JOGMEC の石油備蓄に関する 国際協力

JOGMEC 備蓄企画部 国際課長
石澤 英俊
アナリシス
JOGMEC の石油備蓄に関する
国際協力
-国際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のための
IEAや諸外国の備蓄実施機関との連携協力と、
国際協力の
推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み-
はじめに
石油備蓄は、第二次世界大戦後の世界の石油需要の急激な増加と数次にわたる世界的な石油供給途絶
の経験を踏まえ、石油供給途絶時に石油備蓄放出等による代替供給を行うことによって経済的ダメージ
を緩和することを主な目的として始められた。日本では、経済協力開発機構(OECD:Organisation for
Economic Co-operation and Development)の備蓄増強勧告を受け、1 9 7 2(昭和 4 7)年に民間備蓄が開
始された。その後、1 9 7 3 年の第 1 次石油危機を契機に、当時、世界の石油消費量の 7 4 %を占めていた
OECD の枠内で石油供給途絶時の協調対応を調整する組織として 1 9 7 4 年に国際エネルギー機関(IEA:
International Energy Agency)
が設立され、日本は設立時から加盟国となった。
日本では、1 9 7 8 年に当時の石油公団が実施主体となって国家備蓄が開始された。2 0 0 4 年、石油公団
が JOGMEC となった際に日本の国家備蓄は体制移行が行われたが、JOGMEC はそれ以降も一貫して、
IEA の緊急時問題常設作業部会(SEQ:Standing Group on Emergency Questions)への参加、世界石油
備蓄機関年次会合(ACOMES :Annual Coordinating Meeting of Entity Stockholders)総会およびその
分科会への参加などを通じ、IEA や諸外国の備蓄実施機関との連携協力を推進し、国際協調に基づく石
油供給途絶の緊急対応時に適切に対応することを石油備蓄における最重要目標としている。
一方、近年では、世界の石油消費に占める OECD 非加盟国の割合が増加、2 0 1 4 年には 5 2 %と OECD
加盟国を上回った。日本周辺では、東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of South-East Asian
Nations)
諸国、中国などの石油消費量が急激に増加している。IEA としても、エネルギー需要が IEA の
非加盟国へシフトするなか、世界的なエネルギー安全保障を強化するためには非加盟国との協力を強化
することが極めて重要であるとしている。
JOGMEC は、日本のエネルギー安全保障上アジア地域の石油備蓄体制強化が極めて重要であること
から、アジア諸国、とりわけ ASEAN 諸国に対して IEA とも連携しつつ石油備蓄体制整備への協力、働
きかけを強力に推進しており、また、石油消費量で米国に次ぐ世界第 2 位となって世界の石油市場で極
めて大きな存在となり石油備蓄も意欲的に拡大しつつある中国に対して日本の知見・技術を共有するこ
とによって、アジアの石油備蓄体制を含む石油セキュリティ強化、アジアワイドでの石油セキュリティ
構築への取り組みを行っている。
33 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
1. O
ECD 非加盟国の石油需要割合の増加と IEA による非加盟国との関係強化
の取り組み
(1)
世界の石油需要の推移と今後の展望
Outlook 2 0 1 5”の主な展望(石油関連)のとおり、中国、
世界の石油消費は、経済活動の活発化とともに増加の
インド等を中心に、今後とも OECD 非加盟国の需要が
一途をたどってきた。世界の石油消費は、
1965年に3,081
増加、OECD 加盟国の需要が減少していくと予想されて
万バレル/日、
第1次石油危機が発生した1973年には5,556
いる。
万バレル / 日、2 0 1 4 年には 9,2 0 9 万バレル / 日と増加し
○中国:2 0 3 0 年代までに米国を抜き世界最大の石油消
てきた。2 0 1 4 年の消費量は、1 9 6 5 年比で 3 倍、1 9 7 3
費国に
○イ ン ド: ① 石 油 需 要 は 他 の ど の 国 よ り も 増 加 し、
年からの増加率は 1 6 6 %となっている。
第 1 次石油危機後、いわゆる先進国(OECD 加盟国)の
2 0 4 0 年までに日量 1,0 0 0 万バレルに迫る(2 0 1 4 年需
石 油 消 費 は、1 9 7 3 年 の 4,1 3 2 万 バ レ ル / 日( 世 界 の
要実績日量 3 8 5 万バレル)、② 2 0 4 0 年までに輸入依
7 4 %)から 1 9 7 0 年代後半にかけて増加傾向を示したも
存度は 9 0 %を超える(2 0 1 4 年実績 7 7 %)
○米、EU、日本:需要合計は 2 0 4 0 年までに日量約 1,0 0 0
のの、1 9 8 0 年代には消費が減少した。その後、1 9 8 0 年
代後半以降、経済の拡大とともに緩やかに消費は増加し
万バレル減少
たが、
近年の自動車燃費の改善や石油価格高騰を背景に、
(2)2 0 1 4 年の石油消費量上位 2 0 カ国・地域の生
2 0 0 5 年以降は減少傾向を見せており、直近の 2 0 1 4 年
産量と IEA との関係
の需要は 4,5 0 6 万バレル / 日
(同 4 8 %)
となっている。
一方、近年著しい石油消費の増加を示しているのがい
このように、エネルギー需要が OECD 非加盟国(IEA
わゆる開発途上国
(OECD 非加盟国)
である。開発途上国
非加盟国)へシフトするなか、IEA にとっては、加盟国
の石油消費は堅調な経済成長に伴い、1 9 7 3 年の 1,4 2 4
との緊密な関係を維持するとともに、世界的なエネル
万バレル/日
(世界の26%)
から増加し、
2014年には4,703
ギー安全保障を強化するために引き続き非加盟国との組
万バレル / 日
(同 5 2 %)
となり OECD 加盟国を上回った。
織的な結びつきを深めていくことが極めて重要なテーマ
ま た、 今 後 は、 図 1 に 記 載 の IEA“World Energy
となっている。
2040年需要予測
1億350万バレル/日
100 百万バレル/日
90
80
52%
70
60
50
26%
40
30
非OECD割合
26%(1973年)
↓
52%(2014年)
その他
その他旧ソ連邦諸国
ロシア
ブラジル
インド
中国
OECD
25%
20
10 75%
0
1965
74%
1970 19731975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
48%
2010
1973年
(第1次石油危機発生時)
OECD非加盟国(開発途上国)
1,424万バレル/日(26%)
OECD割合
74%(1973年)
↓
48%(2014年)
IEA“World Energy Outlook
2015”の主な展望(石油関連)
○中国:2030年代までに米国を
抜き世界最大の石油消費国に
○インド :
①石油需要は他のどの国よりも
増加し、2040年までに日量1,000
万バレルに迫る(2014年需要実
績日量385万バレル)
②2040年までに輸入依存度は
90%を超える(2014年実績77%)
○米、EU、日本:需要合計は2040
年までに日量約1,000万バレル減少
2040 年
2014 年
2014年実績
(注)割合はトンで計算されている
増加率
(1973∼2014)
