食物アレルギー 第一回 アレルギーブートキャンプ 平成25年7月20日 立川綜合病院 小児科 小柳貴人 INTRODUCTION イントロダクション Case1 3歳0か月男児 主訴 鶏卵・乳・ピーナッツアレルギーで完全除去中。今後の治療方針相談。 既往歴 乳児期にアトピー性皮膚炎、1歳から気管支喘息でオノンを連日内服中、 生後8カ月で卵ボーロを食べて全身蕁麻疹が出現し、同時期のRAST検査で 乳・ピーナッツも陽性だったため、3食品とも完全除去を指導され継続している。 家族歴 父・母が花粉症 現病歴 生後8カ月から食物アレルギーの診断で鶏卵・乳・ピーナッツを完全除去中。 1歳6か月時にピーナッツチョコを誤食し、全身に蕁麻疹が出現した。それ以降 誤食はなく、明らかな症状は出ていない。もうすぐ入園であり、給食があるため、 完全除去を続けたほうがいいのかどうか相談で来院。 あなたはどう診療しますか?? Case2 0歳5か月男児 主訴 そろそろ離乳食を開始したいが、アレルギーが心配 既往歴 特記事項なし 家族歴 父・母が花粉症。兄(3歳)が気管支喘息でオノン連日内服、鶏卵/ 乳/ピーナッツアレルギーがあり、完全除去されている。 現病歴 生来健康。生後5か月になり、母は離乳食開始を考えている。兄が マルチ食物アレルギーであるため、本児にも食物アレルギーがあるのでは ないかと心配になり「アレルギー検査をしてほしい」との希望で来院。 あなたはどう診療しますか?? BASIC KNOWLEDGE アレルギーの基礎知識 アレルギーとは? ある特定の物質(抗原)に対して免疫反応(異物を体か ら排除しようとする反応)が過剰に働いてしまう状態 摂食、吸入、接触などにより原因抗原(アレルゲン)が体 内に侵入することで発症する アレルゲンの摂取から2時間以内に発症する即時型アレル ギーと1~2日後に発症する遅延型アレルギーがある 食物アレルギー 通常なら食べても害のない食物を摂取した際に、体に異常 をきたす病態 「口の中がイガイガする」「体がムズムズ痒い」などの軽微な症 状から「呼吸困難」「ショック」など命の危機にさらされる重篤 な症状まで様々 生まれつきの体質が大きく影響しており、短期間で治るもの ではない 除去療法(原因食物を食べないようにする)が主体であり、 根本的な治療はまだ確立されていない 食物が関与する病態 毒性物質による反応 (全てのヒトに起こ る) 細菌毒素や 自然毒など 食物により 引き起こされる生体に 食物アレルギー 不利益な反応 非毒性物質による反応 (ある特定のヒトにの み起こる) 食物不耐症 症状 皮膚: かゆみ、じんましん、発赤、湿疹 眼: 充血、かゆみ、涙、まぶたの腫れ 口・のど: 口内の違和感、腫れ、のどのかゆみ、イガイガ感 鼻: くしゃみ、鼻汁、鼻づまり 呼吸器: 息苦しい、咳、ゼーゼー、のどがつまる、声がれ 消化器: 腹痛、はきけ、嘔吐、下痢、血便 循環器: 頻脈、血圧低下、手足が冷たい、蒼白 神経: 頭痛、元気がない、ぐったり、意識障害、不穏 症状の割合 原因食物 診断 症状、経過 診察所見 アレルギー疾患の既往歴/家族歴…アトピーや喘息など 血液検査…総IgE値、特異的IgE抗体検査など 皮膚試験…プリックテスト/スクラッチテスト 経口負荷試験…食べてみて症状が出るか見る検査 治療 除去食療法が基本 アレルギー体質を改善する根本的な治療はまだ確立されていない 誤食による症状出現時には症状に合わせた対症療法を行う – 抗ヒスタミン剤…主に皮膚症状に対して – 気管支拡張薬…主に呼吸器症状に対して – ステロイド剤…全身のあらゆる症状に対して – アドレナリン(エピネフリン)…ショック・プレショック時の血圧上昇効果や全身症状の改善 予後 原因食物によって予後が異なる 4~5歳頃から食べられるようになることが多い食品 卵、乳、小麦、大豆など 一生続く可能性が高い食品 