2007年5月1日(火) 気候変動の科学 第4回「対流圏の気候と天気予報」 大学院地球環境科学研究院 山崎 孝治 放射平衡温度 太陽放射と赤外放射は釣り合っている。 単位面積当たりの太陽放射(日射)は 1370 W/m2 x 0.7 / 4 = 240 W/m2 小倉義光「一般気象学 第2版」 大気上端に入射する日射のエネルギーの季節・緯度変化 (W/m2) Hartmann “Global Physical Climatology” より 大気上端に入射する日射のエネルギーの季節・緯度変化 (W/m2) Hartmann “Global Physical Climatology” より 大気上端での熱収支の緯度分布 太陽放射の吸収 赤外放射の射出 正味の放射の インプット Hartmann “Global Physical Climatology” より 年平均正味放射入射量(日射+赤外) [W/m2] サハラ砂漠は負! Hartmann “Global Physical Climatology” より 極方向への熱輸送(大気と海洋) 中緯度は大気 低緯度は海洋 Hartmann “Global Physical Climatology” より 大気による熱輸送の内訳(平均子午面循環と渦) 中緯度は渦輸送 渦輸送: Eddy 低緯度はNMC 平均子午面 循環:NMC 平均子午面循環 ハドレー循環 (直接循環) フェレル循環 (間接循環) 極循環 渦(低気圧)による熱輸送 暖気が北上し 寒気が南下す る。 正味で北へ熱を 運ぶ 大気による熱輸送の内訳(平均子午面循環と渦) 中緯度は渦輸送 渦輸送: Eddy 低緯度はNMC 平均子午面 循環:NMC 大気の法則 • 理想気体の状態方程式(ボイルシャルルの 法則) P=ρRT (P:気圧、ρ:密度、R: 空気の気体定数、 T: 温度( K) ) • 静力学平衡 • コリオリ力 • 水平運動方程式 • 地衡風 静水圧(静力学)平衡(1) Hydrostatic balance 鉛直方向の力の釣り合い(運動方程式)を考え る。 P + dP dz, dp dz g P 底面積1 dw dz p ( p dp) dz g dt dw dz dp dz g dt dw dp g 0 dt dz dp 水平スケールが鉛直スケー g ルより大きければ静止して dz いなくとも、良い近似とな る。 静水圧(静力学)平衡(1) Hydrostatic balance 上に行くほど気圧は下がる。 気圧差と高度差は比例する。 気圧差は、高度差に空気密度と重 力加速度(9.8)を掛けたものであ る。 P + dP dz, dp dz g ⊿p=-gρ⊿z P 底面積1 水平スケールが鉛直スケー ルより大きければ静止して いなくとも、良い近似とな る。 静水圧平衡(2) g p p z RT • 地上天気図では海面更正 をする。 • 高層天気図では一定気圧 面の高度・風・気温などを描 く。 800hPa 850hPa 900hPa 低高度 950hPa 地表面 低気圧 • 対流圏では、おおよそ、 10m=1hPa 2007.5.01. 09JST -> 14:30IR 海面更 正 静水圧平衡(3) [層厚(thickness)] RT z p g p • 二つの気圧面の間の高度 の差(dz)を層厚という • 層厚はlogPで平均した気 温に比例する。 800hPa 850hPa 900hPa 950hPa 地表面 冷たい • 暖かければ、層厚は大き く、寒ければ層厚は小さ 暖かい い。 静水圧平衡 [高層天気図] • 500hPa の天気図は 対流圏中層の代表 • 850hPa の天気図は 対流圏下層の代表 • 対流圏界面は 熱帯では 100hPa 中高緯度では300hPa 水平の運動方程式 • 気圧傾度力とコリオリ力が卓越する。(低緯度を除く) • コリオリ力はコリオリ因子(f)と速度の積に比例 北半球では流れの右直角方向へ働く • 時間変化項(加速度項)は非線形。 