準地衡流渦位方程式

風成海洋大循環
(準地衡流渦位方程式+エクマン層の力学)
• 地衡流
• 渦位の保存
• ロスビー波
• エクマン層
の概念を総合して、海洋大循環を考えてみよう。
エッセンスは、この4点セットのみである。
大循環海洋物理学はこの4点セットの基礎が分かっ
ていれば、ほぼ理解できるし、問題設定もできる。
境界層と粘性
図の境界付近(境界層 )では、
u
  u 
 0,    0
z
z  z 
で、速度は減速してい る。 u  0の流れの減速を式で表 すと、
u
0
t
であればよい。流体力 学では、経験的に、減 速(~粘性)を、下式
の右辺最終項
u
u
u
u
1 p
  u 
u
 v  w  fv  
 V
 
t
x
y
z
 x
z  z 
のようにあらわす。  V (  /  )は鉛直粘性係数で、油 なら  vは大きく、水なら
 v 小さい。
水平方向も同じように 考えることができ、
   u    u 
u
u
u
u
1 p
  u 
u
 v  w  fv  
 V    H      
t
x
y
z
 x
z  z 
 x  x  y  y 
と表現できる。
 Hは水平粘性係数である 。粘性係数とは、別の 言い方では、
運動量拡散係数と呼ぶ。境界は止まっている から、そこでは運動量 はゼロ
である。ゼロの運動量 が拡散することよって
流れにブレーキがかか ると
思えばよい。
もし、流れが乱れてい
なければ、粘性係数( 運動量拡散係数)は分 子粘性係数を
用いる。しかし、実際
の海洋や大気では、流 れには乱れがあり、
乱れ(これを渦と考え
る)があるほど、拡散
が想像できるだろう。
そこで、海洋や大気分 野では
しやすいこと
分子粘性係数(分子運 動量拡散係数)
の代わりに、渦粘性係 数(渦運動量拡散係数 AH , AV )を用いる。
 V    AV 、  H    AH
  2u  2u 
u
u
u
u
1 p
 2u
u
 v  w  fv  
 AH  2  2   AV 2
t
x
y
z
 x
y 
z
 x
  2v  2v 
v
v
v
v
1 p
 2v
 u  v  w  fu  
 AH  2  2   AV 2
t
x
y
z
 y
y 
z
 x
流体に働く力(接線応力)
仮想BOXに働く接線応力を考える。注目するBOXは中段のBOXで
上段のBOXが中段BOXを右方向(x正方向)に引きずり、下段の
BOXが中段BOXを左方向(x負方向)に引きずっている状況を考える。
下段BOXが中段BOXの下面を左
に引きずる力をτ(z),中段BOXの下
面を左に引きずる力をτ(z+⊿z)であ
るとしよう。
ニュートンは、この引きずる力(接
 ( z  z) 
y
 ( z  z)  線応力)は速度の微分に比例する
形であらわされるとし、流体の粘
z
u
性を考えた。この過程に従う流体
のことをニュートン流体と呼び、接
 (z ) 
x
線応力は、
 (z ) 
u
u
 ( z )     ( z ),  ( z ) -   ( z )
z
z
V   / 
であらわされるとした。実際の流体
  V
はこの式に近い振る舞いを示す。
 ( z)   ( z)- であり注目する中段 BOXに働く力( Fx)は、


Fx   ( z )    ( z  z )  xy

 u

u
  u 
  
( z )  
( z )    ( z )z  xy
z
z  z 
 z


 2u
  2 ( z )xyz
z
この力を水平運動方程 式に代入すると、
du u
u
u
u
1 p   2u

u
 v  w  fv  

dt t
x
y
z
 x  z 2
dv v
v
v
v
1 p   2 v
  u  v  w  fu  

dt t
x
y
z
 y  z 2
となる。いま、
BOXの上下面だけ考えたが 、
全ての面を擦る力を考 慮すると、
du u
u
u
u
1 p    2u  2u  2u 

u
 v  w  fv  
  2  2  2 
dt t
x
y
z
 x   x y z 
dv v
v
v
v
1 p    2 v  2 v  2 v 
  u  v  w  fu  
  2  2  2 
dt t
x
y
z
 y   x y z 
dw w
w
w
w
1 p    2 w  2 w  2 w 

