昭 和47年11月(1972) 1 総 鶏 卵 説 貯 蔵 中 の 変 化 (特 に卵 白 の 水 様 化 に つ い て) 太 Changes in Stored (On the Thinning Shell 田 じ め of Egg White) の圧 力 で1(㎡ の 卵 殻 を1分 に 必 要 な こ とで あ る。 生 鮮 食 品 を 貯 蔵 す る場 合,先 こ とで あ る。 この 点,卵 Ohta 間 に 通 過 した 乾 燥 空 気 の 容 積 を も って 卵 殻 の透 過 性 を 測 定 し,ま た 直 接 卵 殻 の 生 鮮 食 品 の鮮 度 を 知 る こ とは 消 費 者 に と って 極 め て え なけ れ ば な らな い こ とは,微 * Eggs Kaoru は 馨 細 孔 を 数 え た 結 果 を 示 す と第1表 の よ うで あ り,卵 殻 に は 鈍 端 に 多 く尖 端 に 少 な い が,多 ず考 数 の 細 孔 が あ り, こ の た め 空 気 の 透 過 性 が あ る。 しか し気 孔 の大 き さは 生 物 に よ る変 敗 を 防 ぐ は 種 族 の維 持 繁 栄 とい う生 物 9∼29μ で あ り,大 きい 微 生 物 の透 過 は 困 難 で あ るが 学 的 任 務 を 負 って い るか ら,卵 には 種 々 の保 護 組 織 や 完 壁 で は な い 。 また 卵 殻 膜 は 内 外2枚 保 護 機 構 が 自然 に 存 在 し,微 生 物 の 侵 入 や,侵 入 した 微 も ケ ラチ ン質 と ム チ ン質 とか ら構 成 され て い るの で, 生 物 の生 育 を 抑 制 す る こ とが で き る よ うに な っ て い る。 微 生 物 に よ る蛋 白分 解 作 用 は うけ に くい 。 そ の上 卵 殻 これ らの 保 護 組 織 や 保 護 機 構 の主 な もの を あ げ て み 膜 の細 孔 は 直 径 約1μ る とつ ぎ の よ うで あ る。 先 ず 卵 は卵 殻 に ご包 まれ て お り, (直 径0.5∼3オ)の あ るが,両 者と で あ るか らs乾 燥 状 態 で は細 菌 透 過 侵 入 は 困難 で あ る。 しか し卵 卵 殻 の 表 面 に は クチ ク ラ 層 が あ り,微 生 物 の侵 入 を 困 1) 殻 表 面 が 濡 れ て い る と細 菌 の透 過 侵 入 の危 険 性 は 大 き 難 な ら しめ て い る 。 つ ぎYl.一, Waldenら くな る。 が,水 銀 柱20㎝ 第1表 鶏 の 品 種 卵 の 部 位1鈍 細 孔 数 (1cm2当 り) 透 過 性 (CC/㎝2/分) 最 大 最 小 平 均 卵殻 の細孔 数お よび透 過性 ニ ュ ー ハ ン フ レグホー ン 端 尖 93 端 鈍 端 尖 端 鈍 端 i67 93 32 0 17 0 26 0 56 34 59 30 52 23 11.51 10.13 10.51 最 小 平 均 2.79 1.65 2.26 5.14 4.26 6.65 細菌が 卵殻や 卵殻 膜を透 過 して卵中 に ご侵 入 した場 合, 7.82 i 95 尖 端 93 大 1最 交配 雑 種 シ ヤ ー 10.14 70 6.58 1.4]. 1.z7 1.: 4.35 6.18 4.19 先 ず 卵 白に 到 達 す る。 と ころが 卵 白 中 に は 鉄 や 銅,亜 鉛 な どの 金 属 と結 合 す る特 性 を 有 す る コ ン ア ル ブ ミ ン *本 学食 品加工貯 蔵学 研究室 が あ り,こ の た め 微 生 物 の 金 属 利 用 は 阻 害 され て,生 - 2ー 食物学会誌・第27号 育は抑制される。例えば卵白を細菌培養基中に加えて は,卵殻被覆貯蔵法や炭酸ガス貯蔵法などのように, おき ,S h i g e l l ad y s e n t e r i a e のように特に鉄を必要と 卵殻内の炭酸ガスの発散を防ぎ,濃厚卵白の水様化を する細菌を培養すると,細菌の鉄利用が阻害されるこ 抑制する方法が,良い貯蔵法ということができる。 とが明らかにされている。