マクロ経済学体系のフローチャート 財 市 場 (IS曲線) IS・LM モデル 総需要 曲 線 所 得 と 物価水準 の 決 定 貨幣市場 (LM曲線) 労 市 マクロ経済学(Ⅰ) 働 場 総供給 曲 線 インフレと 失業の分析 経済成長 理 論 1 第3章 資産市場 現実の経済において多種多様な資産が存在している。 実物資産:土地,住宅,工場,橋,道路など 金融資産:株,債券,預金など 実物資産と金融資産は工場と株・社債のように表裏の関係に あることが多い。 資産の特性:収益性,リスク(危険),流動性,分割可能性 ① 収益性: 保有する資産が生み出す収益の効率性を表す指標である。資 産の収益率を意味する。例えば,株式の収益率は定期預金より 優る。 ② リスク(危険): 資産の収益率の不確実性を表す指標である。リスクは資産保 有者に嫌われるネガティブな特性である。預・貯金のリスクは極 めて小さいのに対して,株式のリスクは大きい。 マクロ経済学(Ⅰ) 2 第3章 資産市場 資産の特性:収益性,リスク(危険),流動性,分割可能性 ③ 流動性: 保有する資産の財・サービスへの転換の速さを表す指標である。 現金の流動性は100%であると考えられ,定期預金より優る。また, 実物資産の流動性は,金融資産に比べてはるかに低い。「流動 性」は資産保有者にとって好ましい特性である。 ④ 分割可能性: それぞれの資産を最小どれくらいの単位で保有するかを表す指 標である。現金は1円単位から保有でき,分割可能性が最も高い。 株・土地などへと分割可能性が低下していく。資産保有者にとって 「分割可能性」も好ましい特性である。 現在に存在する資産は,すべての特性について他の資産より 優るということはありえない。ある特性について他の資産より優っ ていても,必ず他の特性について劣る。(ハイリスク・ハイリターン) マクロ経済学(Ⅰ) 3 第3章 資産市場 資産選択(ポートフォリオ選択) 人々は異なる特性を持つ様々な資産を,自らがベストだと思う比 率で保有する。 日米家計部門の資産選択の違い その他, 4% 日本 アメリカ 保険・ 年金, 28% 債券・ 投資信 託・株 式,13% 現金・ 預金, 55% その他, 2% 現金・ 預金, 11% 保険・ 年金, 32% 債券・ 投資信 託・株 式,55% なお資産選択はストックである資産の保有に関する意志決定で あり,フローである所得のなかからどれだけ消費せず資産の蓄積 に振り向けるかという貯蓄行動とは異なることに注意したい。 マクロ経済学(Ⅰ) 4 貨幣(money) 貨幣の機能: 価値基準,交換・決済手段,価値保蔵手段 ① 価値基準: 価値尺度として各財の価格を共通の単位で表示する役割。す べての財・サービス・資産の価格が「円」で表される。 ② 交換・決済手段 交換の媒介手段ないしは支払手段としての役割。すべての財・ サービス・資産の取引は貨幣により決済される。 ③ 価値保蔵手段 貨幣を資産として保有することによって,富を将来に持ち越す ことを可能にする役割。貨幣は資産であるということ,ただし,こ の役割は貨幣に限らずすべての資産に当てはまる。 貨幣の機能を照らすと,現実の経済では,現金通貨のみでは, その範囲が狭すぎる。 マクロ経済学(Ⅰ) 5 貨幣(money) 貨幣供給量(マネーサプライMoney Supply)の指標 M1 = 現金通貨(銀行券、貨幣)+預金通貨(当座、普通預金等) M2+CD = M1+準通貨(定期預金等)+CD(譲渡性預金) M3+CD = M2+CD+郵便貯金+その他金融機関預貯金+金銭信託 広義流動性 = M3+CD+金銭信託以外の金銭の信託+投資信託+金融債 +金融機関発行CP+債券現先・現金担保付債券貸借 +国債・FB+外債 (詳細解説は http://www.boj.or.jp/type/exp/stat/data/exms01.pdf を参照) 但し 現金通貨 = 銀行券発行高+貨幣流通量 cash currency 預金通貨 = deposit currency 