96 交雄会グループ医療法人愛生会病院特殊疾患病棟 患者のわずかな変化を見逃さず,QOL の 向上に努める看護 ▲病院外観 ▲病院の皆さん 愛 生 会 病 院 は,1978 年 に 特 例 許 可 老 人 病 床 27 床 で 開 院 し た. 施設データ 2003 年に現在の場所に移転し,60 床の特殊疾患病棟と一般内科を中 所在地●北海道旭川市東旭川 町共栄 223-6 病床数● 60 床 外来患者数●約 20 人 / 日 職員数● 52 名(病棟:医師 3 名 / 看護師 19 名 /PT2 名 / その他 15 名) 診療科目●一般内科,消化器 内科,リハビリテーション科 心とした外来から成る.特殊疾患病棟は,JCS30 以上または GCS8 点以下の状態が 2 週間以上持続している重度の意識障害患者,多発性 硬化症・筋萎縮性側索硬化症・筋ジストロフィーなどの神経難病患者, 脊椎損傷患者などが対象の長期療養型病棟である.同院は地域に根差 した療養型病棟として,旭川地区の脳卒中地域連携パスにも参加し, 脳卒中発症後の重度意識障害患者を受け入れている. 意思の疎通が困難な患者のわずかな変化から患者の要求をくみ取 り,患者の QOL を高める看護を提供している病棟を取材した. (編集部 詫間) 割を占める.入院日数はさまざ 食事は,栄養士が患者の状態 まで 10 年以上療養している患 を看護師から聞き,毎日の昼食 者もいる.長期間にわたり病棟 を個別に提供している.栄養士 特殊疾患病棟は,脳梗塞,脳 が生活の場となるため,QOL は合同カンファレンスにも参加 内出血や低酸素脳症などによる を重視し家庭での生活に近づけ して患者の状態を把握し,腎疾 遷延性を含む意識障害患者が 7 たケアを行っている. 患や糖尿病などの基礎疾患を伴 QOL を重視し,家庭での 生活に近づけたかかわり (000)BRAIN NURSING 2010 vol.26 no.2 デイルームでのレクリエーション 敬老の日のレクリエーションのための,看護師の手書 きによるイラストと秋を感じさせる飾り付け. デイルーム.患者の昼食やレクリエーション会場として使 用されている.飾り付けは三味線の演奏会を行ったときの もの. う患者には,症状を悪化させな 施してきた.歌や演奏が始まる どの情報を全スタッフが認識し, いよう厳格な栄養管理を行って と意識障害の患者にも表情の変 変化にいち早く気づいて対応で いる.さらに,療養型病棟で長 化が見られ,意識レベル改善の きるように観察している. 期的な管理ができるため,食欲 効果も期待できる.家族も含め, 日々のケアでは患者にできる のある日は量を増やし,ほかの 皆が楽しみにしている行事だ. だけ触れるようにしている.触 日に減らして調整するなど,臨 機応変に対応している.また, ベッド上ではなく食卓で食事が できるよう,車いすに乗れる患 れることで患者のちょっとした 患者の特徴を把握し,シ グナルを受け止める 体温,発汗状態などの変化を察 知する.「声に出して訴えるこ とができないので,気づこうと 者は看護師の付き添いのもと昼 患者は重度の意識障害などに しなければ患者さんの状態の変 食をデイルームでとっている. より,意思の疎通が困難な場合 化を感じとれません」と渡辺美 これらの細やかな対応は患者の が多い.そのため,患者の思い 智子看護主任.五感をフルに活 食べる喜びにも結び付いている. や身体の状態を理解できるよ 用して患者の発するわずかなシ 毎日の病棟での生活に変化を う,ほんのわずかな変化でも見 グナルも逃さない. つけるためには,月に 1 度デイ 逃さず看護につなげている. たとえば,ある遷延性意識障 ルームでレクリエーションを行 身体の状態を把握するために, 害の患者は,目の動きで思いを っている.ボランティアを招い 一人ひとりの病状や特徴を確認 伝える.毎日の声かけに対し目 てのマジックショーや歌,三味 し,申し送り・カンファレンスで を上下に動かすときがあること 線の演奏会,季節を感じさせる 共有している.痰の量や発汗状 に 注 目 し た 看 護 師 が,「Yes・ 催し物としては夏の流しそうめ 態,足が冷たくなりやすい,尿 No」の意思表示をしているこ ん,冬のクリスマス会などを実 道カテーテルが詰まりやすいな とに気づいた.Yes であれば目 BRAIN NURSING 2010 vol.26 no.2(000) 機能訓練室での音楽運動療法 ① CD ラジカセで音楽を流しながら,1 人 が手を取り,もう 1 人が後ろから支える. ②バランスボールに座り, 音楽に合わせて上体を上 下運動させる. ③音楽運動療法終了.1 週間に 3 ~ 4 回,1 日 30 分のプログラム で行う. 