平 成 10 年 度 研 究成 果 10・ 9C・35・ 01 課題名 目 的 方 法 結 果 考 察 資料名 人工長期継代アユの遺伝子特性調査 アユの再生産機構については、近年様々な研究がなされ、全 国に放流されている琵琶湖産種苗の仔アユは海に下っても、翌 年遡上しないことが分かってきた。また湖産アユと天然海産ア ユが交雑し、ふ化した仔アユも翌年に遡上しない等、再生産や 生態系の攪乱影響が懸念されている。また、長期継代人工産ア ユは、遺伝子の単純化から来る様々な弊害等が心配されている。 我 が 県 の 人 工 産 ア ユ は 、 昭 和 52年 に 木 曽 川 産 海 産 ア ユ と 群 馬 県継代アユ(琵琶湖産)から採卵した魚を主に継代飼育してい るアユで、途中の親魚変更や追加は行われていない。継代数は 20年近くに達しており、遺伝子レベルでどのような問題が生 じ て い る の か 不 明 で あ る 。 そ こ で 、 mt-DNA分 析 を 用 い て 、 人 工 継代アユの遺伝子特性を明らかにする。 ア ユ の 筋 肉 ( 50-100mg) か ら 粗 全 D N A を 抽 出 し 、 5 種 類 の 6 塩 基 対 認 識 制 限 酵 素 、 AvaⅠ 、 BamHⅠ 、 BglⅠ 、 HincⅡ 、 PstⅠ で切断し、それぞれアガロ−スゲルで泳動した。これをサザ− ン ブ ロ ッ テ ィ ン グ 後 、 ジ ゴ ギ シ ゲ ニ ン 標 識 サ ケ mt− DNAを ハ イ ブ リ ダ イ ズ し 、 ELISA法 で ニ ト ロ ブ ル − テ ト ラ ゾ リ ニ ュ ウ − ム を 還 元 し て 検 出 し た 。 そ し て 各 切 断 型 か ら mt− DNAの ハ プ ロ タ イプを求めた。 ハプロタイプはLuis A.Pastene(1991)に準じた。 分析は東海大学海洋学部水産学科沼知教授の指導のもと行っ た。 神奈川県で継代している人工アユの由来は、木曽川産海産アユ と群馬県継代アユ(琵琶湖産)であったが、分析結果から人工 継代アユは海産系由来と考えられた。 また、mt-DNA分析からハプロタイプは特定のタイプが卓越(1 00% ) す る 非 常 に 単 純 化 さ れ た も の で あ り 、 い わ ゆ る 海 産 系 ア ユのものとは異なっていることがわかった。 今まで多くの研究者により海産アユ並びに河川遡上アユの 同 様 の 分 析 が な さ れ て い る が 、 各 地 の 海 産 系 ア ユ の mt-DNAハ プ ロタイプは皆多様性を維持しており、地域差がないことがわか っている。 我 が 県 の 人 工 産 ア ユ の mt-DNAハ プ ロ タ イ プ が 特 定 の タ イ プ に 偏 る単純化されたものであると言うことは、天然海産アユのもの と異なるものであり、再生産への寄与が少ないことが危惧され る。 本 県 河 川 で は 、 平 成 9 , 10年 と 海 産 ア ユ の 採 捕 が な く 天 然 遡 上も少なかったたことから、琵琶湖産アユと人工産アユの放流 割合が高くなっており、今後の天然海産アユに与える影響が懸 念された。 平成10年度アユ種苗総合対策事業報告書 平成10年度春期水産学会講演要旨 ハプロタイ プ 1 2 3 4 5 6 7 17 20 mt-DNAハプロタイプの産地別変異 神奈川人工産 琵琶湖産(平均) 海産(平均) 1.000 0.451 0.279 0.117 0.054 0.081 0.533 0.036 0.026 0.005 0.015 0.118 0.009 0.010 0.031 0.015 (琵琶湖産と海産のハプロタイプはPasteneら,1991による) アユの遺伝子の解析 については、現在解明途上のものである。 このため、数字の一 人歩きは非常に危険であり取り扱いに注意を要する。 平 成 1 1 年 3 月 に 採 捕 さ れ た 天 然 の 海 産 系 ア ユ の mt-DNA解 析 を 行 う こ と に よ り 、 相 模 湾 産 天 然 ア ユ の mt-DNAハ プ ロ タ イ プ を 明 ら か に し 、 人 工 継 代 ア ユ の 再 生 産に対する貢献度等 明らかにする必要がある。 また、再生産に寄 与する人工アユの生産技術開発研究が必要である。
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