要求払預金(当座、普通、貯蓄、通知、別段、納税準備) - 対象金融機関保有小切手・手形 準通貨near-monry = 定期預金+据置貯金+定期積金+非居住者円預金 + 外貨預金 マクロ経済学(Ⅰ) 6 貨幣(money) 貨幣供給量(マネーサプライMoney Supply)の指標 日本国のマネーサプライ 16,000,000 広義流動性 14,000,000 12,000,000 M3+CD =M2+CD+郵便貯金+その他金融機関預貯金+金銭信託 億円 10,000,000 8,000,000 6,000,000 M2+CD =M1+準通貨(定期預金等)+CD(譲渡性預金) 4,000,000 2,000,000 M1=現金通貨(銀行券、貨幣)+預金通貨(当座、普通預金等) データ:日本銀行ホームページ http://www2.boj.or.jp/dlong/stat/stat31.htm マクロ経済学(Ⅰ) 2005.04 2004.10 2004.04 2003.10 2003.04 2002.10 2002.04 2001.10 2001.04 2000.10 2000.04 1999.10 1999.04 1998.10 1998.04 0 7 債券価格と利子率 割引現在価値の計算:年利子率=5% 現在100円を預金(運営)する場合,1年後に105円(=100円×(1+5%))にな る。つまり現在の100円は1年後の105円と同等の価値を持つ。したがって,1年 後の105円の割引現在価値は100円(=105円/(1+5%))である。 そして,現在の100円は2年後になると110.25円になる。 110.25=105円×(1+5%)=100円×(1+5%)×(1+5%)=100円×(1+5%)2 つまり現在の100円は2年後の110.25円と同等の価値を持つ。したがって,2年後 の110.25円の割引現在価値は100円(=110.25円/(1+5%)2)である。 マクロ経済学(Ⅰ) 100 円 105 円 110.25 円 100×(1+5%)n 円 現在 1年後 2年後 n年後 8 債券価格と利子率 割引現在価値の計算:年利子率=5% 現在100円を預金(運営)する場合,1年後に105円(=100円×(1+5%))にな る。つまり現在の100円は1年後の105円と同等の価値を持つ。したがって,1年 後の105円の割引現在価値は100円(=105円/(1+5%))である。 そして,現在の100円は2年後になると110.25円になる。 110.25=105円×(1+5%)=100円×(1+5%)×(1+5%)=100円×(1+5%)2 つまり現在の100円は2年後の110.25円と同等の価値を持つ。したがって,2年後 の110.25円の割引現在価値は100円(=110.25円/(1+5%)2)である。 同様に,1年後のX円の割引現在価値=X/(1+5%) 2年後のX円の割引現在価値=X/(1+5%)2 n年後のX円の割引現在価値=X/(1+5%)n マクロ経済学(Ⅰ) X/(1+5%)n2 X/(1+5%) 円 X 円 X 円 X 円 現在 1年後 2年後 n年後 9 債券価格と利子率 (コンソル券)債券の例 毎年A円を永続的に支払われるような債券(コンソル債券)を00 年(現在)に購入する場合を考えよう。 但し,市場利子率はiである。 年 債券の収入 00年の割引現在価値 2 B=A/(1+i)+A/(1+i) +A/(1+i)3+・・・+A/(1+i)n 01 A A/(1+i) n+A/(1+i)n+1 B/(1+i)= A/(1+i)2+A/(1+i)3+・・・ +A/(1+i) 2 02 A A/(1+i) B-B/(1+i)=A/(1+i) 03 A A/(1+i)3 B(1+i) -B=A ・ ・ ・ ・ ・ ・ rB=A ・ ・ ・ B=A/i n A A/(1+i)n ―――――――――――――――――― n年間で受け取った利息収入の流れの割引現在価値をBとする と, B=A/(1+i)+A/(1+i)2+A/(1+i)3+・・・・・・+A/(1+i)n=A/i マクロ経済学(Ⅰ) 10 債券価格と利子率 (コンソル券)債券の例 毎年A円を永続的に支払われるような債券(コンソル債券)を00 年(現在)に購入する場合を考えよう。 