系外惑星探査の現在 2003年天文・天体若手夏の学校 成田 憲保 http://www-utap.phys.s.u-tokyo.ac.jp/~narita/SECOND/ 発表内容 系外惑星探査の歴史的背景 系外惑星探査の方法と特徴 これからの観測の目標と戦略 新しい宇宙物理のテーマとして 系外惑星を全国の若手に伝える 歴史の流れ ●~90年代 惑星形成理論としては林モデルなど太陽系の形成を説明する シナリオが惑星形成の標準理論とされていた。 ●1995年 Radial velocity法により51 Peg.に系外惑星の発見。 公転周期 P = 4.23日 軌道長半径 a = 0.051AU 質量 Mp sin i = 0.46MJup → 標準理論とかけ離れた姿! その後、Radial velocity法による系外惑星探査の発展 この方法で100個以上の惑星系が発見された 歴史の流れ ●2000年 HD209458において、初めてTransitが確認された。 公転周期 P = 3,52日 軌道長半径 a = 0.045AU 質量 Mp = 0.69MJup 半径 Rp = 1.43RJup ●2003年 Transit法により候補にあげられたOGLE-TR-56が、 Radial velocity法の追試により系外惑星と確認された。 Transit法が新しい系外惑星探査法として確立 以上のように発見されてきた系外惑星 太陽系とは大きく異なる姿 主星近傍に木星型巨大惑星が発見され、従来の標準理論を 修正する新しい惑星形成理論が必要になった。 Formation Migration Tidal evolution 大気モデル(組成、albedo、phase law) 新しい惑星形成理論を作るには? 太陽系以外の多くの惑星系の姿を知ることにより、universalな 惑星形成モデルや、恒星が惑星を持つ割合など統計的な議論 の展開が必要。 そのためには数多くの系外惑星系の発見が不可欠 では系外惑星系をどうやって探すか? 天体観測の方法 直接観測 間接観測 Spectroscopic Photometric 惑星からの光を直接観測すればいいのではないか? 地上からの分解能では不可能 宇宙からでも困難 → 非常に近くに9桁明るい主星がある 現在の主流は地上からの間接的な観測法 ● Spectroscopic ● Photometric ● Spectrophotometric ● Radial velocity法 ● Transit法 Microlensing法 ● Scattered light法 Radial velocity法 (117個中 116個発見 1個確認) 主星のまわりを公転する惑星の存在により、主星はその共通重心 のまわりを楕円運動する。それにより観測される主星のスペクトル には視線速度(Radial velocity)の周期的なドップラーシフトが現 れる。このドップラーシフトにより惑星の存在を検出する方法。 現在のシフトの観測限界 1σ= 3 m/s → I2cell の限界 4σ→1AUにある0.5MJupの惑星くらい までなら検出できる 光 鏡 I2cell CCD ヨウ素気体の箱を通して、スペクトルに波長 のものさしとなる吸収線を焼き付ける Radial velocity法 (117個中 116個発見 1個確認) 直接観測量は視線速度の時間変化 フィッティングによって求まる物理量 公転周期 P 質量の下限値 Mp sin i 離心率 e 軌道長半径 a 特徴 現在最も普及している、精度が高く検出可能領域が広い方法。 しかし、惑星からの光は全く見ていないなど物理的価値は低い。 惑星のpopulationを調べるのに適している。 Transit法 (117個中 1個発見 1個確認) 惑星の公転面のinclinationが90度付近の場 合、惑星が主星の前面を通過する際に「食」が起 きる。これにより周期的に主星の光度が下がるこ とから惑星の存在を検出する方法。 惑星の影を見る 地上からの減光の観測限界 1%程度 主な誤差はMs、Rsの仮定 → 10%程度 宇宙(HST)では約20倍の精度 またRsの縮退が解けるため、誤差は数% Transit法 (117個中 1個発見 1個確認) 直接観測量は光度の時間変化 フィッティングによって求まる物理量 見かけの大きさ Rp/Rs inclination i 特徴 地上からの観測では一度に~105個程度の星の光度変化を見る。 宇宙からの観測では高精度の物理量測定が可能。 Radial velocity法と合わせると、惑星の質量、半径、密度などまで 求めることができる。 Transit中と外でのスペクトルの比較から、惑星の大気の情報が得 られる。 Microlensing法 (成功例なし) Microlensingのイベントにおいて、惑星を持つ主星がlens天体と なってsource天体の光度を増光し、かつ惑星の摂動により光度 曲線に新たなピークができることで惑星の存在を検出する方法。 planet d Earth lens 特徴 source 直接観測量は光度の時間変化 バルジ方向の遠方(~kpc) にある惑星探し 再現性がなく追試はできない 主星から離れた惑星に感度 フィッティングによって求まる物理量 があり、小さな質量比まで可 公転距離の射影成分 d 惑星の性質はわからないので 質量比 q ≡ Mp / Ms populationを知ることが目的 Scattered light法 (成功例なし、競争中) 主星の光の中に埋もれた惑星の反射光を検出する方法。 