704 - 熊本県産業技術センター

IPv6 と IPsec プロトコルに対応した遠隔加工支援システム
−NC マシンにおける遠隔地からの加工支援システムの実用化−
○河北隆生、岡嶌崇、高橋孝誠、上村誠、土村将範、城戸浩一
小笠原健一(熊本県工業技術センター)、渡辺健次(佐賀大学 理工学部)
平澤純一、川村浩二(ネクサス(株))、山本英明(ナカヤマ精密(株))
IPv6 と IPsec プロトコルへの対応とその評価に
ついて述べる。
1 はじめに
筆者らは、多品種少量生産時の金型などの製品
開発を対象として、設計現場と製造工場あるいは
製造管理部門と製造現場が遠隔地にある場合の
「打合せ」、
「段取り作業(工具、ワーク、治具など
の取付作業)およびテスト加工の指示と確認」、
「加
工状況監視」等の一連の流れを支援するシステム
を構築・開発し、熊本県工業技術センター(以下、
「当センター」)と佐賀大学間を通信・放送機構
(TAO 、 現 「 独 立 行 政 法 人 情 報 通 信 研 究 機 構
(NICT)」)が運用する研究開発用ギガビットネッ
ト ワ ー ク (Japan Gigabit Network[1] 、 以 下
「JGN」)で接続して実証実験を行った[2][3]。
本システムは、IPv6 プロトコルへ対応するとと
もに、IPsec(IP Security Protocol)によりセキュリ
ティを強化した。
本報告では、本実証実験で構築したシステムの
2 構築システム概要
2.1 ネットワーク構成
構築したネットワークでは、IPv4 と IPv6 の両
方のプロトコルが利用できる[4]。
2.2. 遠隔打合せ・指示システム
本システムは、遠隔地間での打合せ、段取り作
業やテスト加工の指示と確認などに利用する。本
システムの構成図と実験の様子を図1に示す。
2.3 遠隔加工監視システム
本システムは、遠隔地から加工状況を把握す
ることで、不具合時対応の指示を行うとともに
データを蓄積・解析することで原因究明を可能
とすることを目的としている。
設計現場(製造管理部門)
佐賀大学
製造工場
熊本県工業技術センター
DVTS受信
TV会議
3DCAD
JGN
PCルータ
PCルータ
TV会議
CAD共有
DNC
TV会議/カメラ制御
(作業指示確認)
IPv4/IPv6
Multicast
NC工作機械
作業の指示と
詳細確認・蓄積
DVTS送信/カメラ制
御(作業指示詳細確認)
打合せと作業の指示と確認
図1
遠隔打合せ・指示システム
3 IPsec によるセキュリティ強化
ホスト間通信では、IPsec の SAD(Security
Assosiation DB、鍵や暗号・認証アルゴリズムや
パラメータなどの共有)の管理に IKE(Internet
Key Exchange、鍵交換)を使用した。通常、IKE
では、暗号化などのための共有秘密鍵や SA の折
衝を行うときにホスト認証を行う。本システムで
は、ホスト認証の方法として PKI(公開鍵基盤)を
利用することとし、当センターで開発した認証局
から発行された秘密鍵と X.509 公開鍵証明書を組
み込んだ。使用した OS と IKE プログラムは、
FreeBSD 4.7R と racoon である。
マルチキャスト通信では、通信相手を特定でき
ないため、IPsec の SAD の設定は、手動で行った。
4 実験結果
4.1 IPsec 暗号と認証アルゴリズムの選定
測定には、Intel PentiumIII 1GHz CPU、
512Mbyte メモリ、FreeBSD4.7R OS のパソコ
ンを使用した。
表1には、暗号アルゴリズム毎の遅延時間と
転送速度の測定値を示す。暗号アルゴリズムに
よる暗号・復号の片方向遅延時間が、最も大き
いのは 3des-cbc の 0.221msec であるが、この
程度であれば計測や映像音声などのデータ送
受信の遅延にほとんど影響を与えない程度で
ある。号鍵長は、128bit 以上がある程度安全だ
と言われており、遅延時間と転送速度の測定結
果から、暗号アルゴリズムは、blowfish-cbc る
いは cast128 が適当だと考えられる。
表 1 暗号アルゴリズムの測定値
暗号
アルゴリズム
鍵長
(bit)
なし
des-cbc
3des-cbc
64
192
64
128
192
256
64
128
128
192
256
blowfish-cbc
cast128
