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@上海社会科学院
日中戦略互恵関係構築
2007年2月27日
早稲田大学
木下俊彦
HP: http://homepage3.nifty.com/tkinoshita/
©Toshihiko Kinoshita
本日の講演の狙い
• 新年好!
• 日中関係が新しい段階に入り、明るいムードが出
てきたことは歓迎。今後、それがさらに、良い方向
に進むことを祈念する。
• しかしながら、厳しい現実が存在するのも事実。
ただ、ばら色の将来像のみ描いても意味がない。
われわれ両国の知識人のなすべきことは、「知難
而進」である。
• この席にいる人は、みな、同じ思いを持った人で
あると考え、以下、率直に私見を述べたい。
安部首相、06年10月訪中
• 胡錦濤国家主席ら国家首脳と懇談、戦略
的互恵関係構築の重要性を確認。政治と
経済の両輪を回す。
• 頻繁に首脳間の懇談を行っていくことが大
切その後、APECの首脳会談、東アジア
サミット時も両国首脳懇談。
• 07年4月、温家宝首相来日、秋、安部首相
再訪中決定。
日中関係新展開の日本
での受け止められ方
• 日本のビジネス界は基本的に歓迎(小泉首相は、
「心」の問題(あるいは政治)に商売人は口を挟むな、
という態度だった)。
• 日本のビジネス界の人は、昨年秋ごろから仕事がし
やすい雰囲気がでてきた、と指摘。
• 国民も、良い展開と評価(安部首相の業績の第一が
教育重視、第2位に「対中韓関係改善」がきている
(ただし、高い得票率ではない)。
• 日本では、最近、北京五輪を支援する超党派議員の
会(河野氏が会長、野田氏、二階氏などが中心)発
足。医療関係グループも、難病について対中医療支
援をしたい、と近々訪中の報。
両国で今後取り組むべきテーマと合致したもの
緊急課題
• 北朝鮮の核実験の拒否(意見一致)
• 東シナ(中国)海資源開発問題平和・友好・協力の
海にする。
• 共通の戦略的利益拡大のため、国連改革、東アジア
地域協力、エネルギー・環境の分野で協力強化。
• 相互理解促進のため、政治・安全保障、経済、文化
などあらゆるレベルでの交流、対話を促進する。歴
史の共同研究も。
個別問題の現状と展望
北朝鮮の核問題
• 6カ国協議で、北朝鮮が、核開発施設を閉鎖し、核
実験を再度しないことに同意したことは大きな前進
であり、中国政府の果たした役割は大きい。米国は、
中東問題もあり、現実的な妥協策を選択。
• 本件では、日中の意思疎通は従来より円滑にいっ
た、と理解。それは、中国が、北東アジアでの核拡
散を抑えたいという強い意志をもっているため。
• しかし、北朝鮮が完全な核廃絶に進むかどうか不
透明なところが残っている。また、日本には「拉致問
題」が残っている。これをクリアしないと、国民感情
上、日本として国交回復、賠償交渉へ進めない。
東シナ(中国)海資源開発問題
• 日本側からみると、この問題は、中国の将来の政
治・外交・経済権益に大きく絡んでいる問題。本当
に平和・友好・協力の海に変えうるかという懸念あ
り(中国に、それを望んでいる人が多くても、中国
政府が一部の過激なナショナリズムをうまく抑制で
きるかへの懸念)
• 日本人も自己主張が間違っているとは思っていな
いので、安易な妥協はできない(国際司法裁判所
での審議を受け入れる用意もあり)。
• 現在は、鄧小平のような超人もいないので、どう
やって危機管理するかが最当面重要。紛争地域
で共同開発がなされれば、明るい展望が開かれる
