迅速調整ブロー氏液の臨床応用 - 久仁会

迅速調整ブロー氏液の
院内調整と
慢性感染性耳疾患に
対する臨床応用
徳島県 医療法人久仁会鳴門山上病院
薬剤師
○賀勢泰子 青山智子 三原由加里
赤井友美 佐伯綾子 國友悦子
医 師
國友一史
臨床検査技師 遠藤好子
医
師:宮崎かつし,陣内自治、秋月裕則、大山晴三
佐藤豪 (徳島大学医学部附属病院
感覚情報医学 耳鼻咽喉科学 )
薬剤師:石田志朗、岡野善郎 (徳島文理大学薬学部)
P-4
迅速調整法ブロー氏液の臨床治験
• 対象
慢性化膿性耳疾患を有する患者様で、同意を得た方
年齢・性別を問わないが、中等症以上の慢性腎不全を
有する患者様は除外する
• 予定期間および症例数
平成17年4月1日~平成18年3月31日 約 10 例
• 方法
迅速調整法によるブロー氏液を院内製剤として調整、
耳浴もしくは点耳処置を行い経過観察を行う。
院内製剤の検出菌に対する抗菌活性を評価する。
• 安全性および有効性の判定
投与前後の肝・腎機能検査にて副作用等確認
局所の変化を観察・記録、抗菌活性検討
P-5
ブロー氏液を用いた治療の流れ
① 患者様へ説明し治験の同意を得る。必ずブロー氏液
使用上の注意等を伝える。
② 施行前後に、聴力検査(可能であれば)、細菌検査、
鼓膜または外耳道の確認を行い写真撮影を行う。
③ ブロー氏液の使用前は、病変局所に直接接触させる
ため耳内の清掃を行う。
④ ブロー氏液作用後、生食で清掃し余分な液を吸引
除去する。
⑤ 耳浴で痛みのある場合は、綿球をブロー氏液で濡らして
局所にあてる。
※ 処置回数は、週1回耳浴10分間、計3~4回とする。
※ 必要であれば、使用回数は適宜増減する。
P-6
治験症例
緑膿菌 ・ MRSA
迅速調整ブロー氏液治験経過記録 外来・入院
カルテNo
8500
•
治療同意者
治療病名
(耳鼻科)
性 別
患者氏名
■本 人
□家族等
● ▲ ● ■
様
治療開始日
男・女
年齢
76歳
病棟
外来
左慢性 中耳 炎術後
治療前の状況:
● ● ● ●
慢 性心不 全 高 血圧症
糖 尿病
治療病名
(耳鼻科)
治療完了時の状況:2005年8月15日
左 OMPC術後、
緑 膿菌感 染有り 耳漏続 いて いる。
ブロー氏液治療前の薬物療法: ブロー氏液治療後の薬物療法: 特にな し
イ ソジン 消毒
外来・入院
カルテNo
8642
治療同意者
平成17年 8月 6日
主病名
主治医
担当専門医
▲ ▲ ▲ ▲
治療完了日
平成 17年 6月18日
迅速調整ブロー氏液治験経過記録 鳴門山上病院 薬剤科
性 別
患者氏名
■本 人
□家族等
● ▲ ● ■
様
治療開始日
年齢
男・女
76歳
治療完了日
鳴門山上病院 薬剤科
病棟
外来
主治医
● ● ● ●
担当専門医
▲ ▲ ▲ ▲
平 成17年 8月20日 平 成17年 9月 24日
右 MPC術後
慢性 中耳 炎 (MRSA+緑膿菌)
主病名
多発 性 脳梗 塞 高血 圧症
MRSA肺 炎
治療前の状況:
治療完了時の状況:2005年9月24日
右 OMPC術後 、
MRSA・ 緑膿 菌 感染 有り
耳 漏続 いて いる 。
耳 漏消 失、 鼓膜 乾燥 ブロー氏液治療前の薬物療法: ブロー氏液治療後の薬物療法: 特に な し
5月 7日 ~14日タ リ ビッ ド点 耳1日2回
5月 14日~ 8月19日 迄
(生 食20ml +イ ソジ ン 1ml) 洗 浄
要介護度:自立 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ
要介護度: 自立 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ
要介護度:自立 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ
痴呆度:正常 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ M
痴呆度:正常 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ M
痴呆度:正常 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ M
痴呆度:正常 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ M
自立度:J A1 A2 B1 B2 C1 C2
自立度:J A1 A2 B1
自立度:J A1 A2 B1 B2 C1 C2
自立度:J A1 A2 B1 B2 C1 C2
