インターネットは どのように変化するか ~幾つかの話題~ 後藤滋樹 早稲田大学 理工学術院 1 これまでの変化 • • • • • 1969 1983 1984 1990 1994 インターネットの誕生 プロトコルをTCP/IPに変更 ドメイン名を導入 商用インターネットの解禁 (1991) Webの隆盛 (日本) 2 1969年 APRAnet誕生 2008年(第24回)日本国際賞受賞者 「情報通信の理論と技術」分野 Vinton Gray Cerf Robert Elliot Kahn http://www.japanprize.jp/prize/2008/j1_cerf_kahn.htm 3 もしも4人が受賞できたら Leonard Kleinrock and Lawrence G. Roberts 4 なぜクラインロック博士が? • • • • • 当時のパケット通信は遅い コンピュータの性能が低かった そんな通信は使い物にならない 誰もプロジェクトを引き受けない 専門ではないクラインロック先生が引き受けた 1969年当時にUCLA博士課程の院生であった Kilnam Chon先生(韓国KAIST)談. 5 1983年 TCP/IPに変更 • 本来は1983年1月1日を期して 一斉に切り替える予定であった • 実際には数ヶ月を要した • 次第にNCP(古いプロトコル)の 大学は通信の相手が減っていく Robert Kahn博士談 Date 08/1981 05/1982 08/1983 10/1984 10/1985 02/1986 11/1986 ; Hosts 213 235 562 1,024 1,961 2,308 5,089 6 1984年 ドメイン名の導入 • 1984年のメールアドレス [email protected] (注:sail=Stanford AI Lab) • 切替後のアドレス [email protected] • 利用者から不満が続出 しかしネットワーク管理者が説得 経験則:1,000個を越えると名前が衝突する 7 1990年 商用ネットワークの解禁 • それまではAUP acceptable use policyで厳格に 運用されていた • スタンフォード大学の Gay and Lesbian Club事件 • MITの模型飛行機事件 • 米国においても1980年代にはネット販売、ネット 広告は存在しない 後藤, 外山 「インターネット工学」 コロナ社, 2007. 8 1994年 Webの隆盛 日本におけるWebサーバの数(高田・坂本・佐藤氏による) 尾家, 後藤, 小西, 西尾 「インターネット入門」 岩波書店, 2001. 9 これからの変化 (の可能性) 1. 構造の変化 2. 新世代ネットワーク 3. 金融とネットワーク 10 1.構造の変化 これまで便利に使ってきたIPv4アドレスを 新規に割り当てることができなくなる 11 IPv4 アドレス在庫枯渇問題 • そもそも、どのような問題なのか? http://www.nic.ad.jp/ja/ip/ipv4pool/ • 地域インターネットレジストリ(RIR)における 未分配の IPアドレス の在庫がなくなる RIR 12 いつ頃に枯渇が予想されるか Projected IANA Unallocated Address Pool Exhaustion: 23-Jun-2011 Projected RIR Unallocated Address Pool Exhaustion: 12-Oct-2012 Geoff Huston http://www.potaroo.net/tools/ipv4/index.html 13 JPNICによる別の推計法 • RIRに対応する世界の5地域について、次の要 因でIPv4アドレスの需要予測を行う 1. 政府最終消費支出 政府による消費財への支払い、公務員の給料 2. 総固定資本形成 総固定資本形成=民間住宅投資+民間設備投資+公共投資 3. インターネット利用者数 4. ブロードバンド利用者数 5. 電子商取引市場 • 5地域の合計による枯渇予測時期は前のスラ イドの時期よりも少し 早い 14 枯渇すると誰が困るのか • 現在のインターネットが直ちに停止する訳で はない • 新しく IP アドレスの割り当てを受けることが できなくなる IANA APNIC JPNIC ISP 利用者 • 新しい利用者は、どのような対策をとるか • その利用者と通信をするために既存の設備 を変更する必要があるのか、ないのか 15 どのような対策があるのか(1) • 割り当てを受けているのに使っていないアド レスを返却してもらう • 未利用のアドレスを流通させるために IP アド レスの 取引市場 を設けるという提案がある 16 http://www.potaroo.net/tools/ipv4/index.html 問題点(1) • 回収によって再利用が可能となると想定され るアドレス規模は、多くても世界的なアドレス 需要の 数ヶ月分 に過ぎないと思われる。 