但し,市場利子率はiである。 n年間で受け取った利息収入の流れの割引現在価値 B=A/i もし,この債券の市場価格PBがBより低いとき,この債券が買わ れ,価格が上昇する。逆にこの債券の市場価格PBがBより高いと き,この債券を売られ,価格が下落する。結局,債券の価格PBはB 円に落ち着くことになる。つまり PB=B=A/i i↑ ⇒ B↓ , i↓⇒B↑ 債券価格と利子率は逆方向に動く。 マクロ経済学(Ⅰ) 11 債券価格と利子率 (コンソル券)債券の例 毎年A円を永続的に支払われるような債券(コンソル債券)を00 年(現在)に購入する場合を考えよう。 但し,市場利子率はiである。 PB=B=A/i i↑ ⇒ B↓ , i↓⇒B↑ 債券価格と利子率は逆方向に動く 例えば,額面1円のコンソル債券の場合, 利子率i=4%のとき,PB= A/i=1/(4%)=25円 利子率i=5%のとき,PB= A/i=1/(5%)=20円 もし利子率が4%のときに25円でこの債券購入したのであれば, 利子率が5%に上昇すると,この債券の価格は20円に下落し,5円 の損失(つまり20%の損失)が生じることになる。 マクロ経済学(Ⅰ) 12 債券価格と利子率 (コンソル券)債券の例 例えば,額面1円のコンソル債券の場合, 利子率i=4%のとき,PB= A/i=1/(4%)=25円 利子率i=5%のとき,PB= A/i=1/(5%)=20円 もし利子率が4%のときに25円でこの債券購入したのであれば, 利子率が5%に上昇すると,この債券の価格は20円に下落し,5円 の損失(つまり20%の損失)が生じることになる。 このケースでは,債券のインカム・ゲイン(金利収入)は4%であ るが,キャピタル・ロスが20%である。したがって,ネットの収益率 は-16%となる。 しかし,将来の利子率水準が予想しにくいので,将来の長期債 券の価格がどのように動くかは誰でも分からない。 長期の債券はリスクのある危険資産である。 マクロ経済学(Ⅰ) 13 株価と地価 株価 債券があらかじめ決められた額の支払いを約束する資産である のに対して,株は(不確実な)配当を株主に支払われる資産である。 いま,期待配当が毎期D円の株があるとしよう。 この株式の価格PSは PS=D/(1+i)+D/(1+i)2+ D/(1+i)3+・・・・・・=D/i 株の場合,iの不確実性(リスク)に加えて,Dの不確実性(リスク) も存在する。即ち,長期の債券よりさらにリスクの大きい資産であ る。「ハイリスク・ハイリターン」の原則より,株の利子率isは債券の 利子率iより高くなる。つまり 株主によって要求されるリス ク・プレミアム(risk premium) is=i+d リスク・プレミアムを考慮した株価の式: PS= D/is =D/(i+d) マクロ経済学(Ⅰ) 14 株価と地価 株価 リスク・プレミアムを考慮した株価の式: PS= D/is =D/(i+d) 成長する経済では,企業の利潤も配当も成長する。第1期目の 配当をD,その成長率をgとしたとき,毎期の配当 D 今期 1期目 D(1+g) 2期目 D(1+g)2 3期目 D(1+g)n n期目 成長する配当の請求権としての株価の式: PS=D/(1+is)+D(1+g)/(1+is)2+D(1+g)2/(1+is)3+・・・ =D/(is-g)=D/(i+d-g) 株価は①配当ないし利潤の水準D,②その成長率g,③利子率i, ④リスク・プレミアムd という4つの要因によって決まる。 マクロ経済学(Ⅰ) 15 株価と地価 株価 成長する配当の請求権としての株価の式: PS=D/(1+is)+D(1+g)/(1+is)2+D(1+g)2/(1+is)3+・・・ =D/(is-g)=D/(i+d-g) 株価は①配当ないし利潤の水準D,②その成長率g,③利子率i, ④リスク・プレミアムd という4つの要因によって決まる。 