治療経過記録(右・左)
ブロー氏液処置方法
(処置時間10分)
希釈の有無
その他処置 洗浄等
耳漏の状況
3+:外耳道外へ流出
2+:鼓膜が耳漏で見えない
1+:耳内が湿潤している
0 :耳内が乾燥している
発赤・びらん状況等
その他
B2
C1 C2
6月 18日
■綿球
□点耳
■原液
□5倍液
3日毎
生食洗浄
6月 25日
■綿球
□点耳
■原液
□5倍液
3日毎
生食洗浄
7月 2日
■綿球
□点耳
■原液
□5倍液
3日毎
生食洗浄
7月 23日
□綿球なし
□点耳
□原液
□5倍液
□3+
■2+
□1+
□ 0
□3+
□2+
■1+
□ 0
□3+
□2+
□1+
■ 0
□3+
□2+
□1+
■ 0
□著明改善
□改善
□不変
□増悪
□著明改善
□改善
■不変
□増悪
□著明改善
■改善
□不変
□増悪
■著明改善
□改善 消失
□不変
□増悪
治療経過記録(右・左)
ブロー氏液処置方法
(処置時間10分)
希釈の有無
その他処置 洗浄等
耳漏の状況
3+:外耳道外へ流出
2+:鼓膜が耳漏で見えない
1+:耳内が湿潤している
0 :耳内が乾燥している
発赤・びらん状況等
その他
記録作成者
記録作成者
要介護度: 自立 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ
8月 18日
■綿球
□点耳
■原液1/1週
□5倍液
8月 27日
■綿球
□点耳
■原液1/1週
□5倍液
9月 10日
■綿球
□点耳
■原液1/1週
□5倍液
9月 17日
□綿球なし
■点耳のみ
□原液
■5倍液
ブロー液塗布
生食洗浄
ブロー液塗布
生食洗浄
ブロー液塗布
生食洗浄
生食洗浄
■3+
□2+
□1+
□ 0
■3+
□2+
□1+
□ 0
□3+
□2+
■1+
□ 0
□3+
□2+
□1+
■ 0
□著明改善
□改善
□不変
□増悪
□著明改善
□改善
■不変
□増悪
□著明改善
■改善
□不変
□増悪
■著明改善
□改善
□不変
□増悪
毎日ブロー液
(5倍希釈)
3滴ずつ点耳
週2回生食洗浄
毎日ブロー液
(5倍希釈)
3滴ずつ点耳
週2回生食洗浄
毎日ブロー液
(5倍希釈)
3滴ずつ点耳
週2回生食洗浄
P-7
迅速調整ブロー氏液の抗菌活性
Pseudomonas aeruginosa
Staphylococcus aureus
生菌数の変化
CFU/ml (%)
100
80
Escherichia coli
Candida albicans
Burkholderia cepacia
MRSA
Aeromas sp
Enterococcus sp
Corynebacterium sp
Enterococcus sp
60
2.グラム陽性菌では、
Enterococcus sp を除き混合2
分後に検出限界以下になった
。
3. MRSAは、5分以内に検出限界
以下になり、Enterococcus sp
は、20分までは検出されたが、
40分で検出限界以下になった
Bacillus sp
Providencia sp
Pro.mirabilis
40
20
K.pneumoniae
MRSA
0
0
ブロー氏液濃度100%
菌
グ ◇
ラ ◆
ム
◆
陽
性 ◆
菌 ◆
真菌 ◇
グ
ラ
ム
陰
性
菌
Staphylococcus aureus
MRSA
Enterococcus sp
Corynebacterium sp
Bacillus sp
Candida albicans
Pseudomonas aeruginosa
Escherichia coli
Aeromas sp
Providencia sp
Pro.mirabilis
Burkholderia cepacia
◇
◇
◆
◆
◆
◆
◆ K.pneumoniae
◇標準株
◆臨床単離株
10
20
30
40
50Time(min)
平均
0
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
0.5
2
77.5
0
97.9
58.0
93.7
93.4
55.2
0
0
55.3
0
0
0
0
0
0
0
0
*直後を0.5minとする
Time(min)
5
0
93.2
10
78.1
20
47.4
1.グラム陰性菌では、 7種すべて
混合0.5分後(混合直後)に菌
数は検出 限界以下になった
40
0.0
4. 真菌(Candida albicans)は、
2分後に検出限界以下になった
5.多剤耐性菌をふくめ広範囲な
抗菌作用を有している事を確認
できた。
資料:徳島文理大学薬学部医療薬学講座
