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すばる望遠鏡・高分散分光器を用いた
系外惑星HD209458bの大気吸収探索
東京大学大学院 理学系研究科
成田憲保
2005年1月21日 修士論文審査会
目次
1. イントロダクション
2. すばる望遠鏡での系外惑星系観測
3. 大気吸収探索のための解析手法
4. 結果、およびその考察
5. 今後の研究計画
目次
1. イントロダクション
2. すばる望遠鏡での系外惑星系観測
3. 大気吸収探索のための解析手法
4. 結果、およびその考察
5. 今後の研究計画
系外惑星とは何か?
その名の通り太陽系外の「恒星」にある惑星
1995年 51Pegasi に初の系外惑星発見
51Peg.b
公転周期
4.2日
軌道長半径 0.052 AU
最小質量
0.69MJup
Mercury
公転周期
88日
軌道長半径 0.39 AU
ホットジュピター(あるいはclose-in giant)と呼ばれる
主星に近接した巨大ガス惑星
全く未知の世界の発見:新しい研究対象
イントロダクション
系外惑星発見の歴史




1992年
1995年
1999年
2004年
パルサープラネットの発見
視線速度による51Peg.bの発見
HD209458bのトランジット発見
海王星質量の系外惑星発見
重力レンズによる系外惑星発見
Radial Velocity
主星の周りを公転する惑星の存在により、主星はその共通重心の
周りを楕円運動する。すると、主星の視線速度(Radial velocity)
に周期的なドップラーシフトが現れる。
直接観測量は視線速度の時間変化
California & Carnegie Planet Search Team
フィッティングによって求まる物理量
• 公転周期 P
• 質量の下限値 Mp sin i
• 離心率 e
• 軌道長半径 a
どうやって視線速度を決定するのか?
Radial Velocity
現在の観測精度 1σ~ 3 m/s → ヨードセルによる決定精度
光
CCD
鏡
ヨードセル
Radial Velocity
現在の観測精度 1σ~ 3 m/s → ヨードセルによる決定精度
青:ヨードセルなし
赤:ヨードセルあり
ヨウ素気体の箱を通して
スペクトルに波長のものさし
となる吸収線を焼き付ける
現在最も多くの系外惑星を発見している、精度が高い検出方法。
日本も含め多くのチームが近傍の恒星をモニターしている。
Planetary Transit
惑星の軌道が主星の前面を通過する場合、「食」が起こる。
その周期的な主星の減光から惑星の存在を検出する方法。
直接観測量は光度の時間変化
フィッティングによって求まる物理量
• 見かけの大きさ Rp/Rs
• inclination i
provided by Chris Leigh
Radial Velocity法と合わせると、惑星の質量、半径、密度などまで
求めることができる。(我々のターゲットはこのようなTransit惑星)
地上からの観測では一度に~104個程度の星の光度変化を見る。
宇宙からの観測(COROT、Kepler)が予定されている。
系外惑星科学の現状
119個の惑星系に135個の惑星が確認されている
新たな発見から新たな謎が生まれた
 どうしてそんなに近くにあるのか?
 惑星を持つ星と持たない星の違いは?
 なぜ褐色矮星が先に見つからなかったのか?
 主星に近接した巨大ガス惑星の大気構造は?
さまざまな理論モデルは与えられているが
観測事実がまだ非常に少ない
本研究の目的
より系外惑星の理解を深めていくためには
観測的な情報をもとに一歩ずつ進むしかない
主星の近傍に存在している巨大ガス惑星は
どのような大気を持っているのか?
惑星の大気吸収を探すことで
ひとつの観測結果を与える
1. イントロダクション
2. すばる望遠鏡での系外惑星系観測
3. 大気吸収探索のための解析手法
4. 結果、およびその考察
5. 今後の研究計画
すばる望遠鏡での系外惑星系観測
• 観測ターゲット HD209458
• 観測機器 すばる望遠鏡・高分散分光器
観測ターゲット
HD209458b
Radial Velocityにより発見され、Transitが初めて確認された
ホットジュピター(Charbonneau, Brown et al. 2000)
Basic data
HD209458 G0V V = 7.64 → 太陽に似た明るい星
HD209458b Orbital Period 3.524738 ± 0.000015 days
inclination
86.1 ± 0.1 deg
Mass
0.69 ± 0.05 MJ
Radius
1.43 ± 0.04 RJ
from Extra-solar Planet Catalog by Jean Schneider
高分散分光器HDS
二つの回折格子を用いた分光装置
• エシェル(1mmあたり31.6本の格子)
• クロスディスパーザー(1mmあたり250本の格子)
• (通常の回折格子は1mmあたり600本程度)
二つの回折格子を用いる利点
1.
2.
限られたスペースの検出器上に二次元的に天体の光を
分光することができる
またその結果として、高い波長分解能と広い波長領域を
観測することができる
観測設定
すばる /HDS による高分散分光観測
2002年10月の1晩でTransitを含む
30フレームのデータを取得
公転周期3.5日
内訳:in 12 out 12 half 6
フレーム:各露光で得られたスペクトル
観測パラメータ
観測波長領域 4100~6800Å
観測phase
波長分解能
45000
SN / pix
~ 350
大気吸収探索のための解析手法
トランジット惑星における
Transmission Spectroscopy
Transmission Spectroscopy
Transitをそれぞれの吸収線で見る
原理的には惑星大気中の元素を検出できる
解析方法の概要
取得した全てのフレームを
足し合わせてテンプレートを作成
時系列ごとのそれぞれのフレームに
total fluxおよびline shiftが合うよう
テンプレートを較正
引き算をした結果のresidualを積分し
較正したテンプレートに対する
変化の割合を求める
宇宙からの大気吸収探索
過去のHSTの観測結果
2002年 中性NaのD線で0.02%の吸収量の増加が報告された
Charbonneau et al. 2002
2003年 中性水素のLy α線で15%の大きな吸収量の増加
Vidal-Madjar et al. 2003
2004年 中性酸素と炭素イオンでも~7%の吸収量の増加
Vidal-Madjar et al. 2004
http://www2.iap.fr/exoplanetes/images_hd209458.html
地上からの大気吸収探索
過去の可視光領域の観測結果
0.3Åの吸収線中心部において
• Bundy & Marcy (2000) Keck I /HIRES < 3 %
• Moutou et al. (2001)
VLT /UVES
地上からの系外惑星大気の検出はまだなされていない
地上観測の障害
• 観測機器の安定性(Instrumental profile)
• 大気分子による吸収(Telluric)
解析における課題
赤と青 : 2.5時間離れた時刻のスペクトル
緑 : 青÷赤の比率のスペクトル
10%
Instrumental Profileの補正方法
連続したオーダーの比率のスペクトルがほぼ同じことに着目
目的の吸収線の両隣の比率スペクトルを用いる
それぞれのスペクトルをS1,S2、R = S1/S2として
(フラックスの較正)
(波長変動の較正)
補正結果
10%
補正によってほぼポアソンノイズに収まった
ターゲットの選択
過去の結果から以下のようにターゲットを選んだ
Hα, Hβ, Hγ, Na(D1, D2), Li, Fe, Ca
1.広がった水素外層大気の存在が報告されている
2.Naでは理論的に吸収量の増加が予想されている
(実際に0.02%の吸収量の増加が報告されている)
3.過去の地上観測との比較(Fe,Caなど)
Hα, Na(D1, D2) および過去の結果との比較
残差の解析
ターゲット吸収線のまわりでfluxの残差を求める
その量の平均と標準偏差をトランジットの内外で比較
有意な変化がない場合、
全体の標準偏差を上限値の目安とした
中性水素(Hα線)
この2Åの範囲で残差の変化を調べた
時間
テンプレート
大気吸収線
中性水素(Hα線)
トランジットに同期した吸収は見られない
3σ~0.4%程度の変動が残っている
ナトリウム D線
上:D1(5896±1Å) 下:D2( 5890±1Å )
左:トランジットのある日 右:トランジットのない日
両日共に3σ~0.2%の変動
過去の結果との比較
可視領域の吸収線に対して上限をつけているのは
Bundy & Marcy (2000)のみ
彼らの解析に合わせ0.3Åの幅で積分した結果
結果の考察
残った変動の原因を探るため以下のことを確認した
1. 大気吸収がなくフラックスの大きい領域で同様に
積分を行い、どの程度変動があるか?

