研究発表: 話し手の視点における 言語確率の方向性の効果 文学部心理学専攻 4回生 1613070085-7 高木 沙紀子 言語確率 言語によって確率を表現するもの。 positive語 例)わずかな見込みがある。 方向性 ある事象が起こることを強調する表現。 negative語 例)見込みはほぼない。 ある事象が起こらないことを強調する表現。 =コミュニケーションの焦点を定める意味特性。 Teigen & Brun(2003) 目的 先行研究では、情報の聞き手についての研究がされてきた。 聞き手 :意思決定の際に方向性の影響を受ける。 方向性によるコミュニケーションの成立? しかし、情報のやり取りする話し手の存在も重要である。 話し手 :方向性を考慮した情報の伝達をしているのではないか? ex)確率が高い:positive語、確率が低い:negative語 行動を促す:positive語、行動を阻止する:negative語 ➡方向性の性質に応じて 話し手も言語確率を使い分けているのかについて検討する。 方法 質問紙を使用し、平均年齢20.1歳の大学生42名(男性17名、 女性25名)が参加した。 カバーストーリーによって3群に分け比較した(群間比較)。 「あなたは医者であるとします。今あなたの患者が病気にかかっており、ある新しい 治療法を行うかどうか悩んでいます。その治療法が成功する確率が以下の場合、 あなたは彼に治療法の有効性を何と伝えますか。」 ①条件なし(統制群) ②患者の行動を促がす(促進群) 「ただし、あなたは新しい治療法の可能性を試すことには価値があり、その患 者には新しい治療法を受けてほしいと考えています」 ③患者の行動を阻止する(阻止群) 「ただし、あなたは新しい治療法を試すのは望ましくなく、その患者には新しい 治療法を受けてほしくないと考えています」 方法 治療が成功する確率が20%、50%、80%の場合について、選択 肢がどのくらいふさわしいかを5段階で評価させた(群内比較)。 選択肢の言語確率はpositive語、negative語それぞれ予備 調査で選ばれる確率が高かった上位3語を使用した。 20% 50% 80% positive語 negative語 可能性がある わずかな見込みがある かすかな見込みがある 可能である 考えられる 可能性がある 十分に考えられる 可能である ほぼ確実である あまりない それほど成功しそうにない やや疑わしい 確実ではない 多少の不安がある 確信がない 多少の不安がある 確実ではない やや疑わしい 結果 20%の場合 50%の場合 5 4 n e gat ive 語 図1. 成功確率20%の場合の平均評定値。 ・言語確率の種類の主効果 (F(5, 195) = 16.62, p < .05) は有意。 ・促進・阻止条件の主効果 (F(1, 39) = 0.95, ns.)と 言語確率の種類と促進・阻止 条件の交互作用 (F(10, 195) = 0.74, ns.)は 有意にならなかった。 0 po sit ive 語 確実で はな い 多少の不安がある 確信がな い 考え られる 可能で ある 0 可能性がある やや疑わしい それほど ない あま りない 可能性がある わずかな見込みがある かす かな見込みがある 0 po sit ive 語 阻止群 1 阻止群 1 促進群 2 n e gat ive 語 図2. 成功確率50%の場合の平均評定値。 ・言語確率の種類の主効果 (F(5, 195) = 6.97. p < .05)は 有意。 ・促進・阻止条件の主効果 (F(1, 39) = 0.72 , ns.)と 言語確率の種類と促進・阻止 条件の交互作用 (F(10, 195) = 0.49, ns.)は 有意にならなかった。 positive 語 確実で はな い 阻止群 促進群 多少の不安がある 1 2 統制群 3 やや疑わしい 促進群 統制群 ほぼ確実で ある 2 3 十分に考え られる 統制群 4 可能で ある 評定値 3 評定値 4 評定値 80%の場合 5 5 n e gative 語 図3. 成功確率80%の場合の平均評定値。 ・言語確率の種類の主効果 (F(5, 195) = 18.79, p < .05) は有意。 ・促進・阻止条件の主効果 (F(1, 39) = 0.56, ns.)と 言語確率の種類と促進・阻止 条件の交互作用 (F(10, 195) =1.65, ns.)は 有意にならなかった。 考察1 促進・阻止条件(群間比較) 成功確率が20%、50%、80%の場合を比較して 促進・阻止条件の主効果は見られなかった。 ➡話し手の意思と言語確率の使用には関係がない??? 問題点: カバーストーリーの促進・阻止を示す文章が うまく作用しなかった? 医者であるという職業倫理が選択に影響した? 