IPv6 と IPsec プロトコルに対応した遠隔加工支援システム −NC マシンにおける遠隔地からの加工支援システムの実用化− ○河北隆生、岡嶌崇、高橋孝誠、上村誠、土村将範、城戸浩一 小笠原健一(熊本県工業技術センター)、渡辺健次(佐賀大学 理工学部) 平澤純一、川村浩二(ネクサス(株))、山本英明(ナカヤマ精密(株)) IPv6 と IPsec プロトコルへの対応とその評価に ついて述べる。 1 はじめに 筆者らは、多品種少量生産時の金型などの製品 開発を対象として、設計現場と製造工場あるいは 製造管理部門と製造現場が遠隔地にある場合の 「打合せ」、 「段取り作業(工具、ワーク、治具など の取付作業)およびテスト加工の指示と確認」、 「加 工状況監視」等の一連の流れを支援するシステム を構築・開発し、熊本県工業技術センター(以下、 「当センター」)と佐賀大学間を通信・放送機構 (TAO 、 現 「 独 立 行 政 法 人 情 報 通 信 研 究 機 構 (NICT)」)が運用する研究開発用ギガビットネッ ト ワ ー ク (Japan Gigabit Network[1] 、 以 下 「JGN」)で接続して実証実験を行った[2][3]。 本システムは、IPv6 プロトコルへ対応するとと もに、IPsec(IP Security Protocol)によりセキュリ ティを強化した。 本報告では、本実証実験で構築したシステムの 2 構築システム概要 2.1 ネットワーク構成 構築したネットワークでは、IPv4 と IPv6 の両 方のプロトコルが利用できる[4]。 2.2. 遠隔打合せ・指示システム 本システムは、遠隔地間での打合せ、段取り作 業やテスト加工の指示と確認などに利用する。本 システムの構成図と実験の様子を図1に示す。 2.3 遠隔加工監視システム 本システムは、遠隔地から加工状況を把握す ることで、不具合時対応の指示を行うとともに データを蓄積・解析することで原因究明を可能 とすることを目的としている。 設計現場(製造管理部門) 佐賀大学 製造工場 熊本県工業技術センター DVTS受信 TV会議 3DCAD JGN PCルータ PCルータ TV会議 CAD共有 DNC TV会議/カメラ制御 (作業指示確認) IPv4/IPv6 Multicast NC工作機械 作業の指示と 詳細確認・蓄積 DVTS送信/カメラ制 御(作業指示詳細確認) 打合せと作業の指示と確認 図1 遠隔打合せ・指示システム 3 IPsec によるセキュリティ強化 ホスト間通信では、IPsec の SAD(Security Assosiation DB、鍵や暗号・認証アルゴリズムや パラメータなどの共有)の管理に IKE(Internet Key Exchange、鍵交換)を使用した。通常、IKE では、暗号化などのための共有秘密鍵や SA の折 衝を行うときにホスト認証を行う。本システムで は、ホスト認証の方法として PKI(公開鍵基盤)を 利用することとし、当センターで開発した認証局 から発行された秘密鍵と X.509 公開鍵証明書を組 み込んだ。使用した OS と IKE プログラムは、 FreeBSD 4.7R と racoon である。 マルチキャスト通信では、通信相手を特定でき ないため、IPsec の SAD の設定は、手動で行った。 4 実験結果 4.1 IPsec 暗号と認証アルゴリズムの選定 測定には、Intel PentiumIII 1GHz CPU、 512Mbyte メモリ、FreeBSD4.7R OS のパソコ ンを使用した。 表1には、暗号アルゴリズム毎の遅延時間と 転送速度の測定値を示す。暗号アルゴリズムに よる暗号・復号の片方向遅延時間が、最も大き いのは 3des-cbc の 0.221msec であるが、この 程度であれば計測や映像音声などのデータ送 受信の遅延にほとんど影響を与えない程度で ある。号鍵長は、128bit 以上がある程度安全だ と言われており、遅延時間と転送速度の測定結 果から、暗号アルゴリズムは、blowfish-cbc る いは cast128 が適当だと考えられる。 