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Spectroscopic Studies of
Transiting Planetary Systems
~分光観測に基づいたトランジット惑星系の研究~
東京大学大学院 理学系研究科
成田憲保
1/31
目次
1. 研究の背景

太陽系外惑星の多様性と惑星形成理論について
2. トランジット惑星の公転軌道傾斜角の測定

方法論:ロシター効果について

すばる / MAGNUM望遠鏡での観測について

解析結果とまとめ
3. 今後の展望
2/31
太陽系外惑星の発見方法
視線速度法
Mayor & Queloz (1995)
トランジット法
Charbonneau et al. (2000)
Marcy et al. (1997)
これらの方法で 250個 以上の太陽系外惑星が発見されている
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太陽系外惑星の多様性
惑
星
の
有
効
質
量
Jupiter
惑星の軌道長半径
Extrasolar Planets Catalog より作成
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太陽系外惑星の多様性
惑
星
の
有
効
質
量
hot Jupiters
1 AU
惑星の軌道長半径
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太陽系外惑星の多様性
Eccentric Planets
惑
星
の
軌
道
離
心
率
Jupiter
惑星の軌道長半径
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惑星軌道分布の特徴


巨大惑星が内側の軌道にある

もともとは遠くでできたはず

外側から内側への惑星の移動過程があったはず
離心率を持った惑星が多く存在する

離心率を増大させる何らかの機構があるはず
 これらの特徴を説明する理論モデルは?

惑星の形成現場(=原始惑星系円盤)にある他の天体
(円盤、他の惑星、遠くの伴星など)との相互作用
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理論的背景: hot Jupiter形成理論の例
1. diskの中で遠くでできた巨大惑星が移動してきた
 disk-planet interaction (Type II migration)
2. 惑星同士の重力散乱で内側に放り込まれた
 planet-planet interaction
 (Jumping Jupiter model, slingshot model)
3. (連星系の場合) 伴星からの摂動を受ける
 遠くの伴星による古在効果と主星の潮汐力で惑星が移動
 (Kozai migration)
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円盤との相互作用モデル (Lin et sl. 1996など)

まずsnow lineの外側で惑星のコアができる

惑星のコアはまわりのガスを集積する

惑星はまわりの円盤とのトルクの交換で内側に移動する

軌道長半径の大まかな分布を説明できる (Ida & Lin 2004)

離心率と公転軌道傾斜角は大きくならない

離心率の分布を説明できない
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惑星同士の散乱モデル

系に複数(特に3つ以上)の巨大惑星が生まれると、
惑星の軌道が不安定になり惑星が散乱される

そのうちひとつの惑星が内側に放り投げられ、また
主星のまわりに捕獲される


惑星は大きな離心率と公転軌道傾斜角を得る可能性
がある
(獲得しない可能性もある)
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伴星との相互作用モデル

遠くの伴星が惑星の軌道に摂動を加える

角運動量保存則のもとで “Kozai oscillation” が起こる


惑星の軌道は high or low の eccentricity & inclination の
状態間で振動する
惑星の軌道は主星との潮汐相互作用で内側に移動する
orbit 1: high eccentricity and inclination
orbit 2: low eccentricity and inclination
star
binary orbital plane
companion
この機構は公転軌道傾斜角が~40度以上の時に働く
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できる惑星のまとめ
1. disk-planet interaction
 離心率と公転軌道傾斜角はほとんど 0
 現在の惑星形成理論の主流
 しかし、eccentric planetは説明できない
2. planet-planet interaction
 大きな離心率と公転軌道傾斜角を持つ可能性あり
 eccentric planetの分布を説明できるかも知れない
3. planet-binary companion interaction
 この場合、必ず40度以上の公転軌道傾斜角を持つはず
 主星の潮汐力で離心率は小さくなるかもしれない
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目次
1. 研究の背景

