創発認知からみる 発達と発達研究 鈴木 宏昭 青山学院大学 思考の研究史 形式的アプローチ (60-70) 演繹、Piaget、弱解法 ・知識の量 ・脱文脈 (analogy) ・内と外 知識依存のアプローチ (70-80) 初心者-熟達者比較 問題理解とスキーマ ・文脈 ・意味 ・非力 創発認知 (80-90) 生物学指向 (脳、進化、PDP) 創造的認知 2 認知のダイナミズム 古典的アプローチ コンピュータメタ ファー – – – – 固定した表象 単一モジュール 中央制御 内部プログラム 創発アプローチ 生物メタファー – – – – 生成性(generative) 冗長性(redundant) 局所性(locality) 開放性(open system) 文献 鈴木宏昭 (2003) 認知の創発的性質: 生成性、冗長性、局所 相互作用、開放性. 人工知能学会誌,18, 376 - 384. 3 生成性 表象は断片的なものであり、利用時の状況特 性に応じて動的に組織化される。 Transient – 永続的に、堅固な表象が存在しているわけではない (Change Blindness) Partial – 大きく、深い構造が安定的に存在するわけではない (類推) Online – 再生時の状況のプレッシャーを混みにした「記憶」 (false memory) 4 状況の与える手がかり 想起された 経験 内部の記憶構造 冗長性と重奏性 複数の処理モードが同時、並列的に動作 している。 感情と認知 – Somatic Marker:身体と結びついた感情 状態が認知のためのフィルタとして働く。 – カプグラ – 洞察と身体、感情 6 発達における冗長性と重奏性I 語意獲得における「心の理論」の利用 (Tomasello) – 意図や表情(感情)情報を利用して、名詞の指示対 象を特定する。 – 言語の制約を用いないわけではない。 Overlapping Waves Theory (Siegler) – 保存、等式の理解において、常に複数の方略が利 用可能(ただしdominantな方略はある) – 特定の状況下でdominantな方略が年齢とともに推 移する。 7 Overlapping Waves Theory 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 1 2 3 4 5 8 発達における冗長性と重奏性 II Gesture-speech mismatch (Goldin-Meadow) – 自らの反応の言語的説明と、そのときのジェス チャーが一致しないことがある。 – ジェスチャーは潜在的に利用可能な知識を表現して いる。 – ミスマッチが起きることどもは、学習が迅速に進む。 Gricean Children (Siegal) – 当たり前のことを二度聞かれることで、反応を変え てしまう。 9 局所性 複雑な行動は複雑な内部原理に従うのか。 いろいろな認知的資源は中央から制御されね ばならないのか。 行動の説明と、行動を生み出す内部機構の混 同 中央制御プログラムが行動、認知を支配してい るわけではない。 中央制御は数ある制御の中の一つにすぎない。 10 感覚-運動協応:走光性 光 光 + + - 光センサ モータ 光に向かうための内部機構を持っているわけではない。 11 環境の地図(表象)を持っているわけでもない。 発達における局所性 DSA:変動性を持ったコンポーネントからなるシ ステムが外界との相互作用を通して、自己組織 化を繰り返す。 Soft Assembly (Thelen) – 潜在的に利用可能な複数の基本的スキル – 外界の特性 – 身体特性(体重、筋力等) の組み合わせにより、発達における複雑なパ ターンが創発される。 12 古典的発達心理学 認知的発達心理学 内 部 表 象 ( ス キ ー マ ) ??? 概念 外界の表象 創発認知アプ ローチ 界外 内的 コンポーネント 13 観察された行動 開放性 知性は外界とのよりよきインタラクションを求め て、発達、進化してきた。 「知性」の中に「外」を前提として組織化されて いる。 外の制約を巧みに使う傾向性 – 白水ほか:折り紙 – Zhang & Norman: 分散問題空間 認知を働きやすくするための外の組織化 – Kirsh: Epistemic action 14 何個 何を どこ 移動 移動 に移 動 オレ ンジ 逆ハ ノイ コー ヒー 外 内 内 外 外 内 外 外 外 15 自らの行為による課題の変化 16 発達における開放性 親の働きかけ – Elman: Starting with Small 子供の反応に対する大人の反応 – 子供にGesture-speech mismatchがあると、 大人はそうでないときとは異なる対処をする。 文化ー社会的制約 – 波多野・稲垣 17 認識の再検討:どん欲な認知 使えるものは何でも使う。 – – – – 低次のものでも 保証のないものでも 外にあるもの 頭にあるもの 中央制御プログラムもこうしたリソースの一つ にすぎない。 典型的状況下で、上記資源の使い方を調整す るようになること → 発達? 18 「発達」概念の再検討 1つの行為に1つの原因(内的知識、制約)? 1つの段階には1つの認知のモードが存在すると仮定 する。 地点Aから地点Bしかないのか 実際には変異が数多くあり、たとえば非保存児であっ ても10題課題を行えば1,2度程度は正解する。 語彙獲得の制約でも同様であり、制約を使えるようにな る前でも、すべての試行で制約を逸脱するわけではな い。 19 発達理論の再検討:「理論」 「理論」と呼ばれる知識体系は存在するだろう。 しかし認識を構成する1つの要素にすぎない。 経験的知識の基礎づけ(揺らぎを認めない)? モジュール? 