薬理学PBL 10. 胃・十二指腸潰瘍

2011.1.18
薬理学PBL
10. 胃・十二指腸潰瘍
9. 井口 33. 小坂 57. 塚田
81. 藤田 105. 吉開
胃・十二指腸潰瘍とは
胃や十二指腸の粘膜上皮が胃酸によって自己消化される。
心窩部痛、悪心、嘔吐、吐血を伴うことが多い。
http://www.ebm.jp/disease/digestive/02ikaiyo/index.html
Wikipedia 「消化性潰瘍」より画像取得
攻撃因子と防御因子
攻撃因子
胃酸、ペプシン
防御因子
粘液、HCO 3 -
防御障壁
胃十二指腸粘膜
特に、胃酸は潰瘍発生の最大因子。
治療薬の作用点
胃酸の分泌機構
H+ プロトンポンプ阻害剤(PPI)
胃腔側
K+
胃壁細胞
プロトンポンプ
促進
抑制
Gs
Gq
Gi
H2R遮断薬
M3
Ach
H2R
M1
CCKB
EP3
SSTR
ヒスタミン
ソマトスタチン
迷走神経
プロスタグランジン(PG)
Ach
ECL細胞
ガストリン
胃・十二指腸潰瘍の二大原因
1. Helicobacter pylori(グラム陰性桿菌)
H. pyloriによる、直接的な作用。
細胞毒によって、
粘膜バリアーや粘膜上皮が
破壊される。
2. NSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)
NSAIDs
COX-1 : シクロオキシゲナーゼ(PG合成酵素)
プロスタグランジン合成阻害。
アラキドン酸
Cox-1
プロスタグランジン
粘膜保護作用が減弱される。
治療の基本
①出血の有無
②NSAIDs服用の有無
NSAIDs(+)・・・ NSAIDsの服用中止
or
PPI+PG製剤の併用
③H. pylori感染の有無
H. pylori(+)・・・ 除菌療法(問題1&2)
H. pylori(-)・・・ 非除菌療法(問題3)
H. pylori除菌療法(問題1&2)
基本形は、PPI+抗生物質の多剤併用
一次除菌:PPI+CAM+AMPC・・・除菌率 70-80 %
CAMの耐性菌や宿主因子により、失敗もありうる。
その場合は、二次除菌へ。
二次除菌:PPI+AMPC+MNZ・・・除菌率 約90 %
H. pylori非除菌療法(問題3)
H. pylori(-)、除菌失敗などの症例で適用
・PPI
・ヒスタミンH2受容体拮抗薬
・選択的ムスカリン受容体拮抗薬
・防御因子増強薬
一次除菌(問題1)
ランサップ800 1シート 分2
• タケプロンカプセル30
(ランソプラゾール 30mg)
2カプセル
• アモリンカプセル250
6カプセル
(アモキシシリン水和物 250mg)
• クラリス錠200
(クラリスロマイシン 200mg)
4錠
これらが1まとめになったもの
朝夕の1日2回分
作用機序
• アモキシシリンはβ-ラクタム系、ペニシリン系
抗生物質であり、細菌の細胞壁合成を阻害
する。
• クラリスロマイシンはマクロライド系抗生物質
であり、細菌の70Sリボソームの50Sサブユ
ニットと結合し蛋白合成を阻害する。
• ランソプラゾールは胃粘膜壁細胞のH⁺、K⁺ATPaseのSH基と結合し、酸分泌を抑制し胃内
PHを上昇させるプロトンポンプインヒビター。
禁忌
1.
2.
3.
4.
5.