rijndael-cbc
暗号・復号
の片方向
RTT
(msec) 遅延時間
(msec)
0.331
0.599
0.134
0.772
0.221
0.577
0.123
0.574
0.122
0.580
0.125
0.579
0.124
0.539
0.104
0.560
0.115
0.584
0.127
0.602
0.136
0.620
0.145
転送速度
(Mbps)
92.69
65.19
38.82
74.09
74.21
74.16
74.11
84.54
78.63
66.27
62.51
59.14
表 2 には、暗号アルゴリズム blowfish-cbc
128bit、ESP(Encapsulation Security Payload)
プロトコルを使用した時の認証アルゴリズム
毎の遅延時間と転送速度測定値を示す。遅延時
間と転送速度の測定結果から、認証アルゴリズ
ムは、HMAC-md5 あるいは keyed-md5 が適当
であると考えられる。
表 2 認証アルゴリズムの測定値
認証・暗号
の片方向 転送速度
遅延時間
(Mbps)
(msec)
認証
アルゴリズム
鍵長
(bit)
RTT
(msec)
認証・暗号アル
ゴリズ ムなし
-
0.331
-
92.69
128
160
128
160
0.645
0.740
0.632
0.717
0.157
0.205
0.151
0.193
62.31
47.36
63.11
48.52
HMAC-md5
HMAC-sha1
keyed-md5
keyed-sha1
筆者らのシステムでは、IPsec の暗号アルゴ
リズムには blowfish-cbc 128bit を、認証アルゴ
リズムには HMAC-md5 を使用した。その時の
パ ソ コ ン 転 送 速 度 が 、 92Mbps 程 度 か ら
62Mbps 程度へ低下した。
4.2 IPv6 と IPsec プロトコルのトラフィックと
遅延時間
DVTS による IPv4、IPv6、IPv6+IPsec のト
ラフィック測定結果を表 3 に、VIC による映像、
RAT による音声、DVTS による映像と音声の片方
向の遅延時間計測結果と最大トラフィックを表
4に示す。
IPv4 より IPv6、IPv6 より IPv6+IPsec とト
ラフィックが高くなるが、IPv6 や IPsec による
遅延は、人間の感覚に影響を及ぼさない程度であ
った。
表 3 DVTS トラフィック測定値
(単位:Mbps)
IPv6
IPv6+IPsec
28.8464
29.4890
28.9514
29.6027
26.5882
25.9994
IPv4
28.4678
28.5443
27.0771
平均値
最大値
最小値
表4
映像・音声の遅延時間
ソフト 遅延時間(sec程度)
ウェア IPv4 IPv6 IPv6+
IPsec
設定条件
VIC
0.1
0.1
RAT
DVTS
0.5
0.5
h.261フォー マット
0.1 最大フレー ムレート30f/s
最大転送速度3Mpss
0.5 PCM64Kbpsモノラル
0.3
0.3
0.3 全フレーム転送
5 おわりに
本報告では、本実証実験で構築したシステムの
IPv6 と IPsec プロトコルへの対応を評価した結
果、遅延やトラフィック増加はほとんど影響を与
えない程度であった。
参考文献
[1] 独立行政法人情報通信研究機構 JGN2,
http://www.jgn.tao.go.jp
[2] 河北・岡嶌他,高速ネットワークを用いた遠隔
打ち合わせ・指示システム,熊本県工業技術セ
ンター研究報告第 40 号(平成 13 年度),p36-42
,2002.10
[3] 河北・岡嶌他、IPv6 と IPsec プロトコルに対
応した遠隔加工支援システム,熊本県工業技
術センター研究報告第 42 号(平成 15 年度),
p12-19,2004.10
[4] 大久保・河北他,熊本地域における IPv6 実験
ネットワークの構築,第 17 回熊本県産学官技
術交流会講演論文集,p112,2003.1
[5] Racoon, a key management daemon,
http://www.kame.net/racoon/
[問合せ先]
熊本県工業技術センター
情報デザイン部 河北隆生
TEL:096-368-2101
E-mail:[email protected]