エビ・カニ、そば、ピーナッツ、ナッツ類、ゴマ、果物類など KNOWLEDGE OF ANAPHYLAXIS アナフィラキシーに関する知識 アナフィラキシー アレルゲン(アレルギーの原因物 質)を摂取した後、全身の複数の 臓器に重篤なアレルギー症状が おこる状態 アナフィラキシー症状出現時には 数分でショック状態に至る場合が あり(アナフィラキシーショック)、 全身の循環不全により命を落と すこともある 一刻も早く治療が必要 アナフィラキシーの原因に なりやすい食物 ナッツ類、甲殻類(エビ・カニ)、 ソバ、ゴマ、小麦 アナフィラキシーのグレード分類 処置・治療 モニタリング(ECGモニタ、SpO2モニタ、血圧モニタ) 酸素投与 ショック体位(下肢拳上、弾性包帯などで下肢圧迫) アドレナリン筋注 0.01㎎/㎏ 急速輸液 抗ヒスタミン剤(H1ブロッカー、H2ブロッカー) ステロイド剤(水溶性プレドニン、メチルプレドニゾロンなど) (蘇生処置) 参照:ハチ刺されからアドレナリン投与までの時間と予後 ハチ刺されからアドレナ リン投与までの間隔(分) アドレナリンの投与を受けた患者(%) 非死亡例(100例) 死亡例(50例) 5~10 15% 0 10~30 22% 0 30~60 50% 6% >60 4% 18% 投与なし 8% 66% 報告なし 1% 10% APPLICATION 応用 RAST値の読み方 総IgE値(RIST)はすべてのIgEの総和 例えば、総IgE値が80IU/mL・卵白RAST値が40UA/ml・卵黄 RAST値が10UA/mlなら、卵以外のアレルギーはほとんどないことが予 想できる Class0~6は単なる目安。保護者に説明しやすくするため のランク付けです。詳細な値を見る癖をつけましょう。 とくに除去食解除時期の判断に詳細値は参考になる(後述) 除去食療法の導入について RAST値が高値だが、食べても無症状の場合が多々ある 多量に食べると症状がでるが、少量摂取では無症状の場合も多い 必要最小限の除去を行いましょう! 実際に症状が出る食品のみを除去する 「念のため」「心配だから」「RAST値が高いから」と必要以上に除去食物を 増やさない 原因食物でも、症状の誘発されない“食べられる範囲”までは摂取 できる 症状が誘発されない範囲の量ならば除去の必要はなく、積極的に摂取が可能 除去食解除のすすめ方 観察 考慮 検査 • 除去食療法を指導して外来フォローアップ • 特異的RAST値を半年~1年毎に測定 • 1年以上その食品による食物アレルギーの症状が出ていない(全く 摂取していない場合も含む) • RAST値の低下傾向がみられる • プロバビリティーカーブで症状出現確率が50%未満になった • 原因食品を少量含む食品を食べることができている • プリックテスト/スクラッチテスト • 食物経口負荷試験(アナフィラキシーのない軽症例は自宅負荷も可) 除去食解除! プロバビリティカーブ 多重(マルチ)食物アレルギー児の管理 目安として総IgE値 3000 IU/mL以上、原因アレルゲン(本 当に症状が出てしまう食品)が5種以上あるような多重食物アレ ルギー児は重症タイプ! 誤食でアナフィラキシーをきたす可能性も高い 穀類・肉類も摂取不可の場合、栄養障害に陥る可能性がある 専門家による厳密な指導の下、1種類でも多くの食物が食べら れるように経口食物負荷試験を繰り返す必要がある 代替食指導など、詳細な栄養指導が必要 このタイプの食物アレルギー児を見つけたらご紹介ください 食物アレルギー診療ガイドラインは必携! エピペンについて ハチ刺傷、食物アレルギーなどによるアナフィラキシーに対する緊急補助治療薬。 アナフィラキシー発症の際に医療機関へ搬送されるまでの症状悪化防止を主な 目的とする。 患者本人以外に、保護者、教職員、救急隊にも使用が許されている。 