深にある盛土部分を対象に、土質 の違いを大規模変状の有無で比較. 鳴瀬川 砂山,木間塚,和多田沼,下中ノ目下流, 下中ノ目上流 吉田川 大迫上志田下流,大迫上志田上流 江合川 上谷地,中島乙,平針下流,平針上流,渕 尻下流,渕尻上流,福沼 新江合川 楡木 図-6 土質特性の把握に用いた材料と対象河川 100 40 砂質土 90 粘性土 礫質土 S/H = 0 0 < S/H ≦ 0.2 0.2 < S/H ≦ 0.4 0.4 < S/H ≦ 0.6 0.6 < S/H 80 30 70 塑性指数IP 頻度 60 50 40 20 30 10 20 10 0 0 10 20 30 40 0 50 0 N値(回) 20 40 60 細粒分含有率FC (%) 80 100 図-7 被災箇所とその近傍の無被災箇所の堤体の土質 3) 図-5 基礎地盤の土質と N 値ヒストグラフ 2) 一方、堤体下部(比較的地震前の状態で残っていると 考えられる基礎地盤直上付近)の堤体材料をサンプリン グし、細粒分含有率と塑性指数を整理したものを図-7 に 示す。なお、被災箇所近傍の無被災箇所のデータも併せ てプロットしている。被害があった箇所については液状 化判定の対象となる細粒分含有率 Fc≦35%の土がほとん どであったが、これを超えるものでも塑性指数 Ip<20 の範囲においては比較的大きな沈下率となった断面も存 在した。つまり、地下水以下で Fc≦35%、又は Fc>35% かつ Ip<20 の材料が堤体下部に分布している場合には、 (2)地下水位調査結果 鳴瀬川下中ノ目上流地区では、液状化の要因である地 下水高さを把握することを目的として、堤防の被災区間 と隣接する無被災区間において水位観測を実施した。 図-8 は地下水観測結果を縦断的に示したものである が、ボーリング時の地下水位、及び地下水観測孔での地 下水観測結果を結んだ推定地下水位(青実線)と、堤体 と基礎地盤の境界(茶破線)を比較した結果、被災区間 では地下水位が無被災区間に比べて高い(赤枠破線)こ とが明らかとなった。以上から、被災箇所では地下水位 が堤体内に存在し、かつ高いことが特徴であることが分 かる。 開削調査箇所 被災区間 30.5k+37m 無被災区間 30.0k 地下水位 図-8 被災箇所とそ 堤体と基礎地盤の境界 30.0k 30.5k の近傍の無被 30.7k 災箇所の堤体 土質 - 45 - 復旧盛土 復旧盛土(腐植土) 粘性土層 砂層 (3)開削調査結果 鳴瀬川下中ノ目上流地区で実施した被災堤防断面の開 削調査結果を示す。 堤防開削調査では、 点で実施するボー リング調査では把握し難い以下の事項が明らかになった。 ①堤体と基礎地盤の境界面である、基礎地盤 Ac1 層の上 面は川裏から堤体中央に向かって凹状に下がってお り、基礎地盤を切るような著しい変状は確認されてい ない(トレンチ堀により確認) ②堤体下部に液状化したと考えられる砂層が確認された。 上記砂層は乱されており、ブロック化した堤体下部が 砂層にめり込んでいる状況が確認された。なお、変形 の少なかった川表側の堤体土は粘性土であることが 確認された。 ③堤体下部の液状化層と考えられる砂層と繋がった砂脈 が確認された。砂脈は、堤体下部から川裏側に向かう ものと、亀裂沿いに上方に向かうものが確認された。 ④開削途中の壺堀により堤体内に地下水面が確認された (中央 TP+14.45m,,川裏 TP+14.4m) 。その高さは、概ね 堤内地盤高程度であった(開削前の水位観測孔の水位 は TP+15.4m であり、開削作業中に水位が低下した可 能性がある) 。 鳴瀬川下中ノ目上流地区における開削断面のスケッチ 等を図-9 に示す。 (図中番号は上記文中番号に対応) これらの結果、堤防被災の原因は、軟弱粘性土地盤上 に砂質系材料を用いて築堤・拡幅した堤体下部において、 圧密沈下により堤体と基礎地盤の境界面の形状が凹状と なり、 その上部に堤体に浸透した水が地下水面を形成し、 この領域が地震により液状化したものによると推定され る。その結果、閉封飽和域の剛性・強度が低下し、堤体 の亀裂、陥没が発生するとともに、裏のり尻部から液状 化砂が噴出し、堤体の側方変動が生じたものと想定され る。 (4)めり込み量・飽和層厚と堤防沈下率 閉封飽和域を形成する要因として、築堤による基礎地 盤の圧密沈下が挙げられる。そこで、ボーリング調査結 果より、堤体下部における、圧密沈下量(堤体めり込み 量)と堤防沈下率 S/H(沈下量/堤防高)との関係を図-10 に、圧密沈下下端から堤体内水位までの飽和層厚と沈下 量の関係について図-11 に整理した。圧密沈下量が 1.0m 以上、また、飽和層厚が 1m 以上、かつ堤防高さ(H)の 2 割以上の場合には、堤防の沈下率が大きくなる傾向が見 面の開削結果(上流側)2) られた。なお、めり込み量(S0)や飽和層厚(Hsat)が大き いにも関わらず堤防沈下率(S/H)や堤防沈下量(S)が小さ い箇所は、土質が細粒分含有率 Fc≦35%、か塑性指数 Ip <20 の範囲にない箇所である。このことから、基礎地盤 が 1m以上圧密沈下され堤体内に地下水位を有する閉封 飽和域が形成されたことが堤防被災の有無を分けた条件 と考えられる。 5 1 4 0.8 3 0.6 0.4 1 0.2 0 1 2 3 4 5 6 7 めり込み量S0 (m) 8 9 めり込み量(S0) 飽和層厚(Hsat) 堤体土が砂質土で均質な場合 2 0 地下水位 非液状 化層 めり込み量(S0) 0 10 0 1 2 3 4 5 6 7 めり込み量S0 (m) 8 9 10 飽和層厚(Hsat) 堤体土が粘性土と砂質土の場合 図-10 堤防天端の沈下率(S/H)とめり込み量(S0)の関係 5 5 4 4 3 2 1 0 0.5 3 2 1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 盛土下部の飽和層厚 Hsat (m) 9 0 10 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 Hsat / H 1 0.5 図-11 堤体の液状化による沈下量と飽和層厚の関係 3) 0.4 0.4 5.閉封飽和域の液状化による堤防被災過程の推定 0.3 0.3 S/H 沈下量S (m) 図-9 下中ノ目上流地区被災断 ① ② 沈下量S (m) ④ トレンチ掘削水位(7/13確認) Ac1 S/H TP16.0 TP14.3 ③ 復旧盛土 TP18.0 沈下量S (m) HWL S/H HWL もとの天端と考えられる砂礫 開削前水位観測孔水位(4/30確認) 0.2 0.2 以上の結果を基に閉封飽和域の液状化による堤防被災 過程を推定し下記に示す。粘性土の旧堤体を砂質土によ り嵩上げ・拡幅した堤体を想定したものである。 a) 築堤初期の段階 - 46 - 0.1 0 0.1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 盛土下部の飽和層厚 Hsat (m) 9 10 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 Hsat / H 粘性土で築庭された旧堤があり、砂質土により嵩上 げ・腹付けして現在の堤防形状になった断面を想定し ている。 1 b) 築堤による基礎地盤の圧密沈下の促進 f) 閉封飽和域の間隙水圧上昇に伴う変形の更なる拡大 閉封飽和域が厚く、間隙水圧上昇の程度が大きければ、この 部分は流動的に側方へ移動。 (濃灰色に着色した部分は流動的 な大変形をした飽和領域) 堤体荷重と基礎地盤(粘性土)の圧密特性(層厚と体 積圧縮係数 mv)に応じた「圧密沈下域」の形成。その結 果、アーチアクションにより堤体内の中央・底部の応 力は緩和する。堤体下部は緩みが生じているものと考 えられる。 c) 閉封飽和域の形成 堤体に浸透した雨水は堤体内にたまり、 「閉封飽和域」 を形成。 注)左右対称とは限らない。 d) 閉封飽和域での液状化の発生に伴う亀裂の発生 閉封飽和域の土が緩い砂の場合には、地震動により間 隙水圧が上昇し、強度低下すれば、Fs<1 となり、亀 裂が発生(堤体分断の開始)し始め、法面部は側方へ 移動(ストレッチ) 。 e) 閉封飽和域の間隙水圧上昇に伴う変形の拡大 閉封飽和域の液状化層厚が厚くて、さらに間隙水圧が上昇し て軟化すると、閉封飽和域は境界応力の大きさに従い変形。 この変形によってその上に載る法面部の側方移動の増加と法 尻部のはらみ出しが発生。 天端部分は、両側面の拘束が解放された状態で底部の飽和部 分の大変形により沈下。 6.耐震性能照査指針の改訂と対策案の策定 河川堤防の耐震性能照査は、平成 19 年 3 月に国土交 通省から通知された「河川構造物の耐震性能照査指針 (案) ・同解説」 (以下「指針( 案)という)により実施さ れており、基礎地盤の液状化による被災を対象とした照 査が行われていたが、東北地方太平洋沖地震ではこれら の被災に加えて堤体の液状化による被災が多数発生した ために、照査手法の改訂と対策手法の検討が必要となっ た。 (1)従来の照査手法 「指針( 案)」によると、耐震性能は地震後においても堤 防としての機能(河川の流水の河川外への越流を防止) を保持することと定義されており、堤防としての機能を 保持できれば、 地震による変形、 沈下等を許容している。 そこで、照査手法としては、一般には静的照査手法、例 えば有限要素法を用いた自重変形解析等を行い、沈下後 の堤防高が、河川の照査外水位を下まわっていなければ 安全としている。 (2)東北地方太平洋沖地震における検証と指針の改定 東北地方太平洋沖地震における被災箇所のうち、代表 的な箇所において、指針(案)に示されている、有限要 素法を用いた自重変形解析手法(ALID)で算定した値(計 算値)と、実際の沈下量(実測値)を比較した。その結 果、基礎地盤の液状化が原因と推定される 3 箇所(利根 川:小見川、佐原イ、吉田川:山崎、図-12 白抜きプロッ ト)については、実測値に比較して計算値が大きく算出 される傾向があるものの、その関係は過去の地震におけ る検討結果の傾向と著しく大きな違いは認められなかっ た。しかし、堤体の液状化が原因と推定される 2 箇所(江 合川:中島乙、鳴瀬川:下中ノ目、図-12 塗りつぶしプ ロット)については、実測値に比較して計算値が小さく 算出される結果となる。堤体の液状化による多くの被災 箇所で同様の傾向を示すかは不明であるが、現段階では 基礎地盤の液状化に対する照査手法と堤体の液状化の照 査手法を分けて検討することも重要と考えられる。 - 47 - 天端沈下量 0.8 3 0.6 S/H 沈下量S (m) 5 4 2 押さえ盛土 ドレーン工 0.4 計算値 (m) 4 1 堤体内水位 の低下 3 0 図-13 ドレーン工や押さえ盛土による対策工のイメージ 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 利根川・小見川(基礎地盤) 2 0.2 0 0 2 4 の 0 1 2 の のり勾配n 利根川・佐原イ(基礎地盤) 吉田川・山崎(基礎地盤) 江合川・中島乙(堤体) 1 鳴瀬川・下中ノ目(堤体) 5 1 4 0.8 3 0.6 過去の地震 0 0 1 2 3 4 5 このようになる理由としては、基礎地盤の液状化によ る堤防変形のメカニズムは、基礎地盤の液状化により堤 防が鉛直方向に沈下し、 堤体変状が生じる破壊機構だが、 堤体の液状化のメカニズムは、「5.