2011年度前期水曜日2限 理論言語学特論 I これまでのまとめ 上山あゆみ(九州大学) [email protected] 生成文法のモデル Numeration (いくつかの 単語の集合) Computational System PF(Phonological Form: 単語を構造化した、音関 連の表示) LF (Logical Form: 単語を構造化 した、意味関連の表示) 2 世界知識 Information Database 具体的なモノ/コト(オブジェクト)が、指標番号で区別さ れ、次のような形式で、その性質とともに記憶されている On:attribute1=value1, attribute2=value2, attribute3=value3,... X19:名称=ジョン, 類=大学生, 年齢=20, ... X225:名称=渡辺くん, ... E65:名称=北京オリンピック, 開催年=2008年, 開催国=中国, ... E923:名称=○○海岸OL殺人事件, 犯人= X45, 被害者= X225, ... E82:類=落とす, 落下物=X53, 行為者=X19,... 3 言語と世界知識の接点 Numeration Lexicon Computational System PF LF (Semantic Representation) SR Working Space Information Database Inference rules 4 言語と世界知識 John kissed Mary. どのようにして、これらが結びつくのか? X 19: 名称=John, 類=大学生, 年齢=20, ... X 22: 名称=Mary, 類=OL, 年齢=24, ... E 614: 類=kissed, Patient= X22, Agent= X19, ... 5 SR (Semantic Representation) John1 kissed2 Mary3 変換 o1: ... John ... o2: ... Mary ... o3: ... kissed ... 知識内の検索と同定 X 19: 名称=John, 類=大学生, 年齢=20, ... X 22: 名称=Mary, 類=OL, 年齢=24, ... E 614: 類=kissed, Patient= X22, Agent= X19, ... 6 SR (Semantic Representation) John1 kissed2 Mary3 変換 xo1: 名称 ... John =John ... linguistic x o : 名称 ... Mary =Mary ... 2 SR e o3: 類 ... =kissed, kissed ...Patient=x2, Agent=x1 知識内の検索と同定 X 19: 名称=John, 類=大学生, 年齢=20, ... X 22: 名称=Mary, 類=OL, 年齢=24, ... E 614: 類=kissed, Patient= X22, Agent= X19, ... 7 語彙の「意味」と構造の「意味」 「John1 Mary2 Alaska3 go4」 変換 x1: 名称=John x2: 名称=Mary x3: 名称=Alaska e4: 類=go, Goal=_, Agent=_ 知識内の検索と同定 X11: ... 名称=John, ... X204: ... 名称=Mary, ... X4743: ... 名称=Alaska, ... E61: ... 類=go, ... 8 「意味」のでどころ 従来の区分 ↓ 普遍文法 Computational Systemを持っているからこそ、わかる「意味」 →構造構築からくる「意味」 人類共通 その言語の“文法”を知っているからこそ、わかる「意味」 個別文法 →Lexiconで指定されている機能範疇の「意味/機能」 言語内共通。言語間では大きく異なるが 可能性の幅は定められているはず。 その語彙を知っているからこそ、わかる「意味」 語彙意味論 →Lexiconで指定されている語彙範疇の「意味」 言語間でも共通性は多い。ただし言語内でも個人差あり。 背景知識を持っているからこそ、わかる「意味」 語用論 →自分の「知識」と統合して、推論によって得られる「意味」 人類共通の部分もあるが、文化/環境の個人差は大きい。 9 構造構築からくる「意味」 1. 修飾関係 (αがβに「係っている」関係) α1 β2 ○1: ... α ... ○2: ... β ... | ○1 2. 項関係 (αがβの「項である」関係) α1 β2(role) e2: 類=β, role=_ α1 β2(role 1 ) e2: 類=β, role=○1 (これが起こるのは、βが機能範疇か動詞の場合) 3. 