ダム堆砂問題に関する補足説明 (NHK特報首都圏を見られた方へ) 以下の資料は、番組に向けて準備したものの、 時間の都合上、十分にお伝えしきれなかった情報 を整理したものです。是非、ご覧ください。 京都大学防災研究所 水資源環境研究センター 角 哲也 お話したい内容 何故、ダムに土砂が貯まるのか? 土砂が貯まることでどんな問題が起こるか? 堆砂はどこまで深刻か? 計画堆砂容量と全堆砂量とは? ダムに土砂が貯まるのは悪いことか? 今後どうすればいいのか? 流砂系の総合土砂管理とは? 土砂資源(有効利用)も重要 今後に向けた提言 何故、ダムに土砂が貯まるのか? ダムは河川をせき止めて設置するので、上流から流れ てくる砂や石などが堆積する宿命にある。 土砂には、粘土やシルトといった非常に細かいもの (ウォッシュロード) から、砂や石のよう な比較的粗く大きい もの(浮遊砂や 掃流砂)まで バライティーがある。 河川の流れ 何故、ダムに土砂が貯まるのか? これらが湖に流れ込むと、水深が深くなるに従って流 速が落ち、粗いものから順に堆積(分級作用)する。 こうして堆積する土砂は、ダム湖の中に「デルタ」を形成し、 時間とともに少しづつ下流に前進する。 細かい土砂の一部は 洪水時にそのままダム から放流される。 どれだけ出るかは、 ダムの大きさと洪水の 大きさ(湖でどれだけ 流速が落ちるか)に よる(流速が落ちなけ れば、出やすい)。 ダム堤体 ウォッシュロード+浮遊砂 浮遊砂+掃流砂 (前部堆積層) (底部堆積層) (頂部堆積層) H.W.L 堆砂の肩 (ウォッシュロード) L.W.L 下流部 デルタ 中流部 堆 砂 性 状 上流部 土質区分 粘土・シルト主体 砂主体 礫・砂主体 平均的な 粒度分布 (単位:%) 礫=0、砂=10、 粘土=50、 シルト=40 礫=10、砂=45、 粘土=30、 シルト=15 礫=30、砂=40、 粘土=20、 シルト=10 細粒分Fc Fc=90%以上 Fc=45∼50%程度 Fc=30%以下 自然含水比w w=100%以上 w=50∼60%程度 w=40%以下 密度・間隙比 強熱減量Ig 有機物・栄養塩 小 ←→ 大 Ig=10%程度 Ig=8%程度 Ig=4%程度 大 ←→ 小 建設利用 堆 砂 利 用 農業利用 窯業利用 環境利用 土壌改良材・ 客土・肥料他 陶土・レンガ材・ セメント原料他 コンクリート骨材・盛土材・ 路盤 河川供給材・養浜材・ 湿地復元材他 掃流砂 浮遊砂 (ウォッシュ ロード) 土砂が貯まることでどんな問題が起こるか? 堆砂問題は、貯水容量の減少だけではなく、水を取り 入れる取水口や放流口の埋没、ダム上流の川底の 上昇、下流河道の河床低下や海岸浸食などの様々な 影響がある。 天竜川河口 (浜松河川国道事務所提供) 堆砂はどこまで深刻か? ダムを計画する場合には100年間に堆積すると予測 される量の堆砂容量をダムの底にあらかじめ確保す ることになっている。 これを計画堆砂容量と呼ぶ。つまりは100年間は土 砂が貯まっても大丈夫なように予め設計されている。 しかし、国土交通省所管の多目的ダムでは、調査対 象の4分の1が計画の2倍以上の速度で土砂が貯まり 、堆砂問題が想定以上のスピードで顕在化している。 ただ重要なのは、計画堆砂容量に対する堆砂率では なく、ダムの総貯水容量全体に対する堆砂の速度、量 で評価しなければ本質は見えない。 計画堆砂容量と全堆砂量とは? 計画堆砂容量は、100年間分として予定してい た堆砂量に対する現状評価(図では150%) – 計画堆砂量はダム建設当時の技術で見積もってい るので、どうしても精度に限界あり(大災害の影響も 大きい) 全堆砂量は、実際 のところどれだけ 貯まっているかの 実質(図では 30%) – これが30-40%に なると危険水域 全堆砂率の現状(地方別、管理者別) 全堆砂率は地方別、ダム管理者別に大きなバラツキあり – 全国で見れば、中部地方(松川ダム、小渋ダムなどあり) の率が高い – 管理者別では 水力発電ダム が高い – 全国平均では 8%程度 – 国土交通省 所管ダムでは 5%程度 建設年代と全堆砂率(容量損失) 容量損失(%) 全 堆 砂 率 多目的(直轄) 多目的(補助) 多目的(水公団) (水機構) 水力発電 かんがい 上水道 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 B A C 0 10 20 30 40 50 60 ダム建設後年数 70 80 90 100 (A) 第二次世界大戦前に建設され、50年以上経過した水力発電ダム → 全堆砂率 60% ∼ 80 %, ただし問題はダムごとに異なる (B) 1950 から 1960 