参考文献 [1] JPNIC「IPv4アドレス在庫枯渇問題に関する 検討報告書(第一次)」 p.39, 2007年12月. http://www.nic.ad.jp/ja/pressrelease/2007/20071207-01.html 17 どのような対策があるのか(2) • NAT を用いてグローバルな IP アドレスの 必要個数を減らす http://www.nic.ad.jp/ja/ip/ipv4pool/ipv4exh-report-071207.pdf NAT 18 問題点(2) • プライベートアドレス+NATでは、グローバル アドレスと同じサービスが出来ない場合がある (IP電話、テレビ会議、P2P応用など) 次のスライド • 従来のNATが対応してきた実績は数万利用者 の規模である • 既にNATを用いている利用者を、さらにNATを 用いて収容する場合には、多段のNATとなる。 プライベートアドレスの 衝突 の可能性がある。 19 NATによる変換 • Network Address Translator, Network Address Port Translator (NAPT). グローバルアドレス NAT プライベートアドレス 10.0.0.0~10.255.255.255 10/8 172.16.0.0~172.31.255.255 172.16/12 192.168.0.0~192.168.255.255 192.168/16 20 NAT越え (NAT traversal) 国際会議論文: Yuan Wei, D. Yamada, S. Yoshida and S. Goto, A New Method for Symmetric NAT Traversal in UDP and TCP, APAN Network Research Workshop 2008, pp.11—18, August, 2008. 21 どのような対策があるのか(3) • IPv6 を用いれば膨大な数の IP アドレスを 利用することができる • そもそも IPv6 は、IPv4 アドレスが不足する ことを見越して設計されている IPv4 32ビット = 232 約40億 IPv6 128ビット = 2128 22 問題点(3) • 新規に IPv6 で利用を開始するクライアントは そのままでは IPv4 のネットワークに接続でき ない(トランスレータなどが必要) • 新規の IPv6 のサーバはクライアントが IPv6 対応にならなければサービスを提供できない • 利用者のアクセス回線が事業者に依存する 場合がある 次のスライド 23 アクセス網提供事業者 • フレッツはトンネルを使う IP IP IP IP トンネルとは、パケットを他のパケットのデータ として包み込んで(カプセル化)送ること 「NTT西のフレッツはNTT東とどう違う?」 IPpro http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20071017/284759/ 24 IPv4 と IPv6 の混在時代 • ある論者は地下鉄と地上の鉄道の譬え話を 使って相互乗り入れの難しさを指摘している http://www.unixuser.org/~euske/doc/ipv6ex/ Daniel J. Bernstein, and 新山 • 駅の名前の文字数が制限されているとする いずれ駅が足りなくなる(IPv4枯渇) そこで大規模地下鉄を作る(IPv6) • ただし相互に乗り入れるためには変換が必 要となる(translate) 25 IPv4 と IPv6 のデュアルスタック • 現在のインターネットで IPv6 が利用できる機 器は、大抵 IPv4 も使用することができる デュアルスタック MAC OS の例 • そのままの方法で IPv6 を拡大するのでは IPv4 のアドレスが相変わらず必要になる 過渡期にはtranslatorがIPv4, IPv6の橋渡し をする 26 CPE: Customer Premises Equipment 27 デュアルスタック IPv6アドレス + プライベートIPv4アドレス • IPv4枯渇の最終解はIPv6 IPv6アドレスでの接続を提供 • IPv6対応出来ない古いサーバ、古いWindows のために IPv4の接続も最低限のレベルで維持 – IPv4アドレスが枯渇するので、少量のIPv4をISPの NATにより共有してやりくりする – IPv4プライベートアドレスでの接続を提供 – IPv4の接続はISPのNAT経由となり多くの制限があ る。P2Pなどのアプリケーションを使うためには最終 的には IPv6 対応が必要 28 JPNIC 報告書 [1] の結論 • アドレス回収、NATによるグローバルアドレス の削減、いずれも限定的な効果に留まる • 本格的な解決は IPv6 の導入 ただし、IPv4 と IPv6 の相互接続を可能とする ように、トランスレータ、デュアルスタックなど の準備を進めなければならない ※ 用語だけを紹介します IPv6を使わないアドレスの拡大方法: LISP Locator/ID Separation Protocol 29 2.