クリティカル・シンキングとは何か?

クリティカル・シンキングとは何か?
教育基礎講座 宮元博章氏らのまとめをもとにして
成田滋
クリティカル・シンキングとは何か?
定義はいろいろある。人の信念、目的、偏見、状況によって固有の解釈や表現が可
能なため、定説はない。
Critical Thinking(CT) 批判的思考
−−ものごとを鵜呑みにせず,自分の頭で,しかも,きちんしたやり方で考えること−−
これが重要だということは誰でも知っているし,多くの教育関係者が主張している。
問題は,それが具体的にはどのような考え方なのかを明示し,どうすればそれが可
能かを考えること。
「情報の活用」ということに関連づけて言えば「メディア・リテラシー」の中核的要素か。
また,「異文化理解」「環境教育」「福祉」等の「総合的な学習」の主要な柱にも適用
可能。
クリティカルという言葉の語源
クリティコス(ギリシャ語:分ける,決める)
クリティカル
(1)批評, 批判
(2)揚げ足取り, ケチ付け(ネガティブな意味での批判)
(3)重大な, 決定的な
(4)臨界的な
クライテリオン−−診断,分類の基準
・狭い意味でのクリティカル・シンキング−−論理的な思考
・広い意味でのCT−−合理的, 生産的, 偏らない考え方
クリティカル・シンキングの3要素
知識・技術・態度 :3者の相互関係
統合概念としてのメタ認知の重視(メタ認知的知識とメタ認知的
コントロール)
・「技術(スキル)」重視という発想の大切さ−−態度(傾性・パー
ソナリティ)の要素も
スキルの学習と習慣づけによる行動形成を通して育成す
る。
クリティカル・シンキングの概念 その1
明確な定義はない。とらえ方の分野によって異なる。
・自身の思考の手綱を握ること−議論を分析、調査し、信頼できる情報の
ソースと正確なデータを探求し、その思考の結果として効果的な結論を提
示し、そしてその思考と結論に基づいて行動すること。
・ Ennis(1987)の一般的定義:何を信じ,何をすべきかの判断のための,
合理的な反省的 思考(reflective thinking : J.デューイの影響)
・ Smith(1994)の心理学者的発想からの定義:先入観を排し,証拠を集
め,仮説を慎重に考慮, 評価して結論に達しようとする,論理的かつ合理
的な過程
・宮元の定義:適切な根拠(事実,理論等)を基にし,妥当な推論過程を
経て,結論・判断を導き出す思考過程,あるいは, 所与の議論・主張につ
いて, その根拠や推論過程の適切さを吟味する思考過程である。
クリティカル・シンキングの概念 その2
(1) 「事実」と推論や解釈の結果である「意見」を区別すること。
(2) 根拠としての「事実」が本当に信頼できる事実なのか,また,
全体をよく代表した事実なのか を検討すること。
(3) 「推論」は妥当な論理を踏まえているか,歪んでいないか,ま
た,他の説明の可能性はないかを検討すること。
(4) 「結論」について,問題・目的からみた妥当性,現実性,有用
性を検討すること。
(5) これらの検討過程(思考プロセス)に対し,種々の心理的要
因(思考のバイアスや,状況的要因等)が影響を及ぼしている可
能性について自覚を持つこと。
クリティカル・シンキングに対する心理学からの
アプローチ
「心理学は単にその事実の集積だけではなく,世界に対する問いの立て方でも
ある。」 (Wade 1997,)
・心理学的なCTの特徴
◇論理学的(言語的)的CT:より規範理論的(妥当な考え方はどうあるべき
か) 対象は主に言語材料
◇心理学的CT:より記述理論的(人間はどう考えがちか)
対象は言説,データ,日常生活での観察,印象,行動等様々
・なぜ心理学とクリティカル・シンキングが結びつくのか?