タケプロン、アモリン及びクラリスの成分に対する過敏症の
既往歴のある患者
アタザナビル硫酸塩、ピモジド、エルゴタミン含有製剤、タ
ダラフィルを投与中の患者
伝染性単核症のある患者[アモキシシリン水和物で紅斑性
丘疹の発現頻度が高いという報告がある]
高度の腎障害のある患者[アモキシシリン水和物、クラリス
ロマイシンの血中濃度が上昇することがあり、本製品では
各製剤の投与量を調節できないため]
(原則禁忌)ペニシリン系抗生物質に対する過敏症の既往
歴のある患者
副作用
• タケプロン(ランソプラゾール)・・・ショック・アナフィラキシー症状、
汎血球減少、無顆粒球症、溶血性貧血、顆粒球減少、血小板減少、貧血、
肝機能障害、中毒性表皮壊死融解症、間質性肺炎、間質性腎炎など
• アモリン(アモキシシリン)・・・ショック・アナフィラキシー症状、皮膚
粘膜眼症候群、中毒性表皮壊死融解症、急性汎発生発疹性膿疱症、急
性腎不全などの重篤な腎障害、顆粒球減少、偽膜性大腸炎等の血便を
伴う重篤な大腸炎、肝機能障害、黄疸など
• クラリス(クラリスロマイシン)・・・アナフィラキシー、ショック、QT延長、
心室頻拍、心室細動、劇症肝炎、肝障害、黄疸、肝不全、血小板減少、
汎血球減少、溶血性貧血、白血球減少、無顆粒球症、皮膚粘膜眼症候
群、中毒性表皮壊死融解症、PIE症候群、間質性肺炎、偽膜性大腸炎・
出血性大腸炎等の重篤な大腸炎、横紋筋融解症、痙攣、アレルギー性
紫斑病、急性腎不全など
多いのは下痢、軟便、味覚異常
H.Pylori除菌療法(二次除菌)
• 1)パリエット(10) 2錠
分2 朝夕食後 7日間
(一般名)ラベプラゾールNa
←PPI
• 2)サワシリンカプセル(250)6カプセル 分2 朝夕食後 7日間
(一般名)アモキシシリン
• 3)フラジール錠(250)
←抗菌薬
2錠 分2 朝夕食後 7日間
(一般名)メトロニダゾール
←抗菌薬
3剤併用療法の一次と二次の違い
ガイドラインによる治療法
• 一次除菌
PPI +アモキシシリン+クラリスロマイシン
• 二次除菌
PPI+アモキシシリン+メトロニダゾール
PPI+クラリスロマイシン+メトロニダゾール
一次除菌失敗の原因
• 宿主側因子
薬物代謝の亢進や薬物の吸収障害による
有効血中濃度の低下
→PPIの代謝酵素(CYP2C19)の遺伝子多型
extensive metabolizer(EM)
poor metabolizer(PM)
• 細菌側因子
こっちの方が
投与薬剤に対する耐性獲得
原因として大きい
パリエット
一般名・・・ラベプラゾールNa
プロトンポンプ阻害薬(PPI)
・作用機序・・・H+/K+ATPaseの酵素を阻害
・副作用・・・肝障害、薬疹、骨髄抑制、味覚異常
・禁忌・・・アタザナビル硫酸塩(レイアタッツ)
胃酸分泌抑制作用により、胃内pHが上昇し、
アタナザビルの溶解性が低下し、アタナザビ
ルの血中濃度が低下し、作用が減弱するおそ
れがある。
既出のランソプラゾールと同じ
サワシリンカプセル
一般名・・・アモキシシリン 既出
抗菌薬(ペニシリン系抗生物質)
・作用機序・・・細菌の細胞壁の合成阻害
・副作用・・・軟便、下痢、出血性腸炎、肝障害
・禁忌・・・伝染性単核症のある患者
(発疹の発現頻度を高める恐れがある。)
ペニシリンアレルギーの患者
フラジール錠
一般名・・・メトロニダゾール
抗原虫剤(トリコモナスを死滅させる薬だが、H.pylori
に対しても強い殺菌作用を示す)
作用機序
ニトロソ化合物
(R−NO)
メトロニダゾール
H.Pylori菌体内の
ニトロ還元酵素
•OH
ヒドロキシラジカル
DNAの二重鎖
H.pylori
殺菌
DNAのらせん構造
不安定化
フラジール錠
副作用
(メトロニダゾール)
• 長期服用で白血球数・血小板数減少、中枢神経系症状
(四肢のしびれやめまいなど)
• 消化器系の副作用
(舌苔、食欲不振、悪心、胃不快感、下痢)
禁忌
• 血液疾患のある患者
(白血球減少が現れることがある)
• 脳、脊椎に器質的疾患のある患者
(中枢神経症状が現れることがある)
• 妊娠3か月以内の婦人
(胎盤を通じて胎児に移行する)
フラジール錠
(メトロニダゾール)
注意
• ワーファリン服用の患者
ワーファリン代謝を阻害
→プロトロンビン時間延長→出血傾向
• 投与期間中は飲酒を避ける。
