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第13回
在宅呼吸ケア研究会
在宅呼吸ケアの実践
~訪問診療を通して~
さっぽろ在宅医療クリニック
院長 西川 就
在宅医療とは
在宅医療とは
・入院・外来に次ぐ『第三の診療体系』
・定期的な居宅での診療(訪問診療)に
より、患者の全身状態管理を行う
入院
外来
『往診』との違い
・往診⇒緊急時や臨時の診察
在宅
・訪問診療⇒計画的かつ定期的な診察
在宅医療の目的
入院
外来
通院不可能な重症患者
悪性疾患や神経筋疾患
重症呼吸器疾患
(在宅人工呼吸や
在宅酸素への対応)
在宅でのターミナルケア
など
慢性疾患の憎悪予防
在宅
気管支喘息・高血圧
急性疾患の初療
肺炎・脱水・感染症
重症化の予防
在宅におけるチーム医療
チームの中心には患者が位置し、
その最も重要な一員となる
訪問看護
ステーション
医療・介護関連企業
(メーカー・卸)
在宅療養
支援診療所
居宅介護
支援事業所
訪問診療
ケアプラン
作成
訪問看護
メンタルケア
患者
薬剤の管理
配達
家族
訪問介護
訪問入浴
検査・入院
薬局
病院
居宅介護
サービス事業者
在宅医療における呼吸ケア
慢性の呼吸機能低下(通院困難・不能)
↓
低酸素血症:日常全てのADL低下
補助療法(在宅酸素・人工呼吸):器械の取り扱い
↓
在宅医療の必要性が増加
・ADL(QOL)向上
薬剤・理学療法・生活指導
・感染対策
環境整備・検査・早期治療
当院での症例分布
17%
30%
在宅医療の対象患者
呼吸器疾患
循環器・消化器
悪性疾患
脳神経・神経内科
整形疾患
認知症・精神疾患
14%
4%
14%
21%
人工呼吸(陰
圧)
9
4
補助療法なし
在宅酸素
人工呼吸
(陽圧)
補助療法(HOTや人工呼吸)あり
呼吸とは?①
呼吸機能(=肺の働き)
酸素を取り込んで二酸化炭素を排出すること
・換気:大気(空気)を
吸い込むこと
・ガス交換:肺胞にて
血液内へ酸素を供給し、
二酸化炭素を排出する
肺胞
O2
毛細血管
CO2
問題①(呼吸)
二酸化炭素:0.04%
平均的な呼吸について
一回換気量
(1)200ml (2)500ml
呼吸回数(一分間)
(1)6回 (2)12回
(3)1000ml
窒素:79%
(3)30回
死腔量:ガス交換に使用されない換気量
(1)50ml (2)150ml (3)300ml
呼気内酸素濃度
(1)5% (2)10%
酸素
21%
(3)15%
吸気(空気)
呼吸とは?②
酸素は何のために必要?
組織(脳・心臓・筋肉)が正常に動作するため
⇒組織への酸素供給(の評価)が最も大事
換気:酸素の取り込み
↓
ガス交換
↓
体外への排出
血液による運搬
↑
・ヘモグロビン
→体組織へ→ 二酸化炭素の回収
・血流量
呼吸を阻害する疾患
換気:酸素の取り込み
↓
ガス交換
↓
血液による運搬
・ヘモグロビン
→体組織へ
・血流量
換気血流の不均等
窒息・気管支喘息
神経筋疾患
肺炎(肺胞低換気)
間質性肺炎
(拡散障害)
出血・貧血・心不全
問題②(呼吸生理と疾患)
①換気:酸素の取り込み
↓
②ガス交換
↓
③血液による運搬
低酸素血症
の原因
・ヘモグロビン
・血流量
換気血流の不均等
どの部分の異常を
を主体とした病変
でしょうか?
COPD
(肺気腫など)
・末梢気道の閉塞
・肺胞壁破壊
⇒死腔増加
換気:吸気と呼気による酸素の運搬
換気量
・一回換気量は500ml程度
この分は
O2⇔CO2されない
・吸気(大気)内の酸素濃度⇒約21%
・呼気内の酸素濃度⇒約16%
(二酸化炭素濃度は約4%)
死腔:換気中でガス交換(-)の部分
・一回換気量中で死腔は150ml程度
・死腔が増えると酸素化が阻害される
・解剖学的死腔(鼻・気管など)
生理学的死腔(シャントなど)
O2⇔CO2される
問題③(換気)
☆次の呼吸法で、最も酸素化効率が良いものはどれですか?