また卵白中のアピジンはピ オチンや核酸と結合するので,細菌はそれらを利用す 濃厚卵白と水様卵白 ることが阻害される。卵白中のリゾチームはある種の 新鮮卵の内部構造は第 2図のようであり,卵白はつ グラム陽性菌の細胞壁の特定の糖に作用してそれを破 ぎのように 3層の構造をもっている。すなわち,卵黄 壊溶解する。さらに卵白中のオボムコイドはトリプシ のまわりに全卵白の 17.%に当る粘度の低い内水様卵白 トリプシンの作用を阻害す があり,その外側に全卵白の 57.%に当る粘度の高い濃 る。その上濃厚卵白のゲル状構造は微生物の侵入を物 ンと結合することにより, 厚卵白がとりまき,この濃厚卵白は鈍端と尖端で卵殻 理的に困難にならしめている。 膜につながっている。これ以外の部分では,濃厚卵白 かように卵は種々の保護組織や保護機構によって徴 の外側に全卵白の 23.%に当る外水様卵白がとりまいて 生物から保護されているが,濃厚卵白は微生物の作用 いる。濃厚卵白の鈍端と尖端から,全卵白の 3.%に当 がなくとも,温度や卵白 p Hの上昇,長期保存などの 影響によって,第 1図に示すように徐々に減少し,水 るカラザがのびており,それぞれ卵黄膜につながり, 卵黄を長軸の方向に引張って,卵黄を卵の中心に保持 様卵白に変化する。さらにカラザや卵黄膜も弱化する 目 玉 、 ラテプラの首 ので,卵黄は卵の中心に位置することができなくなれ 卵殻膜に直接接するようになる。このような時期に微 生物が卵殻を透過すると,卵黄は微生物の作用を直接 うけることになる。 濃厚卵白 / ノ〆/ 外水様卵白 卵黄膜 40 、-〆 ー,〆 第 内水様卵白 F 〆'!~-ええζ\( 3 0ト _"c . . 〆 白色卵黄 2図 卵 の 内 部 構 造 している。卵殻膜,濃厚卵白,カラザ,卵黄膜の聞に は,後述のように,これらが体内で形成される過程か ら見て,成分的に共通したものがあるだろうと予想さ 5 1 0 1 5 2 0 2 5 (日) 第 1図卵貯蔵中の卵白各層の変化(望月) れるが,その成分はオポムチンとし、う糖蛋白質である と思われる。 カラザは肉眼で見ても繊維状を呈していることが認 一般に鶏卵の鮮度を判定するには,卵白に関してつ められるが,濃厚卵白は肉眼的には層をなしているに ぎのような事柄を測定する方法によって行なっている。 すぎず,所々に白濁した不透明な部分が認められるだ 1) 平板上に流した卵白の高さをその直径で除した 卵白係数 2)Haughが卵重の 2オンスに対する比率を乗じ けである。しかし電子顕徴鏡により観察すると,濃厚 卵白の白濁部分のオポムチンは分枝状の繊維で,その 0 " " " " 1 0 0オ γ グストローム,短径はその 断面積は長径 2 て補正した卵白の高さの対数に 100を乗じた値で 半分位の円管をおしつぶしたような形をもっている。 ある Haugh単位 透明な水様卵白部分からもオポムチンを分離すること 3) 平板上に流した卵黄の高さをその直径で除した 卵黄係数 これらの測定値の減少の外,割卵して落ちた卵黄の ができるが,このオボムチンは濃厚卵白中の白渇部の オボムチンとは性質が異なっており,形態も繊維状か どうかは不明である。 卵黄膜が破れた時には腐敗と判定している。かように 濃厚卵白と水様卵白とを分離するには, 1c n iに直径 鶏卵の鮮度判定の多くは濃厚卵白の水様化によるもの 2阻の小孔が 9個位ある目の荒い舗を用いるのが普通 であり,濃厚卵白の水様化がいかに卵の鮮度と重要な である。この方法で分離すると卵白中の濃厚卵白は自 関係があるかがわかる O したがって卵の貯蔵法として 然状態のままでうることができるが,古くなった卵で -3- 昭和47 年1 1月 ( 1 9 7 2 ) 濃厚卵白が分散したものでは,濃厚卵白を集めること に蓄積されていて,分泌されるときに水分やリン酸塩 はできない。 などの無機成分が添加されるようである。 これまでの濃厚卵白に関する研究の多くは,濃厚卵 産卵直後の卵白中にはかなりの炭酸ガスを含んでい 白をゼリーのようなものと考え,水様卵白と異質のも るが,その機構については不明である。産卵後は急速 のとして研究されてきたようである。ところが最近の にこの炭酸ガスが殻外に発散する。