数学教育と情報・情報処理教育の 関わりについて 1999年度数学教育学会 春季年会 シンポジウム

数学教育と情報・情報処理教育の
関わりについて
1999年度数学教育学会
春季年会
シンポジウム 数学教育と情報教育はどう関わるか
岡山理科大学総合情報学部社会情報学科
森
裕 一
[email protected]
概 要
数学教育と情報・情報処理教育の関わり

全体イメージ


これまでの短大・文系大学SGの取り組み
数学教育と情報処理教育の関係
• 短大・文系大学SGの研究発表の中から
• 1998年のアンケートより
• 参考になるアイデア

期待したいこと
論理,数の表現,集合と関数,統計 (,情報処理技術者試験の数学)
数学的考え方,論理的思考力
ツールとして
アプリケーションソフト,専用ソフト,プログラミング
インターネット
操 作
情報数学
アルゴリズム
情報の処理
コンピュータの理解
情報化と社会
数学
社会(学問)の要請
•数学・統計
•コンピュータ
•問題解決力
コンピュータや
ネットワークの
急速な進展
×
○
?
学習指導要領の方向
•数学の内容の精選
•情報導入
•総合学習
大学の実際
•入試科目(数学×),数学の範囲
•数学 → 情報処理教育
•補習?
社会(学問)の要請
•数学・統計
•コンピュータ
•問題解決力
コンピュータや
ネットワークの
急速な進展
×
○
?
学習指導要領の方向
•数学の内容の精選
•情報導入
•総合学習
大学の実際
•入試科目(数学×),数学の範囲
•数学 → 情報処理教育
•補習?
数学の基礎学力不足
現行の学習指導要領下で
入学してくる学生が証明
中高の「情報」の影響小
現行の学習指導要領下で
入学してくる学生が証明
数学教育への危機感
=学問自体への危機感
=根底としてのものの考え方
これまでの短大・文系大学SGの取り組み

情報処理教育を短大SGで議論することになったきっかけ
• 短大・大学への一般情報処理教育の導入(1980年代後半 )
• 専門ではない教員に指導の役割
• 近い教科の教員
• コンピュータの経験がある教員
• 大学設置基準の大綱化
• 一般教育