株価の水準を測る1つの尺度:PER(Price/Earnings Ratio) PER=PS/D=1/(i+d-g) d↑ → PER↓, d↓ → PER↑ g↑ → PER↑, g↓ → PER↓ PERが成長率に依存する。成長率が高い企業(国)Aと低い企業 (国)Bでは,たとえ今期の利潤Dが同じでも,Aの株価のほうが高 くなる。 マクロ経済学(Ⅰ) 16 株価と地価 株価 成長する配当の請求権としての株価の式: PS=D/(is-g)=D/(i+d-g) 地価 土地は,現在から将来にかけて地代Rを生み出す資産である。 株に比べてはるかに流動性が低い。地代収入も不確実性がある。 地価PLの決定は原理的に株価と同じである。つまり PL=R/(iL-g)=R/(i+d-g) 一般に資産価格は①配当ないし利潤の水準D,②その成長率g, ③利子率i,④リスク・プレミアムd という4つの要因によって決まる。 上記①~④の要因をファンダメンタルズ(fundamentals)という。 ファンダメンタルズに基づき資産価格が決まっているときに,「資産 価格は合理的に形成されている」という。そうではないとき,「資産 価格にバブル(bubble)が生じている」という。 マクロ経済学(Ⅰ) 17 資産市場の均衡 資産の分類: 「貨幣」 , 「債券(貨幣以外の資産を1つに集計する)」 「貨幣」と「債券」の違い: リスク 流動性 リターン ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 貨幣 | ない(安全資産) 高い 低い(預金金利) 債券 | ある(危険資産) 低い 高い(利子率=i) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注)以下理論的な考察を容易にするために,貨幣の利子はゼロであると仮定 する。 マクロ経済学(Ⅰ) 18 資産市場の均衡 ストック市場におけるワルラスの法則 貨幣市場において貨幣の実質需要量をL,貨幣の実質供給量を M/Pとする。 債券の実質総需要量をB、その実質総供給量すなわち実質残高 総額をBS とする。さらに貨幣をも含む総資産価値をWとすると、そ の実質総資産価値額はW/Pとなる。 貨幣と債券の実質資産総量L+BはW/Pに制約される。 貨幣の実質総供給量M/Pと債券の実質総供給量BSの和は実質 総資産価値額W/Pに等しい。 L+B=W/P≡BS+M/P 貨幣市場 貨幣の実質需要量L 需 要 実質総資産価値額 W/ P マクロ経済学(Ⅰ) + ≡ 貨幣の実質供給量M/P + 債券の実質供給量BS 債券の実質需要量B 債券市場 供 給 19 資産市場の均衡 ストック市場におけるワルラスの法則 L+B=W/P≡BS+M/P (L-M/P)+(B-BS)=0 貨幣の超過需要と債券需要の和は常にゼロとなり、貨幣市場における超過 需要は常に債券市場の超過供給と同義である。これをストック面での「ワルラ ス法則」という。これは貨幣市場と債券市場はコインの裏と表のようなもので, 実体は一つなのであることを意味する。 したがって、貨幣市場において均衡が成立するならば、債券市場においても 同時に均衡が成立することになる。つまり、 L=M/P ⇒ B=BS 貨幣市場 2つの資産からなる理論モデルにおいては,貨幣,債券いずれ 貨幣の実質需要量L 貨幣の実質供給量M/P か1つの資産市場の需給均衡が成立すれば,もう1つの資産市場も 需 実質総資産価値額 供 + + ≡ 要 給 需給均衡が成立するので,1つの資産の需給均衡のみを考えれば W/P S 債券の実質供給量B 債券の実質需要量B 十分である。以下では,貨幣市場の需給均衡を考えることにする。 マクロ経済学(Ⅰ) 債券市場 20
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