このために卵白の 研究によると,濃厚卵白は骨格構造をもっており,そ p Hは急速に上昇し,例えば産卵直後の卵白の p Hは 7 . 5 の内部に水様卵白を保持し,全体として一つのゲ、ノレ構 " " ' 8 . 0であるが, 250Cで 7日間貯蔵すると pH9 .0, . . . . . _ _9 .7 造を構成していると考えられるようになった。その主 となる。卵黄の p Hは 6 .5,.....__6 .8であり,貯蔵してもこ な理由としては,簡でわけた濃厚卵白と水様卵白の蛋 れ以上にはならない。この炭酸ガスの発散および卵白 白質組成を見ると,オボアルブミン, p Hの変化と平行して濃厚卵白の水様化が起ってくるの リゾチーム,グ ロプリン G2,グロブリ γ Ga ,コンアルブミン, オボ である。 ムコイドなどについてはほとんど等しいが,オボムチ 1930 年頃には,卵白中にプロテアーゼが存在し,こ ンの含量のみが異なり,オボムチン含量は濃厚卵白で の作用によって濃厚卵白が水様卵白になると考えたこ 0.28%,水様卵白で0.11%である。 ともあったが,結局これを証明することができなかっ たので,今日ではこの説は否定されている。 水様化についての諸説 その後 H i l l らは, リゾチームの等電点が p H1 0 .5 " " ' すでに述べたとおり,水様化現象は全く微生物の作 用と関係なく起るものであり,この現象は化学的原因 によっておこるものか,酵素的原因によっておこるも のか,未だ不明である。 11 .0であり,オボムチンの等電点が p H4 .0, . . . . . _ _4 .5であ るが, H7附近で混合すると沈殿を生ず この両者を p ることから,体液が p H7附近ではリゾチームはプラ スに荷電し,オボムチンはマイナスに荷電していて, 両者が静電的に結合し,疎水性の凝固物となり,これ が濃厚卵白の主要構造を形成しているのであろうと考 司- ー ー えた。さらに,産卵後に炭酸ガスが発散して,卵白の p Hが高くなるとリゾチームのプラス荷電が減少し, 両者の静電的結合はゆるんでくるが,この状態変化が 水様化であると説明した。 Hil1らの説では, リゾチームの相手となる蛋白質は, その等電点が酸性側にあればどんな蛋白質でもよいこ とになり,オポアルブミ γでもオボムコイドでもすべ て反応することになる。しかも水様卵白中にもオボム チンが存在するから,酬をもどせば濃厚卵白を再形成 第 3図 鶏 の 性 殖 器 することができるはずであるが,実際はそうはならな いので,この説も疑問である。 パナ がある種のグラム陽性菌を溶かすことは知られていた 管ム 卵が鶏の体内で形成される過程および機構について ツグ部宮管 ヲマ峡子卵 にリゾチームが加わると, リゾチームを吸着し, リゾ ニホへトチ イ:卵胞(未熟〉 リ:総排池腔 ロ:卵胞(成熟) ヌ:右卵管 ノ、:卵巣 y レ:直腸 ヲ:尿管 ヮ:1';オノレフ氏管 ヵ:坐骨動脈 ョ:腸骨静脈 タ:腎臓 Hawthorneは , 濃厚卵白のゲル状の性質は,膨潤 したオポムチンの性質であろうと考えた。そしてこれ チームの作用によってオポムチンの膨潤構造が収縮し はじめるので,この状態を水様化現象と考えた。 Hawthorneがこの説を発表した頃は, リゾチーム は不明な点があるが,卵白が形成される過程を,第 3 が,今日 P h i l l i p らによって明らかにされたように, 図に示した成熟鶏雌の性殖器の模型図により見ると, 細胞壁ムコペプチドの糖部分における Nーアセチルム 卵黄がラッパ管を通過するときは卵黄だけであるが, ラミン酸と Nーアセチルグノレコサミンとの結合を, リ マグナムを通過する間に,卵白の主成分である蛋白質 ゾチームが切断するという酵素的作用については知ら が分泌される。この蛋白質はマグナムにある腺細胞内 れていなかった。リゾチームが微生物に吸着されて生 -4- 食物学会誌・第27号 成する還元性物質は,彼はリゾチームの作用生成物で あると考えていたようである。 