du 1 p 2 sin v dt x dv 1 p 2 sin u dt y d f 2 sin u v w dt t x y z latitude 上空の風は気圧の高いほうを右に流れる • 地衡風バランス 地衡風バランス Geostrophic wind (balance) • 赤道付近や地表面付近を 除く大規模な流れでは、コ リオリ力と気圧傾度力がほ ぼバランスしている。 これ を地衡風という。 北半球 低 気圧傾度力 コリオリ力 地衡風 高 1 p ug f y 1 p vg f x 地衡風バランス Geostrophic wind (balance) • 赤道付近や地表面付近を除く大規模な流れでは、 コリオリ力と気圧傾度力がほぼバランスしている。 これを地衡風という。 低 地衡風 高 p ug y 気圧傾度力 1 p vg コリオリ力 f x 南半球 1 f 風のバランス 地表面摩擦の効果 • 気圧傾度力、コリオリ力、摩擦力がバランスする。 • 低圧側へ等圧(高度)線を横切る。 • 低気圧で下層収束。 L 気圧傾度力 風 摩擦力 コリオリ力(風に直交) H 偏西風ジェットの説明 • 低緯度の方が高緯度より暖かいので、中緯度上空では気圧 の傾きが急になり、強い西風となる。 東西平均気温の緯度・高度分布(1993年1月) 東西平均の東西風の緯度・高度分布 200 hPaの高度と風(1993年1月) 200 hPa の東西風の速さ (1993年1月) 数値予報 • 数値予報は、物理学の方程式により、風や気温などの時間変化を スーパーコンピュータで計算して将来の大気の状態を予測する方法 です。気象庁は昭和34年にわが国の官公庁として初めて科学計算 用の大型コンピュータを導入し、数値予報業務を開始しました。 • 数値予報を行う手順としては、まずコンピュータで取り扱いやすい ように、規則正しく並んだ格子で大気を細かく覆い、そのひとつひと つの格子点の気圧、気温、風などの値を世界中から送られてくる データを使って求めます。これをもとに未来の気象状況の推移を スーパーコンピュータで計算します。この計算に用いるプログラムを 「数値予報モデル」と呼んでいます。 • 数値予報モデルには、山岳などの地形の影響、太陽からの放射、 地表面の摩擦、大気と地表面の熱や水蒸気の交換、雲の生成・消 滅や降水などのさまざまな効果が考慮されています (気象庁HP より) 数値予報モデル 温帯低気圧 カオスと予測可能性 初期の小さな誤差が成長するが、発散はしな い。 • ローレンツアトラクターは、次の連立微分方程 式により生成されます。 • dx/dt=-10x+10y • dy/dt=28x-y-xz • dz/dt=-8/3z+xy • これは非線形(xy、xzの項)な方程式であり、 解析的には解くことができず、コンピューター による数値計算に頼ることになります。 カオスと予測可能性 • 数値予報では、わずかに異なる2つの初期値から予報した2 つの予報結果は、初めのうち互いによく似ているが、その差 は時間の経過とともに拡大する。数値予報の初期値には観 測誤差は避けることはできず、これが時間とともに増幅する ためである。これは、数値予報モデルや客観解析の精度の 問題だけではなく、大気の基本的な性質によるものである。 このように初期値の小さな差が将来大きく増大する性質はカ オス(混沌)と呼ばれている。 • 大気のこのカオス的な性質に対処するため、「集団(アンサ ンブル)予報」という数値予報の手法が研究・開発されるよう になってきた。これは、ある時刻に少しずつ異なる初期値を 多数用意して多数の予報を行い、その統計的な性質を利用 して最も起こりやすい気象現象を予報するものである。 (気象庁HP) アンサンブル予報 理由:観測値の不確実性、モデルの不完全性、カオス 長期予報の可能性 • 2週間以上の決定論的予測は原理的に不可 能。中高緯度大気の記憶はせいぜい2週間。 • 長期の記憶を持つもので確率的予測は可能。 *熱帯季節内振動 *成層圏(北極振動、QBO) *エルニーニョ(熱帯太平洋海面水温) *インド洋ダイポール *積雪・海氷 • 温暖化・氷期の予測は可能(境界条件)。
© Copyright 2024 ExpyDoc