が、楽観はできない。
国連改革問題
• 国連機能がうまく動いておらず、国連経費が正しく使
われなかったことから、簡素化、監査徹底など改革の
必要では日中は意見は一致。
• しかし、日本は、(1)従来、国連資金の約20%を負
担(米国が支払いを拒否することが多いため、実質的
には20%以上負担。今後4%程度減少)。(2)戦後、
平和国家として、交戦権を放棄、核3原則を守り、武
器輸出をせず、世界最大級のODA供与国であり、地
球環境問題、世界遺産の保存に取り組んできた。こ
の点、中国政府は異論なし。
• ゆえに、日本は、常任安保理事国にふさわしい国と
の自負がある。中国は、昨年央までは、日本首脳の
歴史認識をあげて強く反対。最近は無言及。日本は
賛成を期待。
東アジア地域協力
• 基本的には両国賛成。個別問題では利害対立の部面も。最
近、中国の対日姿勢が好転。かなり建設的提案しやすく。
• 金融協力はこれまで円滑に推移。ただ、アジア通貨単位
(ACU)づくりについては中国は慎重。
• ASEAN-日本:日本はASEAN成立時点からODA提供、直接
投資供与、通貨危機時の支援、災害支援をしてきた。個別国
とのFTAは大体できたが、ASEAN-日本は遅れている。
• 中国-ASEAN:中国はFTAで先行、急速に関係強化。
ASEAN自身は、日中どちらにも属せず、ASEAN+日中韓の
体制を重視。
• 日中韓協力:まず、投資ルール協定締結で合意。3国間FTA
は遅れている。日本、韓国は中国の知財保護に強い希望。個
別国とのFTAは大体できたが、ASEAN-日本は遅れている。
環境・省エネ協力
• 昨年5月の省エネ・環境総合フォーラムで、双方の
協力のムード高まる。
• 中国側の態度も真剣に(資料3)。日本には自国の
得意分野という自負がある。企業は大きなビジネス
機会とも捉えている。
• 日本、欧州、米国の過去半世紀の対応からすると、
中国には日本方式が合っている、と確信。
• 日本側には環境規制・省エネの法規制とビジネスを
含む持続可能なフレームワークとしたいという気持
ちがある。官産学提携を模索。
• 日本側には、「情けは人のためならず」(中国の改
善は日本、アジア、地球へのプラス)という気持ちと、
技術協力の際、知財権保護がどこまで守られるの
かという気持ちが交錯。
(参考1) 中国が地域・世界と共生するために環
境問題、省エネ・省資源がカギ。中国政府もその
方向へ政策転換。それをどう支援するか、日本に
とっても大きな課題。
世界のCO2排出量
米国は
反面教師
その他 32.7%
米国 23.5%
2002年総排出量
241億t-CO2
中国 13.7%
メ キシコ 1.5%
フランス 1.6%
イタリア 1.8%
韓国 1.9%
ロシア 6.2%
英国 2.2%
カナダ 2.2%
ドイツ 3.5% インド 4.2%
日本 5.0%
出典:IEA, CO2 Emissions from Fuel Combustion(2004 Edition)
(参考2)日米中のエネルギー消費効率比較
GDP1単位あ
たりの消費1
次エネルギー
(FY2004)
鉄鋼1トン
あたりの消
費エネル
ギー
(FY2003)
火力発電1
KWあたりの
消費エネル
ギー
(Fy2002)
セメント中間製品
(クリンカー)1トン
あたりの消費エネ
ルギー
(FY2000)
日本
100
100
100
100
米国
430
120
117
152
中国
韓国
ロシア
1460
150
130
177
270
900
105
125
n.a.
n.a.
