IPネットワ-クの導入 からバブル崩壊まで リスクは正規分布を越えて 後藤滋樹 2008年12月5日 1 ネットワークに関わる経緯 • 大学では応用数学 非線形方程式の数値解法 大型コンピュータの利用者 武蔵野通研に遊びに来た なぜか慶應大学の所真理雄さんが常にいる • コンピュータを作る側に回る 第一研究室(池野信一室長) 趣味のハードウェアから職業に 先輩と研究方針を巡って対立 2 人間を大切にする通研の仕組み • 若い研究者を斜めに見張る 直属の上司と対立した場合 新関統括 なぜかMITで岩石が専門の統括が呼ぶ • 池野特別研究室に異動 論理学の応用に切り替える (演繹的プログラミング) 特別研究室から第一研究室に戻る 横須賀通研に異動 基礎部が元祖か、データ部が本家か 3 横須賀通研 • 初日に宿舎(若竹荘)にてガス漏れ 部長:戸田巌、新室長:村岡洋一 斜めに見張る役を担当 大型機 (DIPS)の時代にミニコンを購入 武蔵野=横須賀間で電子メール(1981年) 若手はアナログモデムを改造 • 第五世代コンピュータに参画(論理) 通産省の担当課長補佐は「データ部」 電総研から出向要請あるも行かず 4 武蔵野に戻る • 横須賀から村上健一郎氏と一緒に武蔵野へ 1982 第八研究室 • 1984 スタンフォード大学へ ARPAnetの利用者となる [email protected] • 帰国後はuucpでNTT通研とスタンフォードを接続 国内のJUNETの活動に参加 各地域に一つの大学 junet-admin 5 電話 Analog Modem Digital (ISDN) DSU+TA (ISDN) VoIP/SIP (ADSL) ADSL modem VoIP/SIP (Optical Fiber) ONU IP network 6 UUCP時代の逸話 • 日米間のIP通信は1988年~ • 1986年に筆者はNTT武蔵野研究所勤務 当時の国際電話、テレックスの合計は研究所 全体で毎月20万円程度 UUCPによる日米間の通信が増大、20万円超 • 事情を聞かれる 答) 海外出張が一人減れば20万円は安い • 数ヶ月後に再び呼び出される 現実) 通信費も海外出張も増えている 7 日米間の通信の苦労 • 日米間の通信は不安定 後になって判明したのはスタンフォード大学 の構内電話の雑音 • パケット通信により解決 nttlab X.25 sumex-aim telnet Shasta telnetのスタート直後にパラメータを変更 Mark Crispin インターネットにおける日本語標準 iso-2022-jp 8 CSNET • ARPAnetは米国外からの接続を禁止 英国のみ例外 • BITnet, CSNET, uunet CSNETはNSF(全米科学財団)による 国際接続を正式に認めている • ただしCSNETの国際接続は各国一箇所 日本は東京大学 日本のみ例外とするように交渉 結果として電総研、ICOT、NTT研究所、 NTTデータ、SONYが認められた 9 CISCOのルータ • スタンフォードの助手であったLen Bozak CISCOは大学と揉める ソフトはDECの真似をした(後に謝礼) • 日本で最初のユーザ パケット(X.25)で CSNET との間をIP通信 村上健一郎氏(現在は法政大学) CISCOの協力 1988年 • ただし日米間の64kbps専用線が月100万円 パケット料金が400万円以上 10 研究開発とリスク管理 • 研究開発は成功率が低い 95%は瞬時に失敗 • リスク管理は社会の知恵 一人の社会では保険という制度が無意味 • チャレンジする人を応援する仕組み これは一種の分業である 11 シリコンバレーでの逸話 • 筆者のNTT研究所時代の部下(米国人)の 2人が、たまたま同じ会社(start-up)で働く • その会社の応援演説を頼まれた 私は製品の詳細を知らないが、能力のある 技術者が2人いるのは事実と述べた • これは教科書に載っている応援の方法 12 Silicon Valley Model by Prof Masahiko Aoki • It did not work in Japan. Follow-up trials mostly failed even in the US. • A venture capitalist and an entrepreneur do help each other. 13 日本モデル • メインバンク • 市場型ファイナンス • 護送船団 • 契約型官僚 上は古い米国モデル 新しい21世紀モデル? 諸問題がICTで顕著に現れる これを解決して強いICTに 14 リスク • 100年に一度の金融危機 未曾有の…今まで一度もなかったこと。きわめて珍しいこと。 • 金融経済が実物経済を上回る • 原動力は、90年代半ばから急速に進展し たIT(情報通信技術)革命と、それを駆使 するグローバリゼーションである 水野和夫「人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか」日本経済新聞出版社 15 グローバル経済、社会の変化 • 2007年度上半期ビジネス書 第2位 • 水野和夫 著 三菱UFJ証券参与・チーフエコノミスト • 「人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか」 • 日本経済新聞社, 2007年3月. • 同主旨の水野氏の講演(南山大学) http://www.sc.mufg.jp/inv_info/ii_report/m_report/pdf/mr20070713.pdf 16 グローバリゼーションによる 大きな構造変化(3つ) 1. 