閉封飽和域の液状化 による堤防被災過程の推定」で示したような破壊メカニ ズムをとるためであると考えられる。 一方で、堤体の液状化による沈下、変形を定量的に評 価する変形解析手法を提案するには、構成則の改良とそ の検証に時間を要するが、耐震性能照査の緊急性に鑑み ると、堤体の液状化に対する当面の照査に適用する方法 を提示する必要がある。このため、当面は堤体と基礎地 盤を分けて照査するものとし、「4.堤体の液状化による 堤防被災メカニズムの考察」の(1)被災箇所の基礎地盤、 及び堤体土質特性や、(2)地下水位調査結果、(4)めり込 み量・飽和層厚と堤防沈下率の結果をもとに堤体の液状 化については以下の基準に該当した場合、堤体の液状化 による堤防沈下が生じると判断し、対策を行うこととし た。 ・ 土質の判断基準として、堤体下部の堤体土が Fc≦35%、 又は Fc>35%かつ Ip<20 ・ 基礎地盤が粘性土でありめり込み量(圧密沈下量) が 1m 以上で、堤体内に水位が存在し飽和層厚が 1m 以上、かつ堤防高さの 2 割以上 (3)対策手法 堤体の液状化による沈下、 変形に対する対策としては、 「堤体内の水位を低下させる対策」、 「堤体の強度を向上さ せる対策」、「液状化の発生は許容するが堤体の変形を抑 制する対策」が挙げられるが、 浸透対策としてドレーン工 が施工された堤防や平均のり勾配が緩い堤防(図-14)で は、東北地方太平洋沖地震において大規模な沈下、変形 は発生していない。このため、堤体内の水位を低下させ る有効な対策としては、浸透対策として一般的に施工さ れているドレーン工が挙げられる。また、堤体の変形を 抑制する対策の一つとしては、腹付けあるいは緩勾配化 による押さえ盛土工法が一定の効果を発揮すると推測さ れる。 沈下量S (m) 図-12 地震被災箇所の計算値と実測値の比較 S/H 実測値 (m) 2 0.4 1 0.2 0 0 1 2 3 のり勾配n 4 5 0 図-14 沈下量とのり面勾配の関係 7.課題とまとめ 本調査は、東北地方太平洋沖地震により直轄河川堤防 で生じた堤防被災について、堤防被災箇所の基礎地盤及 び堤体土質の特性を明らかにし、堤防開削調査の結果か ら得られた知見も加味して、被災の原因と堤防被災過程 を推定したものである。その結果、従来から被害の原因 として想定されていた基礎地盤の液状化の他に、これま で想定されていなかった堤体の液状化が被災の原因で あったことが明らかとなった。 また、河川堤防の耐震性照査、及び耐震対策の緊急性 を踏まえ、直轄河川堤防では、堤体の液状化については 東北地方太平洋沖地震での被災調査結果、及び対策効果 の実績等をもとに、仕様規定による耐震点検とその結果 に基づく耐震対策を実施することとしているが、堤体の 液状化の変形メカニズムを鑑みると、耐震性照査手法は 液状化層の剛性低下率の考え方や大変形理論に基づく構 成則の導入等、変形を定量的に評価する変形解析手法を 提案する必要がある。また、対策手法は、対策効果の定 量的な評価とそれを反映した合理的な対策工設計手法の 開発が急がれる。 参考文献 1)河川堤防耐震対策緊急検討委員会: 東日本大震災を踏まえた 今後の河川堤防の耐震対策の進め方について 報告書, 2011.9. 2) 国土交通省東北地方整備局,北上川等堤防復旧技術検討会: 北 上川等堤防復旧技術検討会 報告書,2011.12. 3) 国土交通省:レベル2地震動に対する河川堤防の耐震点検マ ニュアル,2012.2 - 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