(ただし一分間に吸う空気の量は同じ)
①普通の呼吸:一回換気量500ml、回数12回
②深呼吸:一回換気量1000ml、回数6回
③浅呼吸:一回換気量200ml、回数30回
死腔は一回の呼吸で変動しないため、深呼吸をすることで
ガス交換に使用される空気が増える
①
150
②
150
③
150 50
×12 有効換気量=4.2L
350
850
×6 有効換気量=5.1L
×30 有効換気量=1.5L
COPDの病態
・末梢気道(細気管支)の炎症と粘液貯留、繊維化
・肺胞壁の破壊とコンプライアンス低下
呼気時に気道を
開いたままにする力
↓
低下することで
↓
・呼気排出の低下
・死腔の増加
↓
有効換気量の低下
低酸素・高二酸化炭素血症
COPD(肺気腫)への対応と治療
気管拡張薬
去痰薬など
在宅酸素
(NPPV?)
禁煙
栄養管理
感染予防
ワクチン
口すぼめ呼吸
呼吸リハビリ
呼気時に口をすぼめる
(出口を狭くする)ことで
気道に外向きの圧をかける
ガス交換:肺胞内換気と拡散
換気:酸素の取り込み
↓
ガス交換
↓
血液による運搬
・ヘモグロビン
・血流量
拡散:
肺胞内において血液内へ酸素
を供給し、血液外(肺胞内)に
二酸化炭素を排出する
肺胞
毛細血管 O2
CO2
肺内の肺胞:約3億個
空気は肺胞までは届かない
酸素化は拡散によって行われる
⇒CO2
組織より
⇒O2
組織へ
ガス交換②:肺炎と間質性肺炎
(気管支)肺炎
肺胞
間質性肺炎
二酸化炭素は酸素に
比べ20倍の拡散能があり、
拡散障害だけでは
高二酸化炭素とは
⇒CO2
なりにくい
組織より
O2
CO2
毛細血管
⇒O2
組織へ
血液による酸素の運搬
換気:酸素の取り込み
↓
ガス交換
↓
血液による運搬
・ヘモグロビン
・血流量
動脈血ガス分析
PaO2:動脈血酸素分圧
≠血中に含まれるO2
PaCO2:動脈炭酸ガス分圧
≠血中に含まれるCO2
SaO2:酸素飽和度 ヘモグロビンと酸素との結合の割合
酸素の大部分は血中でヘモグロビン
と結合して運搬される
酸素の運搬②
酸素の大部分は血中でヘモグロビンと
結合して運搬される
①pO2:95 Torr
SO2:97%
②pO2:60 Torr
SO2:90%
③pO2:40 Torr
SO2:75%
ヘモグロビンの働き
は酸素の運搬(肺⇒組織)
↓
高濃度(肺)で取り込み
低濃度(組織)で放出
酸素の運搬③
酸素の大部分は血中でヘモグロビンと結合して
運搬される
・血中酸素含量:CaO2
⇒1.34×Hb×SaO2 + 0.0031×PaO2
ヘモグロビンと
結合した酸素
(全体の約98%)
血中に溶け込んでいる
酸素(全体の約2%)
例)PaO2:95 Torr、Hb:15 g/dl、SaO2:98%だと
1.34×15×98(/100) + 0.0031×95
=19.7+0.2
=19.9 ml/dl
酸素の運搬④
呼吸の役割:酸素を取り込み、組織へ運搬
『肺』駅から『組織』駅へ何人の乗客(酸素)が
到達できるかが重要
⇒肺
O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
O2
特急 酸素運搬号
O2
O2
Hb Hb Hb Hb Hb
O2
⇒組織
酸素の運搬⑤
・特急 ⇒ 心拍出量 = 一回拍出量×心拍数
・乗客 ⇒ 酸素:肺(乗車駅)から組織(目的地)へ
・座席 ⇒ ヘモグロビン:乗客のほとんどは座席に
座って目的地へ。
・たち乗り ⇒ 血中溶解酸素:乗客のごく一部
⇒肺
O2
O2
O2
O2
O2
O2
特急 酸素運搬号
O2
O2
Hb Hb Hb Hb Hb
⇒組織
特急:心拍出量 = 一回拍出量×心拍数
・体内の酸素維持は『呼吸』と『循環』の積で決まる
・低酸素血症に対する代償機能として、頻拍(ダイヤ
を増やす)が生じるのはこのため
⇒肺
O2
O2
O2
O2
O2
O2
特急 酸素運搬号
O2
O2
Hb Hb Hb Hb Hb
⇒組織
乗客:酸素
・肺での取り込みが多ければ(呼吸機能が良好なら
ば)、より多くの酸素が組織へ
・ほとんどの乗客は座席(Hb)に座り、一部の乗客
は立ち乗り(血中に溶解)して目的地へ
⇒肺
O2
O2
O2
特急 酸素運搬号
O2
O2
O2
O2
O2
Hb Hb Hb Hb Hb
⇒組織
座席:ヘモグロビン
・座席数(Hb濃度)によって、どれだけ乗客(酸素)
が目的地にいけるかが決まる
・乗客(酸素)が多くても、座席が少なければ(貧血)
目的地(組織)には到達しない
⇒肺
O2
O2 O2
O2
O2 O2
特急 酸素運搬号
O2
O2
O2
O2
Hb Hb Hb
⇒
組
織
座席の占有率:SaO2
O2 O2
O2 O2 O2 O2 O2
O2 O2 O2
O2 O2
酸素飽和度
⇒HbとO2の結合率
酸素分圧が高いほど
多く結合する
この割合が酸素飽和度
O2
O2
O2 O2 O2
O2
問題④(酸素運搬)
体内酸素量が
低くなるのは?