McDonndや Feeney らは,濃厚卵白にチオグリコ ールや亜硫酸ソーダなどを加えると,濃厚卵白の粘度 は急速に失なわれて水様化する現象を実験的に観察し, 鶏卵の貯蔵中に,卵白内部にチオグリコールのような 還元作用をもっ物質が生成され,その作用によって濃 厚卵白中のオボムチンが可溶化し水様化が起ると考え た。すなわち,第 4図に示したようにオボムチンには 第 2表濃厚卵白と水様卵白の Ovomucin1 量(%) l濃 厚 卵 白 │ 水 様 卵 自 卵 白 名 分析 N o . I Ovomucin1( A ) I Ovomucin1( B ) I 1 3 .3 1 .6 2 2 .8 I 1 .9 I 1 1 .0 O .8 2 1 .1 1 .0 また第 3表および第 5図 第 7図に示すように,卵 を3 00Cに貯蔵すると濃厚卵白は減少し, その濃厚卵 白中のオボムチン含量も減少する。これに反して水様 卵白中のオボムチン含量が増加する。 第 3表 オ ボ ム チ ン Bの含量 A l 新鮮卵 B _ 一~>.つ 一 ヂオクリコール ' " ' L コ ~ ' / … ι 刀 、』〆'. v、 ‘.-/ ー 一ーー~ 也、、砂、 ノ mλ>_OJゾ } 戸 、 fー 「 問 、 プ 0 . . . .J ¥ .J " シスチン ; C >_ SH、/ 一 一 貯蔵卵( 濃厚卵白 水様卵白 2.6 1 .3 水様卵白 2.0 F (注)3 0oC,2 0日貯蔵 卵白乾物19当りの Nmg. H H ー - OC-C-NH-... . . . ー OC-C-NH-… CH2 S 4 0 CH2 SAH チオグリコール HS CH2 CH2 … -HN-C-CO-. ・ ー HN-C-CO-… H H シスチン システィン 第 4図 【 s . , L , P J 戸 S 、 c 乞 b 2 E れ) £ 主 1 0 ¥ 九 一 一→ . -s-s一架橋の還元分解 2 り 1 0 . 1 0 Davs : ; < 1 J!'i'蔵による J 農厚卵向の変化 第 S1 シスチンが含まれているから,分子内のペプチド鎖間 には-s-s ーとし、う架橋があると予想される。この 架橋にチオグリコールのような還元物質が作用すると, 0 . 4 -s-s結合は切断されて,分子内に架橋がなくな 畠晶 かったし,またオボムチンとリゾチームを結合させた h h 、 、 ヒ ε 、 、 ¥ 、 、 リコールと同じ作用をもっ物質を見出すことができな 三 0.2 - 、 、 、 貯蔵卵の卵白中にチオグ 、 、 日叫。 しかし McDonnel らは, 、 、 り,分子は 2本以上の鎖状分子(図 A) か,一本の鎖 状分子(図 B) になるわけである。 ーーー守・ーーー・ー一- ものに,チオグリコールを加えて可溶化することもで 、 2 0 Da s ・ ・ ・ ー 司 ・ 第6 司 [ 貯蔵による濃厚卵白オボムシンの変化 水様化とオポムチンの関係 第 2表のごとく,濃厚卵白中のオボムチンは水様卵 白中のオボムチンより多い。 Ovomucin g e l (A) Ovomucin g e l (B) ハ り ある。 1 0 ー 、 きなかったので,この説も完全な説とはし、し、難いので -5- 昭和4 7 年1 1月 ( 1 9 7 2 ) るが,このゾル部分は水様卵白と同じものと考えられ リ、υ ハリ る。このゲル部分を 2% 塩化カリ溶液で洗糠して脱塩 _ . , . . . . . . ー一 ・一 司ー--・・ー ー一一, , . . . . . 句 、 . ,, , 0.2 すると,濃厚卵白の白濁部にのみ存在するオボムチン をうることができる。ゾノレ部分は通常の方法に従って , , , , , 5倍容の水で希釈して pH6 に調節し,生ずる沈殴を あつめて 2% 塩化カリ溶液で洗糠し脱塩すると,ゾル 部分のオボムチンをうることができる。ゲル部分のオ 1 0 ポムチン (Gオボムチン〉とゾル部分のオボムチン 3 0 2 0 (Sオボムチン〉の極限粘度はそれぞれ 2 . 6(100mlfg), Days 第 7図 1 .3であって,両者に構造や組成に差があることを暗 貯蔵による水様卵白オボムシンの変化 ・ 司 ・ ・ー噌 Ovomucin s o l( A ) Ovomucin s o l (B') 示している。 