叙述関係(αがSubject、βがPredicateである関係) ←この位置づけが定まりきっていないのが、後半の停滞の原因 10 構造構築からくる「意味」 叙述関係 (αがSubject、βがPredicateである関係) 基底生成の場合 p3:Subject=○1, Predicate=○2 α1 β2 φ3(Predicate2, Subject1) さらに、Partitioning が起こると: p3:Subject=○1, Predicate=○21 α1 β21 φ3(Predicate2, Subject1) 11 構造構築からくる「意味」 叙述関係 (αがSubject、βがPredicateである関係) 付加移動(adjunction)による形成の場合 3 p3:Subject=○1, Predicate=○2 α1 β2 1,P3 さらに αPartitioning が起こると: ... ... p3:Subject=○1, Predicate=○21 12 「意味」のでどころ 従来の区分 ↓ 普遍文法 Computational Systemを持っているからこそ、わかる「意味」 →構造構築からくる「意味」 人類共通 その言語の“文法”を知っているからこそ、わかる「意味」 個別文法 →Lexiconで指定されている機能範疇の「意味/機能」 言語内共通。言語間では大きく異なるが 可能性の幅は定められているはず。 その語彙を知っているからこそ、わかる「意味」 語彙意味論 →Lexiconで指定されている語彙範疇の「意味」 言語間でも共通性は多い。ただし言語内でも個人差あり。 背景知識を持っているからこそ、わかる「意味」 語用論 →自分の「知識」と統合して、推論によって得られる「意味」 人類共通の部分もあるが、文化/環境の個人差は大きい。 13 機能範疇の「意味」 「から」 syntax SR式 からn(Sourcem) ... Mergeの相手が項mとなる an:Source( )=om 「へ」 syntax SR式 へn(Goalm) ... Mergeの相手が項mとなる an:Goal( )=om 「と」 syntax SR式 とn(Contentm) ... Mergeの相手が項mとなる Ln:Content=om 14 機能範疇の「意味」 「か」 syntax SR式 かn(Qm) ...c-command領域内から項mを探す an:om=? 英語の関係節のC0 syntax C0n(m, r) ... r は、このC0nが係っている要素の指標 ... spec位置に不定語mを移動させる SR式 an:om= or 「も」 Pnという素性を持ち、LFにおいて付加移動(adjunction movement)をして、叙述関係のSubjectになり、Predicate に対するPartitioningを義務的に引き起こす 15 英語の関係節の構造 linguistic SR x1:類=boy|a3 x2:類=person NP a boy1 a3: x2=x1 CP e4:類=saw,Theme=x5,Agent=x2 x5:名称=Mary who2 φ3(2, 1) IP t2 saw4 Mary5 16 機能範疇の特性 不定語 不定語「誰/何/どの~」等は、格助詞が直接後続してい る場合、その指標をQに付与しなければならない。 ア系列指示詞 発話者がア系列指示詞を用いるためには、それが、その人 が直接体験によって知っているモノによって同定されていな ければならない。 ソ系列指示詞 モノを指示するソ系列指示詞は、Numerationにおいて、そ の談話ですでに使われた番号の指標をになわなければなら ない。 17 「意味」のでどころ 従来の区分 ↓ 普遍文法 Computational Systemを持っているからこそ、わかる「意味」 →構造構築からくる「意味」 人類共通 その言語の“文法”を知っているからこそ、わかる「意味」 個別文法 →Lexiconで指定されている機能範疇の「意味/機能」 言語内共通。言語間では大きく異なるが 可能性の幅は定められているはず。 その語彙を知っているからこそ、わかる「意味」 語彙意味論 →Lexiconで指定されている語彙範疇の「意味」 言語間でも共通性は多い。ただし言語内でも個人差あり。 背景知識を持っているからこそ、わかる「意味」 語用論 →自分の「知識」と統合して、推論によって得られる「意味」 人類共通の部分もあるが、文化/環境の個人差は大きい。 18 xn型のSR式を導入しうる表現 John1 SR式 x1: 名称=John 知識内の検索 x1 = X19 あのOL3 SR式 x3: 類=OL 知識内の検索 x3 = X22 その4人11 SR式 x11: 人数=4人 知識内の検索 x11 = X105 X19: 名称=John, 類=大学生, 年齢=20, ... X22: 名称=Mary, 類=OL, 年齢=24, ... X105: 名称=ビートルズ, 人数=4人, ... 19 同定(Identification) 同定そのものは、言語のシステムの外の操作 であるが、表現によっては、即時の同定を要求する ものがある。 (7) A: ジョンがメアリを推薦したんだって。 B1: (その事実を知らない)へえ、そう。 B2: (そのジョンを知らない)え、ジョンって? 情報量の問題ではない。 (8) A:ジョンっていうやつがメアリを推薦したんだって。 B:へえ、そう。 (9) A: 誰かがメアリを推薦したんだって。 B: へえ、そう。 