実証分析の手順 経済データ解析 2008年度 実証分析とは 経済学をはじめ、経営学、心理学などではさまざまな理論が提唱され ている。 また、これらの理論に加え、知識や経験をもとに、ある問題について の仮説を考えることができる。 実証分析とはこれらの理論や仮説が正しいかどうかを、 統計データを用いて検証する方法である。 実証分析の結果は、過去の理論の修正や新しい理論の構築に用い られる。 実証分析には回帰分析がよく用いられる。 さまざまな 理論・仮説 一致? 不一致? 統計データによる 分析結果 一致すれば理論や仮 説が正しいとみなされ、 不一致の場合には再 検討をおこなう。 実証分析の手順 モデルの定式化 <ステップ1> <ステップ2> モデルに含まれる変数と実際のデータの対応 <ステップ3> パラメータの推定と統計量の算出 <ステップ4> モデルの検討 <ステップ5> 不合格 合格 政策・予測への応用 <ステップ3>のパラメータの推定と統計量の算出というのは、Y=a+bXというモ デルを想定した回帰分析において、係数推定値a,bや決定係数などを算出する ことである。Excelの分析ツールで計算できる。 <ステップ1> モデルの定式化 分析目的が数式の形(これをモデルという)であらわされ ていることが実証分析の出発点である。 (例) 「消費が増大する原因には、所得の増大がある」 すなわち、 (所得↑ → 消費↑) を分析目的とするなら、 → Y(消費) = a + b X(所得) ↑ 結果 ↑ 原因 という形のモデルに定式化できる。 「消費が増大する原因には、所得の増大がある」 ⇒ 消費関数といわれる、経済理論の中の1つ これは消費関数という理論が、現実経済に適合しているかどうかを 検証する実証分析である。 このような理論がないか、探せない場合 ⇒ 自分の知識、経験にもとづいて仮説をたて、これをモ デルとして定式化する。 (例)死亡率は都道府県によって異なる。なぜこのような違いが 出るのか、その原因を分析したい。 都道府県別死亡率(人口千人あたり) (平成17年) (‰) 14.0 12.0 10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 0.0 北 青 岩 宮 秋 山 福 茨 栃 群 埼 千 東 神 新 富 石 福 山 長 岐 静 愛 三 滋 京 大 兵 奈 和 鳥 島 岡 広 山 徳 香 愛 高 福 佐 長 熊 大 宮 鹿 沖 海 森 手 城 田 形 島 城 木 馬 玉 葉 京 奈 潟 山 川 井 梨 野 阜 岡 知 重 賀 都 阪 庫 良 歌 取 根 山 島 口 島 川 媛 知 岡 賀 崎 本 分 崎 児 縄 道 川 山 島 死亡率を決定する理論が見つけられなかった場合、 自分で仮説を立てる。 ここでは、おもな原因として次の3つを考えた。 1 寿命 - 高齢者の多い県は死亡率が高いはずである 2 医療 - 医療機関が充実していれば死亡率は低いはずである 3 衛生 - 衛生状態が悪いと死亡率が高いはずである この仮説を定式化すると次のモデルになる。 Y(死亡率)=a+bX(寿命)+cZ(医療)+dW(衛生) 考えた3つの原因が3つの説明変数になる <ステップ2> モデルに含まれる変数と実際のデータとの対応 定式化されたモデルを分析するためには、モデル に含まれる変数に適当なデータを対応させる必要 がある。 最初に分析目的に応じて、2種類の統計データの うちどちらを用いるかを決める。 – 時系列データ データを時間の順序にならべたものであり、過去の変動から現 状を把握し、将来を予測するなどの目的に用いる。 – クロスセクションデータ ある1時点において何らかの属性に関してならべたものであり、 地域差などの現状を把握するために用いる。 次に各変数に対応する適当なデータを探す 死亡率の大小を表す原因として、「医療の充実」という原 因を考えたが、これを表すデータとしてどのようなものが あるか? – 医師数 – 病院数 – 病床数 などが候補になる。 これらの候補の中で、どのデータが最適であるかを考え てみる。 一方で、入手可能かどうかも重要な点となる。 ⇒ 以上のことから「人口10万対医師数」のデータを「医療 の充実」を表すデータとして用いる。 死亡率の分析では、各変数に次のようなデータ を対応させることにしよう。 Y(死亡率) - 人口千人あたりの死亡率 X(寿命) - 高齢者比率(65歳以上人口/総人口) Z(医療) - 人口10万対医師数 W(衛生) - し尿処理水洗化率 これらのデータは、代表的な統計資料集である 『日本統計年鑑』から得ることができる。 総務省統計局のホームページには日本統計年 鑑のすべての表がExcel形式で掲載されている。 <ステップ4> モデルの検討 モデルの変数に対応する適切なデータが見つ かったら、分析ツールで分析をおこなえば良い。 ⇒ これが<ステップ3> 分析ツールの結果で、最初に見るのは次の2点 – 係数推定値 - モデル定式化の際に想定した因果 関係と分析結果が一致するかどうか、その符号に着 目する。 – 決定係数および自由度修正済み決定係数 - 決定 係数が1に近ければ分析をおこなう意味があったとい えるが、0.6以下などの場合には、その他の説明変数 を加える必要があったと考えられる。また、重回帰の 場合には、自由度修正済み決定係数も見る。 ※ 係数推定値の符号の検討 さまざまな 理論・仮説 一致? 不一致? 高齢者比率の高い都道 府県ほど、死亡率は高い 一致 はずである。 ⇒ X(高齢者比率)の係数推定 値の符号は+となるはず。 人口10万対医師数の多 い都道府県ほど、死亡率 不一致 は低いはずである。 ⇒ Z(人口10万対医師数)の係 数推定値の符号は-となるは ず。 統計データによる 分析結果 分析ツールで分析をおこ なった結果、 X(高齢者 比率)の係数推定値の符 号は+となった。 分析ツールで分析をおこ なった結果、 Z(人口10 万対医師数)の係数推定 値の符号は+となった。 分析結果がよくない場合 – 定式化の際の誤り(元になった理論や各自の知識、 経験などが誤り) – データや分析手法の誤り という2つの原因が考えられる。 「係数推定値の符号が想定したものと異なる」 「決定係数(または自由度修正済み決定係数)の 値が小さい」場合には、モデルをどのように改良 すべきかを考えてみる。 ⇒ 実際の分析をおこなうときのことで、この講義のレポート としては、そこまで要求しない。
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