(6)証券化のデメリット・問題点 • ① • (特にタイプ①の証券化にとって) – 証券化の規模が小さい、継続性がそれ程ない場合 – 証券化対象資産の選定・分析のためのコスト、 SPVの設立・運営コスト、キャッシュフロー管理のた めのシステムの設計・構築コスト、信用補完のコス ト、仕組みのアレンジメントのためのコスト、格付費 用 1 • ② • (特にタイプ②の証券化にとって) – オリジネーターは最終的リスクを負わないので、 – アレンジャーも必ずしもオリジネーターの状況を把握できてお らず、 また最終的リスクを負わないので、 – リスクを判断する格付会社も最終的リスクを負わず、 – にとって、複雑な証券化商品は リスク判断が難しい – 今回のサブプライム問題でこうした問題が深刻な形で現れた 2 ・サブプライムRMBS格付の急速な引下げ 発行後1~2年の証券化商品について大量かつ大幅な格下げが生じたことは、 当初の格付に問題があった ・2005年以降に発行されたサブプライムRMBSの2007-08年2月の間の格下げ状況 IMF. Global Financial Stability Report April 2008 p.61 3 格付投資情報センター『格付けQ&A』日本経済新聞社 2001 4 • サブプライムRMBSの格付の問題点 – 当初の推定損失率が低過ぎた←データに基づく – データの信頼性 • サブプライム住宅ローンは新しい商品であるため、データ期間が短い • データの期間は住宅価格上昇の時期であり、損失率が小さい • 近年は虚偽の情報に基づく貸出(オリジネーターのモラルハザード) が横行 • 今後の改善策 – 利益相反の防止:顧客対応部門と格付付与部門との分離の 徹底 – 格付ランク以外の情報の提供 • 変動性スコア:格付が大幅に変動する可能性のランク付け • 損失感応度:損失予想変化に対して格付がどれだけ変化するか 5 • 証券化した後にどれだけのリスクがオリジネーター やアレンジャーに残っているかが分かりにくくなる可 能性 • SIV: Structured Investment Vehicle – 銀行によって設定・運営されるが、オフ・バランスであり、 サブプライム証券化商品を中心に投資するファンド – SIVが行き詰った後は、ほとんどのケースで事後的に銀 行がオン・バランス化 → 当初のオフ・バランスの状態で は銀行のリスクが見えない 6 バランスシートのスリム化 証券化前資産保有者 (オリジネーター)のB/S 証券化後資産保有者の B/S 負債 資産 負債 資産 ABS(オリジネーター持 自己資本 負債の圧縮 分) 証券化対象 資産 自己資本 SPCのB/S 証券化対象 資産 ABS (投資家持分) ABS(オリジネーター持 分) 7 • ④ – 特にタイプ③の商品に関連して:ABSCDO、 CDO-squared – 投資家が利回りの高さと格付だけに注目する状 況での危険性 8 ・ サブプライム住宅ローンの証券化RMBS(住宅ローン担保証券) ・RMBSを再度証券化した CDO(債務担保証券):ABSCDO IMF. Global Financial Stability Report April 2008 p.78 9 (7)証券化の今後 • 2007年後半から証券化活動は急ブレーキ • 証券化は金融の中の一時的現象で、持続的に存続しうるも のではないのか? • ⇒ – サブプライムを巡る証券化の問題点噴出は、行き過ぎたサブプライム 証券化に特有という面が大きい • 比較的新しい金融取引・商品に問題が発生し、一時的に市場が急収縮 するが、その後は発展する、という例(1990年代初頭の米国のジャンク・ ボンド市場)は金融の歴史の中ではよくあること • 複雑で不透明な証券化商品は、今後ほとんど取引されない可能性が大 • 問題点の克服 – オリジネーターの規制・監督強化・リスク負担、格付けの適正化、アレ ンジャーの報酬体系の適正化・リスク負担、銀行の証券化関連取引 への自己資本比率規制の強化 10 ・世界の証券化商品発行額推移:2007年後半から急落 Bank of England Financial Stability Report April 2008 p.6 11 ○証券化の発展 ・米国の証券化比率の推移:証券化された貸出残高/金融機関貸出残高 ローンの証券化比率 45% 40% 35% 30% 25% 20% 15% 10% 5% 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1970 1972 1974 1976 1978 0% 12 ・各種資産の証券化:米国 各種ローンの証券化比率推移 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 個人住宅ローン 消費者信用 2006 2004 2002 2000 1998 1996 1994 1992 1990 1988 1986 1984 1982 1980 1978 1975 0% 商業不動産ローン 企業向貸出 証券化比率=証券化された資産/資産総額 13 ・米国のジャンク・ボンド市場は、1990年代初頭に急収縮するが、 その後回復して、長期的には発展した。 ・米国の社債発行額の推移:単位10億ドル 日本証券経済研究所『図説アメリカの証券市場2005年版』p.59 14 ○日米個人金融資産の比較 日本1980 2007 米国1980 2007 預金 61% 48% 33% 16% 債券 3% 3% 10% 10% 株式 7% 6% 23% 15% 投資信託 1% 5% 3% 17% 年金 3% 11% 22% 34% 保険 11% 15% 5% 3% 15 ○ヨーロッパ諸国の家計金融資産保有の推移 ◎イギリス 1980 2006 ◎ドイツ 1980 2006 預金 43% 27 預金 64 34 債券 6 1 債券 13 11 株式 14 11 株式 6 13 投資信託 1 4 投資信託 0 12 生保・年金 37 57 生保・年金 18 30 預金 67 30 債券 10 1 株式 13 21 投資信託 3 9 生保・年金 7 38 ◎フランス 16 ○第3章参考文献 • 福光・高橋編『ベーシック証券市場論』同文舘出版2007第1章 • 大垣尚志『ストラクチャード・ファイナンス入門』日本経済新聞社1997 • 遠藤幸彦「証券化の歴史的展開と経済的意義」『フィナンシャル・レ ビュー』1999.6月号、大蔵省金融財政研究所 • ケンドール=フィッシュマン『証券化の基礎と応用』東洋経済新報社 2000 • 大橋和彦『証券化の知識』日経文庫2001 • 井出保夫『証券化がよく分かる』文春新書2003 • 北原徹「ストラクチャード・ファイナンスと証券化の展開」『立教経済学 研究』2002年6月号 • 北原徹「金融システムの市場化:アメリカと日本」『月刊資本市場』 2007年6月号、資本市場研究会 • 春山昇華『サブプライム問題とは何か』宝島社新書2007 • みずほ総研『サブプライム金融危機』日本経済新聞社2007 • 大澤和人『サブプライムの実相』商事法務2007 • 江川由紀雄『サブプライム問題の教訓』商事法務2007 17 第4章.ヘッジファンドとサブプライム金 融危機 ・ヘッジファンド: 米国:投資家が100人以下or投資家が499人以下です べて500万ドル以上の運用資産保有 • 2005年より登録制あり – 資産規模:1.5兆ドル(2006年) – ファンド数:10000、ソロスのクウォンタムファンド、LTCM • 創設者が自らの財産をつぎ込んでファンド運用 • ファンドマネージャーの報酬は業績連動型 • ・ 18 ・ヘッジファンドの資産規模拡大:1990年代後半以降急拡大 2008年後半より急減 Bank of England Financial Stability Report April 2007 p.36 19 ・市場全体の相場動向に左右されずに一定水準の収益率 (絶対リターン)を目指す運用 大塚明夫・神谷智『オルタナティブ投資』金融財政事情研究会 20 ・ヘッジファンドの投資家: Bank of England Financial Stability Report April 2007 p.36 21
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