勤務医の労働環境実態と 意識に関する調査

「住民診断」の実施と報告書の提出
原田佳明、内田和宏、眞鍋穰
【アウトライン】
一審の結果
二審に提出した事例のまとめ
代表的な事例
10月以降化学物質過敏症が保険病名登録
VOCが健康被害をもたらさない?
2
一審判決
( 3 ) 原告ら住居等への有害化学物質の到達・曝露
ウ 原告らの主張の健康被害
原告らは健康被害を主張しているが、客観的検査
等の具体的証拠が一切提出されておらず、本件2
施設の周辺住民の健康被害の主張についても、証
拠としては愁訴しかないこと及び上記本件イコール
社施設からの化学物質の排出・到達の状況に照ら
し、原告らの主張する健康被害が本件イコール社施
設由来の化学物質により生じたものであると認める
ことは困難である。
3
【対象と方法】
対象:自身の健康被害を裁判で証拠提出することに
同意し、自発的に協力医師の診察に訪れた
住民
方法:通常の健康保険による診療
協力医師は自由意思による自発的協力
 健康被害が存在しても、他疾患と鑑別が難しい
或いは、さらに検討中などの理由から証拠提出
できなかった方々がいます。
4
二審に提出した事例のまとめ
5
22例の年齢・性・診断
 年齢
26歳 ~ 92歳
性
男 6 人 女 12 人
 主な診断
環境汚染による皮膚炎
5人
シックハウス類似症状
4人
環境汚染による自律神経・皮膚症状 3人
環境汚染による鼻炎
3人
環境汚染による呼吸器症状
3人
環境汚染による結膜炎・皮膚炎
2人
化学物質過敏症
2人
6
22例の症状初発年・転居
初発年 17年
18年
19年
20年
21年
転居
5
10
5
1
1
人
人
人
人
人
4 人
7
事例1 20歳代 女性
主訴
皮疹
既往歴 皮膚炎の既往なし
現病歴
 平成17年から顔面・首に皮疹出現。平成20年から両肘・胸
部・顔面に皮疹出現し皮膚科受診するも改善しなかった。
年末に帰省すると改善。平成21年から転居すると症状は
改善したが、寝屋川に来ると痒みが出現している。
検査所見 平成21年3月 クリニック小松
IgERASTスコア ハルガヤ・オオアワガエリ・カモガヤ・ヒノキ 陰性
スギ: 2.60
 スギのみ陽性でその他陰性。
 春を過ぎて夏になっても症状持続する説明はつかない。
 その他の物質による皮膚炎が考えられる。
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診断:化学物質を含む環境汚染による
皮膚炎と考えられる
1.
2.
3.
検査所見ではスギのみ陽性
ペットも飼っていない。夏季以
降も症状持続しており スギ花
粉によるアトピー性皮膚炎は否
定的である。
転居しても寝屋川に来ると症状
が出現することから家庭内の
シックハウス症候群は否定的
である。
長年同じ場所に居住している
にもかかわらず、工場操業から
症状出現したことから、工場操
業による環境変化が症状出現
に関与していると推定するのが
妥当である。
9
事例2 60歳代 男性
主訴 筋肉痛、羞明、眼球疼痛、皮膚掻痒、発疹、頭痛・眩暈、
既往歴 高血圧、痛風、高脂血症、糖尿病、陳旧性脳梗塞
現病歴 平成18年末頃から眼球がショボショボし痛む、瞼がけ
いれんする。空咳きがでる。膝が痛い。歩行が不安定になる。
足がつるなどの症状が出現。平成20年3月頃から右下腿に
湿疹局面出現。クリニック小松内科通院するも症状改善しな
いため、平成20年4月アレルギー専門医受診。
アレルギー専門医検査所見
IgERIST 145 IU/ml、 RAST スギ1.43、米0.25、小麦
0.20、大豆0.20、イソシアネート0.01無水フタル酸 0.01 ホルマリン
0.01 ラテックス 0.01未満
経過 国立岡山南医療センターを紹介され、原因物質を特定す
るに至らなかったが、環境要因も想定されると診断された。
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診断 化学物質を含む環境因子による
自律神経・皮膚症状
1. 糖尿病による皮疹・けい
れんの可能性は否定でき
ないものの、湿疹が出現
した、2008年2月、7月の
HgA1Cの値は06年の比
べて改善しており糖尿病
以外の悪化因子が考えら
れる。
2. アレルギー検査は陰性
アレルギーによる発疹は
否定的
3. 退職しており、仕事のスト
レスは考えにくい
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患者4 70歳代 男性
主訴 鼻汁、咳
既往歴 腎のう胞と診断されたが、腎機能など異常なし。
40年前から現住所に居住。
現病歴
平成17年頃から鼻汁、咳出現。平成20年12月に近医耳鼻
科受診し、ファイバースコープ施行しアレルギー性鼻炎と診断され、
点鼻薬処方されたが改善しなかった。原因は不明と説明さ