断絶を強調しすぎるのでは(State-based vs. Process-based) 断絶がないというアプローチをとると生得論に どんどん近づく。 20 発達理論の再検討:「進化」 命題内容の遺伝はかなり疑わしい。 生存と生殖のプレッシャーが加わる領域 だけが関与するはず。 簡単に領域を越えられるのか? 21 発達理論の再検討:「制約」 「制約」と呼ばれる知識は存在する or 制約という形で知識をとらえることは有効。 ただしその作用は弱く(Booleanではない)、「好 み」、「偏り」程度の作用 研究課題 – 制約の動作の確率的性格 – 制約の相互作用研究の必要性 22 発達理論の再検討:「コネクショ ニズム」 制約(知識)の非線形の相互作用を自然 に表現する。 各制約の複雑で、連続的な影響を扱うこ とができる。 23 発達研究法の再検討:誤差の 意味 一貫した反応はきわめてわずかで、様々 な変動、ゆらぎが存在する。 これらは誤差として取り扱われる。 (きれいな実験=ゆらがせない状況設定?) 統計上、誤差は行為者にとっても誤差な のだろうか。 24 発達研究法の再検討:ゆらぎ 変動、揺らぎがあるのが人間(当然子供 も) 揺らぎ自体をメインにする研究の必要性 (介入、繰り返し、長期研究等) ZPD – 最高のパフォーマンスとふつうのパフォーマ ンスとの間のゆらぎと考える。 – このゆらぎにより発達が可能になる。 25 今後の課題 揺らぎと安定性 – DSA – 内部認知部品の結合強度変化 連続性 抑制 – 外界の組織化 働きかけのパターンのコントロール 外の規則性の利用 26 洞察問題解決 プロセス – 通常の解法ではうまく いかず、行き詰まる – (当該の問題解決と は別の活動を行う(睡 眠、入浴) – ひらめく – ひらめいたアイディア を実際に検証する。 謎 – 簡単なのになかなか 解けない – 同じタイプの失敗を繰 り返す – 有効な情報が得られ ても無視されることが ある – 解が突然(無意識的 に)ひらめく 27 制約の動的緩和理論 実行 制約選択 対象制約 評価 ゴール制約 関係制約 誤差 学習率 制約強度 更新 図2:制約の動的緩和理論から見た洞察問題解決プロセス 28 図形パズルにおける各制約 対象レベルの制約 – 図形のカテゴリー化におけるbasic levelは、単一 の図形の標準的な置き方に対応する。多くの辺 が基準線と垂直、あるいは平行になるように置く。 関係レベルの制約 – Tパズルのような図形パズルにおいては、関係 の制約はよい形を作るという制約となる(接続の 結果、生じる図形の総角数を最小にするように)。 ゴールの制約 – ゴールの状態に対するイメージ 29 Tパズル 30 先行研究1:制約初期値の違い パズル開始から10セグメント までの試行を、自力解決者 (15分以内)とヒント解決者 (15分以上)分析した. 対象制約の逸脱頻度に,自 力-ヒント解決の違いが現れ た. はじめに一定以上の多様な 試行を行うことが創造にとっ て重要。 ただし、ヒント解決者であって も相当程度の多様な試行が 行われている。 40 35 30 25 自力解決者 ヒント解決者 20 15 10 5 0 対象制約 関係制約 31 先行研究2:制約強度の更新 率 自力解決者と同等の評定課 題パフォーマンスのもの5名 (hint2)は,評定課題後に逸 脱頻度の上昇が見られる. なぜ,適切な評定を行うヒント 解決者は自力で問題を解け ないか? これらのヒント解決者の評定 後の逸脱頻度(対象:30%, 関係38%)は,自力解決者の 初期値(対象:28%,関係: 36%)程度にとどまる. 一定以上の制約逸脱がない と、緩和が進んでも洞察には 至らない。 対象制約 関係制約 32 洞察における多様性 ヒント解決者であっても一定程度の逸脱 試行を行う。 → 複数の処理モードが重奏的に働く。 優れた問題解決者の逸脱率(多様性)は、 そうでないものよりも高い。 → 変化を促すのは多様性の程度 33 変形Tパズル 23%パズル 29%パズル 34 解決時間(中央値) 比較・解決時間 999.5 1000 430.5 800 解決時間(秒) 600 176.5 400 200 0 統制群(20%) 23%変形群 29%変形群 35 制約逸脱の割合 比較・制約の逸脱 100% 57% 71% 80% 逸 脱 の 割 合 40% 48% 60% 40% 16% 22% 20% 0% 統制群(20%) 23%変形群 対象レベルの制約 29%変形群 関係の制約 36 Proportion of the subjects 型紙によるゴールの制約実験 の結果:解決時間 Template no-Template 100 80 60 40 20 0 5min 10min 15min hint Time Figure 1. Proportion of the subjects solved within a given time. 37 洞察における開放性 ゴール制約の機能の一部を外化させるこ とにより、パフォーマンスが劇的に改善す る。 外界とのinterplayを促進する。 – マッチング – 評価 38 洞察における生成性、局所性 生成性 – 通常ではないものを生成することができる。 – ただし、そのタネはすでに存在しており、タネの組み 合わせが発見される。 局所性 – 中央制御は効かない。 – ふつうではないことをやろうと思ってもなかなかでき ない。 – 同じ失敗を繰り返す。 39 Change Blindness 40 注視点 数秒間の視線の移動 その後10秒間の視線の移動 41
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