地域連携パス(脳卒中重度意識障害) ▲スタッフ用の入院治療計画書(看護,リハビリの個所) を上下させ,No であれば反応 に,看護師,PT が中心となり 患者が覚醒しているときには しない.小さなサインを見逃さ 患者の意識レベルの向上に力を かならず名前を呼び掛け,患者 なかったことで患者の思いが理 入れている.論文や学会発表な に触れるようにしている.触れ 解でき,気持ちをくんだ看護が どから病棟,機能訓練室で行え ることで肌からの刺激を与え, できるようになった. る意識レベル向上のためのケア 人の温もりも伝わる.こうして を調べ, 実際に取り入れている. 声を掛け続けることで,名前に 看護師は,日中は積極的に患 反応するようになった患者も少 者を起こし,背面開放座位訓練 なくないという. を行ったり,座位姿勢が取れな 2009 年には,アロマテラピ 2003 年 に 新 築 移 転 し た 際, い患者にはリクライニング式の ーをケアに取り入れた.アロマ 病棟の設備が一新してリハビリ 車いすを用いて頭部挙上に努め オイルを用いて手浴・足浴,マ の環境が整ったことをきっかけ ている. ッサージとフットケアを行い温 患者の意識レベル向上の ための取り組み (000)BRAIN NURSING 2010 vol.26 no.2 患者さんの一人ひとりの特徴を理解した看護を実践しています 五十嵐しのぶ看護部長(看護歴 26 年, 看護部長歴 7 年) 渡辺美智子さん(看護歴 7 年,看護主任歴 2 年) ●看護部長 じっくりと患者さんとかかわる看 護がしたいと思ったのがきっかけ で当院にいます.反応がなかった 患者さんが毎日声を掛けることで で笑うようになったときはスタッ フ全員で喜びました.意識障害改 善のためのスタッフ一人ひとりの 意識付けが私の役割です. 青山ゆりさん(看護歴 12 年,病棟歴 1 年) ●看護主任 つねに患者さんのちょっとした変 化を感じ取れるよう心掛けていま す.以前から行っていたからとい う考えではなく,すべての意味を 考えてケアを行っています.スタ ッフとどんなことでも話し合える 関係なのでチームワークは抜群で す. 山下明希さん(看護歴 6 年,病棟歴 5 年) スタッフは和気あいあいとしてい ます.そのため,申し送りの場面 以外のちょっとした会話でも患者 さんの情報を共有できています. じっくり患者さんとかかわること ができるため,特徴をつかんだう えで感情・状態の変化に気づける よう努めています. 下野義人さん(PT 歴 4 年) 患者さんの意識改善に積極的に取 り組んでいます.意識レベル向上 のための取り組みだけでなく,日々 のケアでも声を掛け,患者さんに 触れるようにしています.家族と 共にうれしそうな表情で退院する 患者さんを見ると励みになります. 松田美保子さん(管理栄養士歴 11 年) 意識障害の改善のために何ができ るか考えながら患者さんと接して います.論文などを調べているな かで音楽運動療法と出会いました. 実際に 3 カ月後の評価で患者さん の意識レベルが改善したときはう れしかったです.看護スタッフと つねに声をかけ合い助け合ってい ます. 看護師さんが一番患者さんとかか わる時間が長いので,一人ひとり の状態を聞きながら食事を管理し ています.申し送りにも参加して 患者さんの状態を把握できるよう にしています.入院日数が長い患 者さんが多いので,家庭に近い雰 囲気を演出しています. 度覚,触覚,嗅覚の刺激により 得られているという. に挫折を感じることがありがち 意識の改善を促している. 2008 年から使用し始めた脳 です.少しでも意識状態が改善 PT は論文を基に,トランポ 卒中地域連携パスの院内の入院 することは,家族に加え私たち リンの代わりにバランスボール 治療計画書にも看護の項目にア の喜びにもつながります」と を用いた音楽運動療法を行って ロマテラピー,フットケアを, 五十嵐しのぶ看護部長は話す. いる.音楽に合わせた上下運動 PT の項目に音楽運動療法を組 患者の意識レベル向上のために で歩行時の感覚を思い出させ, み込み,計画的なかかわりが行 情報収集のアンテナを広げ,つ 意識レベルの向上を図る.実施 えるようにしている. ねに最良のかかわりを目指すス 後,意識状態が向上する効果が 「なかなか結果に結びつかず タッフの取り組みは続く. BRAIN NURSING 2010 vol.26 no.2(000)
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