帝国の台頭、国民国家の退場=帝国化 2. 金融経済の実物経済に対する圧倒的な優位 =金融化 3. 均質性の消滅、拡大する格差=二極化 IT(情報技術)革命と、それを駆使するグローバリゼーション 17 1.帝国化 • 資本が容易に国境を越える • 16世紀には資本が主権国家と結婚した 21世紀には資本は帝国をパートナーとする • 経済的な国境が低くなり、国境内に権力を及 ぼす国民国家の力が衰退する • 米国は金融帝国 旧帝国の台頭:中国、インド、ロシア 18 2.金融化 • 先進国において「資本の反革命」により賃金 が抑制される、ないし低下する 労働分配率の低下 =中流階級の没落 • その結果、先進国ではディスインフレないしデ フレが定着する • 金融政策が緩和基調となるから、実物経済に 比べてマネーが膨張する • 資産価格が上昇しやすい • 先進国経済は資産価格依存症候群に陥る 19 3.二極化 • 近代において国民は均質であった 国家単位の均質性は消滅する 一億総中流意識の崩壊 • 格差は構造的問題であり、景気回復によって 解決するものではない • 成長を目指す政策は人々の将来への不安を 高める。刹那主義が蔓延して少子化が進む • インフレ=成長を基本とする政策はBRICsで は妥当。先進国では弊害がある 20 金融と情報 • ロスチャイルドの逸話 1815年 ワーテルローの戦い イギリス・オランダ・プロイセン連合 対 フランス(ナポレオン) • イギリス国債 Nathan Mayer Rothschild 売りか、買いか: ネイサンの逆売り • 一日の長 国債の62%を購入 自己資産が2500倍に wikipediaなど 21 エコノミストは言いたい放題 • コンピュータを安く使えるようにしてしまった • 人間を修理する人は偉いように思われ、 ものを修理する人が軽んじられる • それにしても金融を軽視していた • 実は金融市場とネットワークが似ている 22 諸問題が日本で顕著に現れる • 柄谷行人 (からたに こうじん), 2002. 日本の事例を考察すれば、西洋で起こったこ との本質がより鮮明に示される • 近代化を欧米よりも短い期間で達成した日本 では、矛盾が大きな形で顕在化する • 現在の日本の諸課題は 10年後の欧米の姿 BRICsの数十年後の状況 インターネットでも 日本で問題が顕著 に現れる 23 ただし 日本=世界 ではない • 水野氏 非英語圏が成熟してポストモダンに移行 英語圏では近代化が続いている スペインは英語圏か • 中世の帝国から国民国家へ ラテン語の権威が失墜して母国語へ • インターネット革命の下で 英語が世界の共通言語に 英語圏の国ではサービスを中心に特需 情報化とは 言語化である 24 すでに起こった未来 1994 2000 The Ecological Vision: Reflections on the American Condition あなたが重要と考えている「情報」「インフォメーション・テクノロジー(IT)」について まず触れましょう。これらは重大な変化というわけではありませ ん。質問の中では 目立ちませんでしたが、もっとも重要なのは、「労働力構造の変化」と「人口」です。 これら二つは、日本にとって特に重要です。 http://itpro.nikkeibp.co.jp/a/biz/shinzui/shinzui1122/shinzui_06_02.shtml 25 なぜITは社会を変えないのか The Social Life of Information 2000 2002 1. 私たちは「極度にデザインされた」世界に住んでおり、各種のデザインが生み出した強みと弱み から限界を学ぶことが大変重要である 2. いわゆるITは現実の事象を極度に単純化してデジタルに押し込めるので、よほどデザイナーが優 秀でないと、現実とはかけ離れたものになる 3. ビジネスの進歩はプラクティス(実践)から生まれるため、一度固定されたトンネル・デザインにな ると、その進歩が止まりがちになる 4. 学習と組織はよくデザインされたものが必要であり、学習機能こそが知的資本蓄積の根元にある。 これはデジタルや情報エージェントでは補助はできても、代替できない 5. 紙は情報をコンパクトにデザインしてまとめたものであり、電子ではHTMLのようにユーザーへの コミュニケーション手法を考えたものであれば訴求するが、単なる文字の固まりでは紙に劣る By 勝間和代: http://kazuyomugi.cocolog-nifty.com/point_of_view/2004/11/it_the_social_l.html 26 新しい人間が誕生したのか 2008年 2月9日号 2007 35 人中、22人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。 