会計学基礎 5月25日 販売活動 アウトライン 営業循環における収益の認識 販売基準・生産基準・回収基準 棚卸資産の取得原価 棚卸資産の会計記録 払出単価の決定と原価配分の方法 棚卸資産の期末評価 売上代金の回収 営業循環における収益の認識 営業循環のどの時点で収益を計上するのか、が 本章の最重要ポイント 実現原則から、主に販売の時点で収益を計上す る(販売基準)が、 いろいろな業種や取引形態によっては販売以外 の時点で収益を計上することが取引の実態に即 していることがある この場合に生産基準や回収基準が用いられる 企業におけるキャッシュ(カネ)の流れ 土地・建物・工場 原材料 証券投資 仕掛品 現金 完成品 銀行借入 株主 売上債権 営業活動 投資活動(資金投下) 財務活動(資本調達) 実現原則による収益の認識 以下の2点を満たした場合に収益を認識する 財貨やサービスが相手に引き渡され、 その対価として現金・売掛金などの貨幣性資産を受 け取った このことは 販売により顧客が特定され、 取引価格が確定したことを意味している 販売基準 実現原則にそくした収益の計上方法 財貨やサービスの販売時点で収益を計上する 最も一般的な収益の計上方法である 特殊な形態の販売(委託販売など)の取り扱いについては 財務会計論で 生産基準 事前に顧客が特定され、取引価格が確定してい る(とみなせる)取引 (1)契約に基づき継続的にサービスを提供している 場合 (2)請負契約 不動産業・貸金業など 建設業・造船業など (3)所定の価格での販売が容易な市場が存在してい る場合 鉱業(主に貴金属)・(政府買い上げの)農業など 生産基準 このような場合に、発生主義により収益を認識 する 具体的には、それぞれ前のスライドに対応して、 販売の事実を待たなくても、生産時点で実現原則の 要件がほぼ満たされている (1)時間基準 (2)工事進行基準 (3)収穫基準、を適用する これらを総称して生産基準と呼ぶ 工事進行基準と工事完成基準 請負工事の期間が1年を超える場合、収益の計 上方法として工事進行基準と工事完成基準のど ちらかを企業が選択できた、しかし、 平成21年度以降は会計基準の変更により原則 工事進行基準を用いることになった 工事進行基準と工事完成基準 工事進行基準 工事の進行度合いに応じて収益・費用を認識する 工事完成基準 工事が完成し、引渡しが完了した時点で工事全体の 収益・費用を認識する(=>通常の販売基準) 工事進行基準と工事完成基準 二つの基準の比較 進行基準 ○ 経済的事実に即した収益計上を行う × 適用には手間がかかる × 利益操作に用いられる可能性がある 完成基準 ○ 工事進行程度の見積もりを要しないため、適用が容易 × 工事完成年度に過去の年度に帰属すべき収益・費用も 計上される 工事進行基準と工事完成基準 設例: 総額120百万円で工期3年の工事契約を結んだ。 見積もられた総工事原価は80百万円であった。 実際に発生した原価は1年目30百万円、2年目 40百万円、3年目10百万円であった。 工事代金は工事が完成したとき(3年目)に全額 を現金で受領した。 工事進行基準と工事完成基準 工事完成基準と工事進行基準のそれぞれで、収 益と費用はどのように認識されるか? 工事完成基準 収益 費用 1年目 2年目 3年目 工事進行基準 収益 費用 回収基準 割賦販売の場合、代金の回収に長い時間がか かり、回収や管理に必要な費用も無視できない このため、割賦販売に関して、販売基準以外に 割賦金の回収期限の到来、または 実際の入金日 を収益認識のタイミングとすることが認められている 両者を総称して回収基準とよぶ 手続きは結構ややこしいので財務会計論で! 棚卸資産の会計記録 +期首棚卸数量+当期受入数量-払出数量= 期末棚卸数量 売上原価を決定するためには払出数量を把握 する必要がある 棚卸計算法:受入数量と単価を記録し、期末に実地 棚卸を行い、計算により当期払出数量を計算する(払 出数量=期首棚卸数量+当期受入数量-期末棚卸 数量) 継続記録法:受入数量と単価にくわえて払出しを記録 する 棚卸資産の会計記録 棚卸計算法(定期棚卸法)の特徴 事務的に簡便 売上以外の理由による資産の減少(紛失、横領など) を把握することが出来ない 「あるべき」棚卸資産の量がわからない 継続記録法の特徴 「あるべき」棚卸資産の量を常時把握できる 経営上有益な情報を提供できる 通常は実地棚卸を併用する 棚卸資産の会計記録 売上原価の計上方法(分記法) 売上の都度対応する売上原価を記録する方法 仕入れた時 売れた時 (借)商品 (貸)現金 (借)現金 (貸)商品 商品販売益 (期中の)売上=売れた時の現金(等)の合計 (期中の)売上原価=売れた時の商品の合計 (期中の)売上利益=商品販売益の合計 =売上ー売上原価 棚卸資産の会計記録 売上原価の計上方法(三分法) 1期間の売上原価を一括して計上する方法 仕入れた時 (借)仕入 (貸)現金 売れた時 (借)現金 (貸)売上 売上勘定,仕入勘定,繰越商品勘定(手もとの商品)の三 つの勘定を使うので三分法 (期中の)売上=売上の合計 (期中の)売上原価=期首繰越商品+仕入の合計- 期末繰越商品 (期中の)売上利益=売上-売上原価 棚卸資産の会計記録 分記法の特徴 販売の都度、対応する収益・費用が計上される 商品勘定の残高が常に在庫金額に一致する 経営上有益な情報(売上利益)をタイムリーに提供で きる しかし,売上原価が常にわかるように詳細な会計記録が 必要 また,棚卸資産の記録方法によっては実行不可能 従って,実務では三分法を用いるのが一般的 棚卸資産の会計記録 三分法の特徴 期末にならないと売上利益が計算できない 会計記録は比較的簡単でよい 払出単価の決定と原価配分の方法 (小売業の場合)仕入れた商品は、当期のうちに 販売されたものと、期末までに販売されずに残る ものがある 販売されたもの=>売上原価(P/L) 残ったもの=>棚卸資産(B/S) 年間を通して仕入れ価格が一定ならば、話は簡 単である 売れた個数、残った個数だけを調べればよい 払出単価の決定と原価配分の方法 しかし、一般に価格は変動する 売れた分の仕入れ価格と残った分の仕入れ価格をど う決めるのかが問題となる 仕入から販売まで、商品1個ずつを個別に管理 すれば問題はない(高価な絵画や、骨董などは これに該当しうる) 同一の商品を大量に扱う場合、個別に管理する ことは不可能または非現実的なことが多い 払出単価の決定と原価配分の方法 前期からの繰越し(期首棚卸)の金額・数量はわ かっている 期中に仕入れた商品の金額・数量もわかってい る 期中に売れた商品の数量と期末に残った商品 の数量もわかっている わからないのは、期中に売れた分の商品の取得 原価(払出単価)と、期末に残った分の商品の取 得原価 払出単価の決定と原価配分の方法 +期首棚卸(B/S)+当期仕入高-売上原価= 期末棚卸(B/S) 売上原価から決定する方法 個別法・先入先出法・後入先出法・総平均法・移動平 均法・予定価格法 期末棚卸から決定する方法 最終仕入原価法・売価還元法(小売棚卸法) 払出単価の決定と原価配分の方法 個別法 個別の棚卸資産を受け入れから払い出しまで個別に 把握し、取得原価を払出単価とする方法 期末棚卸品の価額も個別資産の原価となる 事務負担が大きく、特殊・高額な取引にのみ用いられ る 払出単価の決定と原価配分の方法 先入先出法(First-In, First-Out: FIFO) もっとも古く取得されたものから順次払い出しが行わ れ、期末棚卸品は最も新しく取得されたものからなる とみなす方法 財貨の物理的な流れと合致している 期末棚卸品は決算時の時価に近い額で評価される 売上原価に過去の取得原価が反映される 保有利得(損失)が利益に含まれる 払出単価の決定と原価配分の方法 後入先出法(Last-In, First-Out: LIFO) もっとも新しく取得されたものから払い出しが行われ、 期末棚卸品は最も古く取得されたものからなるとみな す方法 その都度、月毎、年度毎の適用方法がある 財貨の物理的な流れとは(たいてい)合致しない 売上原価に時価に近い額が計上される 保有利得(損失)は利益に反映されにくい 期末棚卸品は過去の取得原価が反映される 現行の会計基準ではこれを禁止している 払出単価の決定と原価配分の方法 総平均法 一期間(月・年)の棚卸資産の取得原価の加重平均 を計算し、払出単価とする方法 事務は簡便 期間が終了しないと払出単価を決定できないため、 期中は予定価格を払出単価として用いることもある 払出単価の決定と原価配分の方法 移動平均法 棚卸資産を受け入れる都度、それまでの在庫分と新 規分の加重平均単価を計算し、次の受入までの間の 払出単価として用いる 事務は繁雑だが、売上と同時に売上原価を計上でき る 経営上有益な情報をタイムリーに提供できる 払出単価の決定と原価配分の方法 予定価格法 予定価格(商品の場合)や標準原価(製品の場合)を 設定し、払出単価とすることも認められている 実際の価格との差異(原価差額)を売上原価と棚卸 資産に配賦することが必要 払出単価の決定と原価配分の方法 最終仕入原価法 期末に最も近い時点で最後に棚卸資産を取得したと きの取得原価をもって期末棚卸品の評価を行う 期末にならないと取得原価が決まらない 実務は簡単(最後の仕入れ価格と、期末の実地棚卸 だけでよい) 払出単価の決定と原価配分の方法 売価還元法 期末棚卸額を値札と原価率から推定する 期末棚卸額=売価*原価率 値入率が共通なグループごとに適用する 原価率の計算方法に二通りある 主に小売業で用いられる 計算例 3月中の商品の受払記録 3月1日 前月繰越 100個@200円 3月10日 仕入 50個@215円 3月15日 売上 70個@250円 3月20日 仕入 100個@223円 3月25日 売上 60個@250円 (3月31日 期末棚卸 120個@???