20 en型のSR式を導入しうる表現 北京五輪2 落ちた1(Theme) 落とした38(Theme, Agent) SR式 SR式 SR式 e2:名称=北京五輪 e1:類=落ちた, e38Theme=_ :類=落とした, Theme=_, Agent=_ 知識内の検索 e2 = E65 知識内の検索 e1 = E22 知識内の検索 e38 = ?? E65: 名称=北京五輪, 開催年=2008年, ... E22: 類=落ちた, Theme=X24, ... E8825:類=落とした, Theme=_, Agent=_... 21 attributeを示してvalueを指す表現 「彼女の年齢をこの欄に書いてください。」 =欄に「25」と書く 「彼女の名前をこの欄に書いてください。」 =欄に「陽子」と書く 「犯人を連れてきてください。」 =その事件の犯人である人物を連れてくる 22 vn型のSR式 X19:名称=John, 類=大学生, 年齢=20, ... X22:名称=Mary, 類=OL, 年齢=24, ... E614:類=kissed, Patient = X22, Agent= X19, ... E614 Patient X22 X22 : Patient(E614) John :名称(X19) 大学生 : 類(X19) 20 : 年齢(X19) vn型のSR式 value :attribute (object) 23 vn型のSR式を導入しうる表現 年齢2 SR式 v2: 年齢( ) オブジェクトの同定 v2 : 年齢(X19) 知識内の検索 v2 =20 犯人4 SR式 v4: 犯人( ) オブジェクトの同定 v4 : 犯人(E246) 知識内の検索 v4 = X22 目標1 SR式 v1: 目標( ) オブジェクトの同定 v1 : 目標(X19) 知識内の検索 v1 = E205 X19: 名称=John, 類=大学生, 年齢=20, ... E246: 名称=○○殺人事件, 犯人=X22, ... 24 attributeを表すが、 valueだけを指しているわけではない表現 「彼女の年齢にはびっくりした。」 ≠「25才にびっくりした」 =「彼女が25才であるということにびっくりした。」 「名前は関係ない。」 ≠「陽子は関係ない」 =「名前が何であるかは関係ない。」 「犯人は知りません。」 ≠「X22は知りません」 =「犯人が誰なのか、知りません」 25 an型のSR式 X19:名称=John, 類=大学生, 年齢=20, ... X22:名称=Mary, 類=OL, 年齢=24, ... E614:類=kissed, Patient = X22, Agent= X19, ... E614 Patient X22 a1: Patient(E614)= X22 a2:名称(X19)=John an型のSR式 a3:類(X19)=大学生 an :attribute(object)=value a4:年齢(X19)=20 26 an型のSR式を導入しうる表現 年齢2 SR式 a2:年齢( )=_ オブジェクトの同定 a2:年齢(X19)=_ 知識内の検索 a2:年齢(X19)=20 犯人4 SR式 a4:犯人( )=_ オブジェクトの同定 a4:犯人(E246)=_ 知識内の検索 a4:犯人(E246)=X22 黄色い1 SR式 a1:_( )=黄色い オブジェクトの同定 a1:色(X79)=黄色い 知識内の検索 a1:色(X79)=黄色い X19: 名称=John, 類=大学生, 年齢=20, ... E246: 名称=○○殺人事件, 犯人=X22, ... X79:色=黄色い,... 27 SR式を導くために知らねばならない語彙の知識 導入しうるSR式の型 en: attribute = value (その表現はvalueに対応する) このattributeは? 他に指定されたattribute(=いわゆる「項構造」)は? xn: attribute = value (その表現はvalueに対応する) このattributeは? 他に指定されたattribute(=いわゆる「項構造」)は? vn: attribute(object) (その表現はattributeに対応する) an: attribute(object)=value その表現がvalueに対応する場合、そのattributeは? その表現がattributeに対応する場合もありうる。 28 「意味」のでどころ 従来の区分 ↓ 普遍文法 Computational Systemを持っているからこそ、わかる「意味」 →構造構築からくる「意味」 人類共通 その言語の“文法”を知っているからこそ、わかる「意味」 個別文法 →Lexiconで指定されている機能範疇の「意味/機能」 言語内共通。言語間では大きく異なるが 可能性の幅は定められているはず。 その語彙を知っているからこそ、わかる「意味」 語彙意味論 →Lexiconで指定されている語彙範疇の「意味」 言語間でも共通性は多い。ただし言語内でも個人差あり。 背景知識を持っているからこそ、わかる「意味」 語用論 →自分の「知識」と統合して、推論によって得られる「意味」 人類共通の部分もあるが、文化/環境の個人差は大きい。 