新世代ネットワーク • 次世代ネットワーク と 新世代ネットワーク • 2つの類似用語 30 次世代ネットワーク(NGN) • NGN • 従来の交換機による電話網をIP技術で構築 • 現在、進行中である • 課題がある 品質基準を定める(標準化) システムを安定に運用する 新世代ネットワーク • NWGN • GENI, FIND, FIRE, EuroFGI, Future Internet • 日本のフォーラムが設立された http://nwgn-forum.nict.go.jp/ • 研究の中心機関はNICT (www.nict.go.jp) • AKARIプロジェクト http://akari-project.nict.go.jp/index2.htm 評判のデモ(Open Flow Demo at SC 08) http://jpnoc.net/OpenFlow-DEMO.m4v movie by Jin Tanaka 33 スタンフォード大学のボード NetFPGA-1G Hardware Xilinx Virtex-2 Pro FPGA PCI Host Interface SRAM DRAM 4 * Gigabit Ethernet ports フローベースのルータ, スイッチ hash table routing table flow data • フローとは共通制御情報を持つパケット列 • flow = <Protocol, IPa, PORTa, IPb, PORTb> 35 メモリを使わないルータ • 従来型: 駐車場モデル queue • フロールータ: コネクション型, 遅延なし 36 Open Flowの課題 • 今までのところ大規模に試用されていない • セキュリティ対策は十分か? • パケット型と電話型(コネクション)の中間 37 Anagran FR-1000 Caspian Networks NEC NetFPGA 38 3.金融とネットワーク • ロスチャイルドの逸話 1815年 ワーテルローの戦い イギリス・オランダ・プロイセン連合 対 フランス(ナポレオン) • イギリス国債 Nathan Mayer Rothschild 売りか、買いか: ネイサンの逆売り • 一日の長 国債の62%を購入 自己資産が2500倍に wikipediaなど 39 エコノミストは言いたい放題 • コンピュータを安く使えるようにしてしまった • 人間を修理する人は偉いように思われ、 ものを修理する人が軽んじられる • それにしても金融を軽視していた • 実は金融市場とネットワークが似ている 40 大恐慌の再来か? Phrase used by Paul Robin Krugman US 金融会社 投資銀行 JP 製造会社 輸出 Classification by Kazuo Mizuno 41 巨大な金融経済と実物経済の比較 US Investment Bank JP Export Company financial asset = market capitalization +bonds outstanding +money supply 200 180 160 140 120 financial asset 100 GDP 80 60 40 20 Jan-08 Jan-07 Jan-06 Jan-05 Jan-04 Jan-03 Jan-02 Jan-01 Jan-00 Jan-99 Jan-98 Jan-97 Jan-96 Jan-95 Jan-94 Jan-93 Jan-92 Jan-91 Jan-90 0 Kazuo Mizuno, and Mitsubishi UFJ Securities, graph redrawn by S.Goto 42 金融市場とネットワーク • 穏やかな変化 正規分布 多くの従来の経済学の前提 • 急激な変化 べき乗分布 最近注目されている主張 43 ブラックショールズ Black–Scholes http://en.wikipedia.org/wiki/Black-Scholes • The Black–Scholes model is a mathematical model of the market for an equity, in which the equity's price is a stochastic process. • The Black–Scholes PDE is a partial differential equation which (in the model) must be satisfied by the price of a derivative on the equity. • The Black–Scholes formula is the result obtained by solving the Black-Scholes PDE for European put and call options. 44 Black–Scholes • Merton and Scholes received the 1997 Nobel Prize in Economics for this and related work. Black was ineligible for the prize because of his death in 1995. dSt = μStdt+ σStdWt The price of the underlying instrument St follows a Wiener process Wt with constant drift μ and volatility σ, and the price changes are log-normally distributed: ブラック-ショールズモデルとは、1 種類の配当のない株と 1 種類の債券の 2 つが存在 する証券市場のモデルで、時刻 t における株価 St と債券価格 Bt が dSt = St(σdWt + μdt), Bt = exp(rt) , r,σ,μは定数 , Wtは標準ブラウン運動, を満たすものをいう。 