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産業組織論
(8) 完全競争市場の効率性
丹野忠晋
跡見学園女子大学マネジメント学部
2011年12月22日
今日学ぶこと
1.
2.
3.
4.
5.
6.
部分均衡分析
一般均衡分析
パレート効率性
厚生経済学の基本命題
効用可能性フロンティア
公平性
2011/12/22
産業組織論 8
2
個々の市場の分析

生産物市場,労働市場,資本市場

このような個々の市場の分析を部分均衡分
析という
完全競争は需要と供給が一致する点で均衡
価格をもたらす
 その時,経済厚生が最大化された

個々の市場がすべて均衡していれば経済全
体でも経済厚生が最大化
 効率的な状態

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3
生産物市場
生産物価格
均衡生産物価格が決まる
供給曲線
P*
需要曲線
数量
Q*
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4
生産物市場:消費者と生産者余剰
生産物価格
経済厚生最大化
供給曲線
消費者余剰
P*
生産者余剰
需要曲線
数量
Q*
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5
労働市場の均衡
労働量は時間,日数,働いた量
賃金率に対応.
時間だったら時給が賃金率
賃金率w
均衡賃金率が決まる
労働供給曲線
w*
労働需要曲線
労働量 L
L*
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資本市場の均衡
利子率 r
I
貯蓄曲線 S と投資曲線 I
の交点で利子率決定
S
貯蓄曲線 S
=資金供給曲線
r*
投資曲線 I
=資金需要曲線
I*=S*
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資金量
7
三つの市場の図解
財の販売
財の購入
生産物市場
価格を支払う
企
業
労働者の雇用
労働提供
労働市場
家
計
賃金を支払う
資金の借り入れ
資金の貸し付け
資本市場
利子を支払う
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8
財・サービスと価格
市場/
経済主体
家計
企業
価格
生産物市場 労働市場
資本市場
買い手
提供
売り手
雇用
生産物価格 賃金率
貸し手
借り手
利子率
2種類の経済主体が三つの市場で相互作用 を及ぼす
 三つの価格が各市場の需要と供給を均等させる
その時,需要と供給は変化しない
価格も変動しない .均衡価格
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一般均衡

家計は生産物価格,賃金率,利子率を見て生
産物購入量,労働提供量,貯蓄額を決める
企業は生産物価格,賃金率,利子率を見て生
産物供給量,雇用量,投資額を決める
 つまり,すべての市場は関連している


すべての市場を考慮した分析を一般均衡分析
という
一般均衡分析では全ての価格-生産物価格,
賃金率,利子率-は同時決定される
 部分均衡分析では他の事象は一定だ

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収支均等条件
一般均衡分析では各経済主体の予算制約を
包括的に扱う
 分析を簡便にする特徴がある
A) 消費者
勤労所得(利潤を含む)=消費支出+貯蓄
B) 企業
生産物収入=賃金支払(利潤を含む)+投資
 利潤は配当で支払われる

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収支均等条件/2
1.
2.
3.

生産物市場の均衡
消費支出=生産物収入
労働市場の均衡
勤労所得=賃金支払い
資本市場の均衡
貯蓄=投資
ある家計が所得以上の支出をすれば貯蓄は
マイナスになる.借金を意味する.全体で
は貯蓄が上回る
お互いに利子支払と利子受取がある.省略
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.

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ストックとフロー
• お風呂に水を入れる,栓を抜いて排出
• 現在の浴槽のお湯の量がストック
• 流入と流出がフロー
フロー
ストック
水
フロー
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ストックとフロー

今年の生産や所得 = フロー

一定期間内に変化や起こったものの大きさ
をフロー
貯蓄残高=ストック
一時点に存在するものの大きさをストック
貯蓄,引き出し=フロー
負債残高=ストック
新たな借金や返済=フロー
生産,消費,投資






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ストック
昨年末貯金残高が100万円あった
 今年は10万円新たに貯金した
 今年の末には貯金残高はいくら? 110万円
 昨年末ローン残高が50万円あった
 今年新たに10万円銀行から借りた
 今年末の借入残高はいくら?
60万円
 貯蓄した=純貯蓄(純資産)が増える
 借入する=純貯蓄が減る

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貯蓄
今期の所得のうち消費しなかった残りの金額
を貯蓄という
 前期の貯蓄残高(資産)は今期の貯蓄分だけ増え
て今期の貯蓄残高になる
100+10=110
 前期の資産+今期の貯蓄=今期の資産