131
178
(出所)日本鉄鋼連盟、ECOFYS、Battelle、IEA
(参考3) 中国政府の環境対応:問題なお多いが
改善は明らか
• 第11次5カ年計画で、資源節約型社会を目指す方向に(エネルギー原単
位の20%削減を目標に)。GDPあたりエネルギー量着実に減少(BPなど
と協力)。実績は目標を下回っている。大規模な環境汚染事故頻発。
• 環境総局は、メディア、NGOと組んだ政策展開。
• パブリック・ヒアリング実施も国務院の決定で明記。環境事故処理のまず
さで党幹部辞任もケース発生。地方幹部の考課の評価基準を改めた。10
地域で「緑色GDP」の試算開始(97年以降、環境行政部門への投書激増)。
• 家電のエネルギー効率表示ラベル普及。
• 中・小型発電設備などでは良質、廉価で安定した自前技術獲得。
• 太陽熱パネルの普及(面積では世界一)、風力発電も急速に拡大。
• 06年初から、再生可能エネルギー事業の立ち上げ資金の貸付や税金面
での優遇措置関連の法律の施行。
• CDMプロジェクト運行管理弁法、05年10月改定(譲渡収益のうちの政府
取り分を決定)。ただし、CDM実施事業者は中国資本が50%以上という
条件。
• NEDO中心で地方省単位でCDMサポートセンター設置受け入れ。
• 原子力発電所の大拡充計画。どういうスペックになるのか。日米企業連
合の参加は許される?
温家宝首相の訪日にあたっての
木下の問題提起と個人提案
(提案については、可能なルートで実現に向けて努力中)
文化協力への提案
• 文化産業(アニメ、文学、音楽など)の交流の活
発化。中国側には、規制緩和をお願いしたい。
• 温家宝首相が、中国で出てきた若手有名作家
(余華氏=『活着』、『兄弟』の著者)を同行し、日
本に広く紹介する。
• 同じく、C-Popの歌手を同行、紹介する。
環境・省エネ問題を考える中国人の若者
を日本に呼び、一定期間実地に日本企
業・人の工夫・努力を見てもらう
• そのための適切なインターンシップ・プログ
ラムを企業・大学・地方公共団体などで準
備する。
日本との合作のための中国側
の工夫
• 中国の独自技術の発展の強調はいいが、
日本との合作するものも増やすという姿勢
も見せること(高速鉄道の例など)
回顧:なぜ、過去5年も日中関係悪化の
悪循環が続いたのか
• 日本側は、中国人の繊細な歴史認識への理解を欠いた言動
を率直に反省すべき。
• ただ、そうした悪循環を招いた背景に、双方の「国内問題」も
あったのではないか。(1)2000年前後の中国外交が、総じて
親中的であった多くの日本人を嫌中にした。(2)「反日デモ」に
は国際法から見て明らかに行き過ぎがあったが、「造反有理」
を非とする判断が中国側から明確には示されなかった。(3)
近年の中国経済の急成長で、日本人が心理的に不安定にな
りがちで、ポピュリズム支持層を増やした。特定個人の問題と
してでなく、そうした全体像と共振による悪循環構造を理解し、
双方とも適切に対応をしていくことが重要。
• 胡温政権の「和諧社会」建設、腐敗防止への積極的取り組み
は中国の国内問題だが、周辺国家へもプラスの要素。
日中関係のさらなる改善のために
日本の知中派知識層が関心を
持ってみている中国の事項
• 「和諧」政策:基本的に共感。どこまで、それが
通るのかを注視。
• 政治:本年秋の党人事、中国と台湾の関係、
解放軍保守派などの動き、「民主化」の実験
• 経済社会:中国のマクロ経済動向(「資産バブ
ル」への対応)、中央の行政方針の地方への
浸透、三農問題の展開、通商摩擦への対応、
環境対策、経済・技術ナショナリズム
われわれが忘れるべきでないこと
• われわれは、日中の国民/公民であると同時に
地球市民であり、アジア市民であるという認識
をどれだけ浸透させていけるか
• 友邦であるための条件:知識人の大きな役割
(真理を求める、友誼を守る、良識を守る、法
律を守る、条約を守る、地球を守る推進者とし
ての役割):中国には拝金主義、刹那主義から
の脱却のための新「時代精神」構築を期待
• 日中信頼確立のための双方からの創意・工
夫:安全保障対話、文化交流および「草の根」
交流の重要性
謝 々