電子ペーパーディスプレイに関する調査結果 - 矢野経済研究所

Research Express
2008 年 5 月 21 日
電子ペーパーディスプレイに関する調査結果
~紙を置き換える最新技術!相次ぐ製品化が紙マーケットに及ぼす実態と将来展望~
【調査要綱】
矢野経済研究所では次の調査要綱にて電子ペーパー市場に関する調査を行った。
1. 調査対象:電子ペーパーデバイスベンダー、ソリューションベンダー(計 14 社)
2. 調査期間:2008 年 1 月~2008 年 5 月
3. 調 査 方 法:当研究所専門調査研究員による直接面接取材及び電話によるヒアリング取材
【調査結果サマリー】
‹ 電子ペーパーは紙・ディスプレイ媒体にかわる今後の社会的・環境的技術
•
紙やディスプレイに次ぐ第三の表示媒体である電子ペーパーは、あらゆる社会的な潮流の後
押しを受け、加速度的な普及を実現する可能性が大いにある。要因としては、省エネ・省電
力化によるCO2排出量の削減に対する意識の高まりやペーパーレス化に代表される省資源へ
の社会的な取組みである。環境保全に関する取り組みには、紙に変わる新しい媒体が必要と
なり、電子ペーパーは従来の紙媒体の代替として、大いに期待される技術である。
‹ 実用化に向けての課題はカラー化、耐久性、反射率の向上
•
2003 年あたりから 2005 年にかけては、主要な一部のデバイスベンダーが市場を牽引し
ている状況であった。2005 年から 2007 年にかけては、複数のデバイスベンダーの技術
が実用段階となり、低消費電力や視認性の高さ等の特徴を生かせる用途で採用が始まっ
た。2008 年以降は、カラー化、耐久性、反射率の向上等の技術課題を解決するに伴って、
週刊誌や漫画等へ用途がさらに拡大していくものと予測する。
‹ 国内電子ペーパー市場は 2012 年度には 70,882 百万円に拡大
•
国内の電子ペーパー市場規模としては、2007 年度 2,997 百万円(前年度比 119%)、2008
年度 4,874 百万円(前年度比 163%)、2010 年度 36,308 百万円(前年度比 745%)、2012
年度 70,882 百万円(前年度比 195%)と予測する。
◆ 資料体裁
資料名:「2008 年版 電子ペーパーディスプレイの現状と市場拡大の
シナリオ」
発刊日:2008 年 5 月 8 日
体 裁:A4 判 325 頁
‹ 株式会社 矢野経済研究所
所在地:東京都中野区本町2-46-2 代表取締役社長:水越 孝
設 立:1958年3月 年間レポート発刊:約250タイトル URL: http://www.yano.co.jp/
本件に関するお問合せ先(当社HPからも承っております http://www.yano.co.jp/)
㈱矢野経済研究所 管理本部 広報室 TEL:03-5371-6912 E-mail:[email protected]
本資料における著作権やその他本資料にかかる一切の権利は、株式会社矢野経済研究所に帰属します。
本資料内容を転載引用等されるにあたっては、上記広報室迄お問合せ下さい。
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【 調査結果の概要 】
1. 2007 年の市場概況
電子ペーパーはあらゆる社会的な潮流の後押しを受け、加速度的な普及を実現する可能性が大
いにあるといえる。
要因としては省エネ・省電力化によるCO2排出量の削減に対する意識の高まりやペーパーレス
化に代表される省資源への社会的な取組みが挙げられる。
平成 12 年にグリーン購入法が制定され、再生資源の活用が推進されてはいるものの、紙の原材
料採取のための森林伐採は深刻化している。環境保全に関する取り組みには、紙に変わる新しい
媒体が必要であり、電子ペーパーは書籍やコピー用紙の代替として、従来の紙媒体の一部を担っ
て行く可能性は高い。
近年、欧米を中心に海外で電子ペーパー市場は立ち上がったばかりであるが、その一方で、国
内ではまだこれからの状況である。デバイスの高機能化に向けた研究開発は日夜続けられている。
なかでも、デバイスベンダー各社が注力している分野はカラー化と応答速度の向上である。同
技術分野の発展は、鮮明なカラー化を実現することで、広告や POP、ポスター、漫画、週刊誌等