処方するにあたって、ファイザー製薬による講習会またはオンライン講習が必要。 2011年9月から保険適用 0.3mg規格;10,950円 0.15mg規格;8,112円 ※使用期限;およそ1年間、1年ごとに再処方が必要 30 CHECKING THE ANSWERS 答え合わせ Case1 3歳0か月男児 主訴 鶏卵・乳・ピーナッツアレルギーで完全除去中。 今後の治療方針相談。 既往歴 乳児期にアトピー性皮膚炎、1歳から気管支喘息でオ ノンを連日内服中、生後8カ月で卵ボーロを食べて全身 蕁麻疹が出現し、同時期のRAST検査で乳・ピーナッツ も陽性だったため、3食品とも完全除去を指導され継続 している。 家族歴 父・母が花粉症 現病歴 生後8カ月から食物アレルギーの診断で鶏卵・乳・ピー ナッツを完全除去中。1歳6か月時にピーナッツチョコを誤 食し、全身に蕁麻疹が出現した。それ以降誤食はなく、 明らかな症状は出ていない。もうすぐ入園であり、給食が あるため、完全除去を続けたほうがいいのかどうか相談で 来院。 観察 考慮 検査 •除去食療法を指導して外来フォローアップ •特異的RAST値を半年~1年毎に測定 •1年以上その食品による食物アレルギーの 症状が出ていないRAST値の低下傾向がみ られる •プロバビリティーカーブで症状出現確率が 50%未満になった •原因食品を少量含む食品を食べることがで きている •プリックテスト/スクラッチテスト •食物経口負荷試験(アナフィラキシーのない 軽症例は自宅負荷も可) 除去食解除 Case2 0歳5か月男児 主訴 そろそろ離乳食を開始したいが、アレルギー が心配 既往歴 特記事項なし 家族歴 父・母が花粉症。兄(3歳)が気管支喘息でオノン連 日内服、鶏卵/乳/ピーナッツアレルギーがあり、完全 除去されている。 そもそも本児に症状はあるのか? 検査するなら何の検査? 検査時期は妥当? 現病歴 生来健康。生後5か月になり、母は離乳食開始を 考えている。兄がマルチ食物アレルギーであるため、本 児にも食物アレルギーがあるのではないかと心配になり 「アレルギー検査をしてほしい」との希望で来院。 で、結論は? ADDENDUM おまけ 特殊な食物アレルギー 食物依存性運動誘発アナフィラキシー (FEIAn,FDEIA) 原因食物を食べるのみ、または運動のみでは症状が出ないが、「原因 食物の摂取+運動 」により強いアレルギー症状が出る 10歳以上の患者が多く、幼児ではまれ 通常の食物アレルギーよりも強い症状(アナフィラキシー)が出やすい! 血圧低下(ショック)→意識混濁→死に至る可能性がある! 原因食物…小麦70% 甲殻類20% その他10% 小麦RAST陰性例が多い→ω5グリアジンRASTを測定しましょう 原因が特定できない場合は食物運動負荷試験が必要な場合がある 特殊な食物アレルギー 口腔アレルギー症候群(OAS) 口内や唇など口周囲に限定した場所にのみ症状が出る食物 アレルギー 原因食物として果物類が多い シラカンバ花粉やラテックスなどと交叉反応が知られている 食物を加熱することで多くが予防できる アナフィラキシーなどの全身症状が出ることは稀 目からうろこ話 製造ラインでの混入 原材料としては使用されてい なくても、同じ調理器具や製 造ラインで複数の食品を製造 する場合、製造工程で原因 食品が混入する恐れがある 重症の食物アレルギー児では ごく少量の混入でアナフィラキ シーを発症することがあるため、 製造ラインでの混入にも注意 が必要である 目からうろこ話 仮性アレルゲン 野菜や果物、魚などに含まれる化学伝達物質によって 食物アレルギー類似症状を起こすことがある コンポーネントとエピトープ 連続性エピトープ 加熱で不活化しない 構造性エピトープ 加熱で不活化 コンポーネント
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