2Åの積分で0.2%(3σ)程度の変動が残っていた
2. 観測機器の補正手順であるべき信号を消したり
おかしな振る舞いがないかどうか?

人工的に0.03%, 0.2%の吸収を入れて、それが実際
に検出できることを確認した
3. 大気吸収が実際に検出できるか?


0.4Åの積分で0.5%の大気吸収が実際に検出できた
ターゲットの領域では大気吸収の影響は0.1%以下
本研究のまとめ
• すばる望遠鏡で初めて系外惑星大気の検出を試みた
• 可視光領域の吸収線について、トランジットに起因する
吸収量の増加は見られなかった

残った変動は観測機器の安定性によるものと考えられる

もともと10%程度あった変動を小さく抑えることができた

同程度の性能を持つ望遠鏡に比べて高い精度だったのは、
1晩でトランジットの前中後を観測した事が要因と考えられる
• 観測機器の時間変動を補正する一つの方法を確立し
地上観測としてベストの結果を出す事ができた
• 補正方法の妥当性について定量的な確認を行った
今後の研究計画
• Rossiter効果を用いたTransit惑星の観測
– Transmission Spectroscopy
– 主星の自転と惑星の公転のalignmentを調べる
• 系外惑星からの反射光の観測
系外惑星の観測から理論への制限をつける
理論的な予想を観測で確かめる
今後の研究計画1
Rossiter effectを用いた惑星大気吸収探索
Transit中にケプラー運動の
理論曲線からずれている
惑星が主星の自転を隠して
しまうことによる効果
「Rossiter effect」
各吸収線でこの効果を比較することで、
Transmission Spectroscopyの代わりになる
今後の研究計画2
Rossiter effectを用いた惑星形成理論の検証
新しく見つかった比較的明るい
トランジット惑星TrES-1
すばる望遠鏡でRossiter
効果の検出が可能
今後の研究計画3
系外惑星からの反射光の探索
主星、惑星、観測者のなす角をαとすると、ある
波長λにおける主星と惑星のflux ratio f は、
f (λ) ~ (Rp / a) 2 pλ gλ(α) と書ける。
pλ : geometric albedo gλ(α) : phase law
αは公転の位相と i によって決まる
geometric albedoは大気や地表による反射率のようなもの。
phase lawはαによって惑星が観測者からどう見えるかを表す量で、
gλ( 0 ) ≡ 1、gλ(π) ≡ 0
geometric albedoの波長依存性が大気モデルから予言されている
謝辞
共同研究者
須藤靖(東京大学)
Joshua N. Winn (Harvard-Smithsonian Center)
Brenda L. Frye, Edwin L. Turner (Princeton Univ.)
山田亨、青木和光(国立天文台)
佐藤文衛(神戸大学)
Christopher Leigh (Liverpool)