RSA除菌のためのカテキン吸入療法

臨 床 薬 理Jpn
J Clin Pharmacol
〈
抄録 〉第23回
Ther
34(1)
Jan
2003
75S
日本 臨 床 薬理 学会 年 会2002年12月10∼11日
大阪
MRSA除
菌 の ため の カ テ キ ン吸入 療 法
― 多施 設共 同 ラン ダム化 比較 試験 ―
山
田
清
水
小
菅
浩*1
大
橋
京
一*1,2
立
貴
子*5
渥
美
哲
至*5
和
仁*1,2
渡
邉
裕
司*1,2
【目的 】
メ チ シ リ ン 耐 性 ブ ド ウ 球 菌(MRSA:
methicillin-resistant
Staphylococcus aureus)は 、各 種
石
正
登*3
原
田
和
博*4
李
暁
東*2
西
尾
信 一 郎*2
原
征
彦*6
。カテ キンは 、ポ リフェノン60A(R)(カ テ キン類 含 有 率
73.0%、 東 京 フー ドテ クノ製)を 使 用 した 。無 作 為 化
抗 生 物 質 に抵 抗 性 を持 つ 菌 で あ り、そ の 予 防 、治 療
は 、浜 松 医 大 治 験 管 理 セ ンター の 公 正 な 基 準 の 下
で 行 っ た。各 施 設 の 実 施 に お い て は 院 内 倫 理 委 員
対 策 は 、医 療 ・
福 祉 上 の 大 きな課 題 で あ る。最 近 茶
の 成 分 で あるカテ キ ンが 、MRSAに
対 す る直 接 的 な
会 の 承 認 を得 て 行 った 。
殺 菌 効 果 の み で な く他 抗 生 物 質 との 併 用 に よる相 乗
効 果 を 有 す ることが 基 礎 的 実 験 により解 明 され つ つ
あるが 、臨 床 に 於 い て 科 学 的 に 実 証 され た報 告 は ほ
とん ど無 い 。既 に我 々 は 、痰 か らMRSAが
検 出 され
た 患 者 に対 し、カ テキ ンの 吸 入 療 法(カ テ キン溶 解 濃
度2.2mg/mL)を
行 い 、少 なくとも一 時 的 にMRSA感
染 に 有 効 で あ ることを報 告 した1)。さらに 、より高 濃 度
(カテ キン溶 解 濃 度3.7mg/mL)の
カ テキ ン吸 入 で は 、
低 濃 度 の場 合 と比 較 し、菌 の 減 少 ・
消 失 例 が 多 く、効
果 の持 続 が長 い ことを報 告 した2,3)。以 上 の成 果 を踏
まえ 、今 回 、高 濃 度 カテ キン吸 入 に よるMRSA感
染
対 策 効 果 を、多 施 設 共 同 ランダ ム化 比 較 試 験 で 検 証
す ることとした 。
【対 象 お よび 方 法 】
入 院 中 の 痰 検 査 でMRSAが
検 出 され た 患 者(感
【結 果 】
痰 か らMRSAが
検 出 され た患 者42例 中 、感 染 者
は14名 、保 菌 者 は28名 で あった。感 染 者 に はバ ン
コマイシンあるい は アル ベ カシ ン、テイコプラニン が 単
独 で 、また は カル バ ペ ネ ム系 抗 菌 薬 が 併 用 で 投 与 さ
れ てい た。吸 入1週 間 後 のMRSA消
失 率 は 、カ テキ
ン群31%(26例
中8例)、 生 食 群6%(16例
中1例)で
あ り、カ テ キ ン群 の 方 が 生 食 群 と比 較 し菌 の 消 失 が
多 い傾 向 が あ った が 、統 計 学 的 に有 意 で は な か った
(p=0.14)(Fig.1)。 感 染 者 、保 菌 者 別 のMRSA消
失
者 に お い ても、カテ キン群(感 染 者9例 中3例 、保 菌
者17例 中5例)の 方 が生 食 群(感 染 者5例 中0例 、
保 菌 者11例 中1例)と 比 較 し菌 の 消 失 が 多 い 傾 向 が
あった が 、統 計 学 的 に 有 意 で はな か った(感 染 者p=
0.44、保 菌者p=0.42)。
カテ キ ン群 、生 食 群 共 、吸
入 療 法 による副 作 用 は認 め なか った 。
染 者 お よび 保 菌 者)に 対 し、患 者 あるい は 家 族 か らイ
ン フ ォ ー ム ド ・コ ン セ ン トを 取 得 後 、カ テ キ ン 群 、
【考 察 】
MRSAは
placebo(生 食)群 に 無 作 為 に 割 付 け た 。カ テ キ ン群
で は カ テ キン 生 食 混 合 液2ml(カ
テ キ ン溶 解 濃 度
物 質 に抵 抗 性 を持 つ 菌 で あ り、免 疫 力 の低 下 して い
る 患 者 あ るい は 高 齢 者 等 に お い て は 、肺 炎 、腸 炎 、
3.7mg/mL)、 生 食 群 で は 生 食2mlを
ハ ン ドネ ブライ
β― ラクタム系 抗 生 物 質 を始 め 各 種 抗 生
失 の 有 無 を比 較 検 討 した 。試 験 前 に行 な わ れ て い た
敗 血 症 等 の 生 命 を 脅 か す 疾 患 を合 併 しや す くなる。
さらに入 院 患 者 に お い て は 病 悩 期 間 の延 長 や 、入 院
の 長 期 化 に 繋 が り、感 染 者 や 保 菌 者 は 院 内 感 染 の