今期の貯蓄=今期の資産-前期の資産
 資産が増えれば貯蓄したことになる
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借入
今期の所得以上に支出した場合は誰かから借
入をしなくてはならない
 前期の借入残高(負債)は今期の借入分だけ増え
て今期の借入残高になる
50+10=60
 前期の負債+今期の借入=今期の負債

今期の借入=今期の負債-前期の負債
 負債が増えれば借入したことになる
 実際は,貯蓄と借入を同時にしている
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貯蓄と借入
今期の貯蓄をS.前期の資産を A0
 今期の資産を A
 貯蓄を加えると今期の資産
A0 +S =A


資産の増加が貯蓄
S =A -A0
 今期の借入(投資)をI.前期の負債を L0
 今期の負債を L
 借入を加えると今期の負債 L0 +I =L
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収支均等条件/3
もし生産物市場と労働市場が均衡していた
としよう
 生産物市場の均衡:消費支出=生産物収入
 労働市場の均衡:勤労所得=賃金支払
 その時,資本市場も均衡している
A) 消費者
勤労所得=消費支出+家計貯蓄
B) 企業
生産物収入=賃金支払+企業貯蓄

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収支均等条件/4
A)
B)



消費者
勤労所得-消費支出=家計貯蓄
企業
賃金支払-生産物収入= -企業貯蓄
上の左辺は等しい.よって右辺も等しい
家計貯蓄=-企業貯蓄
10万円借りることはマイナス10万円貯蓄す
ることに等しい
企業投資=-企業貯蓄
結局, 家計貯蓄=企業投資
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現実には
家計が10万円貯蓄=企業10万円投資=企業
が10万円借入
 様々な単純化の仮定
 投資財を作る企業
 企業は利益を貯める(内部留保)
 企業の利益を受け取る物
 政府
 外国

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一般均衡と部分均衡

他の市場への波及効果を考えるときに一般均
衡分析は有益だ

消費税率の上昇は生産物の取引量の減少をも
たらす(部分均衡分析)
一般均衡分析:企業の収入の減少は雇用量の
減少をもたらし労働需要の減退.よって賃金
率の下落
 投資の減少により利子率の下落.貯蓄は減る
 他の市場への派生効果を考えられる

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交換が社会を豊かにする






市場という交換の場で交換を行った時にも
うお互いの改善点がない状態が効率的
イチローと石川遼
イチローはゴルフボールを持っている
石川遼は野球のボールを持っている
両者は互いのボールを交換するだろう
生産がなくても交換で両者の満足度アップ
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交換が社会を豊かにする/2




各人は自分のボールに百円の満足
経済全体の満足度
100+100=200 (円)
しかし,各自のボールを交換することによ
って利益が生まれる
イチローは野球がしたい,石川遼はゴルフ
をしたい
2011/12/22
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交換が社会を豊かにする/3







イチローは野球のボールに一万円の満足
石川遼はゴルフボールに一万円の満足
両者は互いのボールを交換するだろう
そうすると,社会全体の満足度
10000+10000=20000 (円)
生産や努力がなくても交換するだけで社会
全体の満足は二百円から二万円に増加
多様性(ボールに対する満足度)が鍵
この状態はパレート効率的である
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パレート改善

下のときは効率的ではない
 イチローはゴルフボールを持っている
 石川遼は野球のボールを持っている



ボールを交換して両者の状態は改善した
これをパレート改善という
他の人に不利益を及ぼすことなしにある人
の利益を上げられるならば,その変化はパ
レート改善と呼ぶ
2011/12/22
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パレート改善
イチローは野球のボー
ル,遼はゴルフボール
遼の満足 (円)
点Aから点Bの移動は
パレート改善
B
10000
それは点Aが非効率で
あることを意味する
イチローはゴルフのボー
ル,遼は野球ボール
A
100
100
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10000
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イチローの満足(円)
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効率性とは何か




改善の余地がある場合に元の状態は非効率
パレート改善ができる状態は非効率な状態
非効率でない状態が効率的な状態
効率的な状態とはもうこれ以上(他の犠牲な
くしては)改善できないこと
2011/12/22
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パレート効率性