4,703万バレル/日(52%)
330%
OECD加盟国(先進国)
4,132万バレル/日(74%)
4,506万バレル/日(48%)
109%
世界合計
5,556万バレル/日(100%)
9,209万バレル/日(100%)
166%
出所:実績は BP 統計 2015、予測と展望は IEA ホームページ掲載“World Energy Outlook 2015”を基に作成
図1 世界の石油需要推移(OECD および非 OECD の割合)と主な展望
2016.7 Vol.50 No.4 34
際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機
JOGMECの石油備蓄に関する国際協力 -国
関との連携協力と、
国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み-
2 0 1 5 年 1 1 月に開催された IEA 閣僚理事会では、IEA
タイがアソシエーションに参加して IEA との協力関係
非加盟国の 9 カ国(ブラジル、チリ、中国、インド、イ
を強化していくこととなった。また、OECD 加盟国のう
ンドネシア、メキシコ、モロッコ、南アフリカ、タイ)
ち IEA 未加盟 5 カ国(アイスランド、メキシコ、チリ、
のハイレベルが出席し、このうち、中国、インドネシア、
スロベニア、イスラエル)のうち既に加盟手続き中のチ
消費量
順位
国名
または
地域名
IEA加盟国
1
アメリカ
IEA association参加
2
中国
IEA加盟国
3
日本
IEA 閣僚理事会出席
4
インド
IEA 閣僚理事会出席
5
ブラジル
6
ロシア
3,196
7
サウジ
アラビア
3,185
IEA加盟国
8
韓国
IEA加盟国
9
カナダ
IEA加盟国
9
ドイツ
11
イラン
12
その他
アフリカ
IEA加盟意図表明
13
メキシコ
IEA association参加
14
インドネ
シア
IEA加盟国
15
フランス
16
その他
中東
IEA加盟国
17
イギリス
IEA association参加
18
タイ
19
シンガ
ポール
20
その他
中南米
世界全体
の消費量
世界に占める
消費量の割合
注:トンで計算
石油消費量(赤)
と石油
生産量(青)
(千バレル/日)
19,035
(参考)想定貿易量
(生産量−消費量)
プラスは輸出、△は輸入
(千バレル/日)
19.9%
△7,391
12.4%
△6,810
4.7%
△4,298
4.3%
△2,951
3.4%
△883
3.5%
7,642
3.4%
8,320
2.6%
△2,456
2.4%
1,921
2.6%
△2,371
2.2%
1,590
2.2%
△1,733
2.0%
843
1,641
852
1.8%
△789
1,615
データなし
1.8%
△1,615
1,588
213
1.8%
△1,375
1,501
850
1.6%
△651
1,274
453
1.3%
△821
1,273
データなし
1.6%
△1,273
1.4%
△1,072
11,644
4,246
11,056
4,298
データなし
895
3,846
3,229
2,346
10,838
11,505
2,456
データなし
2,371
4,292
2,371
データなし
2,024
3,614
1,985
252
1,941
2,784
1,221
149
92,086
100%
(注)生産量は、
原油、
シェールオイル、
オイルサンド、
NGLs
(Natural Gas Liquids)
を含み、
他の液体燃料
(バイオマス、
石炭派生物、
天然ガス等)
を除く。
消費量は、バイオガソリン(エタノールなど)、バイオディーゼル、石炭派生物、天然ガスを含む。
12 位のその他アフリカは、エジプト、南ア、アルジェリアを除く。
16 位のその他中東は、サウジアラビア、イラン、UAE、クウェート、カタール、イスラエルを除く。
20 位のその他中南米は、ブラジル、べネズエラ、アルゼンチン等を除く(メキシコは北米扱い)。
表枠外左側の表記は筆者が追加。
「IEA 加盟国」以外の記述は 2015 年 11 月の IEA 閣僚理事会で表明等されたもの。
右端の(参考)列は、筆者が想定して追加したもの。
出所:BP 統計 2015
図2 2014 年の石油消費量上位 20 カ国・地域の生産量と IEA との関係
35 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
リに加えてメキシコが IEA 加盟に向けた協議を開始す
保 障 の 向 上 に 資 す る も の と 考 え ら れ る。 こ の た め、
る意図を表明した。この結果、世界の石油消費量上位
JOGMEC は、IEA およびその加盟国との連携強化に引
2 0 カ国・地域と IEA の関係は図 2 のようになった。今
き続き取り組むとともに、特にわが国のエネルギー安全
後とも関係強化への取り組みが継続されていくと考えら
保障上アジア地域の石油備蓄体制強化が重要であること
れる。
から、ASEAN 諸国、中国等のアジア諸国に対して日本
IEA と非加盟国、特にエネルギー消費の増加が著しい
の知見や技術の共有などによる石油備蓄体制整備への協
アジアの新興国との関係強化は , 日本のエネルギー安全
力、働きかけを強力に推進していく方針である。
2. 国
際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のための IEA や諸外国の備
蓄実施機関との連携協力への取り組み
(1)IEA の設立、主な加盟要件、加盟国備蓄保有量
は石油供給途絶に対応することを目的に、加盟国に対し
第二次世界大戦後、1 9 5 0 年代に石油が主要なエネル
て、1 9 6 2 年 に 6 0 日 分 の 石 油 備 蓄 保 有 を 勧 告、 続 く
ギー源となっていくなか、数度の石油供給途絶が発生し
1 9 7 1 年に 9 0 日分石油備蓄保有を勧告した。その後、
た。最初の大規模な石油供給途絶は 1 9 5 6 年に発生した
1 9 7 3 年 1 0 月の第 4 次中東戦争に端を発して極めて大規
スエズ危機で、ピーク時の推定供給途絶量は約 2 0 0 万バ
模な石油供給途絶に発展した第 1 次石油危機の混乱の経
レル / 日だった。その後、最大のものは 1 9 7 8 年のイラ
験から、エネルギー問題について国際協力が必要なこと
ン革命で、ピーク時の推定供給途絶量は約 5 6 0 万バレル
が石油消費国の間に改めて認識されることとなった。す
/ 日だった。ただし、途絶の重大さは、その途絶量だけ
なわち、当時世界の石油消費量の 7 4 %を占めていた
で決まるわけではない。他の要素、例えば、商業在庫量、
OECD の枠内において石油供給途絶時の協調対応を調整
供給途絶の期間、余剰生産能力、供給途絶となった原油
する組織として OECD 加盟国の一部の国により 1 9 7 4 年
の性状(一般的に、原油は、炭化水素を主成分として、
に IEA が設立された。
微量の硫黄、窒素、酸素、金属などを含む天然物であり、
IEAの主な加盟要件は、①OECD加盟国(現在34カ国)
、
国や産地、油田によって、比重や含まれる成分などが異
②備蓄基準(前年の当該国の 1 日あたり石油純輸入量の
なる)
、
季節的な傾向、
ロジスティクス等が影響するため、
9 0 日分)を満たすこととされ、IEA は石油供給途絶の緊
全ての供給途絶は個別に評価する必要がある。
急事態が発生またはそのおそれがある場合には、加盟国
1 9 6 1 年に設立された OECD(日本は 1 9 6 4 年に加盟)
が協調して備蓄の放出等を行うことになっている。これ
Feb - Oct 2011
Sep 2008
Sep 2005
Mar - Dec 2003