の大きな市場を狙うことが可能となるからである。現段階において、既存の技術レベルで実現可
能な電子書籍や電子新聞等から徐々に製品化され、販売が開始されている。
参入企業各社による有望なアプリケーションとして、電子棚札や広告、電子書籍、電子新聞等
が挙げられる。中でも、電子書籍の実用化は有望との見方がある。その背景として、大型書店並
みのコンテンツ(約 9 万点)を取り揃え、2007 年 10 月に米国で本格的な電子書籍ビジネスを開
始した Amazon「Kindle」があり、これに対する期待が大きいようである。実際に米国では、納品
まで 6 週間待ちの状況が続いていること等から、一般ユーザーにも大きな注目が集まっているこ
とは明らかである。ただ、日本国内では新聞の宅配等のように、すっかり定着している業界の流
通体系を変えることは容易ではないとの見方から、国内市場では受け入れに時間が掛かるとの見
方もある。
2. 技術開発の課題と将来展望
将来的には、広告掲示板や大型看板等への用途拡大が期待されている電子ペーパーであるが、
そこにはコントラストの向上、カラー化や耐久性等の技術面の課題が存在する。一例では、電子
新聞のような白黒表示の場合、現状でも必要機能を備えていると考えられるが、その一方で、広
告掲示板や大型看板等、精彩なカラーを必要とする用途では、デバイスが十分な機能を満たして
いるとはいいがたい。また、広告や看板は通常、屋外での利用が中心である為、紫外線や熱・衝
撃に対する耐久性も必要である。
さらにもう一つの課題は、広告や看板等の本来の目的において、商品の訴求効果を充分に伝え
るためには、文字が読めるという必要最低限のレベルでは不十分であり、デザインの質感や表現
加工まで表現できなければならないということである。したがって、電子ペーパーディスプレイ
が紙媒体や従来のディスプレイに代わる第三の表示デバイスとなるには、コントラストやカラー
化等の表示技術レベルの向上が必要とされる。
将来的には、カラー化や耐久性等への技術課題の克服次第で有望アプリケーションはさらなる
拡大を見せるであろう。
今後の国内の電子ペーパー市場規模としては、数量ベースでは 2007 年度 121,502 千枚(前年度
比 105%)、2008 年度 137,563 千枚(前年度比 113%)、2010 年度 346,059 千枚(前年度比 252%)、
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2012 年度 487,389 千枚(前年度比 141%)と予測する。金額ベースでは、2007 年度 2,997 百万円
(前年度比 119%)、2008 年度 4,874 百万円(前年度比 163%)、2010 年度 36,308 百万円(前年
度比 745%)、2012 年度 70,882 百万円(前年度比 195%)と予測する。
図 1 電子ペーパー市場規模(数量ベース)
単位:枚
487,389,874
500,000,000
数量合計
200%
252%
前年度比
400,000,000
150%
346,059,730
141%
300,000,000
113%
109%
100%
105%
200,000,000
137,563,100
121,502,810
115,578,910
106,501,473
50%
100,000,000
0
年
度
予
測
年
度
予
測
12
20
20
20
08
10
年
度
予
測
年
度
見
込
07
20
20
20
06
05
年
度
年
度
0%
(単位:枚)
2005 年度
数量合計
106,501,473
前年度比
-
2006 年度
2007 年度見込
2008 年度予測
2010 年度予測
2012 年度予測
115,578,910
121,502,810
137,563,100
346,059,730
487,389,874
109%
105%
113%
252%
141%
矢野経済研究所推計
注:200%を超える数値についてはそれ以外を詳細にする為、割愛した。
図 2 電子ペーパー市場規模(金額ベース)
単位:千円
1000%
80,000,000
金額合計
70,000,000
70,882,757
前年度比
900%
800%
745%
