持株会社経営の実際 <日経文庫> 著者 武藤泰明 (2012-8月作成) 持株会社の定義と規則 1.定義 ①純粋持株会社 「事業を行わず、株式保 有を本業」とする会社 ②事業持株会社 「事業を行うとともに、他 社の株式を保有・支 配」している会社 持株会社の定義と規則 2.三つの禁止類型 (公正取引委員会「事業支配力が過 度に集中することとなる会社の考え 方」2002.11.12による) ①グループ総資産(金融会社を除く)15兆 円超で、5以上の事業分野で単体総資 産が3000億円を超えているような結 合 ②総資産15兆円以上の銀行と、3000億 円以上の事業会社との結合(都銀や 信託銀による事業会社の支配。複数 の金融機関が持株会社の下でグルー プ化されることについての禁止規定で はない) ③相互に関連する5以上の事業分野の上 位企業(国内市場占有率10%以上) 同士の結合(垂直系列グループが持 株会社方式で結合することを禁止する もの) 持株会社の定義と規則 3.禁止類型の例外 ①分社化の場合 ②ベンチャーキャピタルによる出資の場 合(非上場、資本金5億円以下等へ の出資を業としているもの) ③金融会社の異業態参入の場合 ④企業グループが小規模の場合(総資 産を連結して6000億円以下) 持株会社は経営の中枢 1.経営と事業の分離 ・持株会社設立の直接的な効果の 一つは、経営と事業を明確に分 離すること 経営 が持株会社の役割 事業 のほうは傘下の事業子会 社が戦略を立案し、株主である 持株会社の承認のもとで執行す る 持株会社は経営の中枢 2.持株会社の具体的な機能 a. 持株会社の専管事項 b. 効率化の観点から持株会社が 有すべき機能 c. 境界の不明確なもの (経営と事業の境界は「知識」で 決まる)・・・境界を決めるのが持 株会社の専管事項 ①株主対応 ②グループ全体の財務活動、投資行 動についての意思決定 ①財務、経理、事務、ITなどのグルー プ全体のインフラ ②業務の標準化・統一 ①事業に必要な知識(研究開発、調 達、生産、物流、流通チャンネル、 競争相手、利用者、事業の将来構 想等) ②持株会社の持つ知識(経営知識) 事業部制との違い 1.事業部制とは、 ・一つの企業の中に複数の事業部門 がある場合、それぞれを事業単位 として、権限と責任を付与する仕 組み 2.メリットは、 ・事業ごとの採算が把握できる 3.持株会社方式との違い、 ・一般的にはバランスシートを持たず、 主に損益計算書によって管理され る 4.企業全体としては、 ・バランスシート上の成果が重要と なってきている(ROE、ROAを重視 する) ・事業の成果として、キャッシュフロー と税引後利益が重視されるように なった 社内カンパニー制との違い 1.社内カンパニー制とは、 2.持株会社との違い ①持株会社方式のような経営管理を、内 部組織のままで行うための機構 ②各カンパニーは本社からの出資を仮想 的に受け、あたかも一つの会社のよう に、バランスシートを持つ。・・・実態と しては持株会社方式に限りなく近いも の。 ③事業部門に自律性を付与し、出来るだ け市場に近いところで意思決定を行う。 ①人事制度・・・どのカンパニーに所属して いても、統一的な資格制度に基づいて 支払われる。 ②意思決定プロセス・・・一般的には自律 性が低く、子会社の方が自律性が高く なる ③100%子会社以外の場合・・・自律的な マネジメントがそもそも不可欠 ④100%子会社は内部組織と同じか・・・ 子会社は親会社の下に運営される 持株会社四つの形態 ① ② 持株会社 事 業 会 社 事業会社 事 業 会 社 事 業 会 社 ③ ④ 持株会社 事 業 会 社 持株会社 持株会社 事業会社 事業会社 持株会社 事業会社 持株会社 持株会社 事業会社 事業会社 事 業 会 社 持株会社の組織と機能 ①株主、証券取引所(上場会社)等への対応 ②子会社のモニタリング(監視及び評価) ③経営企画、財務企画 ④機能子会社の経営管理(研究開発、人事、経理、 IT、商標管理など) 純粋持株会社の収入、売上と経費 ・持株会社は原則として収入は配当収入だけ ・支出は、人件費や金融費用等 ・経営指導料(背景と根拠) ①実際の経営指導の対価 ②単独決算の時代には、新会社の利益が大き いことが好ましいと考えられた ③子会社が100%子会社でない場合、配当が 資金の外部流出を伴う 持株会社への移行パターン 1.