主星、惑星、観測者のなす角をαとすると、ある 波長λにおける主星と惑星のflux ratio f は、 f (λ) ~ (Rp / a) 2 pλ Φ(α) と書ける。 pλ : geometric albedo Φ(α) : phase law αは公転の位相と i によって決まる geometric albedoは大気や地表による反射率のようなもの。 phase lawはαによって惑星が観測者からどう見えるかを表す量 で、Φ( 0 ) ≡ 1、Φ(π) ≡ 0 pλ、Φ(α) は惑星の大気モデルを反映した量 Scattered light法 (成功例なし、競争中) 観測される量 定常的な主星のスペクトル+時間変化する惑星のスペクトル 解析する上で2つの困難 1.観測量が縮退している 2.最大でも f ~ 10-4 という微小な信号 ただしRadial velocityとTransitが成功している場 合、縮退は解くことが可能 ∵ Radial velocity → a がわかる Transit → Rp 、 i がわかる Scattered light → α~0 と近似できる位相での f では Φ( 0 ) ≡ 1 より、直接 pλ がわかる a 、 Rp 、 pλ から時間変化と共にΦ(α)がわかる Scattered light法 (成功例なし、競争中) 微小な信号を検出するためにはどうしたらいいか? 高い波長分解能でフォトン数を稼ぎ 長時間積分して SN ~ 105 を目指す Scattered light法は困難な目標ではあるが、 惑星からの直接光を分離することにより、惑星の大気の性質を 反映した物理量を求めることができ、より詳しい惑星の情報を 得ることができる。それと同時に既に提唱されているさまざまな 大気モデルの検証などもでき、新しい惑星形成理論に必要な 物理的価値の高い手法であると言える。 修士論文の目標 これからの系外惑星探査 これまで → Radial velocity法で近傍のG型星をしらみつぶし Radial velocity法の弱点 一度に一つの星しか見れない 公転周期以上のサンプリングが必要 populationは近傍のG型星で5%程度 inclination i がわからない 密度、半径、大気組成など惑星に 関する情報がほとんど得られない 非効率的 価値が低い これからの系外惑星探査 そこでTransit法 ~ 105個の星を同時観測 → Transitの候補を探す → Radial velocity法で追試 Transit + Radial velocity で Rp と i がわかる → 惑星の質量と密度がわかる Transit中と外の比較で惑星の大気組成の情報が得られる Transitが見える星はScattered lightも見える可能性が高い → 惑星のより詳しい情報へつながる Transit + Radial velocity + Scattered light の組み合わせ これからの主流? これからの系外惑星探査 Radial velocity法の利点 Radial velocity法は検出可能領域が広い 非効率ではあるものの、公転周期が長い 比較的小さな惑星も見つけることができる。 干渉型の電波望遠鏡などの完成でさらに広が る。地球型惑星の候補発見への期待。 Brown dwarf desertの検証 感度としては確実に見つかるはずの褐色 矮星領域の星はなぜ極端に少ないのか? 星の形成についての新しい知見が得られる。 これからの系外惑星探査 目標による住み分け Close-in planetsの性質をより詳しく調べていく Transit + Radial velocity + Scattered light 主星から離れた惑星のpopulationを調べていく Radial velocity (~100 pc) Microlensing (~ kpc) 地球型惑星の探査(候補の発見) Radial velocity法による高精度長期観測 地球型惑星の探査(直接観測) コロナグラフなどによる宇宙からの観測 2003年7月観測報告 すばる望遠鏡で3日間の観測 Suprime-Camによる広域観測 Transit法による候補探し HDSによるOGLE-TR-135の観測 Radial velocity法による追試 HDSによるHD209458の観測 Scattered light法への挑戦 目標はScattered lightの確認。 解析はこれからの夏休みをかけて行います。 reference さまざまな系外惑星のデータ http://www.obspm.fr/encycl/catalog.html 宇宙理論研究室(UTAP)のゼミで用いた論文とレジュメ http://www-utap.phys.s.u-tokyo.ac.jp/~narita/seminar/narita_seminar.html 51 Peg.の視線速度曲線 http://exoplanets.org/esp/51peg/51peg.shtml HD209458bのイメージ図 http://www2.iap.fr/exoplanetes/ HD209458の光度曲線 http://www.obspm.fr/encycl/papers/HST-HD209458.pdf すばる望遠鏡の写真は自分で撮影したものです。 このポスター製作においては、UTAPの稲田さん、大栗さん、太田さんに 助言をいただきました。みなさんにこの場を借りてお礼を申し上げます。
© Copyright 2024 ExpyDoc