慢性腎臓病患者の浅大腿動脈治療で 単純CTが有用であった症例

CT Technology Forum:一般演題発表
一般演題発表
「画像診断または治療に役立ったCT画像症例」
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慢性腎臓病患者の浅大腿動脈治療で
単純CTが有用であった症例
順天堂大学医学部附属練馬病院 放射線科
早川 朋美
背 景
カラーマッピングを用いたCPR画像
近年,下肢の末梢動脈疾患
(peripheral arterial disease:
目的の血管に合わせたCPR画像を作成し,血管内で
PAD)に 対 す る 経 皮 的 末 梢 血 管 インターベンション
も異なるCT値の差を表現するためにカラーマッピング
(percutaneous peripheral intervension:PPI)
は増加傾向
を作成した.当院での閾値は黄色20∼40HU,薄い黄色
にあり,その患者の多くは心血管疾患
(cardiovascular
41∼50HU,緑51∼60HU,薄い緑61∼70HU,青色71∼
disease:CVD)
や慢性腎臓病
(chronic kidney disease:
80HU,薄い青色81∼90HU,深い青色91∼100HU,ピ
CKD)
を抱えている.そして,PADの多くは慢性完全閉
ンク色101HU以上とした.
塞
(chronic total occlusion:CTO)
を伴う傾向が強い.
その中で,造影剤腎症のリスクが高い非透析のCKD
一次読影手順
患者に対してはヨード造影剤を使用せず,炭酸ガスを
まず,ズーミング再構成をした単純CTから対象血管
使用した診断,治療が行われることが多い.しかし炭
に 沿 ったCPRを 作 成 する.そ の 後,カラー表 示 に 変
酸ガス造影は,ヨード造影剤使用時と比較して,バブ
え,対象血管を360度観察する.この時に重要なこと
ル様な造影を呈することが多く,カテーテル先端より遠
は,全体像を把握することである.全体を把握してか
位端の造影が困難であり,正確な狭窄病変の判断が難
ら,血管内腔のカラー表示で特に緑,青色の部分を観
しいこともある.また,炭酸ガスが肺動脈圧の上昇を
察 す る. 特 にSFAのCTOはSFAと 深 大 腿 動 脈
(deep
招く可能性があるため,呼吸不全や肺高血圧症の患者
femoral artery:DFA)
の分岐直後から閉塞が始まること
は避けたほうがよいと言われている.
が多いため,DFAとの位置関係,血管内腔の質を把握
そこで,CKD患者の浅大腿動脈
(superficial femoral
することができる.また,血管内腔の高度石灰化にお
artery:SFA)
治療前の単純CT画像を治療支援画像とし
いてX-section imageを作成することにより,ワイヤーが
てカラーマッピングcurved planar reformation
(CPR)画
通過する血管内の位置情報やワイヤー種類を術前にシ
像,仮想volume rendering
(VR)画像を作成した.これ
ミュレーションすることが可能であることが利点として
らの画像から血管内腔のプラークの硬さ
(性状)
を表現
挙げられる.注意点としては,骨盤内,大腿骨頭近位
し,PPI時のワイヤー選択,石灰化の位置情報等を医師
部ではアーチファクトの影響によってノイズが多くなる
に提供することにより,治療戦略に有用であったことを
ため,カラーマッピングの読 影では注 意が 必 要であ
報告する.
る.また,当院での撮影条件下でのプラーク評価であ
方法・対象
すでに炭酸ガスにて下肢造影を施行し,PPI前日に単
るため定量性があるとは言えない.
一次読影のポイントを左SFAの入口部からのCTO病
変で解説する
(図 1, 2)
.カラーマッピング画像の白点
純CTを施行した患者を対象とした.撮影範囲は総腸骨
線の箇所でCTO部分を認める.まずSFAとDFAの分岐
動脈から膝下動脈までとした.SFAのCTO治療支援を
部には,大きな石灰化はないが,SFAの入口付近が緑
目的として対象血管に対しズーミング再構成を行い,
色を呈しているためやや硬い印象を受ける.SFAの中
血管に沿ったCPR画像を作成した.血管内腔の質的評
間部に 3 ヶ所ポイントがあり,①は,血管壁に沿って
価を見るためCT値で色分けを行った.
石灰化があり,内腔は青色を呈しているため非常に硬
使用機器および撮影条件はAquilion 64列
(東芝メディ
い病変である.②は,緑色がベースで硬く,白矢印部
カルシステムズ)
,120kV CT-AEC,SD 10,0.5sec/rot.,
分をX-section imageで見ると中央は青色であることか
1.0mm×32,pich factor 0.844,再構成関数 FC03+Q06
ら,とても硬く,内側は石の様な石灰化があるため,
とした.ワークステーションはZiostation 2Plus
(Ziosoft)
外側よりにワイヤーの通り道があると推測される.③
を使用した.