u
v
w
 g 
  2  2  2 
dt t
x
y
z
 z   x
y
z 
となる。
粘性を含む流体方程式のことをナビエ・ストークスの式と呼ぶ。
オイラーの運動方程式と比べると、右辺の動粘性係数の掛
かった項が加えられているだけである。
渦粘性
先の粘性係数(μ/ρ)は流れが乱れていない層流
の場合の分子粘性である。実際の流体は乱流
を伴っていることが多く分子粘性の代わりに、渦
粘性係数AH(水平方向)、AV(鉛直方向)を使う。
渦粘性の表し方
x方向を考える。流速を 平均成分と乱れ(渦)
成分に分けて考える。
u  u  u ' , v  v  v' , w  w  w' , p  p  p'
但し、 u '  v'  w'  0である。また、 uu などもゼロ。
'
しかし、ダッシュのつ
いたものを掛け合わせ たものの平均、
例えば、u ' u ', u ' v', u ' wなどはゼロにならない
'
。
これらをオイラーの方
程式(x成分)、
u
u
u
u
1 p
 u  v  w  fv  
t
x
y
z
 x
に代入すると、




u  u'  u  u'
u  u '  v  v'
u  u '  w  w'
u  u'
t
x
y
z
1 
 f v  v'  
p  p'
 x


 
 


 

 
 
 

平均を施して、
u
u
u
u
1  p  u '
u '
u ' 

u
v
w  fv
  u '
 v'
 w'
t
x
y
z
 x  x
y
z 
1  p   (u ' u ' )  (u ' v' )  (u ' w' )  u '
v'
w' 





  u '
 u'
 u'

 x  x
y
z

x

y

z


連続方程式から、
u ' v' w'


 0であるから、結局、
x x x
u
u
u
u
1  p   (u ' u ' )  (u ' v' )  (u ' w' ) 

u
v
w  fv
 


t
x
y
z
 x  x
y
z 
乱流項以外の をとって表記すると、
u
u
u
u
1 p   (u ' u ' )  (u ' v' )  (u ' w' ) 

u
 v  w  fv  
 


t
x
y
z
 x  x
y
z 
分子粘性との対比
分子粘性と比較すると 、
 
 
 
 
 
 

   2u  
   2u  
   2u 
u ' u '   2 , u ' y '   2 , u ' w'   2 
x
  x  y
  y  z
  z 
となっている。そこで
、
  2u  
  2u  
  2u 

u ' u '  AH  2 , u ' y '  AH  2 , u ' w'  AV  2 
x
 x  y
 y  z
 z 
のように、渦粘性を分 子粘性のような形式で あらわして扱う。
w'
u 'という運動量がゾーン から出てゆく
u ' (運動量減少の効果)
w'
u'
u'という運動量がゾーン に入ってくる
(運動量増加の効果)
ダメージとしては、抵抗勢力と戦線離脱を等価として扱っていると考えてよい
渦粘性を用いて水平運動方程式を表すと、
  2u  2u 
du u
u
u
u
1 p
 2u

 u  v  w  fv  
 AH  2  2   AV 2
dt t
x
y
z
 x
y 
z
 x
  2v  2v 
dv v
v
v
v
1 p
 2v
  u  v  w  fu  
 AH  2  2   AV 2
dt t
x
y
z
 y
z
 x y 
 2w 2w 
dw w
w
w
w
1 p
2w

u
v
w
 g 
 AH  2  2   AV 2
dt t
x
y
z
 z
y 
z
 x
となる。
渦粘性とは、運動(量
)方程式に関わってい るものである。
これは、運動量の拡散 を意味し、運動量拡散 と考えてよい。
ならば、水温や塩分、 密度の拡散も同じ形式 で扱うことができる。
例えば、
  2T  2T 
T
T
T
T
 2T
u
v
w
 KTH  2  2   KTV 2  Q(加熱、冷却 )
t
x
y
z
y 
z
 x
エクマン境界層
エクマン境界層では、
  2u  2u 
du u
u
u
u
1 p
 2u