れた。次いでGER:胃食道逆流症と診断され制酸剤処方さ
れたが、改善しなかった。月に1-2回丹波の田舎に行くと症
状は消失する。平成21年小松病院受診。
理学所見
鼻粘膜の発赤・腫脹を認めるほかは特記すべき所見なし
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診断 化学物質を含む環境汚染による鼻炎
検査所見
平成21年5月28日
IgERASTスコア( UA/ML )
--------------------------------------------ハウスダスト 1
0.34未満
スギ
0.34未満
ヒノキ
0.34未満
ネコ皮屑
0.34未満
ヤケヒョウヒダニ
0.34未満
gx5(イネ科)
0.34未満
wx5(雑草)
0.34未満
mx2(カビ)
0.34未満
1. 検査所見ではIgERASTスコア
陰性。花粉やハウスダストによるア
レルギーは否定的である。
2. 長年同じ場所に居住しているに
もかかわらず、イコール社工場
操業後から症状出現したことか
ら、工場操業による環境変化が
症状出現に関与していると推定
するのが妥当である。
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事例16 20歳代 女性
主訴 頭痛、眩暈、咳嗽、鼻水、湿疹
既往歴 虫垂炎
現病歴 平成18年から、頭痛、冷や汗、めまい、貧血、呼吸が
しにくい、鼻水、痰、目の痛み、嘔気、微熱、体がだるい、異
常に汗が出る、足の指やふくろはぎがつる、衣類に反応する
など様々な症状が出現するようになった。
仕事中に倒れそうになったり、止めて休養することになった。
平成20年2月、体のしびれと硬直をきたした。アレルギー専門
医受診し、転居を勧められた。3月から奈良に避難すると
症状が消え、ぐっすり寝れるようになった。
寝屋川に荷物を取りに帰ると体温が上下し、頭痛がし、息が
できなかった。
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診断 環境汚染によるシックハウス症候群類似症状
或いは化学物質過敏症
1. 工場操業後から症状出現
し、引越しすると症状消失
し、検査所見から特異IgE
抗体が陰性であったことか
IgE RIST 23 (IU/dl)
ら、シックハウス症候群類
RAST:卵白0.01、牛乳0.01、
似の症状が否定できない。
大豆0.01、小麦0.20、米0.01、 2. 帰宅したり、新しい建物に
杉0.56、HD(1)0.10未満、ヤ
入るだけで症状が出現す
るなど、微量の環境物質の
ケ表皮ダニ0.10未満、イソ
暴露に反応する。反応に再
シアネートTD 0.05、無水フ
現性・持続性があり、症状
タル酸0.05、ホルマリン0.01、
が多臓器に見られるなど、
ラテックス0.10(UA/ML)未満
化学物質過敏症の診断基
準を満たす。
検査所見 平成20年4月11日
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事例19 50歳代 女性
主訴
発疹、眼球充血
既往歴
ペニシリンアレルギー
現病歴
平成18年から頭痛、倦怠感、目の痒み、充血が
出現し眼科受診した。平成19年夏から脚に痒みと硬結があ
る発疹が出現するようになった。盆に3泊4日で高知に帰省
すると症状が消えた。平成21年4月~6月に大腿骨骨折のた
め入院した時には、症状がなかったが、自宅に帰ると発疹が
再発した。
検査所見 平成21年8月6日 小松病院内科
IgE RIST 78 (IU/ml)
RAST (UA/ml) ハウスダスト 0.52、ヤケヒョウヒダニ 0.57、
イネ科 0.54 スギ、ネコ、イヌ、ヤブカ、ヒノキ、ユスリカ、ガ、
雑草、カビ:0.34未満
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診断 環境因子によるシックハウス症状群
類似症状、皮膚炎
1. イネ科が多い環境は変わ
らないのに皮膚炎を起こ
すことは、環境と花粉が相
乗し皮膚炎を起こしている
と考える。
2. 近接地の病院に入院した
時に症状消失し、自宅に
帰ると症状再発したことは
自宅の環境が関係してい
ると考えられる。
3. 平成18年から症状出現し
た事から工場操業との関
連は否定できない。
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平成21年10月1日から標準病名マスターに
化学物質過敏症が登録
厚生省長期慢性疾患研究事業アレルギー研究班
化学物資過敏症診断基準
主症状
1. 持続あるいは反復する頭痛
2. 筋肉痛あるいは筋肉の不快感
3. 持続する倦怠感・疲労感
4. 関節痛
副症状
1. 偏頭痛
2. 微熱
3. 下痢・腹痛・便秘
4. 羞明・一過性の暗点
5. 集中力・思考力の低下・健忘
