症例4島大 - 島根大学医学部

症例
4
島根大学病院 放射線科
提示
第73回島根画像診断研究会_2014年11月12日(水)_ホテル宍道湖
症例 70歳代 女性
• 主訴:嘔気・嘔吐
• 現病歴:左下肢脱力にて来院、頭部MRI検査にて、
脳膿瘍を疑い、入院加療を開始した。加療経過
中(約1ヶ月後)に、食欲不振と嘔吐が出現、そ
の2日後には構音障害と失調を認めた。
• 既往歴:慢性心不全、心房細動
入院時のMRI
構音障害と失調出現時のMRI
• 膿瘍は縮小しています。
構音障害と失調出現時のMRI FLAIR
構音障害と失調出現時のMRI DWI
画像所見のまとめ
• 小脳歯状核、延髄や橋の背側にFLAIR高信号域
• DWIでの異常信号は指摘できず
考えられる疾患は?
脳膿瘍の治療経過
膿瘍の増大あり
膿瘍ドレナージ施行
day9
day20
構音障害
失調出現
嘔気嘔吐
出現
day43 day45
セフトリアキソンナトリウム 2g×2回
バンコマイシン 0.5g×1回
メトロニダゾール 2g
• 感染源:
– 膿瘍ドレナージ前は人工弁、副鼻腔炎、う歯などが考えられた
が有意な菌の検出なし。
– ドレナージの細菌検査では、明かな菌培養なく、染色・培養のし
にくい緑色連鎖球菌もしくはグラム陽性の嫌気性菌が疑われた。
メトロニダゾール中止後12日目のMRI
中止後
中止前
診断
メトロニダゾール脳症
Metronizadole-induced encephalitis
脳膿瘍の治療例
• Empiric therapy:
– 局所感染と考えられる場合:アンピシリン+セフトリア
キソン+メトロニダゾール
– 感染性心内膜炎などの血行性感染と考えられる場合:バ
ンコマイシン+セフトリアキソン
– 外傷後の場合:バンコマイシン+セフトリアキソン
• 起因菌判明後:
– 抗菌薬を単純化し、その菌のみをtargetに治療。
• 外科的治療:
– 外科的ドレナージ。
– 可能なら抗菌剤投与前に、針吸引やドレナージにより培
養を提出。
メトロニダゾール
• トリコモナス、赤痢アメーバ、偽膜性腸炎、潰瘍性大腸炎、
ヘリコバクター・ピロリ、嫌気性感染などに使用。
• 微生物のなかで還元されニトロソ化合物(R-NO)に変化、
これが抗原虫・抗菌作用を発揮する。
反応途中でフリーラジカルが生成され、微生物のDNAの二
重鎖を切断し、機能障害を起こすことで、分裂増殖を抑制
する。
• 血液脳関門を通過して脳脊髄液中の治療濃度を達成する。
• メトロニダゾールとその代謝産物は主に尿中に排泄される
が、メトロニダゾールは最大60%がグルクロン酸抱合に
よって肝での酸化を介して代謝を受ける。
メトロニダゾール脳症
• 累積の量により発症:
– 平均投与:1.5g/日、累計21~135g、平均期間79日(中央値28
日)
– 投与量2g/日を超えると末梢神経障害や脳症が生じる可能性あり
• 症状:
– 小脳障害、運動失調、構音障害、痙攣、意識障害、けいれん
• 発症機序は不明:
– 神経細胞のRNAに結合して蛋白合成を障害、軸索変性(浮腫)
を生じる
– 小脳のプルキンエ細胞を選択的に障害する
– 小脳や前庭システム内のGABA受容体の変調
• 肝障害は増悪因子(肝代謝のため)
• 投与中止により通常は数日で軽快する(数ヶ月症状が続くこともあ
り)
メトロニダゾール脳症の画像所見
• 対称性の異常所見:(何らかの代謝障害を推測させる)
– 小脳歯状核、脳梁(膨大部)、中脳蓋、橋、基底核、大
脳皮質下白質
• T2WI/FLIAR 高信号
• 通常増強効果は認めない
• DWIは様々
– Vasogenic edema:小脳歯状核
– Cytotoxic edema:内包、前交連、脳梁膨大部
– 予後との関与?
メトロニダゾール脳症の画像所見
• 本症例の異常信号
– Cerebellum:Dentate Nuclei
– Medulla:Dorsal Medulla
– Midbrain:Tectum
Kim E, et.al. AJNR 2007;28:1652-1658
本症例の場合は
Kim E, et.al. AJNR 2007;28:1652-1658より
鑑別診断
• 小脳歯状核がT2WIで高信号を示す病態:臨床経過は異なりま
すが…
– 脳腱黄色腫症:+皮質脊髄路の異常、小脳萎縮、白内障
– Langerhans細胞組織球症:+溶骨性病変、下垂体病変
– Wilson病:+基底核・視床病変、肝硬変
– メトロニダゾール脳症:
脳腱黄色腫症
LCH
Wilson病
結語
• 典型的なメトロニダゾール脳症の1例を経
験した。
• 臨床の現場において、メトロニダゾール
は意外と使用されている。
• 小脳歯状核に異常所見を見た際は、病歴
も含めて、メトロニダゾールの使用歴を
確認する必要がある。