考察2 成功確率(群内比較) 成功確率が20%・80%の場合 positive語の評定値がnegative語よりも高い。 成功確率が50%の場合 方向性による特徴は見られなかった。 成功確率が高いまたは低い場合 ・・・negative語よりもpositive語を用いる。 成功確率が中程度の場合 ・・・方向性による言語確率の使い分けはされない。 考察2 20%の場合 50%の場合 5 4 n e gat ive 語 図1. 成功確率20%の場合の平均評定値。 ・言語確率の種類の主効果 (F(5, 195) = 16.62, p < .05) は有意。 ・促進・阻止条件の主効果 (F(1, 39) = 0.95, ns.)と 言語確率の種類と促進・阻止 条件の交互作用 (F(10, 195) = 0.74, ns.)は 有意にならなかった。 0 po sit ive 語 確実で はな い 多少の不安がある 確信がな い 考え られる 可能で ある 0 可能性がある やや疑わしい それほど ない あま りない 可能性がある わずかな見込みがある かす かな見込みがある 0 po sit ive 語 阻止群 1 阻止群 1 促進群 2 n e gat ive 語 図2. 成功確率50%の場合の平均評定値。 ・言語確率の種類の主効果 (F(5, 195) = 6.97. p < .05)は 有意。 ・促進・阻止条件の主効果 (F(1, 39) = 0.72 , ns.)と 言語確率の種類と促進・阻止 条件の交互作用 (F(10, 195) = 0.49, ns.)は 有意にならなかった。 positive 語 確実で はな い 阻止群 促進群 多少の不安がある 1 2 統制群 3 やや疑わしい 促進群 統制群 ほぼ確実で ある 2 3 十分に考え られる 統制群 4 可能で ある 評定値 3 評定値 4 評定値 80%の場合 5 5 n e gative 語 図3. 成功確率80%の場合の平均評定値。 ・言語確率の種類の主効果 (F(5, 195) = 18.79, p < .05) は有意。 ・促進・阻止条件の主効果 (F(1, 39) = 0.56, ns.)と 言語確率の種類と促進・阻止 条件の交互作用 (F(10, 195) =1.65, ns.)は 有意にならなかった。 考察3 今回の実験から・・・ positive語 ・・・成功確率が高いまたは低い場合に用いられる。 negative語 ・・・どのような時に用いられる??? 聞き手に事象の不発生を想起させるという性質 聞き手に事象の発生する確率は低いと思わせたい場合 ではないか。 今回はカバーストーリーの問題もあったため、より被験者にとっ て理解しやすく入り込みやすいものに改め、再度検証したい。 考察4 言語確率の分類方法について 例)わずかな見込みがある。 形容詞 元々の言語確率 先行研究 パーセント評定値: その言語確率がどのくらいの確率を示すかを数値で表したもの。 ➡形容詞と元々の言語確率を分けて検討されていない。 今回用いた言語確率を細かく分解し、それぞれの語の 働きを検討する必要がある。 参考文献 Teigen, K. H. & Brun, W. (1999). The directionality of verbal probability expressions: Effects on decisions, predictions, and probabilistic reasoning. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 80, 155-190. Teigen, K. H. & Brun, W. (2003). Verbal expressions of uncertainty and probability. In D. Hardman & L. Macchi (Eds.), Thinking: psychological perspectives on reasoning, judgment, and decision making, 125-145. New York; John Wiley &Sons, Ltd. 中村國則(2008).「十分にありえる」方が「見込みがない」より有益 な情報か?:言語確率の情報としての有益さとその情報理論的解 釈.認知科学,15, 174-187. 本田秀仁(2006).言語確率の方向性が意思決定に与える影響― 決定理由に基づく認知過程の分析―. 認知科学,13, 225-239. 本田秀仁・山岸候彦(2006).言語確率の曖昧性と方向性―確率 情報の性質と意思決定に与える影響―. 心理学研究,76, 519526.
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