(5)株式市場の役割 ①資金調達の場 • ベンチャー企業は、株式市場を通じて活発 に資金を調達 • 成熟企業は、ほとんど株式市場を通じて資 金を調達していない。 • 成熟企業は、近年かなり大量に自社株買 いを行っている 1 IPO: Initial Public Offering株式新規公開 日本証券経済研究所『アメリカの証券市場』p.65 2 ・ ・1995年から2006年までのデータ FRB : Flow of Funds Accounts of the United States 3 • 株式による資金調達は、マイナス • 株式による資金調達 • = – ②の内容:自社株買い、現金によるM&A • アメリカの企業全体を見ると、①より②が大きい 4 ・ 日経07.10.11. 5 ②株式に対する流動性の付与 • 株式市場(取引所)の存在により、株式の現金化が 容易になっている • 株式市場(取引所)が存在しなければ、一旦取得し た株式を売却・現金化することは非常に困難 ⇒ いつでも売買できる機会を提供している。 ・ ・ネット証券会社もコストの面で株式の流動性を高めている。 ・資産の特性:リターン、リスク、流動性 6 ③株価のシグナル機能 • 株式市場(取引所)の機能: – • cf.前期講義第2章「情報生産」 – 株価:数多くの投資家の意見を集約(公正)。現在 の株価が割高と考える投資家は売り、割安と考え る投資家は買い、そうした意見を集約して株価が 決定されている(適正)。 • 投資家に対する情報提供 – 投資判断上重要な情報を投資家に提供 7 • 企業に対する情報提供 – 投資・事業計画、経営戦略、現行の経営陣の質に 対する市場の判断を示す – この企業の事業リスクに対する市場の判断(資本 コスト)→投資・事業計画の基礎的判断材料 • 資本コスト:株主価値を引き上げるために必要最低限の 事業投資(の期待)収益率 • 事業リスクの大きい(小さい)企業は、資本コストが大き い(小さい) • cf. 福光・高橋『ベーシック証券市場入門』第6章、 • 井出・高橋『ビジネス・ゼミナール経営財務入門』第6章 8 ④企業支配権の移転を促進 • 株式市場で株を買い集めることで、企業の支配権を 獲得する(or影響を及ぼす)ことができる。 – TOB(株式公開買付)、村上ファンド • 株式交換制度を利用することによって企業の買収・ 合併が容易になる – 株式交換: • 国有企業の民営化 – 国有企業の支配権を株式市場を通じて民間に移転 9 ○シティによる株式交換を使った 日興の完全子会社化 • 経緯 – 06年12月:日興コーディアル・グループの不正会 計問題発覚 – 07年4月:シティと日興との提携関係をベースに、 シティが日興にTOBをかけ、56%の株取得 • TOB 価格1700円 • 現時点ではシティは日興株の68%を保有 10 – 07年10月2日:シティ、株式交換方式による日興完全子 会社化を発表 • 完全子会社化によるシティグループ全体の総合的戦略の追求 • 日興株1株1700円と見なし、それと同等のシティ株と交換 • 10月2日の日興株価は1462円だから、プレミアムは16% • 今後の展開 – 07年10-12月:シティ、東京証券取引所一部に上場予定 – 12月:日興の臨時株主総会:シティの完全子会社化を 決定 – 08年1月:シティ、日興を完全子会社化する • 日興の上場廃止 11 日経07.10.3. 日経金融07.10.3. 12 日経07.10.3. 13 ⑤コーポレート・ガバナンス機能 • 株価は、企業の投資計画、経営戦略、現行 の経営陣の質に対する投資家の判断を示す • 企業が買収される危険性 – 株価低迷は買収される危険性を高める→経営陣 に対する株式市場からの強い圧力 • 特にPBR(株価純資産倍率)が1以下といった企業は買 収の対象になりやすい – 株式の非公開化:ワールド05.11. ポッカ05.12. • 株式市場からの資金調達の必要性が低い企業、株式 市場からの経営に対する圧力・関与を避ける、企業買 収の危険性を避ける 14 ○06年の日航の増資と株価急落 • 日航増資の経緯 – 06年6月28日:株主総会、赤 字・無配、西松氏社長就任 – 6月30日:7億株の増資発表 (発行済株式が4割増)、株 主総会で説明なし – 7月19日:公募価格211円に 決定(当日終値220円より 4%低い) – 7月27日:1386億円の払い 込み完了(当初の調達予定 は2000億円) 日経06.10.13. 15 • 株価急落を引き起こした要因 • ①直前の株主総会での説明なしでの、大幅増資 による株式希薄化 – 株式希薄化:株数増大による株式価値低下(1株当りの 利益や純資産の減少) • ②事業立て直し策が不明確な中での大規模増資 – 調達資金の使途:日航は航空機購入と説明、転換社債 1000億円の償還資金として必要となる可能性もある – 赤字(06年3月期472億円)からの脱却策、事業リストラ 策が不明確 16 ⑥資本の集中とリスクの分担 • cf.前期講義第3章「リスクの配分・管理」(1)「株式会社制度と事業リ スクの分担」 • 株式会社制度 – 株式の発行を通じて幅広く事業に必要な資本を集中、事業 リスクを多くの株主間で分担 • 多くの投資家から資本を提供(リスクを負担)してもら うには、流動性のある株式市場②が必要 • 17 • リスク負担の裏側:ハイリターンの投資対 象を投資家に提供する(という株式市場の 役割) • 資本集中とリスク分担という制度の矛盾: – 幅広い投資家による事業のリスク分担 – →所有と経営の分離 – →企業への出資者である株主の利益を実現 するよう、本当に企業が管理・運営されるの か? – →コーポレート・ガバナンスの問題 18 ○リスク分担の促進の例: • IPOにおける企業家保有株の売出し – 売出し:大株主が保有する既発行株を不特定多数の投資 家に売却し、取得させること – 新規株式公開IPO時の売出し株と新規株式発行額 • 2004年: 1兆億円と4200億円 • 2005年: 5100億円と4000億円 • 2006年:9260億円と5950億円 – 新規株式発行よりも売出の金額が大きい • 国有企業の民営化 – 国有企業株の売り出し:多くの株主に事業リスクを分担し てもらう • NTT、JR、郵政 19 ○第2章参考文献 • 福光・高橋編『ベーシック証券市場論』第3 章、6章、同文舘出版 • 井出正介・高橋文郎『ビジネスゼミナール 経営財務入門』日本経済新聞社、第4章 • 日本証券経済研究所『詳説:現代日本の 証券市場2006年版 』日本証券経済研究所 • 日本証券経済研究所『図説:アメリカの証 券市場2005年版』日本証券経済研究所 20 ○第1章参考文献 • 福光・高橋編『ベーシック証券市場論』同文舘出版2007第 1章 • 遠藤幸彦「証券化の歴史的展開と経済的意義」『フィナン シャル・レビュー』1999.6月号、大蔵省金融財政研究所 • 井出保夫『証券化がよく分かる』文春新書2003 • 大垣尚志『ストラクチャード・ファイナンス入門』日本経済新 聞社1997 • 北原徹「ストラクチャード・ファイナンスと証券化の展開」 『立教経済学研究』2002年6月号 • 北原徹「金融システムの市場化:アメリカと日本」『月刊資 本市場』2007年6月号、資本市場研究会 • ケンドール=フィッシュマン『証券化の基礎と応用』東洋経 済新報社2000 • 大橋和彦『証券化の知識』日経文庫2001 21
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