- 1 - 『 セ グ メ ン ト 簡 易 固 定 装 置 ( ミ ニ パ ッ カ ー )

『セグメント簡易固定装置(ミニパッカー)の使用について』
1.はじめに
シールド掘進において、セグメント組立完了後シールド機を推進するとシ
ールド機外径とセグメント外径との差から生じるテールボイドがセグメント
外面と地山の間に残る。
裏込注入工の目的は、モルタル等の注入材でこのテールボイドを充填する
ことにより、地表面への影響を未然に防止することにあるが、この他にも漏
水の防止・セグメントリングの早期固定・ジャッキ推力の地山への伝達等も
目的とする。
なかでも、セグメントリングの早期固定はシールド機の方向制御に影響を
及ぼす大きな要因であることから、セグメントリングの固定はできるだけ早
期に行われることが望ましい。
切羽密閉型の通常のシールド掘進においては、掘進と同時あるいは即時に
裏込注入材をテールボイドに充填し、周辺地山の崩壊を防止(地表面沈下の
防止)するとともに、地山とセグメントの一体化を図りながら掘進を行うた
め、シールド推力が確実にセグメント・地山へと伝達され、セグメントに偏
圧を与えないでシールド機の方向制御が行われている。
天神川改修工事シールド掘進においては、転石・玉石混じりの土層がある
ため密閉型シールド工法では掘削不能に陥る可能性が高く、手堀掘削工法が
採用されている。
しかし、この手堀掘削工法においては、種々の問題点もあり、これらにつ
いて十分な検討と計画をたてておく必要がある。
2.問題点と対策
前項で述べたように、本工区の掘削工法は手堀掘削工法で、この工法は一
見容易そうに見えながら、実は密閉型掘削工法で解決されてきた周辺地山へ
の影響度の低減とかシールド精度のレベルアップとかの問題点を残したまま
の旧来型の掘削工法であるため、問題点をいろいろ残している。
問題点としていちばん大きいのは、テールボイドの処理の問題である。密
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閉型工法ではマシン周りの余堀りがほとんどなく、しかも切羽やマシン周り
が泥水や泥土で密封されている関係上、掘削とほぼ同時に裏込注入を行って
もマシン周りや切羽に注入材が流れ込まないため、通常掘削中に裏込注入を
加圧注入することでテールボイドを完全充填できるのに対し、余堀りが大き
く掘削進行度が遅い手堀掘削工法では、裏込注入をシールド機の後方直後で
施工すると注入材がマシン周りに廻るため裏込注入工が遅れ、テールボイド
の充填が不十分となってしまうことにある。
とくに、本工区のように転石・玉石の点在する土層においては、シールド
機の刃口がこれらの転石・玉石に当たり余堀りをますます大きくする可能性
が高いため、上記のような問題がよけい顕在化してくる。
よって、具体的な問題点とその対策について述べていく。
1)裏込注入材のマシンへの廻り込み
裏込注入材は1液型と2液型があり、現在の裏込注入材の主流は2液型注
入材で、これは注入口直前でA液(モルタル系統の材料)とB液(水ガラス
系凝結剤)を比例添加混合しながら注入する材料であるが、2液混合して0
秒でホモゲル化するわけではなく5∼10秒くらいでホモゲル化するため、
この時間内に注入材が走り、マシン周りに注入材が廻ってしまう。また、ホ
モゲル化した注入材も材料の自重と粘性の関係で直立はせず、45°位の安
息角が考えられる。
マシン周辺に廻った注入材は硬化が進行し、付着力が増加してシールド掘
進の推進力を増大させ、セグメントに余分な応力をかけざるを得なくなった
り、場合によってはセグメントの破損や掘削不能に陥ることもある。特に、
日進量の際めて遅い手堀掘削工法では、マシンの進行と裏込材の強度進行が
ミスマッチして、ますます推進力増加を招く虞れがある。
よって、裏込注入工は、シールド機テールより約4m程度離れたグラウト
ホールから施工する必要が生じる。これによって、注入材のマシンへの廻り
込みは防げるが、こうした施工方法ではシールド機の推進反力の確保とテー
ルボイド上部の未充填部分の注入の遅れが問題となる。