Dec 2002 - Mar 2003
Jun - Jul 2001
Aug 1990 - Jan 1991
Oct 1980 - Jan 1981
Nov 1978 - Apr 1979
Oct 1973 - Mar 1974
Jun - Aug 1967
Nov 1956 - Mar 1957
百万バレル/日
Libyan Civil War
1.5
Hurricanes Gustav/Ike 1.3
Hurricanes Katrina/Rita
1.5
War in Iraq
2.3
Venezuelan strike
2.6
Iraqi oil export suspension
2.1
Iraqi invasion of Kuwait
Outbreak of Iran-Iraq war
Iranian Revolution
Arab-Israeli War and Arab oil embargo
Six-Day War
2.0
Suez Crisis
2.0
0.0
1.0
2.0
Gross peak supply loss
4.1
4.3
5.6
4.3
3.0
4.0
5.0
6.0
出所:IEA ホームページ掲載“Energy Supply Security 2014”
図3 過去の主な石油供給途絶
2016.7 Vol.50 No.4 36
際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機
JOGMECの石油備蓄に関する国際協力 -国
関との連携協力と、
国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み-
まで、3 回の IEA による協調行動が実施され、石油供給
の大半を外国に依存する日本にとって IEA は日本のエ
(2)IEA の石油供給途絶の緊急時対応メカニズムと石油
備蓄の協調放出実績
ネルギー安全保障上、極めて重要な機関となっている。
IEA 設立当初の石油供給途絶の緊急時対応メカニズム
現在の IEA 加盟国は、豪州、オーストリア、ベルギー、
は、IEA 設立の基となった 1 9 7 4 年締結の国際エネルギー
カナダ、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンラン
プログラム(IEP:International Energy Program)に規
ド、仏、独、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、伊、
定されており、その後、石油市場の発達などに伴い、下
日本、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、
記のように設立当初の制度から柔軟性を高める制度に変
ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、韓国、スロバキ
更されてきている。
ア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、
設立当初(1 9 7 4 年)
:E S S(E m e r g e n c y S h a r i n g
米国
(アルファベット順)
の 2 9 カ国。
〈参考 1〉O
ECD に加盟しているが、IEA には未加盟の
System:緊急時融通システム)
1 9 8 0 年代以降:C ERM(Coordinated Emergency
国(5 カ国)はアイスランド、メキシコ、チリ、
Response Measures:協調的緊急時
スロベニア、イスラエル
対応措置)
〈参考 2〉I EA 加盟国のうち石油純輸出国は、IEA 備蓄
2 0 0 2 年以降:I CRP(Initial Contingency Response
義務の対象外(現在は 3 カ国:ノルウェー、カ
ナダ、デンマーク)
Plan:初期緊急時対応計画)
○主な目的
〈参考 3〉E
U 加盟国は、EU 指令に基づく石油備蓄義務
・石油供給途絶に対して一時的に石油備蓄放出等によっ
がある(純輸入量 9 0 日分または消費量 6 1 日分
て代替供給を行い、石油供給途絶によって生じる経済
の多いほう)
的ダメージを緩和する
2 0 1 3 年 6 月時点で、IEA 加盟国の石油備蓄量は図 4
に見るように約 4 2 億バレルある。このうち、1 5 億バレ
・石油市場が需要と供給のバランスを取り戻すことを促
す
ル程度は公的備蓄
(国家備蓄と協会備蓄)
であり、緊急時
○具体的対応
対応を目的としている。2 6 億バレル程度は民間備蓄で、
・重大な石油供給途絶時には、IEA は加盟国による協調
政府により義務付けられた備蓄と商業在庫を合わせたも
のである。
行動による対応として石油備蓄の放出を行う
・これに加え、それが可能な加盟国による石油生産の急
増、需要抑制、燃料転換を行う
4,500
4,000
百万バレル
Industry
Public
3,500
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 年
出所:IEA ホームページ掲載“Energy Supply Security 2014”
図4 IEA 加盟国が各年末時点で保有した石油備蓄量推移(1984 ~ 2013 年 6 月末)
37 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
○日本政府は、石油供給不足の危機やそのおそれがある事態に際し、過去に5回(※)
の備蓄石油放出の判断を行ったが、
い
ずれも民間備蓄義務日数の引き下げで対応し、国家備蓄や産油国共同備蓄の緊急放出を行った実績はない。
(※)
このほか、
石油供給危機のおそれはないが、
タンカー座礁事故を
「やむを得ない事情」
として基準備蓄量引き下げを認めたケースがある。
○そのうち3回については、
IEA において協調行動が決定され、
わが国はその枠組みのなかで協調放出を実施した。
●1991 年湾岸戦争のケース
1991 年 1 月、
ペルシャ湾岸地域で戦闘が発生した場合の石油の供給不足に備え、
IEA が日量 250 万バレル
の石油備蓄放出を決定。
→わが国は、
民間備蓄義務日数を 4 日分
(82 日→78 日)
引き下げ
●2005 年米国ハリケーン・カトリーナのケース
2005 年 8 月、
ハリケーン
「カトリーナ」
による米国における石油施設等の被害の状況を踏まえ、
IEA が日量 200
万バレルの石油備蓄放出を決定。
→わが国は、
民間備蓄義務日数を 3 日分
(70 日→67 日)
引き下げ
IEA協調行動として
の放出(3回)
●2011 年リビア情勢悪化のケース
2011 年 6 月、
リビア情勢悪化による石油供給不足に対応するため、
IEA が日量 200 万バレルの石油備蓄放出
を決定。
→わが国は、
民間備蓄義務日数を 3 日分
(70 日→67 日)
引き下げ
●1979 年第 2 次石油危機のケース
1979 年 3 月、
前年 10 月のイラン政変に伴う供給削減により、
80 日分
(当時)
の備蓄義務日数維持が困難な会
社が続出。
→個別の会社ごとに民間備蓄義務日数の減少申請
(5 25 日)
を受け入れ
日本独自の放出
●2011 年東日本大震災のケース
2011 年 3 月、
東日本大震災による石油供給不足に対応するため、
わが国は独自に石油備蓄の放出を決定。
→民間備蓄義務日数を段階的に 25 日分
(70 日→67 日→45 日)
引き下げ
出所:経済産業省ホームページ掲載 平成 26(2014)年 4 月 28 日 総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 石油・天然ガス小委員会 資
料を基に作成
図5 過去の IEA 協調行動としての石油備蓄放出と日本独自の放出