『低酸素』
PaO2:40 Torr
Hb:15 g/dl
SaO2:75 %
基準値
PaO2:100 Torr
Hb:15 g/dl
SaO2:100%
CaO2
20.4 ml
PaO2:300 Torr
Hb:15 g/dl
SaO2:100%
CaO2
21.0 ml
『貧血』
PaO2:100 Torr
Hb:8 g/dl
SaO2:100%
CaO2
15.2 ml
CaO2
11.0 ml
酸素運搬のまとめ
・重要なのは『どれだけの酸素が組織へ移行できるか』
・酸素の大部分は血中でヘモグロビンと結合して
運搬される
(血中酸素含量⇒1.34×Hb×SaO2 +0.0031×PaO2)
・酸素運搬:呼吸(酸素含量)×循環(心拍出量)
・酸素分圧が高くとも、貧血時には体内への酸素供給
は阻害される
⇒酸素含量で最も重要な指標は『ヘモグロビン』
在宅呼吸ケアの実践
在宅医療においての呼吸ケア
急性疾患:早期発見と診断、治療
感染症・気管支喘息(発作)など
慢性疾患:ADL向上、重症化予防、治療
低酸素血症を来たす疾患
COPDや間質性肺炎
呼吸管理(気道管理)が必要な疾患
特殊な疾患:在宅ターミナルケア
末期状態での酸素投与
神経筋疾患 など
急性疾患への対応
より早く・より強力に
在宅の利点
在宅の欠点
自宅での安心感
(一般外来よりも)
定期的な診察と健康維持
急変時の対応
限定される医療
⇒検査・器材・治療など
重要なのは『予防』と『早期治療』
定期的な状況把握、採血検査、理学所見
早期からの抗生剤治療
簡便な検査と投与法(キットや器材の活用)
在宅ターミナルケア
在宅酸素:緩和療法(ホスピスケア)の一環として
意義
低酸素血症(肺腫瘍・胸水・呼吸筋疲労など)の補助
本人・家族に対する『安心感』の提供
問題点
医療上、適用外の使用法
予後延長は期待できない
呼吸困難感は本当に存在するのか?
慢性疾患への対応①
当院での呼吸器症例
疾患
呼
吸
器
疾
患
COPD
陳旧性肺結核(術後)
肺梗塞・肺高血圧
間質性肺炎
気管支喘息
神経筋疾患
在宅酸素
あり
4
1
1
1
在宅酸素
なし
1
2
2
慢性疾患への対応②
ADLの向上
服薬コンプライアンス:周囲との協力で
定期診察による栄養・筋力などの確認
補助療法(在宅酸素)の管理や取り扱い
重症化予防と治療
定期薬による治療:常に1ランク上のものを
早期発見と早期治療
強力な抗生剤や酸素投与(増量)をためらわない
COPD
COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは
・可逆性の少ない持続性(進行性)気流障害を特徴
とする疾患群
・肺気腫 / 慢性気管支炎 / 細気管支炎
・慢性の咳嗽、息切れ、
喀痰排出などを呈する
・有害粒子や物質(喫煙など)
による肺全体の異常炎症反応
・全人口の8.5%程度 (530万人?)