また両者の糖組成は第 4表のごとく Gオボムチンで 対ー吋く Ovomu口i ns o l (B) は全糖含量が多く,ガラクトース,ガラクトサミン, シアル酸,硫酸の量が Sオボムチンよりはるかに多い。 新鮮濃厚卵白を 5 9, 0 0 0xg/60m i n .の高速度遠心分離 機にかけてゲル部分とゾル部分とに分けることができ 第 4表新鮮卵および貯蔵卵のオボムチンの糖組成 - 一 │ ムチンの種類 新 鮮 Gオボムチン 糖組成* Hexose Hexosamine S i a l i cAcid S u l f a t e I 1 2 . 5 1 2 . 8 9 . 9 o .78 卵 Sオボムチン 6 . 5 7 . 0 1 .0 0 . 0 8 2 0 日間貯蔵卵 Gオボムチン 5 . 5 6 . 0 1 .3 0 . 1 0 Sオポムチン 1 3 . 8 1 5 . 2 1 0 . 9 0 . 8 0 *無水物中の百分率 また,両者のオボムチンを,チオグリコールと同じ 様に Gオボムチンと Sオボムチンとを調製し,糖分析 作用を有するメルカプトエタノールで可溶化し,電気 と電気泳動分析を行なうと,第 4表と第 8図に示され 泳動を行なった結果は第 8図のようであり, Gオボム るように, Gオボムチンの糖含量は減少するに反して, チンは S成分 (Slowmovingcomponent) とF成分 Sオポムチ γ の糖含量は増加する。また Gオボムチン ( F a s tmovingcomponent) とをもっているが, S オポムチンはほとんど S成分だけである。したがって の F成分はなくなり, Sオボムチンに F成分が加わっ てくることが分る。このことより,鶏卵を貯蔵して、濃 厚卵白が減少するとき, Gオボムチンの組成に著しい SF a ) d ) /V¥ ハ ヘ → Asc. fk Des. 」 、 J Des Asc. b ) / L : : . . . . . . . . . . . . . 会 c ) SF 変化がおこることは明瞭である。特に貯蔵期間中の糖 組成の変化をみると, Gオボムチ γ を構成する六炭糖, 六炭糖アミン,シアル酸,硫酸の含量は減少し, Sオ e ) pJ~ ボムチンのそれらが増加することがわかる。つまり G オボムチンから Sオボムチンへ何かが移行することに ノ¥ノ¥ なる。このように水様化において移行すると考えられ a) 新鮮卵 G ナボムチン d) 新鮮卵 5オボムチン b) 1Of1閑貯蔵卵 G 寸ボムチン c) 3 0 1 1間 貯 蔵 卵 G 寸ボムチン e) 1 5日間貯蔵卯 Sオボムチン F :F成 分 S :S成 分 1バl 還尺;口I溶化オ;ドムチンの電気泳動│文│ 第8 るものは,電気泳動図に示された F成分であろうと思 われる。 そこで F成分と S成分とをそれぞれ密度勾配電気泳 動法で分別調製して,糖組成とアミノ酸組成とを分析 Gオボムチンの糖含量が多いのは F成分をもっている してみると第 5表のような組成であり,これより F成 ためで、あり, F成分は S成分より糖含量が多いと予想 分は糖含量約50%で,硫酸化された糖を含み,アミノ される。 酸組成ではスレオニンとセリンの含量が多い硫酸化ム 0Cに 2 0日間貯蔵した濃厚卵白について,同 また 3 0 コ蛋白質であると思われる。 S成分は糖含量約15%で , - 6ー 食物学会誌・第27 号 第 5表 新 鮮 卵 Gオボムチンの 2成分の組成 ンの S成分は, F成分が全部ゾル部分に移行しても不 一 ¥ 一 一 一 糖 * 組 成 溶性の形で残留するので,鶏卵貯蔵中の濃厚卵白量を 1 8 . 4 1 8 . 3 1 1 . 4 1 .1 8 8 . 1 6 . 8 6 .7 0 . 8 0 . 0 6 1 3 .7 L H y i s s t i i n d e i n e 5 . 8 0 1 . 2 5 2 . 4 0 8.65 1 4 .7 0 1 4 . 5 0 8.05 4 . 9 0 5.30 6.20 2.25 5.50 1 .8 0 4 . 2 0 7 . 2 5 2 .7 5 3.50 6 . 5 6 1 .5 6 2 . 2 2 1 3 . 9 4 8 . 0 0 8 . 