「数学」を廃止 → 「一般情報処理教育」の設置
数学との関連
• 情報教育・情報処理教育と数学との関連を大きく感じていた
• 本会の会則の改訂
「本会は数学・数学教育と情報・情報教育との立場から数学教育の研究
を行う」(平成9年4月1日改訂)
数学教育と情報処理教育の関係
短大・文系大学SGの研究発表
5.
 情報・情報処理への数学の必要性
数学を拒絶する傾向が中学校から始まり,高校の数学の内容をほとんど理解
することなく(しかし不思議と単位は修得している)入学してきた学生に,文字
10. • 総じて,数学は必要(必要性を肯定)
コード入力の説明に中学で習う指数法則から説明しないと16進数の話が出来
情報処理教育の目標の1つ「情報システムを効率的に活用した情報の収集・
24.
ない。表計算ソフトの実習の際に現れる数学の基礎知識(座標の考え方,関
処理能力の習得」の具体的項目として,①タイピング技能②ワープロによる文
数の考え方,統計の基礎知識,命題論理:これらは入学以前に身につけてい
 情報処理に必要な数学
A学科(理系:名簿順に2クラス),B学科(文系:入学時の数学調査テストによる
書作成③表計算とデータベースの活用④統計処理パッケージの活用⑤電子
16.
るべきもの)の欠如は問題である。パソコンは実用面ではブラックボックスでよ
能力別2クラス)の計4クラスを,「文書処理」「プログラミング基礎(BASIC)」「応
• 既存の数学
メール・BBS⑥プログラミングがあげられる。①②は中等教育までの内容として
いが,数学の知識で裏打ちされたブラックボックスであってほしい。すなわち,
5,8,9,10,12,13
短大では情報系科目の設置とともに「情報数学」が開講されるようになった。こ
用プログラミングI(Excelによる統計処理とAccessによるデータベース実習)」
適切で,③~⑥が高等教育の内容になろう。その基礎知識として,③は高校ま
•
統計,命題・論理,集合,数の表現
上記の内容をもつ「情報基礎数学」の必要性が出てくる。しかも,それは中学・
14,16,19,20,21
の主たる目的は,一般情報処理のための数学的基礎を学ばせることにある。
「応用プログラミングII(C)」の4科目で比較する。リテラシー系の「文書処理」で
での基礎数学,④は統計に関する基礎知識,⑥は論理的思考力や直感力が
高校の数学の教育課程の知識を前提としない構成で,かつ中学や高校で体
• 数学的な考え方
内容は概ね,2進法・情報の表現,集合・ブール代数,線形代数,微積分の基
は,4クラスの差はほとんどない。しかし,残りの3科目では理系と文系で差が
17
験しなかった数学の本質的な理解の喜びを得ることができるものとすべきと考
13.
礎,数値計算,統計と確率となっている(統計と確率は「情報数学」とは別に
• 論理的思考力,数理と論理,数学的見方・考え方,
出る。厳密には,物事を筋道を追ってきちんと考えられるかどうかで分かれる。
「最後の数学教育」にならざるをえないが,その方が数学に対する拒絶を回避
える。(三木,1993)
「統計学」として独立させているところも多い)。数値計算を除くと「第2種情報処
4,6,13,15
問題解決力(問題の解決への態度)
これは,プログラムの流れを考えるときや,生データやグラフを読むとき,ある
できるし,③~⑥に数学として適切な題材が存在する。(三木,1994b)
短大SGへアンケートを行ったところ,一般情報処理教育に必要な数学の知識
19,21,23,24
理技術者」のための数学とほぼ一致しており,数学を情報処理に応用していく
いはリレーショナルデータベースでリレーションを張るときに顕著に現れる。一
は,多い方から,統計処理,数学的な推論,数と式,確率分布,行列と線形計
視点をもつものである。(齋藤,1997)
昔前は数学の知識不足を問題にしていたが,最近では,数理的な目とか,物
算,順列・組合せ,確率である。ただし,「数学の知識」「数学の内容」「数学の
事をきちんと考える力のなさが問題である。数学を現実世界で使えるものと
能力」とは何か,どのように測るかという根本的な問閧ェある。(三木,森,
 情報・情報処理のための数学
思っていないし,応用しようとする態度もない。いくつもの問題を解決していくこ
1995)
5,7,16
とで培われていた洞察力や演繹的な力という重大な部分が抜けているように
• 「情報数学」「情報基礎数学」
思われる。
数学教育と情報処理教育の関係
短大・文系大学SGの研究発表

コンピュータが得意な数学
• 離散数学,フラクタルなど ~ 頻度少

コンピュータ利用の数学
• 「表計算ソフトによる○○」 ~ 少々
• 数式処理ソフト,統計ソフト ~ アイデアのみで事例なし
22.

大学入学以前のコンピュータの経験を聞いたとき,中学校技術家庭科の情報
初等中等教育との関連
基礎および高校の数学AやBでの経験を語る学生は少ない。ゲームや家にあ
5,11,23,24
• 数学教育において不満が非常に大きい
るパソコンによる経験の方が多い。街でコンピュータに触れる機会はたくさんあ
るが,教育にはほとんどないということである。
• 入学生の数学の理解力不足 → 嘆き → いかにして大学で補うか
• 学習指導要領 = 大学の学問や実社会と逆の動き
• 文系といえども数学・統計が道具として必要 ←→ 内容の精選?
• 情報に関して
• 中高での情報教育の影響は少ない
• 次の学習指導要領 = 大学の情報教育を混乱させる懸念
22
数学教育と情報処理教育の関係
1998年のアンケートより
短大・文系大学SGの数学教育・情報処理教育の諸問題アンケート調査(椿原,島田,1998)

情報化社会における数学教育について
• 離散数学,論証を
• 1次関数,2次関数という切り分けは無意味
• 問題解決型で情報発信を前提にした授業を

数学教育におけるコンピュータ利用について
• 道具としての数学を日常化させるべき

数学教育と情報処理教育との共通の切り口について
• 数理を実感する授業が必要ではないか
• 表計算ソフトの活用
• 統計学の知識を仮定しないで,プログラミング教育の中で統計学の内容
(たとえば,最小自乗法による傾向線)を実験的に扱う
• 統計ソフトの活用
• 中心極限定理や定積分の近似計算
数学教育と情報処理教育の関係
参考になるアイデア

