様式8の1の1 別紙1 論文の内容の要旨 専攻名 システム創成工学専攻 氏 名 薄井 雅俊 近年,自動車をはじめとする運輸機器,産業機器の分野においては軽量化,低コスト化,環境 負荷の低減が要求されている。そのため,軸部品と円盤部品からなる駆動部品などの結合に,塑 性流動結合法,シェービング接合,焼入れスプラインの押込み,植込み接合などの塑性結合法の 適用が提案されている.このうち塑性流動結合法は,軸と円盤を精密なはめあいで組み立てた後 に,円盤の一部を円筒状の専用パンチで加圧し,軸に設けた結合溝に円盤部材を塑性流動させる ことによって結合するものであり,高精度かつ生産性が高い結合法である.しかし,従来法は製 品形状に合わせた専用パンチが必要であり,そのコストや設計工程が要求される.また,多品種 少量生産への適用も難しい. そこで本研究では塑性流動結合法のさらなる低コスト化,生産性の向上及び少量生産への適 用拡大を目的として,軸部品と穴部品の硬度差を利用することで専用パンチを必要としないシン プルな塑性流動結合法を提案し,その基本特性を検討した. 本論文は全7章で構成され,その概要は以下に示すとおりである. 第1章では序論を述べ,従来の塑性結合法と本研究で提案する結合法の概略を述べた.提案す る結合法は材料の硬度差を利用するものであり,軟質軸部品と硬質穴部品を結合する結合法A, 硬質軸部品と軟質穴部品を結合する結合法Bの2通りに分けられる. 第2章では,結合法Aを用いてA5056軸部品とS45C穴部品を結合した場合(条件A1)と,結合法Bを 用いてS45C軸部品とA5056穴部品を結合した場合(条件B1)に得られる結合強度などの基本特性を 検討した.その結果,条件A1,条件B1ともに1.0mm以下の短いストロークで目標の結合荷重を負 荷することができた.また,条件A1では結合荷重の増大に対して得られる軸戻し耐荷重も直線的 に増大し,従来の塑性流動結合法と同等の結合強度を得ることができた.一方,条件B1では軸戻 し耐荷重の直線的増大に上限があり,結合荷重40kN程度を境に軸戻し耐荷重が一定となり,従来 の塑性流動結合法より小さな結合強度となった.しかし,条件B1は軸端部段付け加工部長さを長 くすることで,より大きな軸戻し耐荷重を得ることが可能であると考えられた. 第3章では,結合法Aを用いてS45C軸部品とSKD11穴部品を結合する条件A2で実験を行い,第2章 の条件A1の実験結果と結合強度の比較を行うことで結合強度に及ぼす材料強度の影響を検討した. また,結合効率と結合面圧比の関係を検討した.その結果,条件A2は条件A1よりも軸部品の強度 が高いため,条件A1の約2倍の軸戻し耐荷重を得ることができ,結合法Aでは軸部品の強度が高い 材料ほど大きな結合強度を得ることができることを明らかにした.また,条件A1,条件A2ともに 結合効率と結合面圧比は比例関係にあり,結合面圧比が大きいほど結合効率も高くなった.さら に,その関係は材料の組合せが異なっても同程度の範囲に分布する結果となり,結合法Aでは材 料の組合せが異なっても結合効率と結合面圧比の関係を用いて結合強度の推測が可能であること を明らかにした. 第4章では,より高い結合効率を得ることのできる結合条件の把握と,許容できるクリアラン スの範囲の把握を目的とし,条件A2について穴部品内径に施す段付け加工の段差幅,軸外径と穴 内径のクリアランスを変更した条件で実験を行い,結合強度に及ぼす段差幅とクリアランスの影 響を検討した.その結果,段差幅は結合強度に大きな影響を及ぼし,段差幅が小さい方がより小 さな結合荷重で大きな結合強度を得ることができた.また,クリアランスは結合強度にほとんど 影響を及ぼさず,結合時に負荷した荷重が同じであればクリアランスが異なっても同程度の結合 強度を得ることができた.本検討により,段差幅を小さくして結合面圧を高くすることで結合効 率が向上することを明らかにした.また,クリアランスは結合強度にほとんど影響を及ぼさず, 寸法精度を厳しくしなくても本結合法の適用が可能であることを明らかにした. 第5章では,実験に頼らず適切な結合条件を設計すること,実験では観察できない結合部の変 形の様子をあきらかにすること,実験値間の補間を目的とし,有限要素法解析ソフトウェア“LS -DYNA”を用いたシミュレーションモデルと解析条件と解析結果の妥当性を検討した.その結果, 有限要素法解析を用いて変形解析と実験結果の予測,補間が可能であると明らかにした.また, 第4章の実験結果の補間を行った. 第6章では,第2章および第3章で用いた実験条件(条件A1,A2,B1)において実験結果から得 られた軸戻し耐荷重を元に,トルク強度の推定値を求めた.また,それらの実験条件でトルク強 度実験を行い,提案する結合法によって得られるトルク強度を検討した.その結果,提案する結 合法のトルク強度は,結合法Aについては軸戻し耐荷重から推定可能であることを明らかにした. 一方,結合法Bのトルク強度の推定値は実験よりやや小さなトルク強度となり更なる検討と改善 が必要であった.また,実験した範囲では条件A1,A2は200Nm以上,条件B1は137Nmのトルク強度 を得ることができ,提案する結合法は従来の塑性流動結合法よりも大きなトルク強度を得られる ことを明らかにした. 第7章では,本研究で得られた結果を総括するとともに,今後の課題をまとめた.
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