(6)株式市場の役割 ①資金調達の場 • ベンチャー企業は、株式市場を通じて活発に資金を 調達 • 成熟企業は、ほとんど株式市場を通じて資金を調達 していない。 • 成熟企業は、近年かなり大量に自社株買いを行っ ている ・ ・非金融法人企業の資金調達: 2005~2007年までのデータ(単位10億ドル) FRB : Flow of Funds Accounts of the United States • 株式による資金調達は、マイナス • 株式による資金調達 • = – ②の内容:自社株買い、現金によるM&A • アメリカの企業全体を見ると、①より②が大きい ・ 日経07.10.11. ②株式に対する流動性の付与 • 株式市場(取引所)の存在により、株式の現金化が 容易になっている • 株式市場(取引所)が存在しなければ、一旦取得し た株式を売却・現金化することは非常に困難 ⇒ いつでも売買できる機会を提供している。 ・ ・ネット証券会社もコストの面で株式の流動性を高めている。 ・資産の特性:リターン、リスク、流動性 ③株価のシグナル機能 • 株式市場(取引所)の機能: • cf.前期講義第2章「情報生産」 – 株価:数多くの投資家の意見を集約(公正)。現在 の株価が割高と考える投資家は売り、割安と考え る投資家は買い、そうした意見を集約して株価が 決定されている(適正)。 • 投資家に対する情報提供 – 投資判断上重要な情報を投資家に提供 • 企業に対する情報提供 – 投資・事業計画、経営戦略、現行の経営陣の質に 対する市場の判断を示す – この企業の事業リスクに対する市場の判断(資本 コスト)→投資・事業計画の基礎的判断材料 • 資本コスト:株主価値を引き上げるために必要最低限の 事業投資(の期待)収益率:金利r+リスクプレミアムδ • 事業リスクの大きい(小さい)企業は、資本コストが大き い(小さい) • cf. 福光・高橋『ベーシック証券市場入門』第6章、 • 井出・高橋『ビジネス・ゼミナール経営財務入門』第6章 ④企業支配権の移転を促進 • 株式市場で株を買い集めることで、企業の支配権を 獲得する(or影響を及ぼす)ことができる。 – TOB(株式公開買付)、投資ファンド • 株式交換制度を利用することによって企業の買収・ 合併が容易になる – 株式交換: • 国有企業の民営化 – 国有企業の支配権を株式市場を通じて民間に移転 ○シティによる株式交換を使った 日興の完全子会社化 • 経緯 – 06年12月:日興コーディアル・グループの不正 会計問題発覚 – 07年4月:シティと日興との提携関係をベースに、 シティが日興にTOBをかけ、56%の株を新規に 取得 • TOB 価格1700円 • シティの日興株保有比率は68% – 07年10月2日:シティ、株式交換方式による日興完 全子会社化を発表(三角合併方式) • 完全子会社化によるシティグループ全体の総合的戦略 の追求 • 日興株1株1700円と見なし、それと同等のシティ株と交 換 – 但し、シティ株価が22ドルを下回れば合意は失効 • 10月2日の日興株価は1462円だから、プレミアムは 16% 日経07.10.3. – 11月5日:シティ、東京証券取引所に上場 – 12月19日:日興の臨時株主総会:シティの完 全子会社化を決定 – 08年1月18日:株式交換条件決定:日興株1 株=シティ株0.602株 – 1月23日:日興の上場廃止 日経08.01.15. ⑤コーポレート・ガバナンス機能 • 株価は、企業の投資計画、経営戦略、現行 の経営陣の質に対する投資家の判断を示す • 企業が買収される危険性 – 株価低迷は買収される危険性を高める→経営陣 に対する株式市場からの強い圧力 • 特にPBR(株価純資産倍率)が1以下といった企業は 買収の対象になりやすい – 株式の非公開化:ワールド05.11. ポッカ05.12. • 株式市場からの資金調達の必要性が低い企業、株式 市場からの経営に対する圧力・関与を避ける、企業買 収の危険性を避ける ・Citigroup の株価下落とコーポレート・ガバナンス ・07年10月:シティ、07年7-9月期サブプライム関連で60億ドルの損失発表 ・リーマンブラザーズの株価推移 • シティのリストラ策 – 08年1月:4.5万人規模の人員削減を検討中(全従業員 37万人の12%) • 6月:投資銀行部門で1割に相当する6500人の人員削減 – 3月6日:住宅ローン債権450億ドル削減、店舗網の整理・ 統合 – 4月8日:LBO融資(M&A向け)債権120億ドルを投資ファ ンドに売却 – 4月17日発表:傘下のリース・商業金融会社をGEキャピ タルに売却(100億ドルの資産圧縮、1000人程度の人員 削減) – 5月9日発表:非中核事業(住宅ローン関連、証券化等)を 縮小し、資産4000億ドル売却(総資産の18%) • 日本では、消費者金融から撤退 • コーポレート・ガバナンス – 07年11月4日:チャールズ・プリンス会長兼最高 経営責任者CEO、経営悪化の責任を取り辞任 – 米地方公務員組合等の有力株主:個人部門と法 人部門の分社化、外部資本を仰ぐなどの会社分 割の要求 • シティの増資策 – 07年11月:75億ドル(アブダビ投資庁) – 08年1月:154億ドル(クウェート投資庁、シンガ ポール政府投資公社GIC等) – 5月:45億ドルの普通株公募増資 – 9月までにトータルで400億ドル超の資本増強 ⑥資本の集中とリスクの分担 • cf.前期講義第3章「リスクの配分・管理」(1)「株式会社制 度と事業リスクの分担」 • 株式会社制度 – 株式の発行を通じて幅広く事業に必要な資本を集 中、事業リスクを多くの株主間で分担 • 多くの投資家から資本を提供(リスクを負担)し てもらうには、流動性のある株式市場②が必要 • • リスク負担の裏側:ハイリターンの投資対 象を投資家に提供する(という株式市場の 役割) • 資本集中とリスク分担という制度の矛盾: – 幅広い投資家による事業のリスク分担 – →所有と経営の分離 – →企業への出資者である株主の利益を実現 するよう、本当に企業が管理・運営されるの か? – →コーポレート・ガバナンスの問題 ○リスク分担の促進の例: • IPOにおける企業家保有株の売出し – 売出し:大株主が保有する既発行株を不特定多数の投資 家に売却し、取得させること – 新規株式公開IPO時の売出し株と新規株式発行額 • • • • 2004年: 1兆億円と4200億円 2005年: 5100億円と4000億円 2006年: 9260億円と5950億円 2007年: 1460億円と1465億円 – 新規株式発行よりも売出の金額が大きい • 国有企業の民営化 – 国有企業株の売り出し:多くの株主に事業リスクを分担し てもらう • NTT、JR、郵政 ○第1章参考文献 • 福光・高橋編『ベーシック証券市場論』第3 章、6章、同文舘出版 • 井出正介・高橋文郎『ビジネスゼミナール経 営財務入門』日本経済新聞社、第4章 • 日本証券経済研究所『詳説:現代日本の証 券市場2006年版 』日本証券経済研究所 • 日本証券経済研究所『図説:アメリカの証券 市場2005年版』日本証券経済研究所
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