4 0 1 0 . 2 8 3 . 2 2 8 . 2 4 4 . 8 2 4 . 0 0 7 . 6 4 2 . 3 0 4 . 7 4 6 . 2 4 3 .7 2 4 . 4 6 勢* ア T A A h r s g p r f i a n O r i t I n l i i c e ne Acid 、 、 、 S e r i n e GlutamicAcid P r o l i n e G A l l y a n c i i n n e ノ 酸 組 成 遠心分離法で精密に追跡すると,濃厚卵白は完全にな Hexose Hexosamine S i a l i ca c i d S u l f a t e T o t a ln i t r o g e n V C y a l s i t n i n e e Methionine I s o l e u c i n e Leucine T P h y e r n o y s i l n a l e a n i n e くならないことも裏付けられる。 水様化の機構と問題点 以上で水様化にともなうオボムチンの行動はかなり はっきりしたが,水様化の機構を完全に証明するには 不十分な点が多々残っている。先ず F成分と S成分と は Gオボムチンの中で,いかなる状態で結合している のか明らかでない。勿論チオグリコールやメルカプト エタノールなどで還元すると 2成分に分れるから,シ スチンの- S - S一結合を架橋としているだろうとは 予想できる。 つぎに F成分と S成分との結合を切る作用をする物 質は, 卵白中の何であるかが不明である。 McDonnel らはオボアルブミンの作用であろうと想定したが実証 できなかった。しかし,やはりオボアノレブミ γ である *無水物中の百分率 可能性は非常に大きい。 **全アミノ酸を 1 0 0モルとしたときの構成アミ つぎに Gオボムチンの S成分は不溶性であるが, S ノ酸のモル数 オボムチンの S成分は可溶性であり,果して両者が全 く同一物であるかどうかが不明である。 硫酸基はほとんどなく,アミノ酸組成ではアスパラギ 以上のようにいろいろの問題点はあるが,水様化の ン酸とグルタミン酸の含量が多い特徴をもっている。 機構を想像をまじえて図示すると第 9図のようである。 したがって F成分は S成分より糖含量の多いことも確 かであり,水様化において新鮮濃厚卵白の Gオボムチ t l ' j 蔵 4 貯 蔵 卵 口 S成 分 . オ ボ ア J レブミン O リゾチーム 園 F成 分 @ オ ポ グ ロ プ リ ン ム オ ボ ム コ イ ド 新鮮濃厚卵白 第 9図 水 機 化 の モ デ ル ×コノアル 7'ミン かように水様化現象は F成分の移行が主体であると F成分と S成分の解裂原因について明らかにすること の前提で,炭酸ガス貯蔵法で鮮度を保った鶏卵につい が必要である。凍結貯蔵による凍結卵の解凍後のオボ て , Gオボムチンを調製し,その F成分が減少してい ムチンがどうなるかについても問題である。これらの るかどうかをしらべると,明らかに F成分の減少は少 場合すべて 2成分に解裂していると,卵白の粘度は低 ないことが認められる。しかし新鮮卵の Gオボムチン 下し,粘度低下があれば卵白の泡の安定度は低下する。 中の F成分と全く同量であるのではない。炭酸ガスに また, S成分と F成分がそれぞれリゾチームと混合 よる酬の保持は効果的で、あるが,低温貯蔵より勝ると され, p Hが中性附近に調製されると白濁を生ずるが, も思えない。この問題を解決するにも Gオボムチンの その度合は F成分の方がはるかに大きく, S成分では - 7ー 昭和4 7 年1 1月 ( 1 9 7 2 ) 小さい。オボムチンを調製する場合に,あらかじめ卵 白からリゾチームを除去して.t}I液からオポムチンを 調製すると,溶けやすいオボムチンがえられる。しか しリゾチームを除くときに必ずオボムチンをともなう ので,この方法で、調製したオボムチンは F成分を含ま 3)R .E .Eakine ta l:J .Bio l .Chem.,1 7 9 ,1 2 7 5 ( 1 9 4 9 ) P .Gyorgye ta l:S c i e n c e ,93 ,4 7 7 ( 1 9 4 1 ) 4)A .E p s t e i n ,E . Chain:B r i t .J . Expt. lP a t h . 