パレート改善することができない状態をパ
レート効率的な状態という

「他の人に不利益を及ぼすことなしにある
人の利益を上げられ」ない状態が効率的な
状態
2011/12/22
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誰かが不満足
遼の満足 (円)
10100
イチローは野球のボー
ル,遼はゴルフボール
イチロー
は不満
B
10000
どのパターンでもパレート
改善することができない
それは点Aがパレート
効率的である事を意味する
遼は不満
100
100
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10000
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10100
イチローの満足(円)
30
パレート効率性
一般均衡では効率である .無駄のない状態
 ここで使われる概念はパレート効率性
他の誰かの状態を悪化させることなしにはど
の一人の状態をも改善することができない
 分かりにくいので言い換えると
誰か一人の状態を改善しようとしたら,他の
誰かの状態を悪化させなければならない
 つまり,もう改善の余地がない状態

2011/12/22
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三つの効率性

1.
2.
3.

一般均衡分析では経済全体の効率性を分析
できる
消費の効率性
生産の効率性
生産物構成の効率性
消費者余剰や生産者余剰が計測できなくて
もパレート効率性の概念を用いて分析が可
能である
2011/12/22
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消費の効率性
イチローと石川遼のボールの交換の例がこ
れだ
 消費の効率性とは
生産された物はすべて効率的に個々人に配
分されている

生産物の種類やその量は一定であるとき各
個人の嗜好に照らして上手く配分される
 それを価格メカニズムが実施してくれる

2011/12/22
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生産の効率性
次は生産要素を無駄なく使っていることだ
 生産の効率性とは
投入物を効率的に用いて生産が行われてい
る


生産が効率的であれば自動車を増産するに
はお米を減らさなければならない

労働や資本設備を効率的に用いているなら
ば生産可能性フロンティア上で生産が行わ
れる
2011/12/22
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一国のトレードオフ:米と自動車
お米の数量
(万トン)
1500
現実の生産パターン
A
900
C
非効率な生産パターン
生産可能性フロンティア
B
200
0
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500
1000
2000
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自動車
の数量
(万台)
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生産物構成の効率性
点Aは効率的であり,点Bは非効率的
 しかし,点Cも効率的

日本人がもっとお米より自動車を欲して板
ならば点Aから点Cに移ることにより経済全
体の満足度が上がる
 生産物構成の効率性とは
他の人々の状態を悪くすることなしにある
人の状態が良くなるような他の生産物の組
合せが存在しない状態を意味する

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生産物構成と選好
経済全体の生産物の構成は経済全体の選好
を反映していなければならない
 産業間の価格調整がこれを可能にする
 自動車をより好む→自動車の需要が増大→自
動車価格の上昇→自動車産業の労働の賃金率
の上昇→農家から自動車産業への就労変化
 自動車の増産とお米の減産
 資本もお米産業から自動車産業へ移動
 点Aから点Cへ生産物構成が変化する

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一国のトレードオフ:米と自動車
お米の数量
(万トン)
1500
現実の生産パターン
A
900
C
700
新しい生産パターン
生産可能性フロンティア
0
2011/12/22
1000
1200
産業組織論 8
2000
自動車
の数量
(万台)
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厚生経済学の基本定理と公平性
三つの効率性を完全競争市場は達成可能
 完全競争市場の均衡はパレート効率的である
(第1命題)

非効率性よりも効率的な方が良いが,不平等
をもたらす可能性もある
 豊かな人と貧しい人.不平等をどう解決する


効率的に生産が行われている時にグループ間
の総効用の組合せの曲線は効用可能性フロン
ティアと呼ばれる
2011/12/22
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世代間の不平等性
日本では世代間の不平等が大きな話題にな
っている
 安定した正規労働に就いている人々
 年金の支給額の差
 高齢者1人当たりの現役世代数も2.9人まで
 不公平性のために競争市場を諦めてはなぬ


反対に効率的な状態を競争市場と補助金で
実現することも可能(第2命題)
2011/12/22
産業組織論 8
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効用可能性フロンティア
老齢世代の効用
現実の状態
人々が求めている状態
A
C
B
非効率な生産や配分
効用可能性フロンティア
若者の効用
0
2011/12/22
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公平性

一括の補助金や税である程度配分を変更する
ことは可能

一般の税や最低賃金は非効率性をもたらす可
能性

それは効用可能性フロンティアの内側に経済
の状態を持って行くかも知れない
所得分配の客観的な公平性の基準は存在しな
い
 市場が失敗したときは介入をすべき
 その副作用も同時に考慮しなければならない

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