60,000,000
700%
50,000,000
600%
40,000,000
500%
36,308,153
400%
30,000,000
300%
20,000,000
10,000,000
2,218,800
2,508,600
年度
度
6年
163%
119%
113%
200%
195%
100%
4,874,146
2,997,505
0%
0
20
05
20
0
20
0
込
度見
7年
20
08
年度
測
予
20
10
年度
測
予
20
12
年度
予
測
(単位:千円)
2005 年度
金額合計
2,218,800
前年度比
-
2006 年度
2007 年度見込
2008 年度予測
2010 年度予測
2012 年度予測
2,508,600
2,997,505
4,874,146
36,308,153
70,882,757
113%
119%
163%
745%
195%
矢野経済研究所推計
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図 3 開発ロードマップ(フレキシブルディスプレイ)
●
高
●
●
●
●
0.2ms
(動画)
90% △
▲
高精細フルカラー
80% △
100 インチ
50% △
技
■
□
45% △
術
48 インチ
■
24 インチ
■
▲
薄型/屈曲性
フルカラー
12 インチ
■
□
6 インチ
■
上市
▲
エリアカラー
▲
低
●:応答速度
△:反射率
■:サイズ
▲:カラー化
□:フレキシブル
モノクロ
2005 年
2006 年
2007 年
2008 年
2010 年
2012 年
矢野経済研究所作成
図 4 国内主要製品導入ロードマップ
POP
電子書籍
電子新聞
電子広告/デジタル
電子広告/デジタルサ
サイネージ(モノクロ)
イネージ(カラー)
腕時計
電子看板
汎用ディスプレイ
携帯電話(メインディスプレイ)
案内板
IC カード
携帯電話
ポイントカード
電子値札
電子棚札(モノクロ) 電子棚札(エリアカラー)
電子辞書
ノート PC
電子雑誌
PDA
(背面版)
電子漫画
USB メモリ
ウェアラブル
ディスプレイ
2005 年
2006 年
2007 年
2008 年
2010 年
2012 年
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表 1 電子ペーパーのアプリケーション
POP
(車内広告/
店内広告等)
・電子ペーパーの参入企業からは POP 市場を有望アプリケーションに位置づける企業は多い。ただ、先行している
液晶や有機 EL 等も積極的にデジタルサイネージの製品化を展開し始めており、競争は熾烈なものになると考えら
れる。電子ペーパーが POP 用途で普及するには、カラー化等の視認性の向上と低価格化が鍵になるであろう。
・当社が広告会社向けに行った需要先調査では、価格もさることながらデザインの再現性の低さを指摘する意見が多
く見受けられた。実施された実証実験等を見て、印刷と比べると色や文字の再現性が難しいという印象を受けるよ
うである。
・広告コンテンツはデザイナーが紙の質や表現加工にまでこだわって制作しており、文字が読めれば良いレベルでは
価値が低い。イメージを伝える役割を広告は担っている為、視認性の向上は広告媒体として必須なのである。
ただ、新聞社と同様に広告関連会社も電子化に対する関心は大きい。中でも交通広告を取り扱う企業にとって、車
両内の張替えにかかる労力や線路を挟んだ張替え作業のリスクを軽減したいという意識は強い。
電子新聞
・フランスの経済紙「レゼコー」は 2007 年 9 月から電子ペーパー端末を使ったビジネスを開始した。1996 年に導入
したインターネット版の新聞購読が好調であった背景を踏まえ、新聞紙発行コストの約 4 割を占める印刷費を大幅
に削減したいとの意向があった様子である。
・日本の新聞社でも電子新聞に対する関心は高い。電子ペーパー端末に関する説明会には毎回新聞社の担当者が詰め
かけ、端末のスペックやコンテンツのフォーマット、配信の仕組み等について質問が飛び交う等、導入に向けた関
心は高まっている。その背景には、若者の活字離れや少子化等から発行部数の低下が懸念されている他、レゼコー
