未熟児動脈管開存症(PDA) 1.出生前後の動脈管の変化と未熟児動脈管開存症発症(図 1) 胎児期は,肺で呼吸をしていないため心臓から肺への血流は最低限になるように,また, 胎盤からの酸素,栄養の豊富な血液は卵円孔と動脈管を介して大動脈へ流れ易くなってい ます.生後肺呼吸が開始され,胎盤からの血流がなくなると,肺でとりこまれた酸素を全 身へ運ぶために肺への血流が増えます.このとき動脈管が開存したままであると大動脈か ら肺動脈へ余分な血液が流れ込み,肺への負担になります.また大動脈への血流が減少し 心臓から遠い臓器(腸管や腎臓)は血流不足にな 脳 る可能性があります.動脈管は成熟児では生後数 日から 1 週間程度で自然に閉鎖するようにプログ 肺 要な時期)で出生すると動脈管は自然に閉鎖しに 卵円孔 らんえ らんこう んえ くいことになります.その結果,肺への過剰な血 右房 んこう ラムされていますが,早産(胎児では動脈管が必 流のため肺出血をおこしたり,腸管,腎臓が血液 不足となって,腸が壊死したり尿を作れなくなっ 胎盤 上肢 動脈管 卵円孔 卵円孔 右室 肺 左房 左室 管 腎 たりする可能性があります.そのような危険性が ある場合には積極的に動脈管が閉鎖するような治 腸 図 1 出生前後の循環 臓 療をする必要があります. 2.未熟児動脈管開存症の発症頻度(図 2) 周産期因子によって 動脈管開存症発症率は 大きく異なります.当 センターの統計では在 胎 32 週以上あるいは 出生体重 1.5kg 以上 の児では重篤な合併疾 患を伴わない限り,通 常の新生児管理におい て症候化することはあ りません.一方,在胎 28 週未満,出生体重 800g 未満の児では高い発症率です.さらに在胎 24 週以下や出生 体重 600g 未満の児ではひとたび発症すると重篤な状態に陥りやすく重大な合併症を引 き起こす可能性も高くなります.また,動脈管は一度閉鎖しても生後 1 ヶ月ころまでは再 開通することがあるので注意が必要です. 3.治療法と治療成績(図 3) 治療法としては薬物療法と手術治療があります.症例毎に適切な治療法を判断し選択し ています. 1)薬物治療(インダシン:INDO) 我が国において唯一動脈管治療に対して認められている薬剤です.本薬剤は一般に解熱 鎮痛剤として使用されていますが解熱鎮痛作用である血管収縮作用を利用しています.し かし,全身投与するため動脈管以外の血管が収縮して不都合が生じれば副作用ということ になります.副作用としては腸管や腎臓への血管収縮による血流低下のために壊死性腸炎 や腎機能不全が起こりえます.また血小板機能低下作用もあり血が止まりにくくなったり します.その他低血糖や電解質異常などが副作用として可能性があります.したがってこ のような症状が既にある児には投与ができません.また,当センターでは在胎 24 週以下 および出生体重 600g 未満の児に対して,あらかじめ生後早期から少量を長時間かけて投 与することにより副作用を減らして発症を予防する方針としています. 2)手術治療(心臓血管外科が担当します) 手術的に動脈管を閉鎖する治療です.非常に未熟で低体重,さらに呼吸循環状態の不安 定な時点での手術なので一定の危険性と児に対する負担はあります.しかし,前述の薬物 療法が無効であったり,副作用の危険性のために投与できない場合には手術治療の方が安 全である場合があります.当センターでは本手術治療に直接関連する重篤な合併症は経験 していません.また,手術治療であれば再開通する心配は無くなります. 在胎25 – 27週 110例 在胎22 - 24週 97例 INDO予防投与 INDO 有効 89例(92%) 自然閉鎖 61例(55%) 症候性 8例(8%) 症候性 49例(45%) INDO 8例 INDO 47例 手術 2例 有効 7例 有効 42例 無効 5例 再開通 14例 再開通 21例 手術 5例 INDO 10例 手術 4例 INDO 16例 手術 5例 有効 6例 無効 4例 有効 12例 無効 4例 手術 3例 図3 手術 7/97例(7%) 手術 16/110例(15%) 手術 4例 兵庫県立こども病院周産期医療センターにおける超早産児動脈管の経過 (06.1-11.12,生後24時間未満死亡例を除く)
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