◇明の側面:心理学は科学的方法論を基盤とする/
人間の認識過程についての豊富な知見/心理学の多様性(雑多性)/
人の日常の思考と行動が研究対象
◇暗の側面:心理学の怪しさ(マスコミに流される単純化された心理学,
独断的な解釈や仮説,統計の誤用は専門的な研究の中にも容易に入り
込んでくる)
クリティカル・シンキングのための8つのガイドラ
イン (Wade,1995;1997)
(1) 疑問を持つ
(2) 問題を定義する
(3) 証拠を検討する
(4) バイアスと仮定を分析する
(5) 感情的な推論を避ける
(6) 過度に単純化しない
(7) 他の解釈も検討する
(8) 不確かさに耐える
クリティカル・シンカーの思考の7つの特徴
(Smith,1994)
(1) 柔軟,多面的な視点で考える
(2) 人間のバイアスや仮定を認識している
(3) 懐疑主義的な態度を保つ
(4) 事実と意見を区別する
(5) 過度な単純化はしない
(6) 論理的な推論過程を踏む
(7) 根拠を吟味する
クリティカルに考えるために,また,考えさせる
ために必要な要素は?
(1) 題材が必要(各教科,日常の問題,メディアの材料)
(2) 考えるための基礎知識が必要
(3) 考えるための基礎的な型(思考法)が必要
(4) 人間の認識に関する知識が必要
(5) 練習と習慣化が必要(発問リスト等)
(6) 動機づけ,強化(報酬)が必要 −−行動形成の発想を取
り入れる
教育現場におけるクリティカル・シンキング
・生徒にとってのCT
(1) 学習のためのCT(メタ認知,スキーマの積極的利用,主体的な学習)
(2) 多様な価値・文化,大量の情報,急激な変化を遂げる現代社会の中で
生きる力,考える力を育成するためのCT−−社会的なCT
問題:知識・世界についての「基本的枠組みの獲得」という課題と「枠組
みを疑う」 という課題との兼ね合いの問題。さらに正しい解(正しい解法)
の“ある”問題と “ない”問題の別とそれに対するアプローチをどの段階か
らどの程度導入すればよいか?
・教師にとってのCT
(1) 効率的な理解と学習,生徒の自発的思考を助けるための認知的側
面について注意を喚起するものとしてのCT
(2) 生徒理解, 生徒評価における歪みの可能性, また教室内の種々
の問題の理解と解決のためのCT
クリティカル・シンキングに対する反発と誤解に
対して
・知に偏重, 屁理屈ばかり
「知」と「情」を対置させる安易な2分法を再度検討しなければならない
Warm Heart & Cool Brain
”いつでもCTは出来ない。全てを疑ってたら生きていけない。 ”
(1) 適切な文脈でCTを発動させる「メタ・CT」が必要。−−この研究が必要
(2) マイルドでプラグマティックな懐疑主義
(3) 他者に対する批判よりも,むしろ自己の思考のあり方の反省
(4) 「何でもわかるようになる,騙されないようになる」という姿勢ではなく,
エラーから 学ぶ姿勢に立つ。
(5) 価値的命題と科学的命題(広い意味での「科学」)の区別
思考の要素 - 修論にも応用
http://homepage3.nifty.com/mmsagawa/hooked/ct3.html
参考図書
クリティカル進化(シンカー)論 道田泰司・宮元博章(著) 秋月りす (漫画)
北大路書房, 1999
・クリティカルシンキング《入門篇》 ゼックミスタ ・ジョンソン(著) 宮元他
(訳) 北大路書房,1996
・クリティカルシンキング《実践篇》 ゼックミスタ・ジョンソン(著) 宮元他
(訳) 北大路書房,1997
・思考力育成への方略 −メタ認知・自己学習・ 言語論理− 井上尚美 明
治図書,1998
・超常現象をなぜ信じるのか 菊池 聡(著) 講談社ブルーバックス, 1998
・人間 この信じやすきもの ギロビッチ(著) 守・守(訳) 新曜社, 1993
・知的複眼思考法 苅谷剛彦(著) 講談社,1996
・Taking Sides: Critical Thinking for Speech, Discussion and Debate(英
語で語る日本の争点−クリティカルシンキングのすすめ−) 茂木秀昭・ 鈴木
克義・Stephen Hesse著 金星堂,2000(ただし,これは大学の一般教育
用の英語テキストなので,特別に発注が必要)
・市民のための環境学入門 安井至(著) 丸善ライブラリー, 1998
・統計でウソをつく法 ハフ(著) 高木(訳) 講談社ブルーバックス, 1968