1 3河川景観の快適性と自然的景観 (緑の癒し効果) 北村眞一 緑の相談所主催 山梨県・緑の普及啓発事業特別講演会 2014年11月7日(金)山梨県立文学館 2 心理評価と生理評価 人間がある風景をみて 何を感じるか ①制御的処理 →意識的な注意を伴う 主観評価 ②自動的処理 →ほとんど無意識 行動指標 ③生理的な評価 →生理指標 3 対象 河川 • 河川景観の問題 • 自然性(自然的 な川かどうか) • ゴミ(汚れた皮 かどうか) • 親水性(親しめ る川かどうか、 水辺へ行けるか どうか) • 水質(きれいな 川かどうか) 4 影響因子を操作した刺激の作成 因子と水準 因子 1 2 A:自然度 高い 低い B:ごみ ない ある C:親水性 高い 低い D:水質 よい 悪い 水準 4因子2水準→全ての組み合わせ=16枚のCG画像を作成 4 5 CG画像を作成 親水性・高い 水質・良い 自 然 度 ・ 高 い ご み な し 自 然 度 ・ 低 い ご み な し ご み あ り ご み あ り 水質・悪い 親水性・低い 水質・良い 水質・悪い 6 1.主観評価実験 • • • 快適 1 2 3 4 5 不快 実施日 2006年11月 15日、2007年1 月下旬 被験者 18歳~ 24歳の男女計39 名 方法 CG河川画像16 枚を被験者に 配布し、質問 紙による5段階 尺 度評価の調査 を行う。 主観評価の結果 分散分析の結果(主観評価) 因子 平方和 有意確率 寄与率 被験者 93.69 0.000*** 1.65 自然度 89.26 0.000*** 1.57 ごみ 351.00 0.000*** 6.17 親水性 14.77 0.000*** 0.26 水質 277.33 0.000*** 4.88 被験者×自然度 72.24 0.000*** 1.27 被験者×ごみ 49.75 0.000*** 0.87 被験者×親水性 16.23 0.011* 0.29 被験者×水質 74.92 0.000** 1.32 自然度×ごみ 7.85 0.000*** 0.14 自然度×親水性 2.83 0.001** 0.05 自然度×水質 0.52 0.158 0.01 ごみ×親水性 1.44 0.019* 0.03 ごみ×水質 14.16 0.000*** 0.25 親水性×水質 0.06 0.637 0.00 有意 快・不快の評価に対し 全ての主効果が有意 ↓ 抽出した4因子が快・不快に 影響を及ぼす 寄与率より ごみ・水質の影響が強い (*** p<0.0001, ** p<0.01, * p<0.05) 7 8 2.行動指標の実験 反応時間 〇画像サイズ 22.58cm×30.09cm 〇画像形式 Windows Bit Map 〇平均反応時間 642.8ms(ミリ秒) 〇反応時間が遅い(遅れ) →不快 〇反応時間が速い →快適 画像がカラーかモノクロかの色判断をする時間を測る 関係のない画像を含めて100枚ぐらいを判断 被験者は何を測っているのかわからない 行動指標実験結果 分散分析の結果(行動指標) 因子 平方和 有意確率 寄与率 被験者 4807873.25 0.000*** 2.04 自然度 289234.31 0.000*** 0.12 ごみ 16223.96 0.331 0.01 親水性 76433.07 0.035* 0.03 水質 31498.94 0.176 0.01 被験者×自然度 827178.12 0.041* 0.35 被験者×ごみ 334262.46 0.955 0.14 被験者×親水性 752922.93 0.090 0.34 被験者×水質 696250.01 0.155 0.35 自然度×ごみ 18457.67 0.300 0.01 自然度×親水性 44266.48 0.109 0.02 自然度×水質 72573.01 0.040* 0.03 ごみ×親水性 1373.18 0.777 0.00 ごみ×水質 1052.93 0.804 0.00 親水性×水質 53171.13 0.079 0.02 被験者、自然度、親水性が有意 ごみの影響が低い ↓ 画面上に占める割合が 低いためか (*** p<0.0001, ** p<0.01, * p<0.05) 9 10 行動指標 分散分析二次交互作用 740 自然度が高いとき 720 700 680 660 反応時間 反 応 時 間 m s 水質が悪いこと ↓ 降雨後の川の濁り 640 620 600 水質 良い 水質 悪い 580 多い 高い 自然度がよいとき 水質の良し悪しは 反応時間に影響 しない 自然度 自然度 自然度が低いとき 少ない 低い 自然度が悪いと 水質の良し悪しが 反応時間に影響 する 水質が悪いこと ↓ そのままの意味で受け取る 11 画像を改善 流量差なく・汚れ緑と黒・ゴミ位置統一 親水性・高い 水質・良い 自 然 度 ・ 高 い ご み な し 自 然 度 ・ 低 い ご み な し ご み あ り ご み あ り 水質・悪い 親水性・低い 水質・良い 水質・悪い 3.