6. 興奮・精神不安定・不眠
7. 皮膚のかゆみ・感覚異常
8. 月経過多などの異常
検査所見(下記の検査法参照)
1. 副交感神経刺激型の瞳孔異常
2. 視覚空間周波数特性の明らかな閾値
低下
3. 眼球運動の典型的な異常
4. SPECTによる大脳皮膚の明らかな機
能低下
5. 誘発試験の陽性反応
診断基準
1) 主症状2項目+副症状4項目
2) 主症状1項目+副症状6項目+検査所見
2項目
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シックハウス症候群の定義と診断基準
(2008.12.厚生労働省研究班会議合意)
定義
建物内環境における化学物質の関与が想定される、皮膚・
粘膜症状や、頭痛・倦怠感等の多彩な非特異的症状群で、
明らかな中毒、アレルギーなど、病因や病態が医学的に解
明されているものを除く。
診断基準
1.発症のきっかけが、転居、建物※の新築・増改築・改修、
新らしい備品、日用品の使用等である。
2. 特定の部屋、建物内で症状が出現する。
3. 問題になった場所から離れると、症状が改善する。
4.室内空気汚染が認められれば、強い根拠となる。
(※ 建物とは、個人の住居の他に職場や学校等を含む)
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「シックハウス症候群」及び
「MCS(Multiple Chemical Sensitivity:多種化学物質
過敏状態)/化学物質過敏症」 厚生労働省健康局生活衛生課 平成16年
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1審判決
( 2 ) 本件イコール社施設からの有害化学物
質の排出
ア T V O C について現在の科学的知見にお
いては、TVOCは人の健康に影響を及ぼす
危険性の判断指標とすることはできない。
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VOCとシックハウス症候群、pm2.5
化学物質過敏症、光化学オキシダント
 VOC (Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)
 大気中にある有機化合物のうち、沸点が50℃~260℃の 物
質の総称(WHO基準)
 種類は100種類以上あり、発がん性など人体に有害な影響
を及ぼすものもある
 シックハウス症候群と化学物質過敏症の原因物質
 NOxとともに光化学スモッグをもたらす主要な原因物質
 Pm2.5などの微小粒子を二次的に生成。Pm2.5は径2.5μm
以下の微小粒子で、肺の深部に侵入沈着し発がん性や血管
障害を有する成分が多いとされる。
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総揮発性有機化合物(TVOC)の指標について
厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室
 TVOCは、健康への影響の異なる複数の化学物質の混合
物に対する濃度レベルの指標であり、健康への影響を直接
的に評価する指標ではない。
 健康影響の観点からは、これらの揮発性有機化合物につい
て個別に健康影響評価を行い、その結果に基づいて必要な
ガイドライン値を設けていくことが望ましい。
 しかしながら、これらすべての化学物質について健康影響評
価を行うには膨大なデータが必要であり、これを短期間に実
施することは困難である。また、特定の物質についてガイドラ
イン値が設定されることによって、まだガイドラインの設定さ
れていない物質が代替物質として使用され、新たな健康被
害を引き起こすおそれもある。
 VOCによる汚染を全体として低減させ、快適な環境を実現
するための補完的措置の一つとしてTVOCは有効に利用で
きる可能性がある。平成9年6月13日 健康住宅関連基準策定専門部会化学物質小委員会報告書
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予防原則に関するウィングスプレッド会議
1998年1月26日
 ある行為が人間の健康あるいは環境に危害を与え
る恐れがある場合には、原因と結果の関連が科学
的に完全には証明されていなくても、予防的措置が
とられなくてはならない。
 このような状況においては、証明の責務は市民にで
はなく、行為を行なおうとする者にある。
 予防原則を適用する過程は公開され、知らされ、
民主的でなくてはならず、影響を受けるかもしれな
い関連団体を参加させなければならない。また何も
しないということも含めて代替案について十分に検
討しなくてはならない。
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