2 1,3 3 9( 1 9 4 0 ) ず,水様卵白の S成分のみからなるので,溶けやすい 5)S .G .Hedin:Z .Physio l . Chem.,5 24 1 2 ( 1 9 0 7 ) のは当然である。これをオボムチンの全体と見ること J .S .Rame ta l:Arch.Biochem.B i o p h y s .,5 2, はできなし、。 4 5 1( 1 9 5 4 ) 水様化がおこる場合,カラザの脆弱化,卵黄膜細孔 の拡大,卵黄膜の脆弱化などがともなうが,これらは 水様化にともなう現象とみるよれ卵白の水様化と同 ーの原因により起ると考える方が正しいようである。 また卵黄膜細孔の拡大により,貯蔵中に卵黄成分が卵 黄膜を通って卵白に移行することが実験的にも確かめ H .L ineweaver,C .W. Murray:J .B i o . lChem. 1 7 1,5 6 5 ( 1 9 4 7 ) 6)R .R .Haugh:U .S . Egg P o u l t r yMag. 4 3 , 7 6 0( 1 9 3 7 ) 7) J .W.Donovan,J .G. DavisandL .M.White :B i o c h i m .B i o p h y .Acta ,207 ,1 9 0 ( 1 9 7 0 ) られている。卵白に移行した卵黄成分は卵白の泡立ち 8) 中村良,吉川利一,佐藤泰:農化, 3 5 , 6 3 6 ( 1 9 6 1 ) 性を低下せしめるので,卵白中の卵黄成分特に脂質を 1 l , G .R .BurtonandL . W.Charkey 9)E .G .Hi :P o u l t r yS c i .,2 8,8 6 2( 1 9 4 9 ) 除去することが必要である。 以上鶏卵の貯蔵中における変化のうち,卵白の水様 化に関して佐藤泰らの報文を引用してのベてきたが, 日本国民にとって鶏卵は重要な食品であり,その生産 量や消費量は年々増加している。食品として卵の鮮度 は重要であるが,調理に際しては特に重要な要素であ る,泡立ち性に影響することが大きい。これらの見地 から卵を貯蔵する場合は卵白の水様化を防ぐことが必 1 0 )J .R .Hawthorne:B i o c h i m .B i o p h y . Acta: 6 ,2 8( 1 9 5 0 ) .C . Ph i 1 lip:N ature ,206 , 1 1 )R .E . Johnson,D 7 6 1( 1 9 6 5 ) 1 2 ) L .R . McDonnel,H.LineweaverandR .E . Feeney:P o u l t r yS c i .,3 0 ,8 5 6( 1 9 5 1 ) 1 3 )A .Kato ,R . Nakamura and Y .S a t o:A g r . 要であり,このためには水様化の機構を明らかにする B i o l . Chem.,3 4 ,1009(1970) ことが望まれる。 佐藤泰,中村良:農化. 3 8,3 4 2 ( 1 9 6 4 ) .Kato,R .Nakamura and Y . Sato:Agr. 1 4 )A 文 献 1)C.C.Waldene ta l :P o u l t r yS c i .,3 5 ,1 1 9 0 ( 1 9 5の 2)A .L . Shade,L .C a r o l i n e:S c i e n c e, 1 0 0,1 4 ( 1 9 4 4 ) B i o l .Chem.,3 4 ,8 54( 1 9 7 0 ) 1 5 )A .Kato ,R . Na】{amura and Y .Sa t o :Agr. l .Chem.,3 5 ,3 5 1 ( 1 9 7 1 ) B i o 1 6 )佐藤泰:食品開発, 6,N o . 1 1,2 0 ( 1 9 7 1 )
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