・目的の重要な要素は市場の安定であって、価格の
国家備蓄
コントロールではない
※緊 急 時 に は、IEA は、 産 油 国(OPEC お よ び 非
協会備蓄
チェコ
エストニア
ベルギー
ドイツ
OPEC)、IEA 非加盟の消費国とも緊密に連携し
ハンガリー
て対応
日本
ニュージーランド
オーストリア
デンマーク
ポルトガル
フィンランド
スペイン
フランス
オランダ
アイルランド
(3)IEA 加盟国の石油備蓄制度
アメリカ
韓国
ポーランド
スロバキア
IEA 加盟国には、義務となっている純輸入量 9 0
イタリア
日分の備蓄を行うため、下記の備蓄制度がある。
①国家備蓄:緊急時対応のために一般的に政府資金
ルクセンブルク
ギリシャ
ノルウェー
スウェーデン
により備蓄する方式
一般的に、政府の税収を原資として、政府が直
スイス
②協会備蓄:公的あるいは民間企業により設立され
イギリス
民間備蓄
接あるいは備蓄機関を通じて備蓄基地と備蓄石油
を保有し、運営を行うシステム。
トルコ
(注)記載のない豪州、カナダは民間会社の商業在庫のみ。
出所:IEA ホームページ掲載“Energy Supply Security 2014”を基に作成
た Agency による備蓄方式
図6 IEA 加盟国の石油備蓄制度
一般的に、法律に基づいて設置される公的な協
会備蓄実施機関が中心となり、業者負担金によって備
蓄事業を推進するシステム。その法的な立場やシステ
ムは、各国の市場構造や考え方の違いにより少しずつ
備蓄制度とも呼ばれる。
(注)IEA は、国家備蓄と協会備蓄を「公的備蓄」として
いる。
異なっている。
③民間備蓄:民間会社が義務的に備蓄、あるいは商業在
庫として備蓄する方式
なお、制度としては上記のようにイメージがまとめら
れるが、各国の制度を詳細に見ていくと、その消費量、
一般的に、法律に基づいて備蓄義務を課された石油
地質(例えば、岩塩ドーム貯槽をつくることが可能な岩塩
企業等の民間企業が、規定されたある一定水準以上の
ドームの有無、地下岩盤貯槽をつくることが可能な岩盤
備蓄量を自らの施設と費用で保有するシステム。企業
の有無や規模など)
、財政等の要因でさまざまな部分が異
2016.7 Vol.50 No.4 38
際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機
JOGMECの石油備蓄に関する国際協力 -国
関との連携協力と、
国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み-
なっている。そのため、筆者が過去に欧州の備蓄機関関
日本の近隣にあること、備蓄規模が大きいことなどから、
係者と話していた際には、先方から「1 0 カ国あったら、
米国と年 1 回、韓国とおおむね年 3 回、各国の備蓄機関
備蓄制度は 1 1 種類ある」
という冗談が出たほどだった。
と定期的に 2 国間協議を行って連携を強化し、政策・技
術動向に関する情報交換や連携を平時より強力に推進し
(4)JOGMEC の IEA と ACOMES 会合への参加によ
る連携協力への取り組み
ている。また、人的交流の拡大、知見の共有などを通じ
て更なる関係強化、ネットワークの充実を図ることで、
① IEA の緊急時問題常設作業部会
(SEQ)
への参加
日本のエネルギー安全保障向上に貢献すべく取り組みを
IEA が原則年 3 回開催する SEQ への参加を通じて
行っている。
IEA との連携協力を推進し、わが国のプレゼンスを高
め、石油市場および石油備蓄に係る各国の情報を入手
し、
国際協調に基づく緊急時対応への即応能力の維持・
向上を図っている。
①米 国 米 国 エ ネ ル ギ ー 省(DOE:Department of
Energy)との定期協議
IEA 加盟国であり世界最大の石油備蓄、国家石油備
② ACOMES 総会と分科会への参加
蓄保有国である米国のエネルギー省(DOE)との定期
世界石油備蓄機関年次会合(ACOMES)
(3 0 カ国参
協議を年 1 回開催し、両機関の業務効率性・機能性向
加)が原則年 1 回開催する総会に加え、分科会への参加
を通じて参加各国の石油備蓄実施機関との連携協力を
上に貢献している。
JOGMEC と DOE の 2 国間交流は石油公団の時代に
推進し、わが国のプレゼンスを高め、石油市場と石油
開始され、2 0 0 0 年頃まで技術定期協議を行ってきた。
備蓄に係る各国の情報を入手し、わが国石油備蓄事業
2 0 0 4 年の JOGMEC 設立後は、意見交換、DOE 主催
の効率的な運営に貢献するとともに、国際協調に基づ
の石油備蓄シンポジウムへの参加等を通じて両機関の
く緊急時対応への即応能力の維持・向上を図っている。
連携強化を図り、その後、数年前から年 1 回の協議を
〈参考〉世 界 石 油 備 蓄 機 関 年 次 会 合(ACOMES:
再開している。
Annual Coordinating Meeting of Entity
Stockholders)参加国(3 0 カ国)
:オーストリア、
国家備蓄
ベルギー、ブルガリア、中国、クロアチア、キ
a. 戦略石油備蓄(SPR:Strategic Petroleum Reserve)
プロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィ
世界最大の国家原油備蓄。1 9 7 3 年から 1 9 7 4 年に発
ンランド、仏、独、ハンガリー、アイルランド、
生した第 1 次石油危機を受けて創設され、メキシコ湾岸
伊、イスラエル、日本、ラトビア、リトアニア、
地域の巨大な地下の岩塩ドーム(ソルトドーム)内につく
ルクセンブルク、マルタ、蘭、ポーランド、ポ
られた貯槽をもつ 4 基地(テキサス州 2 基地、ルイジアナ
ルトガル、韓国、スロバキア、スロベニア、ス
州 2 基地)に原油が備蓄されており、米国が IEA による
ペイン、スイス、米
(アルファベット順)
備蓄義務を達成するための重要な手段となっている。メ
キシコ湾岸には、5 0 0 以上の岩塩ドームが集中して存在
(5)JOGMEC が 2 国間で定期協議を行っている IEA
加盟国
し、安全かつ安価な石油貯蔵が可能であるとされている。
また、メキシコ湾岸は、米国内でも多くの製油所やタン
上記のように、IEA 加盟国 2 9 カ国のうち国家備蓄制
カー、パイプラインなどの配送拠点となっていることか
度があるのは 6 カ国(日、米、韓、ポーランド、チェコ、
ら基地の立地地点として選定されている。1 9 7 7 年、米
ニュージーランド)である。JOGMEC では、このうち、
国政府は最初の備蓄基地用にいくつかの既存の岩塩ドー
表1 米国の石油備蓄概要
備蓄量合計
国家備蓄
(エネルギー省が管理)
約20億バレル(2016年4月1日時点)
・SPR(原油)
:約7億バレル(国家石油備蓄基地4基地は全て岩塩ドーム貯槽)
・北東部ホームヒーティングオイル備蓄:100万バレル(地上タンクを借り上げ)
・北東部ガソリン備蓄:100万バレル(地上タンクを借り上げ)
民間備蓄
約13億バレル
(備蓄義務なし:商業在庫のみ) 〈内訳〉原油:約5億バレル、製品:約8億バレル
出所:DOE エネルギー情報局(EIA)ホームページ、DOE ホームページ
39 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
表2 米国 SPR 備蓄基地概要
基地名
場所
備蓄量
岩塩ドーム貯槽数
Bryan Mound
テキサス州
約2.45億バレル
20
Big Hill
テキサス州
約1.62億バレル
14
West Hackberry
ルイジアナ州
約2.13億バレル
22
Bayou Choctaw
ルイジアナ州
約0.73億バレル
7
出所:DOE ホームページ