アルデヒド脱水素酵素を阻害
→腹部疝痛、嘔吐、顔面潮紅
非除菌療法
1)ガスターD錠
2)アルロイドG
非除菌治療の対象
1. NSAID未投与もしくはNSAID投与中止後のH.pylori 陰性胃潰
瘍の場合
2. H/pylori 陽性胃潰瘍で除菌適応のない場合
3. 除菌不成功で潰瘍未治療の場合
ガスターD錠
(一般名:ファモチジン)
• 特徴
安全域が広く,抗男性ホルモン作用及び薬
物代謝酵素阻害作用を有さない。
胃酸の分泌を強力に抑え、作用時間も長い
ので一日数回の服用ですむ。
ガスターD錠
(一般名:ファモチジン)
作用機序
ヒスタミンH2受容体拮抗薬である。胃粘膜壁細
胞のH2受容体を遮断し、胃酸分泌を抑制する。
副作用(重大なもの)
• 1)ショック,アナフィラキシー様症状〔呼吸困難,
全身潮紅,血管浮腫(顔面浮腫,咽頭浮腫等),
蕁麻疹等〕
• 2)汎血球減少,無顆粒球症,再生不良性貧血,
溶血性貧血 (初期症状:全身倦怠,脱力,皮下・
粘膜下出血,発熱等)
• 3)皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群),
中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)
• 4)肝機能障害,黄疸
• 5)横紋筋融解症
• 6)間質性肺炎
• 7)間質性腎炎
その他の副作用
• 便秘•発疹、肝機能値の異常
• 乳首の腫れや痛み、生理不順
• 眠気、頭痛、めまい、不安感、無気力感
• 混乱状態、幻覚
禁忌
• 成分に過敏歴のある患者
アルロイドG
(一般名:アルギン酸ナトリウム)
• 特徴・作用機序
胃や食道の粘膜に付着して、胃液・食物な
どの攻撃から粘膜を保護する役割を果たす
胃腸薬(胃粘膜保護剤)
血小板の血液凝固作用を促進する止血効
果もある。
副作用
• 発疹、かゆみなどの過敏症状、下痢、軟便、
口や喉の渇き、胸やけなどの消化器症状な
ど。
• この他、肝機能症状、心悸亢進、頭痛、月経
異常など。
• 禁忌はとくになし。
コカレットポタージュ
• 海藻由来の水溶性食物繊維である低分子化アルギン酸
ナトリウムを配合したおいしいポタージュスープです。食
物繊維が不足がちで、毎日のおなかの調子が気になる
方・整えたい方に適しています。−おいしく飲んでおなか
スッキリ!!−
【関与成分および作用機序】
【成分の特性】
昆布の成分である水溶性食物繊維のアルギン
酸ナトリウムの機能を失うことなく低分子化・低粘
性化したもの。
【作用・効果および機序】
1) 優れた保水力を持つため、消化管内の含水
量が増し、便が大きく軟らかくなってスムーズな
排便が得られるようになる。
2) 血清コレステロール値上昇抑制作用。
Appendix
治療薬の作用点
H+
制酸薬
胃腔側
プロトンポンプ阻害剤(PPI)
K+
胃壁細胞
プロトンポンプ
促進
抑制
Gs
Gq
抗コリン薬
Ach
H2R遮断薬
M3
Gi
ガストリン受容体拮抗薬
H2R
M1
CCKB
EP3
SSTR
ヒスタミン
迷走神経
Ach
ECL細胞
M1受容体遮断薬
ソマトスタチン
プロスタグランジン(PG)
ガストリン
PG製剤
防御因子と攻撃因子
防御因子・・・粘液、HCO 3 -、プロスタグランジン、
粘膜血流など
攻撃因子・・・H+、ペプシン、H. pylori、NSAIDs、
ストレス、喫煙、アルコールなど
治療の原則
・胃酸の分泌抑制
・粘膜保護
胃潰瘍・・・防御因子の低下
十二指腸潰瘍・・・攻撃因子の増強
NSAIDとCOX(シクロオキシゲナーゼ)
COX-1・・・全身組織
COX-2・・・脳、腎臓、炎症組織
COX-3・・・脳
問題点・・・
NSAIDs
アラキドン酸
Cox-1
Cox-2(炎症組織)
プロスタグランジン
2007年、選択的COX-2阻害薬として「セレコキシブ」が承認。
関節リウマチ,変形性関節症の消炎・鎮痛に適応。
NSAIDs潰瘍の治療
・NSAIDsの服用中止
・PPI&PGE製剤の併用
胃潰瘍診療のフローチャート
治療について
NSAIDs(+)の場合
・NSAIDsの服用中止
・PPI&PGE製剤の併用
Pyroli(+)or(-)
一次除菌
成功
失敗
維持療法
二次除菌
成功
失敗
非除菌療法
H. Pyloriの毒性