主観評価結果 分散分析の結果(主観評価) 因子 平方和 有意確率 寄与率 被験者 144.45 0.000*** 1.81 0.000*** 5.32 自然度 有意 425.03 ごみ 321.34 0.000*** 4.02 親水性 9.40 0.000*** 0.12 水質 3.49 0.025* 0.04 被験者×自然度 84.15 0.000*** 1.05 被験者×ごみ 95.39 0.000*** 1.19 被験者×親水性 27.13 0.998 0.34 被験者×水質 19.15 1.000 0.24 自然度×ごみ 85.31 0.000*** 1.07 自然度×親水性 13.78 0.000*** 1.05 自然度×水質 0.33 0.492 0.00 ごみ×親水性 71.39 0.000*** 0.89 ごみ×水質 34.67 0.000*** 0.43 親水性×水質 2.02 0.087 0.03 主効果が全て有意 寄与率より 自然度とごみの影響が強い (*** p<0.0001, ** p<0.01, * p<0.05) 12 4.行動指標の結果 分散分析の結果(行動指標) 因子 平方和 有意確率 寄与率 被験者 有意 5269326.27 0.000*** 2.52 自然度 276598.76 0.000*** 0.13 ごみ 745.38 0.846 0.00 親水性 50669.78 0.111 0.02 水質 5888.08 0.586 0.00 被験者×自然度 603344.54 0.400 0.29 被験者×ごみ 473398.82 0.729 0.23 被験者×親水性 697747.96 0.212 0.33 被験者×水質 439005.47 0.807 0.21 自然度×ごみ 1823.38 0.762 0.00 自然度×親水性 1126.80 0.812 0.00 自然度×水質 13531.03 0.409 0.01 ごみ×水質 18154.78 0.339 0.00 ごみ×親水性 7825.02 0.530 0.01 親水性×水質 1041.01 0.819 0.00 被験者、自然度が有意 ごみ、親水性、水質の 因子は有意ではなかった (*** p<0.0001, ** p<0.01, * p<0.05) 13 5.生理指標実験 「脳の中で起こる内的な感情」と「自律神経系やホルモン系 を解した生理的反応」に着目. ・ 人間の景観評価過程を考慮した景観評価方法構築のため, 主観評価,行動評価および生理指標によるストレス回復効 果を比較し,とくに視覚情報が生理指標に及ぼす影響を知 る. ・自然度の影響が大きいことから、自然度を操作した影響を 測る. 14 15 生理指標実験方法 • 心理的負荷→ストループ効果実験 • 文字色と文字の意味が一致しているかどうか • YES、NOのキーを押す。 16 実験5――方法(生理指標) 初期値 各時点 課題をこなす (心理的負荷) 初期値 各時点 スライドショーを見る(回復) 比 比 5分間の平均値 を求める 課題をこなす (心理的負荷) スライドショーを見る(回復) 課題をこなす (心理的負荷) スライドショーを見る(回復) 血圧・皮膚温度 5分おきに測定 心拍数 5秒おきに測定 17 実験5――使用器具(生理指標) • 皮膚温度計 血圧計 (OMRON、 HEM-7301ZT(K) ) 心拍数計(Canon、 POLAR RS800CX) 心拍数計(肌に直接装着) 皮膚温度計 血圧計 心拍数計(受信機) 18 実験状況 図8 行動指標の実験 図9 生理指標の実験 • 透過スクリーン(KIMOTO、ディラッドアップスクリーン、 RUM-60N1、スクリーンサイズ縦117.5cm×横131.5cm) • プロジェクタ(TOSHIBA、TLP-XC2000) 19 生理実験 日時:2009 1/14-16,1/19-24,1/24-30,2/2-4 被験者:男23,女6,計29,年齢:20-30,平均年齢22.1. 実験:精神的ストレス課題(ストループ効果)を10分間. 高自然度(条件1)のスライドをランダムに5分間提示. 課題とスライド提示のセットを3回繰り返し. 5分おきに収縮期血圧,拡張期血圧,皮膚温度を測定. 5秒毎に心拍率を記録. 実験の前後でsIgAを採取. 休憩後,低自然度(条件2)について同様の実験. 