新しい教科編成
• 「表現科」「コミュニケーション科」「数理科」(坂元,1996)

統計ソフトを用いた一般情報処理教育
• ワープロ等の操作教育
→

統計ソフトを用いたデータ解析(新村,1995,1997)
大学基礎科目における情報処理系科目のパック化
• O大学の例
• 一般教育課程 = 7系列
• 「基礎科目I」 = 論理,数理,情報の表現・処理に関連する科目
• 目標「論理的思考力及び表現力並びに情報処理能力を培う」
情報処理入門A
情報処理
論理学入門
情報処理入門B 情報処理入門C
アルゴリズムとプログラミング
哲学入門
自然と科学
情報理論入門
統計学A
期待したいこと
ものごとの基本としての数学
情報処理の基本としての数学
情報科と数学科
初等中等教育への期待

ものごとの基本としての数学
大学で行うこと
初等中等教育への期待
• ものごとをきちんと筋道を立てて考えられる力の育成
• 数学の学習の根本!
• 初等中等教育
• 学習指導要領改訂への対応を間違わないこと
• 「内容の精選」
≠
「教える内容を減らす」
• 長い間かかって培われる数学に対する態度を大切に
• 精選の方向を反省
• 総合学習の有効活用!
• 大学教育
• 数学や情報処理の授業の中で意識
• 数学関係科目の情報関係科目への単純な置き換え ×
• 専門と関係する数学や必要とされる数学を意識しない講義内容 ×
• 数学以外の教科でも「筋道を立てて考えられる力」を大切に
期待したいこと
ものごとの基本としての数学
情報処理の基本としての数学
情報科と数学科
初等中等教育への期待

情報処理の基本としての数学
大学で行うこと
初等中等教育への期待
• 「ものごとの基本としての数学」の上に
• 論理,数の表現,集合と関数,統計処理を大切に
コンピュータを理解するための数学
情報を処理するときに必要となる数学の基本部分
• より詳しくコンピュータを知る授業やプログラミングの授業で必要な
数学知識はその授業内で必要に応じて提示する
• 第2種情報処理技術者試験の数学的内容
• 初等中等教育では
• 現在の教育課程の内容をしっかり学習させる
• ただし,統計はどうしても後回しになるので,大学に入ってから
• 実際のデータ処理の下,情報処理教育として指導する
期待したいこと
ものごとの基本としての数学
情報処理の基本としての数学
情報科と数学科
初等中等教育への期待

数学科と情報科
大学で行うこと
初等中等教育への期待
• 「数学科」「情報科」は単独で存在してよい
• 「情報」で情報処理に言及するときは教科横断的に
• 「数学」が使えるものであることを示すときにも教科横断的に
• 情報に関わるアイデアや情報機器はあらゆる問題解決場面で有効
• 数学・統計も道具としてあらゆる問題解決に活用できることを示す
• 情報や情報処理を意識した数学のカリキュラムも
数
学
科
科
目
A
科
目
B
科
目
C
情
報
科
ものごとの基本としての数学
期待したいこと
情報処理の基本としての数学
情報科と数学科
初等中等教育への期待

初等中等教育への期待
70%×70%=49%
大学で行うこと
初等中等教育への期待
70%→100%=70%
• 数学的な態度の育成 (大学だけでは無理)
• 呈示された教育課程の数学の内容を確実な学習
• 数学と情報がすべての教科で意識された学習

大学で行うこと
数学が情報処理に
貢献するところ
プラス面と
マイナス面
• 中高の「情報科」での学習が前提
• カリキュラム=論理,数理,情報の表現・処理に関連する科目をくくる
• 実際の指導=統計処理
• 情報処理の授業としてでも数学の授業としてでも可能
• 統計処理の中で使われる数学的な知識を学習しながら
大学も変わらなきゃ
• 処理の手立てとしてコンピュータを駆使し
• 処理された結果を解釈して次の行動を判断する問題解決型の学習
• 表計算ソフト(可能ならば統計パッケージも)
• 「情報基礎数学」の設置