2001年公共経済学(院) 『ネットワーク・エコノミクス』 第10章 インセンティブ規制 の経済理論

2001年公共経済学(院)
『ネットワーク・エコノミクス』
第10章
インセンティブ規制
の経済理論
発表者:手島健介
本章の構成
• 伝統的規制(その長所・問題点)
→インセンティブ規制
*利潤分配規制
*プライスキャップ規制
*ヤードスティック規制
*ベイズ型プリンシパルエージェントモデル
伝統的規制
• 費用積み上げ方式
• (営業費用+資本費用)/需要
→費用節約の誘因なし
→公正報酬率規制へ
事業資産に公正報酬率を乗じる。
(事業資産:真実有効な資産:Rate Base)
公正報酬率規制
P=(C+ρK)/Q,ρ=iD/K+rE/K
考え方:①事業資産Kのうち負債Dに相当す
る部分に負債利子率iを、自己資本Eに相
当する部分に自己資本利益率rを設定し公
正報酬率ρを定める。
②価格はρKをコストCに上乗せして総需要で
割った水準に設定する。
伝統的規制の長短
• 長所
*社会的受容性、公平性
*規制のラグ効果
*投資の安定性とサービス水準の確保
• 短所
*非効率性(X非効率性とアバーチジョンソン効果)
*規制の失敗
→インセンティブ規制への流れ
アバーチ・ジョンソン効果
• 規制企業によって決定された資本ー労働
比率が、費用最小化水準における資本ー
労働比率を上回ること。(資本過剰)
• 公正報酬率規制:ρ≧(PQ-wL)/K
ここでπ=PQ-wL-iKとおき、Kで割ると、
π/K= (PQ-wL)/K-i≦ρ-i
→π/K がρ-i を下回るまでKを増やす。
インセンティブ規制の分類
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利潤分配規制(残余請求権)
プライス・キャップ規制(上限価格内リバランシング)
ヤードスティック規制(他企業指標との競争)
フランチャイズ・ビッディング(事業免許競売)
ベイズ型PA規制(企業の規制自己選抜)
ハイブリッド規制(複数の規制の混合)
インセンティブ規制
実証研究の結果
• 経営効率化と消費者便益の向上
*ある水準以上におけるインセンティブ規制採用
度と報酬率の正の相関。(地域ベル系)
*インセンティブ規制→料金水準低い
• インセンティブ規制の現況
*最良の型はない
*ゼロ・サムではない
*競争政策との関連
利潤分配規制
• 公正報酬率を超える利潤率の達成に対し
て一定割合の利潤獲得を認める規制
• 最初:企業に社会厚生の残余請求権を認
めることによる最適資源配分の達成
→(公平性の問題)
その期の消費者余剰の改善分だけ与え
ることだけでも最適性の達成証明
利潤分配方式の類型・実例
• 費用調整方式(実現コストと契約コストの差の一
定割合を利潤として認める。)
アメリカの電力産業(戦後)
• 料金自動調整方式(公正報酬率に上下幅を設け
る)NTTの幅公正報酬率
• スライディングスケール方式(想定利益率を設定、
それを上回る利益を企業と消費者で一定割合で
山分け)ガス事業法の報償契約
プライス・キャップ規制
• 料金上昇率を物価上昇率+不可抗力要
因ー生産性上昇によるコスト上昇率の枠
内におさめる。
• このとき料金はラムゼイ価格に収束
• 利点
①経営効率化②規制の透明化コスト削減
③価格のリバランシング④アバーチジョン
ソン効果の回避
プライスキャップ規制
の問題点・実例
• 生産性向上率の測定の問題
→規制の政治化・利益の大幅な変動
• 過少投資・サービス劣化
英国の電気通信
日本の電気通信(NTT東日本・西日本の電話
ISDN専用サービス:)
ヤードスティック規制
• 地域独占企業の経営実績を比較して間接
競争を作り出す規制
• 価格を他企業の平均的限界費用関数に、
補助金を他企業の平均的費用削減努力に
設定する。それを企業が知って努力水準を
決定。実際観察された費用、努力に応じ価
格、補助金を決定。
ヤードステッィク規制
の成功のポイント
• 費用・需要条件の企業観等質性
• 企業間の共謀の不可能性
日本の私鉄・バスの標準原価方式
英国の水道事業
日本の電力・ガス産業に1996年から導入
(地域ごとの費用・需要条件の異質性を考
慮)
ベイズ型プリンシパル・
エージェント規制
被規制者(企業)と規制者(政府)の情報の非
対称性を明示的に分析
①アドバースセレクション型(私的情報)
誘因両立条件(正しい情報を吐かせる条
件)
参加条件を満たす料金設定は消費者余剰
を少しでも重視する限り非効率になる。
②モラルハザード型(隠れた行動)
費用削減努力が過小になる。
問題点・実例
• 直接的な政策応用がしにくい
(Revelation Schemeの実用化は難しい)
米国地域電気通信の州際アクセスチャージ
企業がリスク(想定生産性上昇率)とインセ
ンティブ(報酬率の幅)の組み合わせを選
択するしくみ
インセンティブ規制を
考えるポイント(おまけ)
• インセンティブ向上に資するか
(費用削減努力のメリットが費用削減努力
コスト、同業者との癒着、政府との癒着な
どのメリットを上回っているか)
• 費用調査コストを削減するか
• 消費者から企業への所得移転をどの程度
おさえることができるか。
フランチャイズ・ビディング
(おまけその2)
• 一定期間の事業免許を入札方式にする。
→免許再獲得のための効率的経営を期待。
• 問題点
-企業間の談合の可能性
-既存企業の技術的・情報的優位性
-既存企業が敗れたときの処理
-免許契約の不完備性