のような海外での電子新聞の出現により、従来の宅配によるビジネスモデルを再考する必要に迫られている様子が
汲み取れる。
RF-ID
・電子ペーパーによる表示機能の付いた RF-ID については、コスト的な面から、普及が始まるのは 2010 年頃からと
見受けられる。表示機能付きの IC カードがある程度普及した段階で、RF-ID も普及が始まると考えられる。
・元々、IC タグに記録された情報が目に見えないため別途印刷する必要があり、タグと印刷物を対にする作業が発生
してしまう、という課題解決の発想から始まったものである。
電子棚札
・1998 年に日本で初めて電子棚札が導入されて以来、液晶を使った棚札がスーパー等の小売店に加速度的に普及して
きた。その要因には、POS レジの販売価格と売り場の表示価格の一致による「信頼度の向上」や「適正な利益確保」、
「業務の省力化」が小売業の管理業務に大きな変革をもたらしてきたことにある。液晶で普及が進んだ棚札市場を
置き換えるには、それに勝るメリットを提供することが必要となる。
・電子ペーパーを新規のラインナップに加えている棚札ベンダーからは、液晶では不可能なバーコードや QR コード
の読み取りが可能になる点が大きな違いとの認識であった。
フルドット電子ペーパーの採用は、価格以外にも商品名、原産地、メッセージ、バーコード、QR コードの表示を
可能とし商品情報や販売情報等、活用シーンを拡大することができる等、新製品の有力なラインナップとして期待
がある。
電子書籍
・かつて、2004 年 2 月に電子書籍端末「ΣBook」が松下電器産業より発売され、同年 4 月には、E Ink の電子ペーパ
ーを搭載した「リブリエ」がソニーより発売された。電子ペーパーを搭載した電子書籍の相次ぐ上市で市場は幕を
開けたが、
売れ行きは振るわず約 7,000 台という結果に終わった。
しかしながら、
2007 年秋に米国で Amazon
「Kindle」
が発売されたこと等をきっかけに、日本の業界関係者を中心に電子書籍は再び注目を集め始めている。
・2004 年に売れ行きが芳しくなかった要因には、サービス面やビジネスモデル面、電子書籍端末自体の使い勝手に課
題があるといわれてきた。電子書籍を購入しても、利用できるコンテンツが少ない。さらには、デジタルコンテン
ツのレンタル貸しという新しいビジネスモデルは定着が難しかったようである。Amazon「Kindle」が注目される所
以は、そのようなかつての敗因をうまくカバーしている点にあるといえる。
例えば Amazon「Kindle」のコンテンツは約 9 万点ともいわれており、大型書店並みの品揃えである他、3G データ
通信機能を搭載し PC とのケーブル接続や無線 LAN アクセスポイントを使うことなく、キャリア Sprint 圏内であれ
ばどこでも Kindle ストアから書籍が購入できる。さらに、購読した新聞等は更新を意識せず毎朝、自動的にダウン
ロードされる仕組みを採用している。料金面でも、初期に数百ドルを支払えばキャリアとの煩わしい契約や通信料
金が発生しない等、ユーザーにとって魅力的な工夫がされている。
携帯電話
・日本の携帯電話加入者数が 1 億人を突破した。多機能化する携帯端末はインターネットやテレビ、ゲーム等の活用
が定着することで我々にとっての一番身近なデジタル機器へと変貌を遂げた。熾烈な競争の中、機能面のみならず
デザイン性でも参入各社は差別化を展開し、デザイン用途として背面版に電子ペーパーを採用したカシオ日立モバ
イルコミュニケーションズ製の「W61H」が AU から 2008 年春モデルにラインナップされている。しかし、携帯電
話の用途は今やテレビやゲーム等、幅広いアプリケーションを兼ねている為、静止画をメインとした電子ペーパー
がメインディスプレイを担うのは難しいと考えられる。
・携帯電話が普及していない地域等では、前述の「MOTOFONE F3」のようなシンプル、かつ低価格な機種の導入は
有効であると考えられるが、高機能な機種が低価格で購入できる日本のユーザーには、時代錯誤な印象を与えかね
ない。よって、日本では、電子ペーパーの採用はデザイン用途として採用されるケースの方が有望であろう。
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