年代の高度経済成長時代に建設され、30年以上 経過したダム → 全堆砂率 40 %以上のダムあり(主に水力発電) (C) 1960年代以降、数多く建設された多目的ダム → 全堆砂率 数 % ∼ 30 % 洪水調節や水供給のため貯水 容量の維持が非常に重要 多目的ダムの全堆砂率の増加 全堆砂率は、ダム完成からの経過年数でそれ ぞれ増加 堆砂速度はダムごとで異なる – 速いダムCAP/MAS<200(寿命200年以下) – 普通のダムCAP/MAS= 400(寿命400年程度) – 1000年ダムCAP/MAS >1000も多い – 宇奈月ダムは排砂実施 – 品木ダム、芦別ダムは 特殊ダム – 松川ダム、中木ダム、 小渋ダムは確かに速い – 全堆砂率が30%以上の ダムはまだ少ない – ただし今後20-40年で増加 ダムに土砂が貯まるのは悪いことか? 大規模災害時には、ダムに土砂や流木を 一時的に貯めることで、下流の洪水被害を 大きく軽減している – 事例、平成16年の福井豪雨時の真名川ダム (足羽川では河川氾濫したが、九頭竜川本川 や真名川ではほとんど被害なし) もし、洪水流と一緒に土砂が下流に流れる と、河床が上昇し洪水氾濫を助長する 今後どうすればいいか? 必要な技術開発は、 – 上流域の土砂生産、流入量の軽減(砂防、貯砂ダム建設など) – 土砂の通過(排砂バイパス等) – 土砂の排除(浚渫、フラッシング排砂(排砂ゲート)など) 特に、3要素 (取る、運ぶ、 流す)の技術 開発が必要 – 下流に土砂を供 給する「河川土砂 還元」を進めたい – 種々の土砂吸引 技術が開発中 流砂系の総合土砂管理とは 河川流域では、ダム建設のみならず、砂防ダム や、かって盛んに行われた砂利採取などにより 土砂の連続性が大きく低下 – 海岸浸食や 河川環境の劣化 (河道内樹林化、 魚類生息場・産卵 場減少)が進行 – 現状評価を行い、 土砂収支を バランスさせる 仕組みが必要 流砂系: 河川から海岸までを 含めた土砂が流れる系をまと めたもの 土砂資源(有効利用)も重要 自給可能で、良質な骨材資源である川砂利の 有効利用は年々減少し、砕石が増大している – ダム堆砂を再生 させれば山を 切り崩さなくても よい – 東日本大震災の 復興にも、ダム 堆砂を有効利用 できないか? (独立行政法人産業技術総合研究所より) 今後に向けた提言 世代間公平の視点が重要 – 将来に費用負担(堆砂対策)を先送りしない – ダムを使い捨てにしない(ダム建設に協力していただ いた水没者、地元関係者の方々に申し訳ない) 土砂管理の容易なダムへのシフトを目指す – ダム再編・再開発などは、土砂管理を計画に組み込 む好機 – 水系内でダム群として持続的管理を目指す 単独ダムでは大変でも、ダム群(ネットワーク)として考える ダムリフレッシュ制度の創設(ダムのオーバーホール= 集中的な堆砂対策)も必要(「産休ダム」とも呼ばれる) そのためにはバックアップシステム(ダム群の容量の余 裕)が必要(「N+1ダム」とも呼ばれる)、現状では不十分 今後に向けた提言 堆砂対策は河川・海岸の自然再生に貢献する – 流砂系総合土砂管理(河川還元)と土砂資源有効 利用の視点から、適切な土砂の行先を検討する 堆砂対策は選択と集中で実施する – ダムの優先順位を考える – ダムの特性に応じて手法 選択(バイパス、掘削など) ダム堤体 河川還元 浮遊砂+掃流砂 有効利用 (前部堆積層) (底部堆積層) (頂部堆積層) 掃流砂 浮遊砂 (ウォッシュ ロード) H.W.L 堆砂の肩 (ウォッシュロード) L.W.L 有効利用可能 下流部 デルタ 中流部 技術開発促進が重要 – 早期実施・効果検証し改良 – そのための財政支援重要 – 海外に売れるインフラ維持 管理技術として確立させる ウォッシュロード+浮遊砂 堆 砂 性 状 上流部 土質区分 粘土・シルト主体 砂主体 礫・砂主体 平均的な 粒度分布 (単位:%) 礫=0、砂=10、 粘土=50、 シルト=40 礫=10、砂=45、 粘土=30、 シルト=15 礫=30、砂=40、 粘土=20、 シルト=10 細粒分Fc Fc=90%以上 Fc=45∼50%程度 Fc=30%以下 自然含水比w w=100%以上 w=50∼60%程度 w=40%以下 密度・間隙比 強熱減量Ig 有機物・栄養塩 小 ←→ 大 Ig=10%程度 Ig=8%程度 Ig=4%程度 大 ←→ 小 建設利用 堆 砂 利 用 農業利用 窯業利用 環境利用 土壌改良材・ 客土・肥料他 陶土・レンガ材・ セメント原料他 コンクリート骨材・盛土材・ 路盤 河川供給材・養浜材・ 湿地復元材他
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