SPR Storage Sites
Bayou
West Choctaw
Hackberry
Big Hill
Bryan
Mound
Gulf of Mexico
出所:DOE ホームページ
図7 米国 SPR 備蓄基地位置図
ム貯槽を入手し、同年に最初の地上施設の建設と最初の
に支障が出たことを踏まえ、2 0 1 4 年に創設された
(DOE
原油備蓄を開始した。
ホームページ)。
b.北東部ホームヒーティングオイル備蓄(NEHHOR :
②韓 国 韓 国 石 油 公 社(KNOC:Korea National Oil
Northeast Home Heating Oil Reserve)
Corporation)との定期協議
一般家庭などがヒーティングオイルに大きく依存して
アジアでは、日本と韓国のみが IEA 加盟国であり、
いる米国北東部地域向け超低硫黄ディーゼルであり、備
連 携 強 化 が 極 め て 重 要 と な っ て い る。JOGMEC と
蓄量は 1 0 0 万バレル。この地域では、家庭の約 8 0 %に
KNOC は 1 9 8 0 年代頃から交流を開始し、2 0 0 4 年に双
相当する約 6 2 0 万家庭がヒーティングオイルを利用して
方の情報交換などを目的とした MOU を締結。2 0 0 7 年
おり、供給途絶に特に脆弱な地域となっていることに対
に戦略協力協定(SAA:Strategic Alliance Agreement)
応して 2 0 0 0 年に創設された。
を締結して更なる関係強化を図り、以後この協定に基づ
ぜいじゃく
く定期協議をおおむね年 3 回実施、両機関の業務の効率
c.北 東 部 ガ ソ リ ン 備 蓄(NGSR:Northeast Gasoline
Supply Reserve)
性、機能性を高めるとともに、アジア諸国の備蓄協力体
制整備に向けて両国で協力して貢献している。
ハリケーンなどの自然災害を原因とするガソリン供給
韓国政府は、1 9 7 0 年代に発生した 2 度の石油危機が
途絶に特に脆弱な米国北東部地域の消費者向けに創設さ
韓国経済と国民生活に大きな動揺を与えたことを踏ま
れたガソリン備蓄。備蓄量は 1 0 0 万バレル。2 0 1 2 年の
え、次の危機を防ぐため、韓国石油開発公社(PEDCO:
ハリケーン・サンディーでは、広い地域でガソリン供給
Korea Petroleum Development Corporation)を 1 9 7 9 年
2016.7 Vol.50 No.4 40
際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機
JOGMECの石油備蓄に関する国際協力 -国
関との連携協力と、
国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み-
表3 韓国の石油備蓄概要
約1.76億バレル(2013年4月末時点)
備蓄量合計
国家備蓄
(KNOCが管理)
約0.9億バレル(0.93億バレル:2016年3月時点〈KNOCホームページ〉)
〈内訳〉原油:86%、製品:14%
(参考:9国家備蓄基地の容量のうち、約9割は原油用、約7割は地下岩盤貯槽)
民間備蓄
(備蓄義務)
原油精製業者:販売量40日分
LPG輸入業者等:販売量30日分
約0.86億バレル
〈内訳〉原油:43%、製品57%
出所:IEA ホームページ掲載“Energy Supply Security 2014”、KNOC ホームページ
出所:KNOC ホームページ
図8 韓国の国家石油備蓄基地の位置と容量等概要
に設立(1 9 9 9 年に KNOC に名称変更)
。KNOC は国家石
LP ガスは常温常圧下では気体だが、冷却または加圧
油備蓄を担当し、管理している備蓄基地は 9 基地、合計
により液体になり、液体になると気体時の体積の約 2 5 0
貯蔵容量は約 1 億 4,6 0 0 万バレル、2 0 1 6 年 3 月時点の国
分の 1 になる。冷却して液化する温度はプロパンが氷点
家備蓄量は 9,3 0 0 万バレル
(KNOC ホームページ)
。
下約 4 2 ℃、ブタンが同約 0.5 ℃である。常温で加圧して
液化する圧力はプロパンが約8.5気圧、
ブタンが約2.1気圧。
〈参考〉
日
本の石油備蓄と石油ガス
(LPガス)
備蓄の概要
なお、メタン(CH4)を主成分とする天然ガスも常温常
LP ガス
(LPG)
とは、Liquefied(液化)Petroleum(石油)
圧 下 で は 気 体 だ が、 液 化 し た も の は LNG(Liquefied
Gas(ガス)の頭文字をとった液化石油ガスの略称で、石
Natural Gas:液化天然ガス)と呼ばれ、天然ガスは氷点
油ガスとも呼ばれる。プロパン(C3H8)とブタン(C4H1 0)
下約 1 6 2 ℃まで冷却すると液体になり、液体になると気
を主成分とする炭化水素で、主成分がプロパンの場合は
体時の体積の約 6 0 0 分の 1 になる。
プロパンガス、ブタンの場合はブタンガスと呼ばれる。
41 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
国家備蓄原油は、10カ所の国家石油備蓄基地に貯蔵するほか、借り上げた民間石油タンク
(製油所等)にも貯蔵。
国家備蓄基地
むつ小川原
(地上タンク)
北海道共備
沖縄石油基地(OCC)
苫小牧東部
秋田
民間タンク借り上げで国家備蓄
沖縄ターミナル(OTC)
石油を貯蔵している基地
新潟共備
昭和シェル・新潟東港
上五島
(洋上タンク)
白島
福井
西部石油・山口
三菱商事・小名浜
久慈
(地下岩盤タンク)
鹿島石油・鹿島
富士石油・袖ケ浦
串木野
JX・喜入
JX・大崎
菊間
志布志
出光興産・愛知
JX・知多
(※)産油国共同備蓄:わが国のタンクに産油国国営石油会社(NOC)が保有する在庫で、危機時にはわが国企業が優先供給を受けることが保証され
ている。
エネルギー基本計画(平成 26〈2014〉年閣議決定)
では「第3の備蓄」
と位置付けられている。
出所:経済産業省ホームページ掲載 平成 28(2016)年 2 月 16 日総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会資料
図9 わが国の国家備蓄石油の貯蔵場所(原油)
表4 日本の石油備蓄概要
備蓄量合計
約5.2億バレル(IEA基準日数:166日分)
国家備蓄
約3.1億バレル(IEA基準日数:98日分)
〈内訳〉原油:約3億バレル(JOGMECが管理)、製品:約0.09億バレル(民間石油会社等
が管理)
民間備蓄
約2億バレル(IEA基準日数:66日分)
〈内訳〉原油約1億バレル、製品約1億バレル
産油国共同備蓄(原油)
約0.09億バレル(IEA基準日数:3日分)
(参考:UAE〈アラブ首長国連邦〉、サウジアラビアとの間で2009年以降開始)
(注 1)民間備蓄義務量は「石油の備蓄の確保等に関する法律」に基づき、国内の消費量を基に計算した 70 日分で、2016 年 3 月末現在の保有
量は 81 日分。
(注 2)IEA 基準日数は試算で参考値(暫定値)。IEA 公表の数字とは必ずしも一致しない。
出所:経済産業省資源エネルギー庁ホームページ掲載「石油備蓄の現況」2016 年 5 月(2016 年 3 月末現在)および同省ホームページ掲載 平
成 28(2016)年 2 月 16 日総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会資料を基に作成
七尾(石川県)
施設容量:25万トン
備蓄方式:地上低温
倉敷(岡山県)
施設容量:40万トン
備蓄方式:地下常温
福島(長崎県)
施設容量:20万トン
備蓄方式:地上低温
地上
波方基地
(上:地上設備、
下:地下岩盤貯槽)
七尾基地