太陽系外惑星の多様性と惑星形成理論について
2. トランジット惑星の公転軌道傾斜角の測定

方法論:ロシター効果について

すばる / MAGNUM望遠鏡での観測について

解析結果とまとめ
3. 今後の展望
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惑星形成モデルを見分ける手がかり
惑星の公転軌道傾斜角
(惑星の公転軸と主星の自転軸のなす角)
トランジット惑星系では、惑星の公転軌道傾斜角※を
ロシター効果を使って測ることができる
※:厳密にはその天球面上への射影
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トランジット惑星系
惑星の食が起こる太陽系外惑星系
Charbonneau et al. (2000)
恒星の明るさが少しだけ暗くなる
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ロシター効果について
Rossiter-McLaughlin効果 = 惑星がトランジット中に主星の自転を隠すため
見かけ上視線速度がケプラー運動によるものからずれる効果
恒星
惑星
近づく側を隠す
→ 遠ざかって見える
惑星
遠ざかる側を隠す
→ 近づいて見える
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ロシター効果の観測量
λ:主星の自転軸と惑星の公転軸のなす角
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ロシター効果とλの関係
Gaudi & Winn (2007)
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観測可能性の検討

すばる望遠鏡での観測可能性を検討

Subaru HDS Exposure Time Calculator

Ohta, Taruya, & Suto (2005)

8m級望遠鏡でロシター効果の検出が可能なのは
V ~ 12 等まで (2005年度春季年会:成田他)

2005年春の時点でのターゲット

HD209458 (V~7.7) と TrES-1 (V~11.8)
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TrES-1に挑戦する意義

(実質的に2つめのターゲット)

暗いターゲットではそれまで観測は試みられていなかった

トランジットサーベイは V ~12等級の星を対象にしている


TrES-1はトランジットサーベイで最初に見つかった惑星

今後同様の明るさのトランジット惑星系が増えると期待できる
TrES-1で成功すればロシター効果のターゲットは格段に増加
2008年1月現在のトランジット惑星系 : 35個
主星の明るさが V < 8 : 2個、 V < 12 : 20個
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観測について

暗いターゲットでは世界初の試み

すばる望遠鏡での初めての試み+同時分光測光観測
Subaru HDS
Transit前中後の視線速度を
HDS with I2 cellを用いてモニター
MUGNUM
Transit前中後の光度を
参照星と共にモニター
2006年6月21日に観測を実施
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マグナムでの測光観測

184 samples

フィルター : V

露光時間 : 40 or 60 sec

2 mmag の測光精度

トランジット中心時刻の決定
精度は~30 sec
マグナムで得られたV band光度曲線
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すばるでの視線速度観測
すばる/HDSで得られた視線速度

20 samples

波長分解能 : 45000

露光時間 : 15 min

シーイング : ~1.0 arcsec

S/N : ~ 60

Sato et al. (2002)のアルゴ
リズムで視線速度を決定

10 ~ 15 m/s の決定精度
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解析の方法

Ohta, Taruya, & Suto (2005) の公式でモデル化



Rossiter効果を含む視線速度・光度曲線を同時フィット
なるべく強い制限をつけるためpublished dataを追加

Keck 12 ( 7 + 5 ) RV samples

FLWO 1149 (3 transits) photometric samples
フリーパラメータ : 15個

K, VsinIs, λ: 主に視線速度に関係

i, uV, uz, Rs, Rp/Rs : 主に光度曲線に関係

v1, v2, v3 : 視線速度のoffset

Tc(234), Tc(235), Tc(236), Tc(238) : トランジット中心時刻
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解析の方法・続

TrES-1におけるVsinIsの制限


VsinIs = 1.08 ± 0.30 km/s (Laughlin et al. 2005)
VsinIsの制限を考慮したχ2統計量
(a)

AMOEBA(Numerical Recipes)アルゴリズムで最小化

eは0と仮定してフィット
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結果:
RV fitting
-0.5
-0.05
orbital phase
0.05
transit phase
(a) : VsinIs = 1.3 ± 0.3 [km/s], λ= 30 ± 21 [deg]
TrES-1でロシター効果を検出
この系では惑星が順行して公転している
a : 恒星の自転速度に対して制限あり
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本研究のまとめ


トランジットサーベイで発見された暗い(V~12)
トランジット惑星系で初めてRossiter効果を検出

暗い惑星系での世界初の検出例

(全体では3例目)

同様の研究が他のトランジット惑星系でも可能
TrES-1のλに初めて制限をつけた

不定性は大きいが、少なくとも惑星は順行している

さらなる視線速度観測で制限を強められる
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目次
1. 研究の背景

太陽系外惑星の多様性と惑星形成理論について
2. トランジット惑星の公転軌道傾斜角の測定

方法論:ロシター効果について

すばる / MAGNUM望遠鏡での観測について

解析結果とまとめ
3. 今後の展望
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今後の研究課題

ひとつだけでは理論へのフィードバックはできない
今後は精度の向上と、サンプル数の増加が必要
ロシター効果を使って観測と理論をつなぐ
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トランジット惑星研究の今後
トランジット惑星系の発見は今後ますます増加していく