ja.wikipedia.org/wiki/ブラック-ショールズ方程式 45 Network Traffic • Our diffusion equation is similar to that taken by Black and Scholes who modeled the option pricing behavior as a geometric Brownian motion. • http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/4894/1/93038_391.pdf Yoshitaka Takahashi, A branching Poisson Process Input Finite-Capacity Queueing System for Telecommunication Networks, Waseda Commercial Review, vol.391, pp.105— 116, Dec 2001. 46 フラクタル と マルチフラクタル • Benoit B. Mandelbrot, A Multifractal Walk Down Wall Street, Scientific American, February 1999. http://www.elliottwave.com/education/SciAmerican/Mandelbrot_Article2.htm • Benoit B. Mandelbrot and Richard L. Hudson, The (Mis)behaviour of Markets: A Fractal View of Risk, Ruin, and Reward, 2004. • (In Japanese, Econophysics) 高安秀樹「経済物理学の発見」 光文社新書 167, 2004. 47 Random Walk vs. Fractal A Multifractal Walk Down Wall Street Burton G. Malkiel, Random Walk Down Wall Street: The Time-Tested Strategy for Successful Investing 48 フラクタル Fractal Koch curve ja.wikipedia.org/wiki/コッホ曲線 49 ネットワークの流量変動 normal distribution (fGn model) X (ti) ti Pr [X (ti) = x] ti histogram asymmetric X (ti) Pr [X (ti) = x] Captured Packets X (ti) Tatsuya Mori, PhD Thesis, Waseda Universtiy, 2005 histogram symmetric X (ti) 50 Power Function (High volume AS numbers) ベキ乗 95.00% R 2 0.9899 90.00% Cumulative Distribution Naoki Arai and Shigeki Goto, Traffic Analysis Based on Autonomous System Numbers , IWS2000, Internet Workshp 2000 pp.121-126 , February 16, 2000. 85.00% 80.00% 75.00% 70.00% Cumulative Distribution 65.00% Approximated Curve (Power Function) 60.00% 1% 2% 3% 4% 6% Distribution of ASes 7% 8% 9% 51 ネットワークトラフィックの ローソク足チャート 清水奨, 福田健介, 廣津登志夫, 菅原俊治, 後藤滋樹, “ローソク足チャート を用いたTCP トラフィックの表示法”, FIT2004, 情報科学技術レターズvol.3, pp.333.336, 2004 年9 月. 52 教訓 • 新しい理論を用いても株価の予測はできま せん • 従来の理論はリスクを低く見積り過ぎている • ネットワークのトラフィック: 料金の95% ルール(SLA)は合理的か? 53 正規分布と非正規分布 • 穏やかな正規分布の時代 • 激変の非正規分布の世界 • 人間の行動がマシンによって増幅 金融市場 ネットワークトラフィック • それにしても視覚化の遅れ デイトレーダが見ている画面は古典的 54 穏やかな変化で済みますように! • IPv4在庫枯渇 • Geoff Huston氏のコメント 55
© Copyright 2025 ExpyDoc