2011年度 経済統計講義内容 担当者: 河田 正樹 e-mail: [email protected] このスライドの内容 Ⅰ 経済統計とはどのようなものか a) 統計(statistics)の2つの意味 b) 統計学とはどのようなものか c) 経済統計(economic statistics)の守備範囲 Ⅱ 講義でとりあつかう内容 a) 経済に関するデータ b) 経済データを用いた分析 c) 経済データの入手 Ⅰ 経済統計とはどのようなものか a) 統計(statistics)の2つの意味 統計とは、英語でstatisticsと表される。 反対に、英語のstatisticsを辞書で調べると、 ①統計 ②統計学 という2つの訳語が出てくる。 では、統計と統計学はどのような違いがあるのであ ろうか。そもそも統計学とはどのようなものであろう か。 b) 統計学とはどのようなものか われわれは経験から数多くのことを学び、われわれをとりまくさまざまな環 境に、適切に対処することができるようになってきた。 日常生活においては、このような経験は通常、おおまかに、直感的に観察 され、数量化することはあまり意識されない。 (例) 今年は暑い日が多かった。 今日はバスの時間がやたらとかかる。 このような経験が、数量的に把握されるということは、たとえば次のような ものである。 (例) 今年は最高気温35℃以上の猛暑日が32日と、観測史上最多であった。 今日は通常15分で駅まで到着するバスが、25分かかった。 このような数量化は、直観的であいまいな観察に、客観性を与えてくれる。 ところで、バスが「通常15分で駅まで到着する」ということは、どのようにし て得られるのであろうか? ⇒ バスの所要時間に関して、数多くの観察をおこなった結果、得られた ものである。 この観察をおこなうときに、それらのバスの所要時間の「時間帯」、「時期」、 「曜日」、「天候」などについても同時に観察することも考えられよう。 これらのデータの間にから何を見出せるのであろう? ⇒ (例) 雨の日は通常より時間がかかる 夕方は日中より時間がかかる など われわれは、得られたデータ間に見いだされた関係から、将来より効率的 に行動するために、何を学びうるであろうか? ⇒ (例)雨の日や夕方のバスに乗るときには、所要時間が多くかかるこ とを予測し、行動することが効率的である。 統計学とは、分析目的に対応してデータを収集し、分析するこ とによって、予測や意思決定のための材料を提供する学問で ある。 「経験」を効率的に整理する(少ない経験で、豊富な経験と同 等の知識を持つ)ためには、統計学の助けが必要不可欠であ る。 統計学 分析目的 データの収集 分析 予測・ 意思決定 統計 一方、統計とは分析目的に対応して収集されたデータのこと を指す。統計学で用いられるデータは、数値で表わされたも のである。 c) 経済統計(economic statistics)の守備範囲 statisticsの2つの意味に対応して、経済統計(economic statistics)にも2つの内容があり、この科目では、その両方 について学ぶ。 経済に関するデータについて、それらがどのようにして作成 され、どのような特徴をもつのかを学ぶ(経済統計論) → データを収集することは意外と難しい。得られたデータの裏にはさま ざまな苦労があり、それゆえそれぞれ特徴を持つ。 経済データを用いてどのような分析がおこなえるかを学ぶ (経済統計学) → データを分析する場合、そのデータの特徴に合わせた分析をおこな わなくてはならない。 Ⅱ 講義でとりあつかう内容 <前半> 日本の統計制度 全数調査と標本調査 人口に関する統計 労働に関する統計 家計に関する統計 <後半> 物価指数 時系列データの分解 景気指標 国民経済計算 <前半> 主に個別のデータがどのようにして作成され、どのような特徴を持つか を学ぶ。基礎知識として、日本の統計制度と、全数調査と標本調査について学ぶ。 <後半> 個別の組み合わせた指標がどのように作成されるか、どのような意味を 持つかを学ぶ。時系列データの分解は景気指標の基礎知識となる。最後に、日本 経済の全体像をみる国民経済計算について学ぶ。 データを用いた分析については各章の中で紹介し、その中のいくつかを実際におこ なってみる。 a) 経済に関するデータ 経済学を学ぶとき、経済ニュースを目にするとき、さまざまな 数字を目にする。これが経済データ(経済統計)である。 (例) GDP、消費者物価指数、完全失業率 など これらの数字は • 政府の経済政策(失業率が高くなれば雇用拡大政策を おこなう。