2006年に4つの地上トランジットサーベイチームが合計5つの
トランジット惑星系の発見に成功 (XO, TrES, HAT, WASP)

全てV~12等より明るい惑星系をターゲットとしている

ESAのCOROTの打ち上げが成功し、さらに発見数は増えて
いくと期待される
今後はより観測的・統計的な議論が可能となってくる
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課題をこなすために

2つの観測戦略

無作為なターゲットによって惑星の公転軌道傾斜角の
分布を提示する

2007年夏にすばる望遠鏡で5晩の観測を行い、現在解析中

離心率を持つ、伴星を持つなどの系で大きな公転軌道
傾斜角がないか探索する

2007年11月に岡山観測所で大離心率トランジット惑星の観測を
行い、現在投稿中(astro-ph/0712.2569)

TrES-1は今後のロシター効果の研究の第一歩となった
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λ = 62 ± 25 [deg]
Transmission Spectroscopy
トランジット惑星の大気成分を検出する方法
star
原理的には惑星外層大気中の元素を検出できる
理論的な背景
トランジット中の大気吸収スペクトル予想 (R~3000)
-1.47% (base)
-1.53% (base)
-1.70%
(peak)
Seager & Sasselov (2000)
-1.71% (peak)
Brown (2001)
雲がない、あるいは深いところにあるモデルでは
特にアルカリ金属(ナトリウム、カリウム etc)で大きな吸収
研究の目的

理論モデルでは惑星の温度や雲の存在などから
吸収スペクトルを予言

観測によって得られた吸収量からモデルに制限
をつけることで惑星環境の描像を得ることが可能

(何より大気吸収が見えれば面白い)
観測ターゲット:HD209458
最初に発見されたトランジット惑星系
Radial Velocityにより発見され、Transitが初めて確認された
公転周期3.5日のホットジュピター(Charbonneau et al. 2000)
現在でも最も明るい系(V~7.7)として知られている
観測
すばる /HDS による高分散分光観測
2002年10月の1晩でTransitを含む
30フレームのスペクトルを取得
公転周期3.5日
内訳:in 12 out 12 half 6
観測パラメータ
観測波長領域 4100~6800Å
波長分解能
45000
露光時間
~ 500 秒
SN / pix
~ 350
解析方法の概要
取得した全てのスペクトルを
足し合わせてテンプレートを作成
時系列ごとのそれぞれのスペクトルに
total fluxおよびline shiftが合うよう
テンプレートを較正
引き算をした結果のresidualを積分し
較正したテンプレートに対する
変化の割合を求める
ターゲットの選択
可視の全領域から主要な吸収線を選択
Hα, Hβ, Hγ, Na(D1, D2), Li, Fe, Ca
1.広がった水素外層大気の存在が報告されている
2.Na,Liでは理論的に吸収量の増加が予想されている
(実際にNaで吸収量の増加が報告されている)
3.過去の地上観測との比較(Fe,Caなど)
特にNa D線における結果を示す
残差スペクトルの例
0.3Åと2Åの積分範囲で残差の変化を調べた
時間
テンプレート
大気吸収線(と星間物質)
例:Na D線(2Å)の積分結果
残
差
の
積
分
値
トランジット中心時刻からの時間
結果の妥当性の確認
系統誤差の評価
1.

吸収線のない領域での積分値のバラつきは0.1%以下

地球大気吸収の影響は0.1%以下
スペクトルの補正が信号を消したり、おかしな振る舞い
をしないかどうか?
2.

人工的に0.2%の吸収シグナルを入れて、それが解析過程で
消されることなく実際に検出できることを確認した
2Åの領域に0.2%程度の追加吸収があれば検出できる
本研究のまとめ

HD209458の可視領域の吸収線について、トランジット
に起因する吸収量の増加は見られなかった

解析方法の妥当性について定量的な確認を行った

雲がない(あるいは低層にある)モデルが予言する吸収量を
検出できるだけの精度を達成した

本研究により、他の明るいトランジット惑星においても
可視領域の大気吸収探査を行う土台ができた

HD209458では検出できなかったが、他のターゲットでは実際
に検出できる可能性がある