卒業論文 重力波のデータ解析における 分散処理の必要性 大阪工業大学 情報科学部 情報科学科 A05-043 北口 潤 はじめに 一般相対性理論によると、大質量の物体の 激しい運動は周囲の時空を歪ませ波のよう に伝わる。この波動現象を重力波と呼ぶ。 重力波はまだ直接検出はされていない。 重力波の直接検出を目指す分散処理を用い たプロジェクトがある。 研究の目的 重力波のデータ解析 Einstein@homeではどのような概念で計算が なされているのかプログラムで解析 分散処理の必要性 なぜ、分散処理をするのか、分散しなければ どのぐらい計算時間がかかるのかを見積もる。 重力波について 重力波は1916年にアインシュタインが存在を予言した。 それから約60年後、観測によって間接的に発見され ている。 予測される重力波源は連星系 の合体、超新星、パルサーか らの連続波、ブラックホール がある。 図1.連星系の合体 Einstein@homeとは Einstein@homeは重力波の直接検出を目的としたプ ロジェクトである。 LIGOとGEOから出力されるデータを用いる。データは パルサーからの連続波を対象にしている。パルサー の形状が回転軸の周りで非対称であれば重力波が 発生するとされている。 BOINC(Berkeley Open Infrastructure for Network Computing)とは分散処理のソフトウェアである。 (http://boinc.berkeley.edu/) フーリエ級数展開 フーリエ級数展開 a0 (t ) (a f cos2ft b f sin 2ft ) 2 f 1 入力信号波形 sinとcosの合成と考える a f 成分の求め方は , bf 2 T a f (t ) cos 2ftdt T 0 2 T b f (t ) sin 2ftdt T 0 区分求積法 長方形近似 長方形で近似する。黒い部分は誤 差である。 台形の公式 台形で近似する。長方形近似よりは 誤差が少ない。 シンプソンの公式 二次曲線で近似するため誤差は最 小限まで減らせることができる。 テスト計算 y 2 sin(x) 3 cos(x *10) 4 sin(x * 8) 5 cos(x * 3) y x 図2.サンプルデータ テスト結果 長方形近似 台形の公式 シンプソンの公式 b1 2.0386 , a3 4.8162 b8 3.8567 , a10 2.9346 b1 2.0115 , a3 5.1189 b8 4.0146 , a10 3.0904 b1 2.0106 , a3 5.0199 b8 4.0146 , a10 2.9947 シミュレーション 次の図は、大阪市立大学理学研究科の神田 教授から実際に計算に用いられているデータ をいただき、そのデータに故意的な重力波を 含めたものである。 データを周期的な波と捉えて周波数と検出時 間のパワースペクトルを求める。 重力波データ 振幅 [s] 縦軸は振幅、横軸は時間(秒)を表している。 100Hz~200Hzの周波数の パワースペクトル 縦軸は全体の割合(%)、横軸は周波数(Hz)を表している。 0秒~0.1秒間の周波数の パワースペクトル 縦軸は全体の割合(%)、横軸は周波数(Hz)を表している。 0.8秒~0.9秒間の周波数の パワースペクトル 縦軸は全体の割合(%)、横軸は周波数(Hz)を表している。 周波数198Hzでの 0.1秒刻みのパワースペクトル 縦軸は全体の割合(%)、横軸は秒(s)を表している。 重力波データ 結論 本研究では周波数50~300Hzの間で1秒間 (0.1秒刻み)のデータを用いて計算したが、周 波数と検出時刻を特定するのに約6秒かかっ た。 実際の解析を想定すると、30時間分データで 50~1500Hzで検出時間を0.001秒刻みで解 析すると現プログラムでは約104400時間か かり、約12年必要となる。 まとめ 実際のパルサー重力波の同定には、さらに 振幅、周波数、受信方向による重力波到達 時間の変調などのパラメータがあり、計算量 はさらに増える。分散処理が必要な計算であ ることがわかった。
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