分社型が有効なケース ①個々の事業の独立性、自律性 が強い場合 ②いわゆる本業の経営原理が強 固である場合 ③事業部門のドメインを明確にし たい場合 ・互いに異なる知識や技術に基づい ている場合、チャンネルなどの経 営資源が異なる場合 ・二つの事業部門で人事制度や給与 体系が異なるべきだと考えられる 場合、本業は中央集権型、他は自 律分権型が求められている場合、 本業は成熟期に入っており投資が 少なく、他の事業部門は投資額が 大きい場合 ・知識によって事業を遂行する基本原 則に忠実に組織を構成、配置する には、事業のサイズによらず、事 業ごとに会社を配置する場合 持株会社への移行パターン (2)統合型 ・もともと別の会社であったものを、持株会社の下に 統合するという方法 ①合併代替型のメリット・・・統合ストレスの回避 <合併のストレス> A社 持 株 会 社 化 B社 合 併 持株会社 A 社 出資 ] [ 合 併 代 替 型 事 業 子 会 社 A 事 業 子 会 社 B ・これまでの会社が存続するため、社員のストレ スが少ない ・典型は人事 ・社風や企業文化 ・帰属集団の再編やポスト削減 ②合併代替型のデメリット ・合理化効果が少ない ③吸収合併代替型の問題 ・買収される側からの人材の流出 ・買収した企業の価値を維持しようと思うのであ れば、合併でなく、持株会社の子会社に置くの が合理的 持株会社への移行パターン ・これまでの親会社の事業部門で あった組織と、これまで子会社で あった組織とを、事業子会社とし て持株会社の傘下に並置 (3)親子並列型 X社 事 業 部 X 出資 C社 X社 事 業 子 会 社 事 業 子 会 社 X C 持株会社設立の手続 (1)株式移転方式 株主X B社株式を 割当 株式所有 A社株式移転 A社 ①まず、持株会社となるB社を設立する ②A社の株主Xは、保有している株式をすべてB社に 移転し、代わりにB社株の割当を受ける ③結果として、元の株主とA社との間に、新設のB社 が持株会社として介在する形態 B社(新設) 株主X <メリット等> ・この方式の特徴は、もともと存在していたA社が子 会社になる点。(例えば、免許を要する事業の 場合、既存のA社が事業を継続できる) ・元のA社の社員籍がそのままA社に残る 株式所有 B社(持株会社) 株式所有 A社 <共同移転方式のケース> ・複数企業が共同して持株会社を設立して、その傘 下に入るための方式として有効 (合併比率と同じ問題があり、株主の合意が不可欠 となる) 持株会社設立の手続 (2)株式交換方式 株主X <特徴> 株主Y A社株式割当 株式所有 株式所有 A社 K社株式 を移転 K社 株主X 株主Y 株式所有 A社 株式所有 K社 ・持株会社となる新設会社を必要としな い ・A社が事業を行っている場合、A社が純 粋持株会社になることはない ・株式交換は持株会社設立の一般的な 方法ではない 持株会社設立の手続 (3)新たな抜け殻方式 -会社分割 ①現物出資、営業譲渡・・・親会社が純粋持株会社 になる ・現物出資:親会社がお金の代わりに財産を出 資に供して会社を設立する方法 ・営業譲渡:事業を財産ごと子会社に譲渡し、子 会社から親会社に対して対価が支払われる <検査役による調査、事業資産の圧縮記帳が 可能か、販売用不動産の譲渡についての課税 など、多くの規制がある> ②会社分割 ・親会社が子会社に営業(財産)を継承させ、子 会社はこれに見合う自社株式を発行する。現 物出資や営業譲渡と同じ。対価として自社株が 発行される。 ③吸収分割 ・新たに会社を設立するのでなく、既存の会社に 事業を継承するのが吸収分割。
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