治 療 はMRSA感
染 者 に対 す る抗 生 物 質 治 療 を含 め
試 験 期 間 中 、用 法 ・
用 量 を変 更 す ること無 く継 続 した
最 も大 きな 原 因 とな り得 る。従 って 、MRSAの
予防 、
治 療 対 策 は 、保 健 ・医 療 ・福 祉 上 の 重 要 な 課 題 で あ
ザ ー にて1日3回 、1週 間 吸 入 後 、痰 か らのMRSA消
*1浜 松 医 科大 学 治験 管 理 セ ンタ ー
〒431-3192浜
松 市 半 田 山1-20-1
*2浜 松 医 科大 学 臨 床薬 理 学
*3国 立 療 養 所福 岡東 病 院薬 剤 部
*4笠 岡第 一病 院 内 科
*5聖 隷 浜 松病 院 神 経 内科
*6東 京 フー ドテ クノ
る。既 に我 々 は 、少 数 例 のpilot studyな が らカテキ ン
吸 入 療 法 が コン トロー ル 群(プ ロム ヘ キ シン+生 食 吸
入 群)と比 べ 菌 の 減 少 ・消 失 を多 く認 め 、菌 数 の 減 少
76S
〈抄 録 〉一 般 演題
Fig.1.カ テ キ ン 吸 入1週 間 後 の 喀 痰 か らのMRSA消
失率
の 持 続 期 間 も長 く、病 悩 期 間 お よび 入 院 期 間 の短 縮
用 も 認 め ず 、安 全 性 は 高 い と考 え られ る 。
化 をもた らす ことを報 告 した4)。本 研 究 は 、より科 学 的
【結 語 】
な ランダ ム化 比 較 試 験 を進 め 、か つ 多 くの症 例 数 に
よる検 証 を 目指 してい る。
対 す る 除 菌 の 補 助 療 法 とな る 可 能 性 が あ る 。今 後 の
カ テ キ ン 吸 入 療 法 は 、痰 にMRSAを
有 す る患 者 に
今 回 の結 果 で は 、吸 入1週 間 後 のMRSA消
失率
は 、生 食 群 に比 べ カテ キン群 で 高 い 傾 向 を示 した が
症 例 数 の 蓄 積 に よ る検 証 を 要 す る。
統 計 学 的 に 有 意 で は な か った 。また感 染 者 、保 菌 者
別 の 吸 入1週 間 後 のMRSA消
失 者 にお い ても、生 食
(参 考 文 献)
1)
の た め の カ テ キ ン 吸 入 療 法 の 検 討.臨
群 に比 ベ カ テキ ン群 が 高 い 傾 向 が あった が 、い ず れ
も統 計 学 的 に 有 意 で は な か っ た。しか しな が ら症 例
数 が 少 ない ため の βエ ラー による可 能 性 が 否 定 で き
2)
H, Okabe
of
tea
methicilline
(MRSA).
Conference
Session
H,
Shimizu
T, et al. A
catechin inhalation
resistant
staphylococcus
Proceedings
on O-CHA
III. Health
of 2001
(tea) culture
and
Benefits.
clmical
effects
on
aureus
Intemational
and science.
pp.241-242,
2001.
3)
岡 部 浩 典 、 山 田 浩 、大 橋 寿 彦 他 ; MRSA除
の た め の カ テ キ ン 吸 入 療 法:第2報.臨
な ったことに よる。今 後 は インフォー ム ド・
コンセ ン トの
今 回 の研 究 で は 吸 入 に よる気 道 閉 塞 症 状 は1例 も経
験 しなか った 。カ テ キ ン吸 入 に 伴 った そ の 他 の 副 作
Yamada
study
患 者 あるい は 家 族 が コン トロー ル 群 に割 り付 けられ た
に も関 わ らず カテキ ン群 で の 治 療 を望 ん だ ことによる
徹 底 により試 験 計 画 の 向 上 に努 め たい 。
カ テ キン の安 全 性 に 関 して は 、茶 工場 で の 吸 入 に
より非 常 に 稀 に 喘 息 発 作 の 出 現 が報 告 され て い るが 、
菌
床 薬 理
32:293S-294S,2001.
な い た め 、さらに例 数 を増 や す ことにより検 証 して い く
予 定 であ る。また 、今 回 カテ キン群 に比 して コントロー
ル 群 の症 例 数 が少 ない 結 果 を示 した が 、そ の理 由 は
患 者 の 意 思 を尊 重 した 一 部 ランダ ム化 患 者 重 視 デ ザ
イン(partiallyrandomized patient-entered design)と
岡 部 浩 典 、西 尾 信 一 郎 、 山 田 浩 他:MRSA除
菌
床 薬 理
33:359S-360S,2002.
4)
Yamada
tea
H,Ohashi
catechin
Staphylococcus
hospital
ward.J
K,Atsumi
inhalation
aureus
Hosp
on
in
T.et
al.Effects
of
methicillin-resistant
elderly
Infect,2002(in
pahents
press).
in
a