ハルリンドウ

ハルリンドウにおける
繁殖ファクターの個体間変異の解析
19117059
野口 智
背景・目的
本調査地において,
ハルリンドウの存在はずっと確認されていなかった
最近になって突如個体群が出現し始めた
「ハルリンドウ」 … 里山・里地の生態系評価種と言われ
ている
評価種の復活
湿地環境の改善?
調査対象
ハルリンドウ
(Gentiana thunbergii )
日当たりのよい湿地に生える,雄性先熟の虫媒花
種子は微細で発芽率が悪い
愛知県では水辺の環境指標種に選定されている
一部の都道府県によっては絶滅している
種子寿命に関する文献情報がないので,埋土種子に発芽能力が
あるかは現在のところ不明である
方法
場所:愛知県立芸術大学内の湿地
時期:4月下旬~6月上旬(花),6月上旬~7月上旬(種子)
方法:①1個体ずつマーキングをする.
②個体データをそれぞれ電子ノギスで測定する.
③種子ができ,果実が開いたら茎ごと採取する.
④採集した種子を低温で乾燥させ,成熟種子・
未熟種子に分けて種子数をカウントする.
+α 発芽実験
個体データの測定位置
① 花冠の直径
② 裂片の太さ
①
③ がくの長さ
②
④ 花茎の太さ
⑥
⑤ 花茎の高さ
⑥ 雄性期か雌性期か?
③
④
⑤
結果1) 花サイズのばらつき
花冠の直径を以下のように分類・比較したヒストグラム
30
10.40 ± 4.453
25
a) 全個体
b) 果実を採取できた個体
c) 種子を採取できた個体
個体数
20
15
10
13.31 ± 4.969
13.76 ± 4.932
5
0
花冠の直径 [mm]
直径が12.5mm以上の個体では,ほぼ結実して種子が採取できた.
結果2) 花サイズと種子数の関係
花冠の直径と合計種子数には正の相関がみられた(r = 0.6791).
花冠の直径・裂片の太さ・花茎の高さ・結実率と成熟種子数のそれぞ
れの関係でも正の相関がみられた.
120
r = 0.6791
P < 0.001
合計種子数
[個]
100
80
60
40
20
0
0.0
10.0
20.0
花冠の直径 [mm]
30.0
結果3) 開花時期調査
開花時期が早いと,比較的
直径が大きい
種子数が多い
結実率が高い
…ことが示された
30
120
100
種子数[個]
花冠の直径[mm]
25
20
15
10
5
0
4/22
4月
成熟種子数
合計種子数
80
60
40
20
5/2
5/12
5/22
5月
6/1
0
4/22
5/2
4月
5/12
5/22
5月
6/1
果実採取できなかった個体(59個体)
果実・種子採取できた個体(34個体)
果実採取したが種子採取できなかった個体(5個体)
4/26
4月
5/6
5/16
5月
5/26
6/5
6/15
6/25
6月
直線は1頭花が開花していた期間を表わしている.
直線の並びは個体番号順ではなく,開花・採取が早い順である.
7/5
7/15
7月
結果4) 発芽率
発芽率は全体で約2%に止まった(種子882個中,18個が発芽)
発芽に要した日数はどの個体も10日以上であった.
発芽した個体数が極端に少ないが,比較的花サイズが大きいほど発芽
しやすい傾向がみられた.
0.120
0.100
発芽率
0.080
0.060
0.040
0.020
0.000
0.0
10.0
20.0
花冠の直径 [mm]
30.0
考察1) 花弁サイズと種子数について
植物の花弁サイズの影響について,
「花粉持ち去り量」・「媒介者訪問数」
との間には,多くの論文で正の相関関係が観察されている.
(Steven G et al. 1995 : 菊澤 1995 : 牧野 2009)
ところが, 「種子数」
との間については正比例した例も確認されているが,
明確な関係は認められていない.
ハルリンドウには
今回の調査の結果
「花サイズ」と「種子数」
の間に相関関係が認められた
考察2) 花サイズのばらつき
花冠の直径の
ばらつき発生
遺伝的多様性 大
種子数
多
近交弱勢 大
(遺伝的多様性 低)
種子数
少
今回の調査で,全体的に種子数は少なかった
遺伝的多様性が・・・
将来的に
低い
消失
高い
おわりに
調査地において,
個体数を100以上確認
ハルリンドウの定着
種子の持ち込みや移植により
単純に「見かけの植生」
中身は伴っていなかった
湿地環境の改善
環境指標種の復活
というわけではなかった
ご清聴ありがとうございまし
た.
120
r = 0.5859
P < 0.001
100
r = 0.4935
P < 0.001
100
80
80
成熟種子数 [個]
成熟種子数 [個]
120
60
60
40
40
20
20
0
0.0
10.0
20.0
0
30.0
0.0
1.0
花冠の直径 [mm]
成熟種子数 [個]
100
120
r = 0.5650
P < 0.001
5.0
r = 0.5900
P < 0.001
100
成熟種子数[個]
120
2.0
3.0
4.0
裂弁の太さ [mm]
80
80
60
60
40
40
20
20
0
0
0.0
50.0
100.0
花茎の高さ [mm]
150.0
0
0.2
0.4
0.6
結実率
0.8
1
考察3) 個体サイズのばらつき
近交弱勢の影響があると…
環境条件によって個体サイズにばらつきが発生
花粉の持ち去り量や訪花昆虫の挙動に影響が生じる
結果
比較的大きな個体が優先的に受粉・種子生産できた
将来的に,調査地内の個体群には受粉の段階で選択圧がかかり,
遺伝的に個体サイズの大きいものだけが存続する
しかしながら,
一度失われた遺伝的多様性は復元することができない
個体サイズの大きいものが増加し効率的に種子生産ができるようになっても,
それは集団全体としての遺伝的多様性を低下させることにつながる