20 生理実験 実験開始----------------------------------------------------------------------------------実験終了 0 5 課題 10 スライド 15 20 課題 25 スライド 30 35 課題 40 45分 スライド ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ------------------------------5分間隔で血圧,皮膚温度の計測------------------------------5秒ごとに心拍率の計測----------- ↑-----------------------------実験の前後にsIgAの採取---------------------------------↑ 課題 心理的負荷 ↓ 疲れ スライド リラックス ↓ 回復 スライド 課題 スライド 課題 心理的負荷 リラックス 心理的負荷 リラックス ↓ ↓ ↓ ↓ 回復 疲れ 回復 疲れ 収縮期血圧の変化率 1.02 0.205 1.01 0.034* 0.003** 0.708 0.543 1 0.531 0.938 0.473 0.488 0.99 0.98 ◆ 自然度(高) 0.97 0.96 ■ 自然度(低) 0 5 10 15 20 25 30 35 拡張期血圧の変化率 1.06 40 45 0.012* 1.04 0.094 1.02 0.595 0.795 0.564 1 0.898 0.898 0.842 25 30 0.029* 0.98 0.96 0.94 0 5 課題 10 15 スライド 20 課題 スライド 35 課題 40 45 スライド 収縮期血圧・および拡張期血圧において,3回目の課題後以降で有意差が認められ,自然度が低い場合のほうが高 い場合に比べて上昇した.これは,被験者が課題後に自然度の低い画像を見ることが既に解っており,再度,見るこ とによるストレスに伴い,交感神経系が優位な反応を示していると考えられる. 1.02 拍動間隔の変化率 ◆ 自然度(高) 0.175 1 0.447 0.98 0.178 0.585 0.96 0.852 0.884 0.690 30 35 ■ 自然度(低) 0.968 0.295 0.94 0.92 0.9 0.88 1.02 0 5 10 15 0.102 皮膚温度の変化率 1.01 1 0.99 0.794 0.943 5 10 20 25 45 0.005** 40 0.009** 0.263 0.055 0.615 0.039** 0.98 0.97 0.96 0.95 0.94 0 課題 15 スライド 20 課題 25 30 スライド 35 課題 40 45 スライド 拍動間隔では,“変化率=実験後/実験前”のため,上方向が減速,下方向が加速となり,課題遂行中はやや加速傾向と なるが,自然度の相異で有意差が生じなかった.皮膚温度では,いずれの場合にも,実験による緊張により,課題開始か ら減少している.その後,自然度の高い画像を見た場合には,スライド閲覧後に減少した皮膚温度が回復している. 23 sIgA濃度の変化率 • 他方,自然度の低い画像を見た場合には回復せず, 2回目以降のスライド閲覧後で高自然度画像との間 に有意差が認められた. • 皮膚温度が低下した原因として今回の結果に関係 があると思われるのは.末梢の血管収縮を引き起こ す不快情動の喚起である.自然度の低い条件2のス ライドを見ていた際に,被験者が不快感/嫌悪感を 抱いていたという可能性が考えられる. 24 sIgA濃度の変化率 • sIgA濃度の変化率では,自然度の低い条件2では,自然度の低い 条件1に比べ,sIgAの濃度低下上昇割合に有意差があることが示 された.すなわち,自然度の低い画像を見ることによりストレス に対して消極的・受動的に対処するようになったと考えられる. 自然度の高いグループ(条件1)の場合,いずれの指標においても 実験前の基準値からの明瞭な変化は認められない.一方,自然度 の低いグループ(条件2)では濃度の有意な低下が見られ,ストレ スに積極的に対処しようとする意欲を失って慢性的ストレス状態 になっていたことが予想される. • しかし,sIgA濃度は,唾液分泌量や分泌速度によって変動する ので,今後はこれらも含めて調べていく必要がある. 25 まとめ (1)視覚情報による精神的ストレス回復実験におい て,自然度の違いにより拡張期,収縮期の血圧変 化率,皮膚温度変化率,およびsIgA濃度変化率に 有意差が認められた. (2)「自然度」が高い画像には,ストループ効果に よるストレス状態の緩和効果があり,自然度の低 い画像ではストレスが緩和されずに,生理的な反 応が誘発されることが示唆された. 26 文献 • 武藤由香里,石田光男,下川敏雄,池口仁,御園生 拓,北村眞一(2010)河川景観の快適性に関する主 観評価と 行動指標による評価の比較,景観・デザイ ン研究論文集8,pp11-20. • 武藤由香里,石田光男,下川敏雄,御園生拓,北村 眞一(2011)河川景観の自然度が生理指標に及ぼす 影響の評価, 環境科学会誌,24(3),pp218-224. 27 本研究で行われた実験は、 「ヘルシンキ宣言(1964):ヒトを対象とする 医学研究の倫理的原則」に基づき、 山梨大学工学部倫理委員会の 許可を得て行っております。 ご清聴ありがとうございました。
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