は,血管外壁に大きな石灰化があり,ワイヤークロス
には支障がないが,経皮的バルーン拡張 術
(POBA:
plane old balloon angioplasty)
時に広がりにくいと思われ
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DSA画像 カラーマッピングCPR画像
図 1 一次読影のポイント 左SFA入口
部からのCTO症例
DSA画像
SFAの中間部に 3 ヶ所ポイントがある
①血管壁に沿って石灰化があり,内腔は青色
を呈しているので非常に硬い病変である.
②緑 色 が ベ ースで 硬 い .白 矢 印 部 分を
DFA
X-section imageでみると中央は青色なの
①
で硬く,内側は石の様な石灰化があるため,
SFA
外側よりにマイクロチャンネルが存在してい
ることが推測できる.
③血管外壁に大きな石灰化があり,
ワイヤー
②
クロスには支障がないと思われるが,POBA
SFAとDFAの分岐部
時に広がりにくいと思われる.
には, 大きな石灰化
③
はないが,SFAの入
口付近が緑色を呈し
ているのでやや硬い
X-section image
印象
血管内壁 (白黒反転)
図 2 一次読影のポイント カラーマッピング
カラーマッピングCPR画像
DFA
SFA
図 3 Digital subtraction angiography
(DSA)画 像 と カ ラ ーマ ッピ ン グcurved
planar reformation
(CPR)
画像
SFAとDFAの分岐部に
は,硬そうな石灰化もな
く,SFA分岐直後の外
壁にやや青色の部分が
あるが,内腔が黄色なの
で,
さほど硬そうではない
全体的に柔らかい印象を受ける.一部
スポッティな石灰化があるが,
ワイヤー
の通過には影響がないと思われる.
図 4 カラーマッピングからの読影
る.これらより,CTO部分は非常に硬いので先端荷重
・単純CTから血管走行を仮想し,
VRを作成
・大腿骨と仮想血管の位置関係
は,PPI中のワイヤー走行のメ
ルクマールとして有用
・PPI中の角度でVRを表示するこ
とも重要
の重いワイヤーの選択が望まれる.また,マイクロチャ
ンネルがあるので,テーパーワイヤーも選択肢になると
言える.
症 例
70歳代,男性.既往歴として胃癌の手術,心筋梗塞
VR:volume rendering
PPI:percutaneous peripheral
intervention
にて経皮的冠動脈形成術
(percutaneous coronary
intervention:PCI)を 施 行.PCI時 に 下 肢 の 造 影 を 行
い,右SFAにCTOを認めたが,そののち腎機能低下を
認めたためCKDと診断がつき,以降造影検査は中止と
図 5 仮想volume rendering 画像
なった.しかし今回,間歇性跛行を主訴とし,炭酸ガ
きないため,大腿骨と仮想血管の位置関係はPPI中のワ
ス造影でのSFA治療目的で入院となった.
イヤー走行のメルクマールとして有用であった.
図 3 よりPPI前の炭酸ガス造影画像では,SFAの入口
また,PPI中の角度でVR画像を表示することで,術
部より病 変 が あり,約20cmのCTO部 分を認 める.ま
者がワイヤーの向きを確認することができた.
た,カラーマッピングCPR画 像 で の白い 点 線 部 分 が
PPI前に 単 純CTを撮 影し,血 管に 合 わ せ たカラー
CTO部分である.図 4 からSFAとDFAの分岐部には硬
マッピングCPR画像や仮想VR画像を作成することに
そうな石灰化もなく,SFAの分岐直後の外壁にやや青
よって,術前のワイヤー選択や術中のワイヤー走行の
色の部分があるものの,内腔が黄色であるため,さほ
確認をすることができた.これらの画像を作成すること
ど硬い印象を受けない.SFAの中間部にも一部スポッ
により,単純CTがPPI前のシミュレーションツールとな
ティな石灰化が見られるが,ワイヤーの通過には影響
り得た.また,炭酸ガスを使用することで,造影剤を
がないと判断できる.
まったく使用せずに診断から治療まで行うことができた.
実際の手技では,右膝窩動脈,右鼠径を順行穿刺
本検討からもCKD患者に対するSFA治療において,
し,スムーズに病変を通過した.単純CTから血管走行
単純CTを用いたカラーマッピングCPR画像は治療支援
を仮想し,VR画像を作成した
(図 5)
.造影剤を使用で
に有用であると考える.
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