僧帽弁の手術について 1. わたしは本当に手術を受けた方がよいのでしょうか? 手術を受ける方がよいと考えられます。手術は痛そうですし、怖いですし、誰でも いやだと思います。しかし、ある程度進行してしまった心臓弁の病気を放置するのは 危険なことです。重度の弁膜症では全身の血液の流れが不安定で、だんだんと心臓の 筋肉は衰えて行き、不整脈も増えてゆきます。ある日突然息苦しくなり、死んでしま うことがありえますし、よい手術のタイミングを逃すと、手術しても心不全症状がな くならず、寿命を全うできなくなってしまいます。 僧 帽 弁 閉 鎖 不 全 症 の 患 者 さ ん の 場 合 僧帽弁閉鎖不全症は、僧帽弁が破壊され左心室から左心房に血液が逆流する病気 です。原因は、リウマチ性と退行性があります。一旦息切れなどの症状が出ますと、 薬物のみの治療では予後不良です。また、症状がなくとも、心臓の筋肉が弱って左 心室の拡大が来ている場合はやはり予後不良で手術がすすめられます。判断を迷う のは症状がなく心拡大もない場合ですが、後述する僧帽弁形成術が可能と考えられ る場合、手術後の寿命は健常な人と全く変わらないことが分かっています。心臓の 筋肉が弱ったり不整脈が出たりする前の早期手術がすすめられることが多くなりま した。 僧帽弁狭窄症の患者さんの場合 僧帽弁狭窄症は、僧帽弁という左心室と大動脈の間の弁が、固く、狭くなる病気 です。原因はほとんどリウマチ性です。日常の比較的軽い運動でも息切れが生じる ようになると、放置は危険です。一旦症状が出ますと、10年生存率は15%です。 カテーテルによる交連切開術はすぐれた治療法ですが、リウマチ性の変化が非常に 強いと上手くゆかず、また左心房に血栓がある場合は危険です。そのような場合外 科手術がすすめられます。直視下交連切開という手術と弁置換術とが患者さんの特 徴によって選択されます。 2. 実際にどうやって手術するのですか 胸骨という胸の真ん中の骨を縦切りにして、人工心肺装置という機械をつないで、心 臓を薬品で止めます。 技術的に可能な場合、僧帽弁形成術を行います。僧帽弁形成術は自分の弁を切り取らず 修復して、また僧帽弁輪に人工の弁輪形成リングを縫いつけて再発予防をする手術です。 この手術後の患者さんの寿命は、健常な人と変わらないことが示されています。 人工弁による置換術は、自分の弁を切り取って代わりに人工弁を植え込む手術です。弁 置換術になってもその後の人生を悲観する必要は全くありません。形成術よりは若干長期 予後は劣るかも知れませんが、さまざまな工夫で僧帽弁置換術後の長期予後も大変よくな りました。ほとんどの患者さんは術後何十年とお元気で過ごされます。 3. 人工弁にはさまざまな種類があると聞きました。 人工弁には大きく分けて二種類あります。機械弁と生体弁です。機械弁は、炭素樹脂な どでできた板が回転することによって機能する弁です。生体弁は、主に牛の心膜か、豚の 大動脈弁で出来た製品が用いられます。 生 体 弁 機 械 弁 機械弁の長所は耐久性が非常に良いことで、何歳で植え込んでも、人工弁自体が壊れる ことはまずありません。短所はワーファリンという血を固まりにくくする薬の服用が必要 で、このため出血性合併症が1年に1パーセントほど起こることです。生体弁の長所は、 不整脈がなければワーファリンを飲む必要がないということ、短所は耐久性に限界があっ て、若い年齢で入れると再手術の可能性が高いということです。僧帽弁の位置での生体弁 は大動脈弁と比べると余り長持ちしないことが分かっています。例えば75歳に生体弁で 弁置換した場合、恐らく10%ほど寿命までに再手術が必要な可能性があります。 一般的には若い患者さんには機械弁、高齢の患者さんには生体弁をおすすめするのが普 通で、その境目は大体75歳位です。ただし、おおよそ65歳以上ならばどちらを選択し てもそれほど大きい差がないことは間違いありません。患者さんに考えて決めて頂くこと にしています。 機械弁 生体弁 長所 耐久性にすぐれる ワーファリンがいらない 短所 ワーファリンという血を固 耐久性に限界がある。 まりにくくする薬が必要。 壊れると再手術が必要。 出血性合併症の危険がある。 4. どのような危険がありますか? 心臓手術にはある程度の危険がさけられません。非常に一般的にいえば、単独僧帽 弁形成術には1%程度の死亡率と2%位の脳梗塞の可能性がありますが、危険は個々 の患者さんで大きく異なります。 現在どのような患者さんでどの程度手術が危険かある程度見積もることができるよ うになっています。また、正式な手術前説明で、あなたの場合に予想される危険がど の程度かは詳しくお話します。
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