P-8
迅速ブロー氏液とタリビッド点耳液の有効性比較
迅速ブロー氏液は
100
80
Staphylococcus aureus
タリビッド
60
Staphylococcus aureus
ブロー氏
MRSA タリビッド
40
MRSA ブロー氏
20
Staphylococcus
aureusおよびMRSA
を 5分以内に検出
限界 以下とした。
タリビッド点耳液
は、いずれにも抗
菌活性を示さなか
った。
0
0
1
2
3
4
5
ブロー氏液とタリビッド点耳液の有効性の比較
Staphylococcus aureus
MRSA
タリビッド
ブロー氏
タリビッド
ブロー氏
0
100
100
100
100
0.5
2
5
10
98.2
83.0 <72.1
77.5
<41.7 <41.7
98.0
90.0
80.6
80.6
97.9
58.0 <38.6
*ブロー氏液は100倍希釈より生菌数を測定した
20
80.6
資料:徳島文理大学薬学部医療薬学講座
4倍希釈ブロー氏液による生菌数の変化
CFU/ml(%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
Pseudomonas aeruginosa
Staphylococcus aureus
Escherichia coli
Candida albicans
Burkholderia cepacia
MRSA
Aeromas sp
Enterococcus sp
Corynebacterium sp
Bacillus sp
Providencia sp
Pro.mirabilis
K.pneumoniae
0
20
40
60
Time(min)
資料:徳島文理大学薬学部医療薬学講座
P-9
結果および考察
• 迅速調整ブロー氏液の院内製剤は簡便で回収率
も良好であった。
• 迅速調整ブロー氏液の抗菌活性は、広範囲かつ
強力で、MRSA感染等の難治性耳疾患に有効で
あった。
• 療養病床における難治性耳疾患への適応が
期待できると予想される。
• 今後も有用性、安全性の評価を行う必要がある。
P-1
ブロー氏液の歴史的背景と
迅速調整ブロー氏液の評価
ブロー氏液
・ K.A.Burowが考案した酢酸アルミニウムを主成分とした点耳液である。
•
1920年第四改正日本薬局方に収載されたが、抗生剤等の普及により、
1971年第八改正日本薬局方から削除された。(海外では継続市販中)
•
1998-2000年にThorpらが原法処方を慢性化膿性中耳炎に使用し、
90%が改善、80%が乾燥したと報告し、わが国でも寺山らが臨床応用を報
告し注目され始めている。
迅速調整ブロー氏液 (広島大学薬学部 高野幹久による )
•
市販の塩基性アルミニウムを用いることで、 1.7%アルミニウム溶液を約2時間で調整
可能となる。
•
迅速調整ブロー氏液のS.aureusに対する抗菌活性は、溶液中のアルミニウム濃度に
依存し、複数のMRSAにも良好な抗菌活性を示す。
•
迅速調整した1.7%アルミニウム溶液は、 4℃で 4ヶ月間保存した場合も品質や抗菌
活性に変化は全く認められない。
P-2
ブロー氏液(原法)と迅速調整ブロー氏液
原法によるブロー氏液の成分(約60ml中)
•
•
•
•
•
無水硫酸アルミニウム
22.5g
炭酸カルシウム(局方試薬) 10.0g
酢酸(局方)
25ml
酒石酸(局方)
4.5g
精製水(局方)
75ml(全量)
最終製剤量
60ml
※難溶性のため調整には
約3~5日間を要す上、
製剤の回収率は
非常に悪く5割~3割以下と
報告されている。
(手稲渓仁会病院薬剤部報告)
迅速調整法によるブロー氏液(500ml中)
•
塩基性酢酸アルミニウム
48.2g
Al2O(CH3CO2)4
酢酸(>99.7%)
41.5ml
•
酒石酸(局方)
22.5g
•
精製水(局方)
適 量
( 全 量 ) 500ml
10ml単価 = ¥15.4
※調整は迅速で簡便、
製剤の回収率も良好である。
(鳴門山上病院薬剤部報告)
P-3
迅速ブロー氏液の院内調整
調整方法
原材料
秤量
1)塩基性酢酸アルミニウム48.2g、酢酸41.5ml、
酒石酸22.5gを秤量し、精製水400mlに懸濁する
2)沸騰湯浴中(煮沸滅菌器)で80分~90分間加温
密封ガラス瓶に
溶解する
充填
3) ゆっくり自然冷却した後に、精製水で500mlに
メスアップする
4) 密封ガラス瓶(遮光)に分注し、室温保存する。
蒸散防止ビー玉
混合懸濁溶解
白色懸濁液
時々振り混ぜて
加温容解
約1.5時間で透明に
溶解後、全量500mlに!