円) 3月の売上原価と翌月への繰越額 FIFO:プリント参照 LIFO(そのつど):プリント参照 移動平均法:プリント参照 LIFO(月別) 売上原価=(60個+40個)@223円+30個@215円 期末棚卸額=20個@215円+100個@200円 3月の売上原価と翌月への繰越額 総平均法 平均単価= 100*200+50 *215+100*2 100+50+100 売上原価:130個@212.2円 期末棚卸額:120個@212.2円 23 212.2 3月の売上原価と翌月への繰越額 最終仕入原価法 期末棚卸額:120個@223円 売上原価=受入原価合計-期末棚卸額 =53,050-26,760 =26,290 (払出単価=26,290/130=202.23) 3月の売上原価と翌月への繰越額 売価還元法(法人税法式) 原価率=(20,000+33,050)/(32,500+ 30,000)=0.8488 期末棚卸額=30,000*0.8488=25,464 売上原価=130*250*0.8488=27,586 払出単価=250*0.8488=212.2 棚卸資産の期末評価 棚卸減耗損 帳簿上の期末在庫数量に実際の棚卸数量が不足す るとき、その金額(取得原価)を切り捨てる 減耗損の取り扱い: 原価性のあるもの(繰り返し起こるもの)は製造原価・ 売上原価・販売費に含める 原価性のないもの(臨時的なもの)は特別損失に計 上 棚卸資産の期末評価 棚卸評価損 期末の在庫数量の不足ではなく,品質低下・陳腐化・ 価格下落などにより棚卸資産の価値が低下している 場合 棚卸資産の帳簿価額を正味売却価額まで切り下げる 低価基準の強制適用(2008年度から) それまでは原価基準(=切り下げを行わない)との選択適用で あった 棚卸資産の期末評価 評価損の取り扱い 原則として売上原価に含める 製造に不可避なものは例外として製造原価に含める 多額かつ臨時の事象による場合、特別損失に計上す る 事業部門の廃止や災害損失の場合など(要は、極めて例 外的な場合) 棚卸資産の期末評価 計算例:ある企業の商品の期末棚卸高は下記の 通りであった 帳簿棚卸高 数量100個 原価@5円 実地棚卸高 数量90個 正味売却価額@4円 棚卸減耗損 10個*5円=50円 棚卸評価損 90個*(5円ー4円)=90円 売上代金の回収 販売の対価として獲得された貨幣性資産のうち、 売掛金と受取手形をあわせて売上債権と呼ぶ 類似した項目として未収金・未収収益がある 3通りの売上代金回収の流れ 1.商品=>現金 2.商品=>売掛金=>現金 3.商品=>売掛金=>受取手形=>現金 売掛金 営業循環過程の中にあり、原則として流動資産 に計上 正常な営業循環から離れたもの(破産債権・更正債 権)は1年基準を適用する(1年超のものは固定資産 -投資その他の資産-となる) 受取手形(約束手形・為替手形) 売掛金と同様、営業循環過程の中にあり、原則 として流動資産に計上 正常な営業循環から離れたもの(破産債権・更正債 権)は1年基準を適用する(1年超のものは固定資産 -投資その他の資産-となる) 約束手形 為替手形 手形の裏面 受取手形 取立:手形の期日に支払を受ける 手形割引:銀行等への手形の売却として取り扱 う 手形割引料:実質は利息であるが,手形売却損とし て取り扱う 裏書譲渡:仕入代金などの対価支払いとして取 り扱う 上記のいずれも、受取手形の消滅を記録する 受取手形 割引・裏書譲渡した手形が不渡りとなった場合 には,支払いに応じる義務が発生するので、こ の債務(偶発債務の一種)を負債(保証債務)と して計上する また、手形の割引・裏書譲渡を行ったもののうち 期日が到来していないものの金額を貸借対照表 に注記しなければならない 貸倒引当金 金銭債権(売掛金・受取手形を含む)の一部が 回収不能になることは避けられない(貸倒れ) そこで、過去の実績などから貸倒れによる損失 を見積もって、それを販売費の一項目として損 益計算書に計上し、その額を貸倒引当金として 貸借対照表に設定する 次回への準備 次回は設備投資と研究開発。予習はテキスト6 章
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