brave new world, 2008/2/7 By recluse - レビューをすべて見る 今週号のダイヤモンドですが、今週の特集を読んで、ぶっ飛んでしまいました。ぜひ一読を 進めます。おそらく今週の特集は時代に残ります。というよりも、この特集が時代の刻印とし て永遠にその生命を残すのかもしれません。もちろん見る人によってその意味は違うでしょ う。21世紀初頭の愚行やdepth of shallownessの証明として。週刊誌ジャーナリズムの堕落 もしくは、21世紀の日本が生み出した「新しい人間」の描写としてかも知れません。今回 の 特集となった人物の嫌味のない素直なナイーブさと価値観のためらいのなさも印象的です。 僕にはわかりません。でもそれくらい衝撃的な中身でした。時代は 変わってしまったことをこ れほど切実に伝えてくれる特集はこれまでありませんでした。そう「新しい人間」が誕生して いるのです。みなさんもぜひ一読してみてください。 http://www.amazon.co.jp/%E9%80%B1%E5%88%8A-%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%89-2008%E5%B9%B4-9%E5%8F%B7%E9%9B%91%E8%AA%8C/dp/B0012Z6ZSI 27 頭も体のうち • 頭脳はタンパク質であり、学習は化学変化に 他ならない • あなたの頭脳を「今晩リセット」したり、内容を 「15分でダウンロード」することはできない • 情報通信の技術は進歩しているが、それを使 うのは人間である • 情報通信技術は世の中の一部を変革したが、 人間を変革したとはいえない 28 それでも変化した社会 • インターネットに代表される情報通信技術(ICT) がグローバリゼーションをもたらした • グローバリゼーションが世界の経済構造を変え、 政治・経済・社会のすべてを変える • この変化が情報通信に戻ってくる(来ている) 29 リスク(社会) • • • • • • • • 借金を返済できない 貯金の利息がゼロ 放置しても直らない 商品が売れない 修理が必要 倒産 病気、怪我 手応えのない社会 実体市場が金融市場に負ける この変化の責任は情報通信にある? 30 教育工学 坂元 昂 先生の話 • 少年少女発明コンクール • 発明をする少年少女の家庭を調査 • 顕著な特徴がある 31 The Birthplace of Electronics and the Global Village 913 Emerson Street, Palo Alto, California 94301 http://www.homeravenue.com/Lee_deForest.htm 32 ものを修理して使う家 • 私の修理の例 33 金融市場とネットワーク • 穏やかな変化 正規分布 多くの従来の経済学の前提 • 急激な変化 べき乗分布 最近注目されている主張 34 Black–Scholes http://en.wikipedia.org/wiki/Black-Scholes • The Black–Scholes model is a mathematical model of the market for an equity, in which the equity's price is a stochastic process. • The Black–Scholes PDE is a partial differential equation which (in the model) must be satisfied by the price of a derivative on the equity. • The Black–Scholes formula is the result obtained by solving the Black-Scholes PDE for European put and call options. 35 Black–Scholes • Merton and Scholes received the 1997 Nobel Prize in Economics for this and related work. Black was ineligible for the prize because of his death in 1995. dSt = μStdt+ σStdWt The price of the underlying instrument St follows a Wiener process Wt with constant drift μ and volatility σ, and the price changes are log-normally distributed: ブラック-ショールズモデルとは、1 種類の配当のない株と 1 種類の債券の 2 つが存在 する証券市場のモデルで、時刻 t における株価 St と債券価格 Bt が dSt = St(σdWt + μdt), Bt = exp(rt) , r,σ,μは定数 , Wtは標準ブラウン運動, を満たすものをいう。 