u
 v  w  fv  
 AH  2  2   AV 2
dt t
x
y
z
 x
y 
z
 x
  2v  2v 
dv v
v
v
v
1 p
 2v
  u  v  w  fu  
 AH  2  2   AV 2
dt t
x
y
z
 y
z
 x y 
エクマン境界層では、 、
 2u ' 1 p
 2 v' 1 p
 fv' fvG  AV 2 
,  fu ' fuG  AV 2 
z
 x
z
 y
のバランスになる。こ
こで、 u '  u  uG , v'  v  vG
uG , vGは地衡流、 u ' , v'は地衡流からのずれの 流速。
これを解いたものが別 紙。
エクマン・スパイラル
非回転系
下の板が
止める力
上の風が
引っ張る力
板の場合
下の板(三番目の板)が
止める力
下の板(四番目の板)が
止める力
海の場合
上の板(一番目の板)が
引っ張る力=B1
上の板(二番目の板)が
引っ張る力=B2
下の板が
止める力
回転系
上の風が
引っ張る力
板の場合
コリオリ力
下の板(三番
目の板)が
止める力
上の板(一番目
の板)が
引っ張る力=B1
コリオリ力
下の板(四番
目の板)が
止める力
海の場合
コリオリ力
上の板(二番目
の板)が
引っ張る力=B2
境界層にわたって考えると
回転系
非回転系
風
風
流れ
境界層の流れ
風の方向と同じ
コリオリ力
風が引っ張る力
境界層の流れ=エクマン輸送
(エクマン層の平均的な流れ)
風に対して右手方向90度になる
北太平洋亜熱帯域では?
f 
f
q
偏西風
~
h
h
流れが弱いところでは 、相対渦度は
貿易風
無視できる。流れが弱 いところとは、
黒潮域以外。エクマン 層から水が下に
押し込まれることは、 下(内部領域)
H
の水柱は縮むことを意 味する。
つまり、内部領域の hが小さくなる。
しかし、渦位 qは保存するから、 fは
小さくならなければい けない。つまり、
水は fが小さいほうに向かっ て動く。
黒潮域以外は水の流れ は低緯度方向
になる。
エクマン輸送により水が集まる。
水位が上昇する。高圧になる。
集まった水は、下に押し込まれる。
時計回りの循環の形成
海洋の
表層循環
海面変位(水位)分布
西岸境界流(黒潮)
強い流れは、太洋の西端にできる。何故か?
ロスビー波により、パターンは西に伝播する。
したがって、もっとも水位の高い場所は、西に伝播する。
西には岸があるので、それ以上伝播できない。
西岸では、水位勾配が大きくなる。そして強い流れができる。
これが、黒潮の成因。
ロスビー波により
西に伝播
別の説明
渦位保存から
• 東側では、北にある水柱
が南に移動する。渦位の
保存より、反時計回りの
回転が付加される。時計
回りの流れは弱められる
。
• 西側では、南にある水柱
が北に移動する。渦位の
保存より、時計回りの回
転が付加される。時計回
りの流れは強くなる。
水平境界層からの考察
• 北に向かう流れは、東もしくは西
のどちらにできるのが道理にかな
っているか?
• 海には偏西風と貿易風により負の
渦度が注入され続けている。どこ
かで逆符号の正の渦度を注入し
ないと海洋循環は加速し続け暴走
する。
• 境界では流れはゼロになる。もし
西に北上流がある場合、境界付
近は、正の相対渦度になる。これ
は、負の渦度を打ち消す効果があ
り、暴走しない定常状態になるよう
に作用する。
• つまり、北上流は西にできるので
ある。
風により海に渦度が注 入されているとする。
その注入される渦度は 、風応力 ( x , y )の回転成分、
 y
x


 x
 curl
y

に比例する。亜熱帯循 環系なら、 curl  0である。海底が平坦の 場合を考えると、

       2

1
 
    2   y     curl 
LR
 t y x x y 

また、西岸付近を除き 、太洋での流れはゆっ くりとしたものである
流れに関係する は小さいものとし、
。
の2乗を含む項を無視 する。(
また、定常状態になっ た場合のことを考える
。定常とは、 である。この条件で、

v    curl
方程式は簡略化されて 、
となる。つまり、北上
流の存在する西岸境界付近以外では

()  0
t
全ての領域で南向きの 流れになる。
この関係のことをスベ
ルドラップ・バランス
と呼ぶ。
驚くことに、実際の流
れは、簡単なこのバラ
ンスに基づいている。
これを見つけたのは、 スベルドラップで海洋
科学通論で話したとお り。
 線形化)
1慣性周期分の流速プロファイル(破線)
と1慣性周期平均した流速プロファイル(太線)
青:東向き流速、赤:北向き流速
ESC12係留データ
2012年9月19日06:00~18:00UTC
74°30.002' N,173°59.902' E