29 修飾のSRとアブダクション ○1: ... α ... ○2: ... β ... α1 β2 |○1 ○1は○2に「関連している」 「関連している」とは? [推論1] ak:Attribute(oi)=Valuej ⇒ oi:.... | ak [推論2] oi:.... Attribute=vj ... ⇒ oi:.... | vj [推論3] oi:....Attribute=oj, ...,Attribute=ok ...⇒oj:.... | ok [推論4 <symmetry>] α:... |β ⇒ β:... |α [推論5 <transitivity>] α:... |β かつ、β:... |γ ⇒ α:... |γ 30 修飾関係 1 linguistic SR フロリダ産1の オレンジ2 a1:産地( )=フロリダ x2:類=オレンジ |a1 「|」を解くためのアブダクション a1:産地(x2)=フロリダ と仮定すると、 [推論1] より、 x2:.... | a1 が導出されるので、 この仮定は適切。 ∴ x2:類=オレンジ,産地=フロリダ [推論1] ak:Attribute(oi)=Valuej ⇒ oi:.... | ak 31 修飾関係 2 linguistic SR 高校生1の 子供2 v2:子供(x1) x1:類=高校生, 子供=v2 v2: ... |x1 x1:類=高校生 v2:子供( ) |x1 と仮定すると、 となり、 [推論2]とsymmetry により、 が導出されるので、 この仮定は適切。 [推論2] oi:.... Attribute=vj ... ⇒ oi:.... | vj [推論4 <symmetry>] α:... |β ⇒ β:... |α 32 修飾関係 3 linguistic SR 落ちた1 おもり2 e1:類=落ちた, Theme=_ x2:類=おもり|e1 e1:類=落ちた, Theme=x2 と仮定すると、 [推論2]とsymmetry により、 x2: ... |e1 が導出されるので、 この仮定は適切。 [推論2] oi:.... Attribute=vj ... ⇒ oi:.... | vj [推論4 <symmetry>] α:... |β ⇒ β:... |α 33 修飾関係 4 linguistic SR 落ちた1 おもり2 e1:類=落ちた, Theme=_ x2:類=おもり|e1 e3:... _=e1, _=x2, ... と仮定すると、 (たとえば、その「おもり」が何かの「落下」を引き起こした ような場合を仮定すると) [推論3]により、 x2: ... |e1 が導出されるので、 この仮定は適切。 [推論3] oi:....Attribute=oj, ...,Attribute=ok ...⇒oj:.... | ok 34 修飾関係 5 linguistic SR つかまえた1 人数2 e1:類=つかまえた, Theme=_, Agent=_ v2:人数( )|e1 e1:類=つかまえた, Theme=Xi, Agent=__ と仮定すると、[推論2]により、 Xi:... |e1 が導出される。さらに、 v2:人数(Xi) と仮定すると、 [推論2] により、 v2:... |Xi が導出される。この2つに対して、 transitivity を適用すると、 v2: ... |e1 が導出されるので、これらの仮定は適切。 [推論2] oi:.... Attribute=vj ... ⇒ oi:.... | vj [推論5 <transitivity>] α:... |β かつ、β:... |γ ⇒ α:... |γ 35 「意味」のでどころ 従来の区分 ↓ 普遍文法 Computational Systemを持っているからこそ、わかる「意味」 →構造構築からくる「意味」 人類共通 その言語の“文法”を知っているからこそ、わかる「意味」 個別文法 →Lexiconで指定されている機能範疇の「意味/機能」 言語内共通。言語間では大きく異なるが 可能性の幅は定められているはず。 その語彙を知っているからこそ、わかる「意味」 語彙意味論 →Lexiconで指定されている語彙範疇の「意味」 言語間でも共通性は多い。ただし言語内でも個人差あり。 背景知識を持っているからこそ、わかる「意味」 語用論 →自分の「知識」と統合して、推論によって得られる「意味」 人類共通の部分もあるが、文化/環境の個人差は大きい。 36 (perceived) phonetic strings frequent patterns Numeration Extractor Lexicon (formal) features Numeration Computational System PF Phonology (generated) phonetic strings LF Information Extractor SR Concepts Working Space Information Database Inference rules input/output process system influence reference (dynamic) database 37
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