・2020年には死亡原因の3位に
COPD②
COPD:簡単に言うと?
・タバコを吸っていたために、肺が壊れた病気
・咳や痰、息切れは年齢のためだけではなく、
この病気なのかもしれない
・特徴①:タバコの既往、高齢、男性
・特徴②:痩せ型、ビア樽状の胸郭、胸鎖乳突筋の
緊張、 口すぼめ呼吸など
・慢性の咳⇒しばしば一日中、夜間のみはまれ
・喀痰、呼吸困難(労作時に悪化)
COPDの治療
気管拡張薬
去痰薬など
在宅酸素
(NPPV?)
禁煙
栄養管理
感染予防
ワクチン
口すぼめ呼吸
呼吸リハビリ
呼気時に口をすぼめる
(出口を狭くする)ことで
気道に外向きの圧をかける
COPDの治療:日常生活や非薬物
日常生活管理
・禁煙:まず第一に行うべき指導
・運動療法:全身筋・呼吸筋の増強
⇒呼吸リハビリの重要性
・栄養指導:体重増加・呼吸筋の増強
・感染予防やワクチン
(労作時の)呼吸苦軽減
日常生活(ADL)の向上
COPD:呼吸リハビリ
チームによる包括的なリハビリが重要
運動耐容能の改善
呼吸困難の軽減
ADLの向上
入院回数の減少
不安や抑うつの軽減
⇒患者(や家族)にあう、
長期継続可能なリハビリを
COPDの治療:薬物
薬物管理
・長時間作用性気管支拡張薬
⇒抗コリン薬:スピリーバ
β2刺激薬:セレベントなど
(キサンチン製剤)
・吸入ステロイド
⇒重症の場合、上記に加えて
・インフルエンザワクチン
在宅酸素
Home Oxygen Therapy:HOT
慢性呼吸不全患者に対して
・生命予後を改善
・QOLを向上
全国で約10万人が使用
適応:高度慢性呼吸不全
肺高血圧
慢性心不全
チアノーゼ型先天性心疾患
在宅酸素の種類
・酸素濃縮器:90%
(+酸素ボンベ)
・液体酸素:10%
(親機+子機)
⇒酸素濃度は
90%程度
⇒酸素濃度は
100%
電気的に酸素を分離・供給
-181.1℃の液化酸素を貯留
利点:容易な取り回し
利点:電気代不要
電気があれば使用可能
長時間の外出可能
欠点:停電時に使用できない
欠点:定期的メンテナンス必要
電気代がかかる
酸素充填がやや面倒
外出(時間)制限あり
環境による使用制限
在宅酸素の問題と注意点
・物理的要因
居住空間:器械設置・チューブの取り回し
日常生活:洗顔や入浴、外出
・心理的要因
抑うつ・不安:『チューブにつながれている』
『死ぬまでこのまま、治らない』
SpO2モニターについて
・非侵襲的に動脈血の酸素飽和度を測定
近赤外線による酸化ヘモグロビンの測定
PaO2との相関関係にて呼吸状態を推定
注意点
・物理的エラーが大きい
⇒拍動の減弱や血流障害など
・測定した脈波の平均で測定
⇒つけてすぐには測定できない
酸素解離曲線:直線的でない相関
①⇒②:SO2の変化は乏しい
②⇒③:急激な変化(低下)
一定のレベルを超えると急激に呼
吸状態が悪化する
正常
低酸素
状態
重症
酸素投与
③の患者⇒②
②の患者⇒①
見かけ上のSO2変化に乏しいため、
重症度をマスクされることがある
まとめ
•呼吸器の病態を理解することは疾患への対応
や治療に重要である
•在宅での呼吸器ケアに関しては、一般患者よ
りも重症の場合が多い
•早期発見と治療、器機の管理、栄養など、全
身的な治療への介入が必須である
参考資料など
・呼吸アセスメント ~呼吸ケアのためのチーム医療実践ガイド
日本呼吸ケアネットワーク 編
MEDICAL VIEW
・楽しく学ぶ肺の検査と酸素療法呼吸
宮元 顕二 先生
MEDICAL VIEW
・酸素療法ガイドライン
日本呼吸器学会・日本呼吸管理学会
メディカル レビュー社
・(ビデオ)ながいき呼吸体操
石川 朗 先生
南江堂
・(HP)西神戸医療センター 麻酔科レクチャー
堀川由夫 先生 http://www.ne.jp/asahi/nishi-kobe/masui/lecture.html