表 1 暗号アルゴリズムの測定値 暗号 アルゴリズム 鍵長 (bit) なし des-cbc 3des-cbc 64 192 64 128 192 256 64 128 128 192 256 blowfish-cbc cast128 rijndael-cbc 暗号・復号 の片方向 RTT (msec) 遅延時間 (msec) 0.331 0.599 0.134 0.772 0.221 0.577 0.123 0.574 0.122 0.580 0.125 0.579 0.124 0.539 0.104 0.560 0.115 0.584 0.127 0.602 0.136 0.620 0.145 転送速度 (Mbps) 92.69 65.19 38.82 74.09 74.21 74.16 74.11 84.54 78.63 66.27 62.51 59.14 表 2 には、暗号アルゴリズム blowfish-cbc 128bit、ESP(Encapsulation Security Payload) プロトコルを使用した時の認証アルゴリズム 毎の遅延時間と転送速度測定値を示す。遅延時 間と転送速度の測定結果から、認証アルゴリズ ムは、HMAC-md5 あるいは keyed-md5 が適当 であると考えられる。 表 2 認証アルゴリズムの測定値 認証・暗号 の片方向 転送速度 遅延時間 (Mbps) (msec) 認証 アルゴリズム 鍵長 (bit) RTT (msec) 認証・暗号アル ゴリズ ムなし - 0.331 - 92.69 128 160 128 160 0.645 0.740 0.632 0.717 0.157 0.205 0.151 0.193 62.31 47.36 63.11 48.52 HMAC-md5 HMAC-sha1 keyed-md5 keyed-sha1 筆者らのシステムでは、IPsec の暗号アルゴ リズムには blowfish-cbc 128bit を、認証アルゴ リズムには HMAC-md5 を使用した。その時の パ ソ コ ン 転 送 速 度 が 、 92Mbps 程 度 か ら 62Mbps 程度へ低下した。 4.2 IPv6 と IPsec プロトコルのトラフィックと 遅延時間 DVTS による IPv4、IPv6、IPv6+IPsec のト ラフィック測定結果を表 3 に、VIC による映像、 RAT による音声、DVTS による映像と音声の片方 向の遅延時間計測結果と最大トラフィックを表 4に示す。 IPv4 より IPv6、IPv6 より IPv6+IPsec とト ラフィックが高くなるが、IPv6 や IPsec による 遅延は、人間の感覚に影響を及ぼさない程度であ った。 表 3 DVTS トラフィック測定値 (単位:Mbps) IPv6 IPv6+IPsec 28.8464 29.4890 28.9514 29.6027 26.5882 25.9994 IPv4 28.4678 28.5443 27.0771 平均値 最大値 最小値 表4 映像・音声の遅延時間 ソフト 遅延時間(sec程度) ウェア IPv4 IPv6 IPv6+ IPsec 設定条件 VIC 0.1 0.1 RAT DVTS 0.5 0.5 h.261フォー マット 0.1 最大フレー ムレート30f/s 最大転送速度3Mpss 0.5 PCM64Kbpsモノラル 0.3 0.3 0.3 全フレーム転送 5 おわりに 本報告では、本実証実験で構築したシステムの IPv6 と IPsec プロトコルへの対応を評価した結 果、遅延やトラフィック増加はほとんど影響を与 えない程度であった。 参考文献 [1] 独立行政法人情報通信研究機構 JGN2, http://www.jgn.tao.go.jp [2] 河北・岡嶌他,高速ネットワークを用いた遠隔 打ち合わせ・指示システム,熊本県工業技術セ ンター研究報告第 40 号(平成 13 年度),p36-42 ,2002.10 [3] 河北・岡嶌他、IPv6 と IPsec プロトコルに対 応した遠隔加工支援システム,熊本県工業技 術センター研究報告第 42 号(平成 15 年度), p12-19,2004.10 [4] 大久保・河北他,熊本地域における IPv6 実験 ネットワークの構築,第 17 回熊本県産学官技 術交流会講演論文集,p112,2003.1 [5] Racoon, a key management daemon, http://www.kame.net/racoon/ [問合せ先] 熊本県工業技術センター 情報デザイン部 河北隆生 TEL:096-368-2101 E-mail:[email protected]
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