ja.wikipedia.org/wiki/ブラック-ショールズ方程式 36 Network Traffic • Our diffusion equation is similar to that taken by Black and Scholes who modeled the option pricing behavior as a geometric Brownian motion. • http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/4894/1/93038_391.pdf Yoshitaka Takahashi, A branching Poisson Process Input Finite-Capacity Queueing System for Telecommunication Networks, Waseda Commercial Review, vol.391, pp.105— 116, Dec 2001. 37 Fractal and Multifractal • Benoit B. Mandelbrot, A Multifractal Walk Down Wall Street, Scientific American, February 1999. http://www.elliottwave.com/education/SciAmerican/Mandelbrot_Article2.htm • Benoit B. Mandelbrot and Richard L. Hudson, The (Mis)behaviour of Markets: A Fractal View of Risk, Ruin, and Reward, 2004. • (In Japanese, Econophysics) 高安秀樹「経済物理学の発見」 光文社新書 167, 2004. 38 Random Walk vs. Fractal A Multifractal Walk Down Wall Street Burton G. Malkiel, Random Walk Down Wall Street: The Time-Tested Strategy for Successful Investing 39 Fractal Koch curve ja.wikipedia.org/wiki/コッホ曲線 40 Network Traffic normal distribution (fGn model) X (ti) ti Pr [X (ti) = x] ti histogram asymmetric X (ti) Pr [X (ti) = x] Captured Packets X (ti) Tatsuya Mori, PhD Thesis, Waseda Universtiy, 2005 histogram symmetric X (ti) 41 Power Function (High volume AS numbers) ベキ乗 95.00% R 2 0.9899 90.00% Cumulative Distribution Naoki Arai and Shigeki Goto, Traffic Analysis Based on Autonomous System Numbers , IWS2000, Internet Workshp 2000 pp.121-126 , February 16, 2000. 85.00% 80.00% 75.00% 70.00% Cumulative Distribution 65.00% Approximated Curve (Power Function) 60.00% 1% 2% 3% 4% 6% Distribution of ASes 7% 8% 9% 42 ネットワークトラフィックの ローソク足チャート 清水奨, 福田健介, 廣津登志夫, 菅原俊治, 後藤滋樹, “ローソク足チャート を用いたTCP トラフィックの表示法”, FIT2004, 情報科学技術レターズvol.3, pp.333.336, 2004 年9 月. 43 Lessons • It is not possible to predict stock prices by the new theory. • The old model underestimates the risk because it uses random walk, or normal distribution. • Network traffic: 95% rule of SLA is reasonable? 44 正規分布と非正規分布 • 穏やかな正規分布の時代 • 激変の非正規分布の世界 • 人間の行動がマシンによって増幅 金融市場 ネットワークトラフィック • それにしても視覚化の遅れ デイトレーダが見ている画面は古典的 45 研究は社会的な活動 • ハイリスク お互いに、手応えが必要 コントロール感(野島久雄氏 成城大学) • 穏やかな変化を期待してはダメ 激しい変化が当たり前 株価は何故に変動するか(ブラウン運動?) • 成功も失敗もある 研究はいずれ終わる 新しい研究を始める 古い研究を終える 46
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