地上
地上
地下
地下
波方(愛媛県)
施設容量:45万トン
備蓄方式:地下常温
神栖( 城県)
施設容量:20万トン
備蓄方式:地上低温
出所:経済産業省ホームページ掲載 平成 28(2016)年 2 月 16 日総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会資料
図10 わが国の国家備蓄 LP ガスの貯蔵場所
2016.7 Vol.50 No.4 42
際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機
JOGMECの石油備蓄に関する国際協力 -国
関との連携協力と、
国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み-
表5 日本の石油ガス(LP ガス)備蓄概要
備蓄量合計
288万8,000トン
国家備蓄
115万トン(日数:40.8)
(JOGMECが管理)
民間備蓄
173万8,000トン(日数:61.7)
(注)LP ガス民間備蓄は、
「石油の備蓄の確保等に関する法律」に基づき、LP ガス輸入業者に対して、年間輸入量の 50 日分に相当する量の備
蓄を義務付けることにより実施している。
出所:経済産業省資源エネルギー庁ホームページ掲載「LP ガス備蓄の現況」2016 年 5 月(2016 年 3 月現在)
体制移行前
①国家備蓄石油
体制移行後
(2004〈平成16〉年2月29日以降)
石油公団
国家備蓄会社
資産の所有者 ②国家備蓄基地施設(石油公団70%出資)
③国家備蓄基地用地
国
石油公団
国家備蓄の実施主体
石油公団
国家備蓄基地の操業
国家備蓄会社
国
(JOGMECが統合管理※)
JOGMECから操業会社
(民間などが出資)
に操業委託
※国家備蓄の統合管理とは・
・
・
統合管理業務とは、
ただ単に国家備蓄石油や国家備蓄基地そのものを維持管理
するだけではなく、石油備蓄に要する費用の低減化の検討、災害時の対応、緊急
放出時の迅速な対応のための仕組みづくり等、国が単独ではできない石油備蓄に
関するあらゆる業務のこと。
(注)この図での「国家備蓄石油」とは原油、石油ガスを指す。
出所:JOGMEC ホームページ掲載 パンフレット「石油の備蓄」
図11 日本の国家石油備蓄に係る体制移行
3. 国
際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み
日本のエネルギー安全保障上、アジア地域の石油備蓄
8
体制強化は極めて重要である。これを踏まえ、JOGMEC
4
も連携しつつ石油備蓄体制整備への協力、働きかけを強
2
力に推進してきた。また、石油消費量で米国に次ぐ世界
0
第 2 位となって世界の石油市場で極めて大きな存在とな
-2
り石油備蓄も意欲的に拡大しつつある中国に対して日本
図12 ASEAN fossil fuel production and trade
43 石油・天然ガスレビュー
Oil
6
は、アジア諸国、とりわけ ASEAN 諸国に対して IEA と
(注 1)2013 年に記載されているデータは 2014 年の数字。
(注 2)東南アジアは海運および航空の重要なハブであるため、石油の需
要量に占める国際交通用燃料であるバンカー油の割合が他の地域
よりも高い。そのため、World Energy Outlook の作成では通常は
地域の需要分析から除外されているバンカー油について、この東
南アジアの需要見通しには含めている。
出所:IEA ホームページ掲載“ South East Asia Energy Outlook 2015”
百万バレル/日
-4
-6
-8
2000 2013 2025 2040
Production
Demand
Southeast Asia net trade by fossil fuel
Oil(mb/d)
Import dependency
2013年*
-3.3
57%
2020年
-4.1
61%
2025年
-5.0
70%
年
Net trade
2030年
-5.8
75%
2035年
-6.4
78%
2040年
-6.7
79%
アナリシス
ミャンマー:
備蓄義務:なし
輸入量の50日分相当程度を保有
Myanmar
Malun
Lao PDR
Thanbayakan
Prome
Yangon
タイ:
備蓄義務:消費量の43日分
緊急時用備蓄を消費量の
90日分相当まで引き上げ
ることをコミットしている
ベトナム:
備蓄義務:消費量の30日分
マスタープランでの目標:輸入量の90日分相当
ラオス:
備蓄義務:輸入量の15日分
Crude oil pipeline
Hainan
(China)
Vinh
Vientiane
Refinery
Sanya
Tanker terminal
Philippine Sea
Thanlyn
Thailand
Dung Quat
Bangkok
Sri Racha
Rayong
Andaman Sea
Vietnam
Cambodia
Km
Subic Bay Manila
Limay
Batangas/Tabangao
0
450
900
Philippines
South China
Sea
Phnom Penh
Gulf of
Thailand
Major oil field
Luzon
Ba Ria
Ho Chi
Vung tau
Minh City
フィリピン:
備蓄義務:
精製業者-15日分
輸入業者-7日分
Cebu Leyte
Con Son Basin
Pacific Ocean
Sulu Sea
Arun
カンボジア:
備蓄義務:消費量の30日分
Kuala Beukah
Brunei
Malaysia
Natuna Sea
Pt. Dickson
Melaka
Dumai
Sungai Pakning
Lafeng
ブルネイ:
備蓄義務:製品輸入量の31日分
緊急時には、政府は石油産業
保有の石油全量をコントロー
ル下に置くことが可能
Natuna
Kuala Lumpur
Pangkalan Brandan
Labuan Isl.
Bandar Seri Begawan
Lumut
Kerteh
Singapore
Celebes Sea
Bintulu
Sarawak
(Malaysia)
Manado
Borneo
Bontang/Santan
Kalimantan
Sungaisalak
Balikpapan
Sumatra
Molucca Sea
Senipha
Salawati
Kasim
Lawi Lawi
Musi
Muturi
Arandai
Palembang
Plaju/Sungeigerung
Irian Jaya
JavaSea
マレーシア:
備蓄義務:なし
緊急時には、首相はPetronas
の在庫を完全にコントロール
する指示を出すことが可能
Balongan
Jakarta
Ciberon
I
n
d
o
n
e
s
i
a
Surabaya
Cepu Poleng
Cilacap Java
Bali
Flores
シンガポール:
備蓄義務:電力会社はバック
アップ用燃料90日分
Banda Sea
Dili
Timor
East Timor
インドネシア:
備蓄義務:なし
Pertaminaは、操業在庫とし
て、消費量の約22日分を保有
出所:IEA ホームページ掲載“Energy Supply Security 2014”を基に作成
図13 ASEAN 諸国の石油備蓄の現状
の知見・技術を共有することによって、ア
ASEAN+3
首脳会合
ジアの石油備蓄体制を含む石油セキュリ
ティ強化、アジアワイドでの石油セキュリ
ティ構築への取り組みを行う計画である。
エネルギー大臣会合
(1)ASEAN 諸国の石油需給見通しと石
高級事務レベル会合
油備蓄の現状
ASEAN 諸国の石油需給見通しは、図12