など) • 民間企業の戦略(家計消費が増えれば生産を増やす。 など) などに用いられる。 新聞の経済面には、次のような経済データが出てく ることがある。これらをきちんと説明できますか? 合計特殊出生率 完全失業率 有効求人倍率 季節調整値 消費者物価指数 実質可処分所得 ジニ係数 GDP たとえば、合計特殊出生率(Total Fertility Rate)とはどう いうものであろうか? これは、母親の年齢別出生率をすべて加えたもので、 1人の女性が一生の間に生む平均子供数 とみることができる。 合計特殊出生率が2を下回る→将来における人口減少を意 味する。 女 親世代 子 子 子世代 > 男 将来における人口減少 → 労働力の不足 → 経済の衰退 → 年金の財源不足 どのような政策をとるか ・ 少子化対策 ・ 年金制度改革 ⇒ さまざまな経済政策にデータが利用される。 b) 経済データをもちいた分析 経済データをもちいた統計的分析をおこなうことによって、過 去や現在の経済の状況を把握したり、将来の予測をおこな うことができる。また、経済学のさまざまな理論は、この経 済データをもちいた分析によって検証することができる (例)エンゲルの法則 所得が低ければ低いほど、消費支出に占める食料費の割 合が高くなる。 この法則を検証するためには → 年間収入階級別の消費支出と食料費のデータによる分 析をおこなえばよい。 表 年間収入5分位階級別消費支出・食費・エンゲル係数 (H22年 年平均, 全国, 2人以上世帯のうち勤労者世帯) 階級 消費支出(円) 食料費(円) エンゲル係数(%) Ⅰ 215,255 53,509 24.86 Ⅱ 268,967 62,300 23.16 Ⅲ 296,178 67,585 22.82 Ⅳ 357,217 75,770 21.21 Ⅴ 453,956 88,820 19.57 食料費 エンゲル係数 消費支出 年間収入5分位階級別データとは、すべての世帯を、年間 収入の大きさの順に並べて、世帯数が等しくなるように5つ に分けたものである。 Ⅰ 低収入 Ⅱ 430万円 Ⅲ 563万円 Ⅳ 707万円 Ⅴ 919万円 ※ このデータの場合の境界値はこのようになる。 高収入 年間収入5分位階級別エンゲル係数 (家計調査 全国・2人以上世帯のうち勤労者世帯 H22年平均より作成) エンゲル係数(%) 30 25 20 15 10 5 0 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ 収入階級 この分析により日本の家計について、エンゲルの法則が成立 していることがわかる ※ なお、この講義であつかう統計分析は、初歩的なものに限定している。よ り高度な統計的分析は計量経済学の講義でとりあつかう。 c) 経済データの入手 経済データによって、経済の現状を把握したり、それをもち いた分析をおこなったりする場合、最初にデータを入手する 必要がある。 入手先としては、次のような資料が考えられる。 1次資料 - 統計を作成する機関による報告書 2次資料 - さまざまな統計のうち、主要なものをまとめた 統計集 データの公表媒体としては、 ①紙媒体(報告書、資料集など) ②電子媒体(CD-ROM、webなど) があるが、現在では1次資料、2次資料ともに多くのものが電 子媒体で公表されている。ただし、過去にさかのぼって分 析をおこなう場合には、紙媒体のものしか利用できないこと もある。 経済データに関する代表的な2次資料 日本統計年鑑(総務省統計局) 経済統計年鑑(東洋経済新報社) →2005年版をもって休刊 民力(朝日新聞社) 総務省統計局のホームページでは、日本統計 年鑑収録のデータをExcel形式で入手できる 総務省統計局のホームページには、統計局で実施している統計調査 の結果表(1次資料)が多数掲載されている。 総務省統計局 www.stat.go.jp これらは、他府省で作成された統計調査の結果表とともにe-stat(政 府統計の総合窓口)というサイトに、移行中である。 e-stat(政府統計の総合窓口) www.e-stat.go.jp 韓国・中国の中央統計局は以下のとおり 大韓民国統計庁 www.kostat.go.kr 中華人民共和国国家統計局 www.stats.gov.cn これらは河田の講義用HPからリンクあり
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