5・自給自足と大量消費 2010.10.13. 成蹊・文化人類学Ⅱ 5・自給自足と大量消費 2010/10/13 - [2] 文化の変化 ひとびとは(わたしたちも含め)そのときの状況に応じ て行動したり考えたりしている……あたりまえだが、見 落としがちなこと 文化を、物質文化と精神文化に分ける 物質文化……衣食住、生業、道具 etc. 精神文化……言語、宗教、儀礼、慣習・習慣、人間関係、価値観 etc. 物質文化と精神文化、どちらがより変わりやすいだろう か? 衣・食・住は、どの順番で変わりやすいだろうか? 精神文化で変わりやすいもの・変わりにくいものは、そ れぞれどんなものだろうか? 5・自給自足と大量消費 2010/10/13 - [3] 物質文化と精神文化について まず、両者の変化は相補的──どちらか一方が変われば もう一方も引きずられて変わる、という点が重要 そのうえで、より変化しやすいのは物質文化、しにくい のは精神文化であると、言ってよいだろう 「更新頻度」と「規範性」という点に注目すると理解しやすい 頻繁に使われたり作られたりするものは変化しやすい 頻繁に使われたり作られたりするとしても、その背後に強い規範性が 控えているものは変わりにくい 精神文化はもともと「規範性」という側面を強く持っている あまり使われたり作られたりしないもの=長持ちするものは、当然の ことながら変化しにくい ただし、あまり使われたり作られたりせず、その1回限りで役割を終 えるようなものは(あいまいな記憶に頼るため)変化しやすい 現在の衣服の流行のように「意図的に変化を強要するもの」は、当然 変化しやすい 5・自給自足と大量消費 2010/10/13 - [4] 衣-食-住の変化について(1) 「衣」が変化しやすいとした人は多かった ただしその変化は、大量消費社会に入って意図的に作られたもの だ、という点には注意が必要である 「更新頻度」と「規範性」の視点を取り入れてみる 何かを新たに身につけるようになる/身につけなくなるような変 化は、比較的ゆっくり起こる 「下着」に注目してみると分かりやすい 住居そのものは変わりにくいが、その中に収められる家具・電化 製品の更新頻度は現在ではすさまじい:それも大量消費社会の影 響を無視できない 「食」は、もちろん大量消費社会の影響で激変したが、そもそも 更新頻度が高く、また規範性も比較的緩いので、それ以前も変化 はしやすかった 自給自足から大量消費へ移って、どれも変わりやすくな ったが、それ以前を踏まえれば、「食」がもっとも変わ りやすく、次いで「衣」、最後に「住」となる 5・自給自足と大量消費 2010/10/13 - [5] 衣-食-住の変化について(2) 衣-食-住そのもの(物質文化)の背後には規範性(精神 文化)が控えている 規範自体は変わりにくい:何をどんなふうに食べる「べき」か、 着る「べき」か、住まいはどうある「べき」か しかし、それに結びつく「モノそのもの(物質文化)」が変化す ることで、規範性(精神文化)にも影響が生じ、変化する ふだんの質素な食事とたまのごちそう、という考え方(精神文化)は、 いつでも「ごちそうのようなもの」「目新しい食品」が食べられるよ うになって、変化する(かつての規範性はほとんど破壊されたと言っ ても過言ではない) 穴が開いたら繕って長く着続ける、という考え方(精神文化)は、大 量消費文化によって「衣服」の購入頻度・廃棄頻度が急増したことで、 絶滅の危機に瀕してすらいる もともと自宅で結婚式・葬式を行なえるように作られた家は、それら が大量消費社会のなかで外部化していくことで、家族だけのために作 られたものへ間取りが変化する 5・自給自足と大量消費 2010/10/13 - [6] 1950-60年代の変化 日本史では1868年・1945年が日本の政治制度の大変革 期として挙げられるが、ふつうのひとびとの生活に注目 すると、1890-1900年代と、1950-60年代が大きな変 化の時代にあたるといえる 1890-1900年代は、国民国家を支える諸制度(学校教育、 新聞/郵便メディア、鉄道交通、地方制度、軍事制度な ど)がほぼ国の隅々まで行き渡った時期 1950-60年代は、生活の自給自足的な部分の比率と購買 消費的な部分の比率が逆転し、大量生産・大量消費型社 会へと転換した時期 5・自給自足と大量消費 自給自足と大量消費 2010/10/13 - [7] 5・自給自足と大量消費 2010/10/13 - [8] 自給自足とは? 自給自足の生活とはどんなものだろうか? 自分たちの生活で必要となるものを自分たちで作るために、ほと んどすべての労働と時間を費やすのが自給自足型生活……cf. 前期 の最初に見た民族誌フィルムの各民族の暮らし 前回までの授業でみたビデオの中でも、農村部の「自給自足」度 が相対的に高いことは観察できた しかしながら100%の自給自足は、原始人まで遡らなけ ればいけない ある家計=家庭が、自分たちの衣食住全てを自分たちだけで産み 出しまかなえていることは、実はほとんどない 調味料を中心に食ベースでも外部に頼ることはあり、さらに衣・ 住といった次元で考えれば、新潟の貧しい農村ですら完全な自給 自足ではなかったし、現在においてはほぼ自給自足は不可能 5・自給自足と大量消費 2010/10/13 - [9] 自給自足の崩壊 自給自足を崩す要因はなんだろうか? 日本史的には、租税負担がそれまでの物納(年貢米)か ら金納(税金)とされた、「地租改正」(1873-1881) が、一つの大きな契機 大きなインパクトの一つは、貨幣経済の浸透 もともと農耕・漁撈といった第一次産業レベルでも交易は不可欠 であり、さらに商工業・サービス業を考えれば、自給自足は最初 から成り立ってはいない(相対的な比較のレベルの問題) これ以降、全体の9割以上を占めた農家において貨幣経済への移 行は避けられないこととなった もう一つの大きな契機が「便利さ/効率性」への欲求= 余暇の追求 cf. 囲炉裏に対する価値観の変化 5・自給自足と大量消費 2010/10/13 - [10] 大量消費とは? 大量消費型生活の特徴はなんだろうか? 「手間暇かけても、お金をかけず自分でやる」から「できあいの ものを買って済ませ、時間を浮かせる=余暇を作り出す」へ 余暇を得るために働く、もしくは、あくせく働かないために働く cf. 自分たちの生活で必要となるものを自分たちで作るために、ほ とんどすべての労働と時間を費やすのが自給自足型生活 さらにメディアの浸透によって、全国どこでも同じようなものを 欲しがり、流通の発達によって、またそれが手に入れられるよう になった →画一化の進行(概ね1980年ごろに完成) 5・自給自足と大量消費 2010/10/13 - [11] 授業内課題 映像資料5「ふるさとの伝承15・水窪」をもとに次の4点 について考え、インプレッションペーパーに書きなさい。 1. 2. 3. 4. 通常わたしたちであれば「買って済ませる・捨ててしまう」よ うなものを「自給自足する=自分で作ったり工夫したりリサイ クルしたりする」ものがたくさん出てきます。どういうものが そうか、映像を見ながら気づく限りリストアップしてください。 逆に、「これはどこかで買ったものだ」と思われるものは、ど んなものでしょう? やはりリストアップしてください。 この映像にでてくるひとびとにとって、生活の中のどういう点 が「喜び・楽しみ」だろうと推測できますか? いまの自分だったら、この映像のような村で、この映像に登場 するようなひとびとと一緒に同じような生活をするとして、ど れくらいの期間生活をともにできる気がしますか? 1日? 1 週間? 3ヶ月? 一生? また季節にも拠る?
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