が示すように、2 0 0 0 年頃まで域内の石油
生産と消費は概してバランスが取れていた
が、その後は消費の急増と生産の減少で輸
入依存度が急速に高まっていく見通しと
なっている。
しかし、ASEAN 諸国の石油備蓄の現状
エネルギーセキュリ
ティフォーラム
石油市場・天然ガス
フォーラム
新エネ・省エネ・再生可能
エネルギーフォーラム
石油備蓄WG
出所:経済産業省ホームページ掲載 平成 26(2014)年 4 月 28 日 総合資源エネルギー調
査会 資源・燃料分科会 石油・天然ガス小委員会 資料
図14 ASEAN+3 エネルギー協力枠組みと石油備蓄 WG
は、図 1 3 のとおり IEA 備蓄基準(純輸入
量の 9 0 日分)に比べて低い水準にあり、石
油セキュリティ構築のために備蓄体制を整備する必要が
高まっている。
(ワーキンググループ)」が設置された。この WG では、
ASEAN のエネルギー関連機関である ACE(ASEAN
Center for Energy)と JOGMEC が共同事務局を担当し
(2)ASEAN+3(日中韓)エネルギー協力枠組みと石
油備蓄 WG
ている。
「石油備蓄 WG」 では、2 0 0 8 年から 「ASEAN+3 石油備
こうした状況下、2 0 0 2 年に日本が提案した 「日中韓
蓄ロードマップ」(OSRM:Oil Stockpiling Roadmap)の
ASEAN エネルギー協力(平沼イニシアチブ)
」 に基づき、
検討を開始し、これは 2 0 1 0 年の ASEAN+3 エネルギー
ASEAN+3 エネルギー大臣会合の下に「石油備蓄 WG
大臣会合で、ASEAN 各国の石油備蓄の長期的な取り組
2016.7 Vol.50 No.4 44
際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機
JOGMECの石油備蓄に関する国際協力 -国
関との連携協力と、
国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み-
み方針で自主的かつ拘束力のない非公表目標として承認
の石油備蓄政策の説明、久慈国家石油備蓄基地と製油
された。その後、ASEAN 各国は、その目標設定や進捗
所への視察を受け入れ、カンボジアが検討中の石油備
度に差はあるものの、目標達成に向けた努力を続けてい
蓄マスタープラン策定に資するよう日本の知見・技術
る。JOGMEC は、共同事務局として毎年 WG を開催し、
を共有し、次官を含めカンボジア側から極めて高い評
ASEAN 各国の進捗情報の共有、日中韓からの知見の共
価を受けた。
有などを行ってきている。
石油備蓄ニーズ調査の実施
(3)JOGMEC による ASEAN 諸国の石油備蓄体制整
本調査は、カンボジア・鉱業エネルギー大臣からの
備への協力、働きかけ
要請を受け、鉱業エネルギー省と JOGMEC の間で覚
以上のように、JOGMEC は、石油備蓄 WG の共同事
書を締結して実施したもの。調査は、招へいした担当
務局として、また、経済産業省資源エネルギー庁との協
次官から直接要請を受けた内容を実施した。2 0 1 5 年
力により日本として、ASEAN 諸国の石油備蓄体制整備
3 月、プノンペンで次官、局長他が参加した成果報告
への協力、働きかけを強力に推進しているが、平成 2 6
会を開催し、カンボジアの石油備蓄マスタープラン策
年度と平成 2 7 年度の主な実績を以下
に示す。
①平成 2 6 年度実績
a.石油備蓄 WG 共同事務局としての現
地調査
(初めての取り組み)
ASEAN 各国の石油備蓄の現状把握
とロードマップへの取り組みのフォ
ローアップを目的として、石油備蓄
WG の共同事務局である JOGMEC と
ACE が共同で初の現地調査を実施し
た。各国の石油備蓄担当省庁幹部他か
ら進捗状況を直接聴取するとともに、
日本の石油備蓄の経験の共有等を実施
し、各国の石油備蓄制度構築の検討に
大きく寄与した。
・ 8 月:カンボジア、ラオス、フィ
出所:JOGMEC 撮影
ラ オ ス の 担 当 省 庁(Ministry of Energy
写1 and Mines)での協議の際に(前列左端が筆者)
リピン
・ 1 2 月:ベ ト ナ ム、 ミ ャ ン マ ー、
インドネシア
b. 日本としての協力
2国間協力
(初めての取り組み)
-カン
ボジア
同国鉱業エネルギー省(Ministry of
Mines and Energy)石油総局(General
Department of Petroleum)
との間で下
記の協力を行った。
担当次官の招へい
2 0 1 4 年 1 1 月、担当のティナ次官
を含む 3 名を日本に招へいして日本
45 石油・天然ガスレビュー
出所:JOGMEC 撮影
写2 課長級研修の志布志国家石油備蓄基地視察
アナリシス
定に必要なデータや考え得る政策オプションを提言
Energy(ACE:石油備蓄等 ASEAN エネ
し、カンボジア側から極めて高い評価を受けた。
ルギー協力の事務局)、ASEAN Council
on Petroleum(ASCOPE:石油供給途絶
②平成 2 7 年度実績
時におけるASEANの緊急時対応事務局)
日本としての協力
・場所:JOGMEC、経済産業省
Ⅰ)A
SEAN 諸国のための石油セキュリティ構築支援研修
・視察先:苫小牧東部国家石油備蓄基地、出光興産
(初めての取り組み)
株式会社北海道製油所等
本研修は、ASEAN 側から 2 0 1 4 年 2 月に開催された
ASEAN における石油備蓄のあり方や石油供給途
ASEAN+3 石油備蓄 WG などで、石油備蓄に関する人材
絶時の対応などについて現状の課題や今後の協力の
育成研修開催の要望が出されたことを踏まえ、アジア地
方向性についての意見交換等も行った。
域の石油セキュリティ向上を目指して ASEAN 諸国の人
課長級
材育成研修として初めて実施した取り組みである。初め
・実施期間:1 1 月 1 6 ~ 2 0 日
て開催した 2 0 1 5 年度には、ASEAN 各国の石油政策を
・参加者:ASEAN 各国の石油政策を担当する課長
担当する省庁幹部に対して、局長級
(6 月)
、課長級(1 1 月)
級幹部 8 名(カンボジア、インドネシア、
の 2 度、研修を行い、日本の石油政策、石油分野におけ
ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィ
る対 ASEAN 協力事業、国際機関が協働して整備を進め
リピン、タイ、ベトナム)
ている石油の統計データベースなどに関する研修に加
・場所:JOGMEC、経済産業省
え、国家石油備蓄基地、製油所等の現地視察受け入れな
・視察先:志布志国家石油備蓄基地、串木野国家石
どを行った。
油備蓄基地、JX エネルギー株式会社根
2 0 1 5 年 1 0 月に開催された ASEAN+3 エネルギー大臣
岸製油所、JX 喜入石油基地株式会社喜
会合での大臣共同声明では、下記のとおり本研修(局長
入基地
級)に対する感謝、フォローアップ活動としての本研修
ASEAN における石油備蓄のあり方や石油備蓄の
(課長級)の実施を歓迎する旨が盛り込まれ、ASEAN 側
構築に向けた取り組み状況、現状の課題や今後の協
から極めて高い評価を受けた。この大臣共同声明では、
力の方向性についての意見交換等も行った。この課
OSRM 事務局(JOGMEC と ACE)による石油備蓄 WG の
長級研修は、6 月に実施した局長級研修を通じて得
運営に対する感謝も盛り込まれた。
られた参加国のニーズも踏まえて、開催したもの。
Ⅱ)2 国間協力-カンボジアに対する「石油備蓄に係る
局長級
法令ニーズ調査」の実施
・実施期間:6 月 1 5 ~ 1 9 日
・参加者:ASEAN 各国の石油政策を担当する局長