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2)シールド機推進反力の問題
シールド機の推進反力は直接的にはセグメントが受け持つわけだが、この
セグメントは背後の裏込注入材を介して地山に力を伝達することによって安
定な力がかけれるわけである。つまり、テールボイドが未填充なままセグメ
ントに応力がかかった場合、セグメントに偏圧が生じて変形や破損が生じる
虞れがあるとともに、シールド機の方向制御が著しく困難となる。
シールド機の方向制御は、シールドジャッキの使い方によって行うのであ
るが、シールド機推進反力が十分にとれない場合方向制御が困難となる。こ
うした場合、シールド機内で組み立てるセグメントの組立がテールクリアラ
ンスの関係で困難となったり、場合によっては組立不能に陥ったりする可能
性がある。
そこで、裏込注入材の充填を部分的に限定して行い、セグメントにかかる
応力を地山に伝達できる方法として、「セグメント固定装置(ミニパッカ
ー)」を採用する。
「セグメント固定装置(ミニパッカー)」とは、∮2インチで長さ30c
m位の筒上のもので、このなかに厚さ15cm直径50cm位に膨れる袋が
内包されていてものである。この筒状のミニパッカーをセグメント注入口に
つないだ後、筒の後方から裏込注入を注入すると注入材によって袋が膨張し
て、セグメントと地山の間に限定硬化物が形成され、セグメントを地山との
間に固定する役割をするものである。
これによって、裏込注入工が遅れても、シールド機テール直後のセグメン
トも地山との間に固定され、シールド機の推進反力が安定化し、方向制御が
可能となる。
3)シールドマシン直上及び未填充テールボイドの対策
裏込注入材がシールドマシンの周りや切羽に回り込んで掘削に不都合を生
じさせないために、裏込注入工の注入位置をテール直後から4m位後方にセ
ットする関係上、テール直後の上部テールボイドはしばらくの間未填充のま
まとなり、また転石掘削等で大きな余堀りをした時シールドマシンの直上は
空隙が生じたままとなるが、このボイドが裏込注入材で充填できるまでの時
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間は掘削スピードを考えればかなり長期のものとなる。
未填充の空隙(マシン直上の余堀り空間とテール直後のテールボイド)は
シールド機の掘削により振動や地山のゆるみによって土砂が崩壊し、空隙が
上部に移動してシールド機の通過後に未填充空隙が地表面にでてくる可能性
がある。
こうした空隙に裏込注入材を填充すれば地山のゆるみは防止できるのだが、
こうした箇所に硬化が進行する裏込注入を施工するとシールド機が摩擦力の
増大によって推進不能に陥ることは前項でも述べた。
そこで、こうした空隙にマヨネーズ状の固まらない注入材(クレーショッ
ク)を注入して土砂の崩壊を防止し(未填充空隙の上部移動の防止)、シー
ルド機の推進力を増大させない工法を採用する。
マヨネーズ状のクレーショック材料は、シールド機の中央部に設けた注入
口から施工し、地山とマシンの間を充填することによって上部の土砂崩壊を
最低限に抑制し、後部から注入してくる裏込注入材によって切羽前方に押し
出されて置換が完了するまで地山の仮支えを行うものである。
4)結論
切羽解放型の手堀掘削工法でのシールド工事は、テールボイドの処理を誤
ると周辺地山及び地表面への影響が大きくなる。手堀掘削工法が主流であっ
た当時は多少の沈下はやむを得ないものとして考えられていたが、密閉型掘
削工法が主流となって地表面変位を最小限に抑制することが可能となってい
る現在、手堀掘削工法を採用しているとはいえ、密閉型掘削工法と同等の効
果が期待されて当然である。
そこで、本工区においては「セグメント固定装置(ミニパッカー)」と
「クレーショック工法」を裏込注入工の補助工法として採用し、十分な裏込
注入効果をあげたいと考える。
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