心肺停止の救急患者における死亡診断 死亡診断書は - e-CLINICIAN

◎心肺停止の救急患者における死亡診断
心肺停止状態で救急車にてきた患者に、心
肺蘇生を施行したが改善せず、死亡を確認し
認時刻か、それとも死亡したと推定され
た場合、
③このとき、心肺蘇生した医療処置は保険
①死亡診断書を書くのか、死体検案書を書
請求できるのか(?)
くのか(?)
(新潟県、内科)
る時刻を記入するのか。
②このときの“死亡したとき”は、死亡確
回答 新潟大学法医学教授 山内春夫
の消失確認と、いくつかの脳幹反射の消失を確
死亡診断書は、死亡に立ち会った医師が、死
亡を診断した場合に作成します。一方、死体検
認することによって、「脳の死」を診断していま
案書は、死亡に立ち会わなかった医師が、死体
す。心肺停止後の死亡の診断も、「脳の死」に至っ
を検案した場合に作成します。死亡の時刻は、
た時点がいつであるかを考えて死亡時刻を考え
医師が死亡を確認した時刻ではなく、死に至っ
ることになります。
たと判断した時刻でなくてはなりません。心肺
なお、死亡確認後に、さかのぼって死亡時刻
停止状態で来院した救急患者のうち、死亡した
を判断した場合、それ以降は死体に対して心肺
時刻を来院後と判断した場合には、死亡診断書
蘇生を行ったことになりますが、医学的に妥当
になります。一・方、少なくとも、蘇生開始後に、
な蘇生行為であれば、正当な医療行為と認めら
生きているという所見を全く認めず、来院前に
れ、保険医療として、医療費を請求することが
死亡していたと判断した場合には、死体検案書
できます。
になります。すなわち、どの時点を死亡とする
異状死体の届出義務(医師法第21条)により、
かという、生死の判断が重要であり、自発呼吸
医師は、死体を検案して、異状を認めた場合に、
の存在、いろいろな刺激に対しての反応、心電
所轄警察署へ届け出る義務があります。明らか
な病死でその疾患が診断され、外因の関与を完
図所見など、生きていることを示唆する所見の
ちんと記載する必要があります。
全に否定できる場合以外は、死体はすべて、異
状死体と考えます。救急患者で、外因の関与を
臓器移植法では、「死体(脳死した者の身体を
完全に否定できるケースはほとんどなく、来院
含む)」という表現で、臓器を提供する者に限っ
時死亡のすべてが、警察署への異状死体の届出
て、脳死を死と認めていますが、臓器提供を行
の対象となります。なお、治療開始後に死亡し
うか否かにかかわらず、すべての人の死は一つ
た場合は、異状死体の届出義務には該当しない
の定義で統一されなくてはなりません。法医学
という解釈もありますが、医師が犯罪性の有無
有無を確認して、生死の判断根拠をカルテにき
では、脳機能が全くなくなった「脳の死」を人
を判断することは困難であり、犯罪を隠匿する
の死の定義と考えています。自発呼吸が存在す
必然性もなく、事件や事故の可能性が否定でき
ることは、呼吸巾枢である脳幹が生きているこ
ない場合には、本人や家族の同意を得た上で、
とを意味しており、死とはいえず、明らかに生
入院後できるだけ早い時点で、警察に連絡する
きていることの証明になります。三徴候による
死の判定も、心臓の拍動の停止や呼吸停止によっ
事件解決が、犯罪や交通事故の被害者のためで
て引き起こされる「脳の死」を、瞳孔散大や対
もあり、事実は隠すことなく、正しく社会に伝
光反射消失によって判定していることになりま
えることが、医師の使命といえます。
ほうがよいと考えます。早期の捜査開始による
す。脳死判定も、無呼吸テストによる自発呼吸
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