実証分析の手順

実証分析の手順
経済データ解析 2006年度
実証分析とは
経済学をはじめ、経営学、心理学などではさまざまな理論
が提唱されている。
また、これらの理論に加え、知識や経験をもとに、ある問
題についての仮説を考えることができる。
実証分析とはこれらの理論や仮説が正しいかど
うかを、統計データを用いて検証する方法である。
実証分析の結果は、過去の理論の修正や新しい理論の
構築に用いられる。
実証分析には回帰分析がよく用いられる。
実証分析の手順
モデルの定式化
モデルに含まれる変数と実際のデータの対応
パラメータの推定と統計量の算出
不合格 モデルの検討
合格
政策・予測への応用
モデルの定式化(1)
分析目的が数式の形(これをモデルという)であ
らわされていることが実証分析の出発点である。
(例) 「消費が増大する原因には、所得の増大がある」
(所得↑ → 消費↑) を分析目的とするなら、
→ Y(消費) = a + b X(所得)
↑
↑
結果
原因
という形のモデルに定式化できる。
モデルの定式化(2)
「消費が増大する原因には、所得の増大がある」
⇒ 消費関数といわれる、経済理論の中の1つ
これは消費関数という理論が、現実経済に適合してい
るかどうかを検証する実証分析である。
このような理論がないか、探せない場合
⇒ 自分の知識、経験にもとづいて仮説をたて、
これをモデルとして定式化する。
モデルの定式化(3)
(例)死亡率は都道府県によって異なる。なぜこのような違いが
出るのか、その原因を分析したい。
都道府県別死亡率(人口千人あたり) (平成15年)
(‰)
12.0
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
北 青 岩 宮 秋 山 福 茨 栃 群 埼 千 東 神 新 富 石 福 山 長 岐 静 愛 三 滋 京 大 兵 奈 和 鳥 島 岡 広 山 徳 香 愛 高 福 佐 長 熊 大 宮 鹿 沖
海 森 手 城 田 形 島 城 木 馬 玉 葉 京 奈 潟 山 川 井 梨 野 阜 岡 知 重 賀 都 阪 庫 良 歌 取 根 山 島 口 島 川 媛 知 岡 賀 崎 本 分 崎 児 縄
道
川
山
島
モデルの定式化(4)
死亡率を決定する理論が見つけられなかった場合、
自分で仮説を立てる。
ここでは、おもな原因として次の3つを考えた。
1 寿命 - 高齢者の多い県は死亡率が高い
2 医療 - 医療機関が充実していれば死亡率は低い
3 衛生 - 衛生状態が悪いと死亡率が高い
この仮説を定式化すると次のモデルになる。
Y(死亡率)=a+bX(寿命)+cZ(医療)+dW(衛生)
変数とデータの対応(1)
定式化されたモデルを分析するためには、モデル
に含まれる変数に適当なデータを対応させる必要
がある。
最初に分析目的に応じて、2種類の統計データの
うちどちらを用いるかを決める。
– 時系列データ
データを時間の順序にならべたものであり、過去の変動から現
状を把握し、将来を予測するなどの目的に用いる。
– クロスセクションデータ
ある1時点において何らかの属性に関してならべたものであり、
地域差などの現状を把握するために用いる。
変数とデータの対応(2)
次に各変数に対応する適当なデータを探す
死亡率の大小を表す原因として、「医療の充実」
という原因を考えたが、これを表すデータとして
どのようなものがあるか?
– 医師数
– 病院数
– 病床数
などが候補になる。これらの中で、最適かつ入手
可能なものとして、人口10万対医師数を用いる。
変数とデータの対応(3)
死亡率の分析では、各変数に次のようなデータ
を対応させる
Y(死亡率) - 人口千人あたりの死亡率
X(寿命) - 高齢者比率(65歳以上人口/総人口)
Z(医療) - 人口10万対医師数
W(衛生) - 公共下水道計画実施率
これらのデータは、代表的な統計資料集である
『日本統計年鑑』から得ることができる。
総務省統計局のホームページには日本統計年
鑑のすべての表がExcel形式で掲載されている。
モデルの検討(1)
モデルの変数に対応する適切なデータが見つ
かったら、分析ツールで分析をおこなえば良い。
分析ツールの結果で、最初に見るのは次の2点
– 係数推定値 - モデル定式化の際に想定した因果
関係と分析結果が一致するかどうか、その符号に着
目する
– 決定係数および自由度修正済み決定係数 - 決定
係数が1に近ければ分析をおこなう意味があったとい
えるが、0.6以下などの場合には、その他の説明変数
を加える必要があったと考えられる。また、重回帰の
場合には、自由度修正済み決定係数を見る。
モデルの検討(2)
分析結果がよくない場合
– 定式化の際の誤り(元になった理論や各自の知識、
経験などが誤り)
– データや分析手法の誤り
という2つの原因が考えられる。
「係数推定値の符号が想定したものと異なる」
「決定係数(または自由度修正済み決定係数)の
値が小さい」場合には、モデルをどのように改良
すべきかを考えてみる。