2 0 1 5 年度の石油備蓄ニーズ調査は、カンボジアに対
級幹部 7 名
(カンボジア、ラオス、マレー
して 「石油備蓄に係る法令ニーズ調査」 を実施した。この
シア、ミャンマー、フィリピン、タイ、
調査は、カンボジア側の要請に基づき、JOGMEC が経済
ベトナム)
、IEA、ASEAN Center for
産業省資源エネルギー庁と協力して日本の石油備蓄等に
表6 ASEAN+3 エネルギー大臣会合での大臣共同声明(抜粋)
共同声明(仮訳)
第 12 回 ASEAN+3(中、日、韓)エネルギー大臣会合
2015 年 10 月 8 日、マレーシア・クアラルンプール
6. 石油備蓄に関し、大臣は、(略)2015 年 5 月 18 日にインドネシアのジャカルタにおいて第 3 回 ASEAN+3・
石油備蓄ロードマップ(OSRM)ワークショップを運営した OSRM 事務局(ASEAN エネルギーセンター〈ACE〉
と JOGMEC)の努力に感謝した。大臣は、また、2015 年 6 月 15 ~ 19 日に、東京において局長級向けの石
油セキュリティ構築支援研修を運営した日本に感謝した。当該研修において、参加者は、日本の石油政策およ
び緊急時対応方法に関し、情報を交換し、現在の課題と将来の協力の方向性等を議論した。
7. 今後の方向性として、大臣は、2015 ~ 2016 年の以下のフォローアップ活動を歓迎した。(略)(e)課長級向
けの石油セキュリティ構築支援研修。
出所:経済産業省ホームページ
2016.7 Vol.50 No.4 46
際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のためのIEAや諸外国の備蓄実施機
JOGMECの石油備蓄に関する国際協力 -国
関との連携協力と、
国際協力の推進による日本のエネルギー安全保障向上への取り組み-
係る法制度の知見等を共有することにより、カンボジア
JOGMEC は 2 0 1 6 年 3 月、カンボジア・プノンペンで、
の石油備蓄体制整備等における大きな課題である法制度
経済産業省資源エネルギー庁と協力して成果報告会を開
の構築に向けた協力を行うことを目的としたもの。2 0 1 5
催。この報告会では、「揮発油等の品質の確保等に関す
年11月にJOGMEC渡辺理事とカンボジア鉱業エネルギー
る法律」「石油の備蓄の確保等に関する法律」、日本の国
省・スイセン大臣の間で「石油備蓄に係る法令ニーズ調
家石油備蓄基地の建設・操業の概要等について説明を
査の実施に関する協力覚書」
を締結して実施した。
行った。カンボジアでは、ポテンシャルがあるとして行
われている石油開発を対象とした法令は
存在するが、石油需要の増加に伴うガソ
リンスタンドの増加などの供給体制に見
合った法令の整備は十分にはなされてこ
なかった。これについては、鉱業エネル
ギー省が関連法令の整備を進めていると
ころで、報告会にはカンボジア側から鉱
業エネルギー省石油総局局長を含めて法
令整備担当者 2 0 名程が参加した。
カンボジア側からは、日本側の担当者
から直接詳細な説明を受けるとともに質
疑応答の機会が得られたこと、関連法令
の整備に今回の報告会で得られた成果が
有効活用できることなどについて極めて
高い評価が得られた。
出所:JOGMEC 撮影
写3 カンボジアでの現地成果報告会の開催状況
ど くざ ん し
独山子基地(地上)
容量:300 万㎥
今回の「法令ニーズ調査」は、2 0 1 5 年 6
月に実施した ASEAN 諸国のための石油
天津基地(地上)
容量:320 万㎥
大連基地(地上):第 1 期
容量:300 万㎥
こうとう
黄島基地(地上):第 1 期
容量:320 万㎥
黄島基地(地下岩盤)
容量:300 万㎥
しゅうざん
舟山基地(地上):第 1 期
容量:500 万㎥
鎮海基地(地上):第 1 期
容量:520 万㎥
蘭州基地(地上)
容量:300 万㎥
2015年半ば現在、
地図上の国家石油備蓄基地8カ所
(総備蓄容量2,860万㎥)
が完成。
この8カ
所と一部の民間タンクを利用して2,610万トン
(1億9,000万バレル程度)
の原油が貯蔵されている。
出所:中国国家統計局公表内容(ホームページ掲載)(2014 年 11 月 20 日、2015 年 12 月 11 日)を基に作成
図15 中国の国家石油備蓄基地と国家石油備蓄量
47 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
セキュリティ構築支援研修(局長級)に参加したカンボジ
されている。
ア側局長からの要請を受けて行い、報告会には同局長や
JOGMEC は、このように、IEA 非加盟国ではあるが、
1 1 月に実施した同研修(課長級)に参加した課長などが参
世界の石油市場で極めて大きな存在となっている中国の
加するなど JOGMEC が実施しているカンボジアへの協
国家石油備蓄機関 NORC と 2 0 0 7 年の設立以降関係を構
力・働きかけによる関係構築が極めて効果的なニーズ把
築して日本の知見・技術の共有などを行って連携強化に
握と成果に直結した。
努めてきた。2 0 1 6 年度には、石油備蓄に関する更なる
具体的な協力の方策を検討しているところである。
(4)JOGMEC に よ る 中 国 国 家 石 油 備 蓄 セ ン タ ー
(NORC:National Oil Reserve Center)との
協力
(5)ASEAN 等海外エネルギー関係者の日本の国家石
油備蓄基地への受け入れ
既述のように、中国は、2 0 1 4 年に米国に次ぐ石油消
ASEAN 等海外からのエネルギー関係者を先方のニー
費量世界第 2 位で世界の消費の 1 2.4 %を占め、また、
ズに応じて、石油、石油ガス備蓄基地に受け入れ、わが
IEA の World Energy Outlook 2 0 1 5 の展望では 2 0 3 0 年
国の石油、石油ガス備蓄制度や安全管理などの取り組み
代までに米国を抜き世界最大の石油消費国になると予想
などを紹介し、国際協力を推進している。
まとめ
石油公団が日本の国家石油備蓄基地の建設および操業
IEA や諸外国の備蓄実施機関との連携協力、国際協力の
などを通じて培った石油備蓄に関する経験と実績は、
推進による日本のエネルギー安全保障の向上に強力に取
JOGMEC に引き継がれている。こうした蓄積の下、日
り組んでいる。
本の 1 次エネルギーのうちで今後も重要な位置を占め続
JOGMEC は、今後とも、IEA とも連携しつつ ASEAN
ける石油と石油ガスのエネルギー安全保障について、そ
諸国、中国等のアジア諸国に対して日本の知見や技術の
の備蓄業務を通じて貢献していくことが JOGMEC の重
共有などによる石油備蓄体制整備への協力、働きかけを
要なミッションである。
強力に推進し、日本を含むアジア地域のエネルギー安全
これまで繰り返し述べてきたように、JOGMEC は国
保障の向上に取り組んでいく計画である。
際協調に基づく石油供給途絶時への適切な対応のための
【参考文献】
1. エネルギー白書各年
2. IEA ホームページ
執筆者紹介
石澤 英俊(いしざわ ひでとし)
学 歴:慶應義塾大学法学部法律学科卒業。Arthur D. Little School of Management 修了。
職 歴:1993 年石油公団入団後、石油開発、石油備蓄、技術センター建物管理等を担当。経済産業省資源エネルギー庁に出向して資
源・燃料部石油流通課、外務省に出向して在イラン日本大使館にそれぞれ勤務。経済産業省資源エネルギー庁に派遣され、
資源・燃料部政策課で鉱業法改正に従事。
趣 味:合気道初段。2005 年春から 2008 年秋まで駐在したイランでは日本の武道に人気があり、現地で合気道の稽古にも参加。
近 況:家族での博物館や公園巡り、スポーツ観戦など。
2016.7 Vol.50 No.4 48